一番星の王子さま   作:160万のワインを飲み損ねた

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昨日予約投稿を誤って投稿してしまいました。削除して再度予約しなおしましたが、もし読まれた方いらっしゃいましたら同じ内容ですので申し訳ございません。


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 長くなった髪をうなじあたりで結って、エプロンを着て料理をする。昔からお母さんと料理教室に通ってるから、そこそこ料理には自信があった。もちろん、プロの方々に比べたら私の腕なんて全然だけど、一般的な家庭で出すにはきっと十分だと思いたい。

 

 料理を作るのは、東京ブレイドの稽古が始まってからは今日が初めてだったりする。私の中で、役である鞘姫に対して考察と理解が追いついて、演技のプランも概ね金田一さんと合意が取れた事でちょっと精神的な余裕ができたところもある。これで完璧ってわけじゃないけど、一つの区切りを迎えた時に作る時が多いかな。気分転換にもなるし、後々のためにやっておいて損はない。

 

 アクア君は普段は普通のご飯を食べてるって言ってるけど、いわゆる平均とはかけ離れてる気はする、多分。みんなが言う普通はすごく定義が曖昧で、私もちょっとわかりにくいとは思う。でも、何回かご飯に行ったりしてる内に、何となくの好みはわかったように思えた。

 

 お味噌汁と、メインと副菜。手際よくやると品数を増やしながらも時短でできる。

 

 良い匂いがしてくる。お肉もそろそろ火が通ったかな。

 

 昔は側でずっと見守ってくれていたお母さんも、今では作る時は完全に任せてくれるようになった。

 

 ただいまー、と玄関からタイミング良くお父さんの声が聞こえてくる。最近はずっと忙しいみたいだったから、かなり珍しい。

 

「今日はあかねが作ってくれてるんだね。早く帰ってきて正解だ」

 

 きちんと着こなしたスーツの襟元を緩めながら、お父さんはキッチンを覗いてきた。手を洗うようにお願いすれば洗面所へと向かって、戻ってくる時にはネクタイは外されていた。

 

 盛り付け方も意識して、キッチンからダイニングテーブルに運んでいく。

 

 三人で席について、手を合わせて食べ始める。

 

「うん。今日は味がしっかりしてて美味しいね」

「あれ、味濃かった?」

「いつもあかねが作ってくれるのよりは少し濃いわね。男の子が好きそうな味付けな気はするわ」

「……男?」

 

 お父さんの箸がピタッと止まる。目つきも普段の家庭では見ないような鋭さがある。優しくて、体型もわからずキープし続けてて、すらっとしている父。個人的には筋骨隆々よりも、こちらの方が良い。頭髪は四十半ばから徐々に減ってきちゃったけど、それでも変わらず自慢の父だ。そんな父が怖い目をしているのは珍しかった。

 

「彼氏が、できたのかい?」

 

 声のトーンも低くなってる。

 

「ち、違うよ! たまたま味付けが濃くなっちゃっただけだから。彼氏はまだいないもん」

「まだ、か」

 

 そんなに強調しなくても、深い意味はないよ。

 

 お母さんは私達を見てくすくすと笑っていた。

 

 まだ二人には相談してなかったけど、お母さんは気づいているんだろうな。お父さんもこれを機に本気で調べ出したら、相手が誰がわかっちゃうんだと思う。

 

 どこの家のお父さんもそうなのかな。昔のドラマとかではお前に娘はやらんーみたいな流れはあったけど、最近はそう言うのは見ない。周りも私含めて高校生だから、そういう事には興味はあっても実体験として話が上がることはなかった。せいぜいが彼氏がいるとかできたとか。ちょっと悪く言いながらもキラキラしてて、羨ましいな、なんて思ったこともあった。

 

「舞台も後少しでしょ。どう? 上手くできそう?」

 

 話題転換にお母さんが話を変えてくれる。

 

「うん。私の中でもイメージ固まったから、後は細かい所の修正かな。二人は見に来れそう?」

「スケジュールの調整中だけど、初日は難しいかも知れないな。最近は何かと物騒だから緊急招集がかかることもあるからね。もしかしたらお母さんだけが見に行く事になるかもしれない」

 

 すまないね。と普段の様子に戻ったお父さんが申し訳なさそうに謝ってくる。

 

「ううん。お父さんがお仕事頑張ってくれるから、私は好きなことさせて貰えるんだから。いつもお疲れ様」

「そう言ってくれると助かるよ」

 

 テレビでも、お父さんと悩みの種である「蟲」と名乗るテロ組織が世界的に活動している事がちょうど報じられていた。

 

「今度はメキシコ……物騒ね」

「今では蟲を支持する他のテロ組織や模倣犯も増えてきているからね、できるだけ夜は出歩かない。大通りを通る。タクシーを使う等をして自衛して欲しい」

 

 日本でも、お父さんの言う模倣犯なのか、蟲そのものなのかはわからないけどいくつか事件は起こっている。

 

「特にあかね。興味本位で首を突っ込まないようにね」

「そんな事しないよ」

 

 私もそこまで危ないことはしない。お母さんは知らないけど、拳願会の事でお父さんには叱られた。警察も上層部は周知の事だったみたい。お父さんからは、江戸時代から今までの四百年近く続いている裏の組合という事。今は代替わりしたけど、アクア君のお爺ちゃんで大日本銀行の総帥の片原滅堂さんが半世紀以上も拳願会を仕切ってきた事とかを教えてもらった。裏と言ってもまだ浅瀬で、もっと危ないことはいっぱいあるみたい。きっと蟲もそう。裏から表に出て来た、嫌なシンデレラストーリー。

 

 でも、不謹慎なんだろうけど、これを知っているのはアクア君と秘密を共有しているみたいで、ちょっとした優越感がある。

 

 テレビのニュースはあっという間に別の話題に切り替わる。突然ご当地スイーツの話に変わってしまった。

 

 ご飯も食べ終わって、食器を軽く洗って食洗機に入れてスイッチを押す。後片付けまでが料理、これが意外と大変。

 

 先にお父さんがお風呂に入るから、その間に私は自分の部屋に戻ってパソコンの電源を付けた。ユーチューブを開くと、サジェストにB小町の動画が上がっていた。ルビーちゃんとMEMちゃんと、かなちゃん。三人で楽しそうに料理を作ってる動画。ハンドミキサーで卵白を泡立てようとして、角度が正しくないから飛び散って、ワーワー盛り上がってる。

 

 本当に楽しそう。

 

 ルビーちゃんとMEMちゃんは良いよ。アイドルやりたいって言ってたのを知ってるし、その夢を叶えて今も頑張ってる。可愛いくて楽しそうにしているから、ファンも順当に増えてるみたい。同じ女性の私でも可愛いって思っちゃうんだから、きっと男性はもっとそう。

 

 でも、貴女は違うよね。

 

 ライブも見に行ったよ。動画も毎回見てる。楽しそうにやってるし本心なんだろうけど、本当にそれで良いの? 最近の演技みたいに、周りに合わせて自分を殺してるんじゃないの? 作品によっては昔の片鱗が見れる時もあったけど、私が憧れたかなちゃんとは違う。もっと身勝手で圧倒的だった。

 

 引っ込み思案だった私も、昔のかなちゃんやアイさんみたいに周りを食べちゃうような演技ができるようになった。

 

 今のかなちゃんには絶対に負けない。

 

 演技だって、恋だって。

 

 ……やだな。これだから私は性格が悪い。部屋の明かりをつけなかったのが悪いのかも。明かりをつけて、カーテンと窓を開けた。冷たい空気が入ってきて、熱の籠った私の頭を冷やしてくれる。

 

 体が寒いのか少し震える。この時期に風邪を引くなんてプロ失格だ。急いで窓を閉める。

 

 何気なくまたパソコンのモニターに目が移ると、次の動画に移ってた。新しい順に再生されるわけじゃないみたい。アイさんが出てる会の動画で、確かこの時は再生数が文字通り桁違いだったはず。並ぶルビーちゃんとアイさんは、こうして見るとやっぱり似ていた。やり取りを見てるとつい頬がほころぶ。

 

 アイさんの真似をする時に、アイさんの出回ってる情報はほぼ全てに目を通した。今や大女優だけど、幼少期からの経歴は酷くて、とても順風満帆な人生ではなかった。今の生活に満足している事がわかるから、半分自分自身の事のように思えて嬉しい。

 

 アイさんは良い人に出会えた。なら私も、なんて思っちゃう。

 

 もし付き合ったら、アクア君は私個人を見てくれるかな。誰かのコピーや代理ではなく、黒川あかねという一人の人間として。なんだか人生経験豊富な人みたいに濁されるから、この辺りも分析が難しい。年相応だったり、急に大人のように感じたり、不思議な人。でも、私を助けてくれた優しい人。そんなアクア君だからこそ、きっと私は惹かれたんだと思う。

 

 もっと、貴方の事を知りたいよ。

 

 気づいた時には、アクア君の事を調べていて、我ながら不味いな、なんて考えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「厭、寿司を食べに日本へ行こう」

 

 ジャッキーは食事中にも関わらず、唐突に日本へ行きたい旨を伝えた。

 

「唐突に何言ってんすか。寿司なら前行った時に散々食べたじゃないっすか」

 

 いくら美味しくとも、何度も食べたら飽きがする。

 

「なんでも、妖怪が握る寿司が東京都内に複数もあるようだ」

 

 スマートフォンを与えてからと言うものの、よくわからない情報を信じる彼に、厭は頭を抱えたくなる。こんな事になるならば買い与えなければよかった、と思わずにはいられない。

 

「それはただのチェーン店だよ」

 

 訳のわからない発言に頭痛を感じるも、この程度ではこの人の相手は務まらないと自分に檄を飛ばす。

 

「っていうか、妖怪なんてそもそもいる訳ないでしょ」

「ふむ、昔はそれに通ずる人間はいたよ。呉黒も分類としてはそれに近い類のものだろう」

 

 口伝にて残る始まりの呉。古き神々が息づいていた時代、地の底から湧き上がるように生まれ、獣を殺し、人を殺し、鬼を殺し、神を殺した。

 

「は? じゃあ神みたいなのも昔はいたんすか?」

 

 厭は自分で言いながらも、目の前のこの人もそんな感じか、と思い返した。気の遠くなるような長い時間、ひたすら擬似転生をし続けてきた何千年も生き続ける者。

 

「それが今言われている神と同一とはわからないがね。そもそも回生も、彼らの内の一人から教えてもらったものだ」

「はあ? 初めて聞きましたけど」

 

 厭はとんでもない事を聞いた気がしていた。擬似転生は別人、あるいは神と呼ばれていた存在から学んだのだとすれば、知らないだけで現代にも別の方法があるかもしれない。

 

「言ってなかったか? 武に関しても他に関しても、私は初めから全て出来ていた訳ではない。各所からひたすら学んで磨いて来た人間だよ」

「初めて聞きましたよ。そう言う大事な事は最初に言ってくれません? 転生だって大元があるなら、電脳研究とかしなくてもよかったんじゃないすか」

「うーむ、それは難しいだろう。どうにか人の技法に落とし込んだのが回生だ。その回生も、本来であればまだ使えるはずだったが」

 

 ジャッキーの言う通り、現在においても回生は征西派に受け継がれ、当主もエドワードの回生を受けた、彼のクローン体のギルバートへと変わった。

 

「……日本に行くなら、そろそろ臥王龍鬼と十鬼蛇王馬を確保しますか?」

「せっかちだな。今行っている実験結果が出るまで待っても良いだろう。どの道あと数十年以上はかかるはずだからな」

 

 無表情でビールを煽るジャッキーに、厭は内心ため息をつく。長年の回生による物なのか、待つ事に対して抵抗がほとんどない。あの二人はせっかくの成功体、早めは確保しておくに越したことはない。確かに彼らの抵抗によってどちらかが死んでしまったら元も子もないが、大人しくさせる方法なんてごまんとある。

 

「それに、日本に行くなら行きたいところがあるんだ」

「行きたいところ? どこっすか?」

「これだ。どうやらアクア君が舞台をやるらしくてね、チケットを手配してくれ」

「アンタ、寿司よりこっちが本命だろ……」

 

 どうにも、日向アイ筆頭に、その子供たちのアクアマリンとルビーの動向は気になるようだった。絆された、なんてことは考えたくないが、それがジャッキーのトリガーとなって怒らせるようなことでもあれば、全てが終わる。故に厭としても常に周辺に警戒し、蟲を模倣する馬鹿が馬鹿をやらないように見張っていたし潰しもした。

 

「で、いつ行きたいんですか?」

「明日の朝一で行こう。昼には着くから寿司はそこで食べれば良い」

「今が何時だと思ってんだ馬鹿野郎」

 

 すでに空は暗くなり、日を跨ぐまで数時間。

 

 言われた以上はやらなければなない。日本に行ったらまた頭痛薬買うか、そんな事を思いながら厭はチケットを取るべく部下に連絡を入れた。

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