一番星の王子さま 作:160万のワインを飲み損ねた
B小町の動画撮影が終わる。私とかなちゃんは編集なんてできないから、ここからはMEMちょのお仕事。忙しい時は事務所にいるスタッフさんに任せたりするみたいだけど、可能な限り対応してくれてた。
「ん〜」
終わってからは時間があればお話ししたり次は何を撮ろうかなんて話をするけど、今日はMEMちょが悩んでる。
「どうしたの? 変だったなら撮り直す?」
「ちょっとこのチャンネルに対しての考え事をねぇ。二人は最近の動画についてどう思う?」
「私は楽しいよ」
「うんうん、楽しいのは大事だねぇ。有馬ちゃんは?」
「別に悪くないと思うけど、そうね……強いて言うならマンネリ?」
「そう! マンネリ!」
MEMちょがビシッと正解って言うように指をかなちゃんに指す。
「過去の曲を歌ったり、謎の人脈を使って色々とコラボしたりし、あの手この手使ったおかげで登録者数もビックリするくらい伸びてるのは事実。けどコラボも無限にできるわけじゃないし、私達新生B小町としては正直まだ弱い。私達だけの場合ってここでの撮影がほとんどだし、やる内容もあんまり変わり映えしなくてネタが尽きてきた感じは否めない」
そう言われちゃうとそうかもしれない。
「が、頑張らないとだね!」
「そういえば登録者ってどれくらいなの?」
なんかこの辺の人数とか再生数とかがお金になるみたいだけど、仕組みは良くわからない。ただトップ層は一千万人を超える登録者数がいる事は知ってる。ウチ所属のユーチューバーだと、やっぱりぴえヨンが一番なのかな。
「三〇万」
「なんだ、まだ一〇〇万行ってないんだ」
「反応薄っ!? いや、三〇万だよ!? 三〇万! これがどれだけすごいことか、二人は全然わかってない!」
スイッチが入ってMEMちょが説明してくれる。
ユーチューバー利用者が約八〇〇〇万人。そのうち三パーセント位が動画投稿をしたことがあって、そこから続ける人と辞める人、続ける人の中で収益化されてる人とそうでない人がいる。一〇万人以上の登録者数ってなるとかなり上の方みたい。
「でも今月の収益も事務所の取り分と編集手伝ってくれるスタッフさん達の分を引いて、そこから三人で割ったら微々たるものでしょ」
「まぁ……それはそうだけどぉ」
「そうなの?」
「アンタ自分がどれだけ稼いでるか見たことないの?」
「ないかも」
通帳とか私持ってたかな。持ってたような気もするけど、全部アプリにしたんだったかな。お金が欲しくてアイドルになりたかった訳じゃないし、今の生活で特に不便もないからあんまり意識した事なかった。
「見ときなさいよ。芸能人の人気なんて水物。人気をキープし続けるのなんて奇跡みたいなものなんだから、お金がある内にちゃんと資産運用とかしておかないとダメよ」
「ちょっと自虐入ってるねぇ」
「そりゃあそうでしょ。自業自得だけど干されて仕事無くなって、エゴサしたらオワコンとか言われんのよ。お前らに私の何がわかるんだ、ぶっ飛ばすぞ、なんてそれこそ百万回は思いながら子役時代に稼いだお金運用してたわ」
USドル様々ね、なんてカナちゃんは呟く。
「MEMちょもちゃんと資産運用?やってるの?」
「多少はねぇ。あとは運用って言うよりも税金対策かなぁ。何もしないといっぱい税金引かれちゃうんだから。毎年二月になると、普段からちゃんと領収書まとめておけば良かったーって泣きを見るよ」
「うわー、なんかヤだなー」
ちゃんと勉強した方が良いかな。学校の勉強よりは真面目にやれる気がする。二月……そういえばお爺ちゃんの知り合いの税理士さん?が年明けると来るからそれかな。
「って、動画がマンネリだって話じゃなかった?」
「登録者数の件から脱線しちゃったからねぇ。話を戻すけど、マンネリを打破するためにも新しい事やろうと思います!」
要はテコ入れって事だよね。
「何やるの?」
「PV今度撮るでしょ、折角だからそれに合わせて旅行の動画も撮ろうかなーって」
トップアーティストとして活躍して、作曲家としてもヒット曲連発してるヒムラさんが作曲してくれた曲はもう納品されてる。PV動画は最近物騒だから事務所内で取ってCG使おうなんて話もあったみたいだけど、外で撮る事になってた。場所はまだ決まってない。
「なら飛行機とか乗る方が旅行してる感出るし、遠目のロケ地の方が良いかも」
「……宮崎」
かなちゃんの遠い場所って話を聞いて、意図せずにその場所が口から出ちゃった。
「なんで宮崎?」
「私とアクアが産まれたのって宮崎なの。全然行けてなかったから、遠くに行くならせっかくだから里帰り的な」
「初めて聞いた。って言うか、それは里帰りって言わないでしょ」
「宮崎良いんじゃない? 自然は豊かだし、マンゴーも美味しいしねぇ」
私達が産まれた高千穂含めた北部、空港がある中部の他にも、西部南部って大括りにすると四つに分けられるみたい。自然豊かなのはきっと今も変わってないし、何度か見たあの星空だって変わってないはず。変わったのは、私だけかな。
お兄ちゃんとあんな話したからかな。アイドルとして良くないのは分かってるんだけど、どうしても悪い方向に色々と考えちゃう。
「なら宮崎ね。日程は?」
「二泊三日か三泊四日くらいかなぁ。一日目に移動、PV撮るのに余裕みて二日目で確保。残りは休暇でまったりーみたいなのはどう? 有馬ちゃんもこの前まで舞台で疲れてるでしょ」
「確かに。消費カロリーエグかったわ。体重落ちたし」
「体重落ちるなんて羨ましい限りだけどねぇ」
「短期間で落ちるのなんて見かけだけで良いことないわよ。大抵水分とかで、本当に減らしたい脂肪は最後まで残ってるんだから」
「一時期かなり絞ってたもんねぇ。あれって続編やらないの?」
「今のとこ話は無いけど、またあのトレーニングと食事管理やると思うと死ぬ」
「そんなに辛かったんだ。楽して痩せられないねぇ」
「別にそんなに太ってないでしょ」
「そこそこには気をつけてますから。ここはジムあって私にも使わせてくれるし。ドリンクサーバーあったり色々充実してて良いよねぇ」
「デカくなった分、社員とか所属タレントに還元するために色々付けたって聞いたことあるわよ」
「良いなぁ。私も移籍しちゃおっかなー」
「良いんじゃ無い? ミヤコさんに話してみたら?」
「……今は辞めとこうかな。あんまり機嫌良く無いし」
「ああー。この前急に仕事入って参加できなくったあれね」
「ちなみに、まだこの旅行の件もミヤコさんと社長には話してないから誰か話さないと」
「私はイヤよ」
「んー、でも言わないと実現しないしなぁ」
やめやめ。マイナス思考は良くない! アイドルはみんなに元気と勇気をあげるお仕事なんだから、私がちゃんと本心から笑わないとダメだよね。
「よし! がんばろう!」
「じゃあよろしくー」
「え?」
「さすがルビー! ありがたや、ありがたや」
「え? ……ごめん、なんの話?」
考えすぎて聞いてなかった。よくわかんないけど私が何かやる感じ?
「宮崎に行きたい事をミヤコさんと社長に誰が話すって話。アンタがよし、頑張ろうって言ったんじゃない」
「ええ!? 今機嫌悪しいヤだよ」
「振り出しに戻っちゃったねぇ」
ヨーガの呼吸。一番楽しみにしてたのミヤコさんだったのに、当日緊急の会議とかで社長と出かけてたみたい。毎日忙しいから大変そうだ。
一時的なものだけど、私もトゲトゲしてる所に自分から突っ込んでく程バカじゃない。
「そうだ、パパにお願いしよーっと」
我ながら妙案を思いついた。パパは今日ちょうど事務所にいるはずだし。
「アンタ、アイさんにはちゃんとしてるのに父親に対して雑じゃない?」
「そうかな? でも頼んだらやってくれるよ」
「まぁ、やってくれるならお願いするけど」
場所を変える。
だいたいの場所はわかるから探してみればすぐに見つけて、事情を話してみる。
「と言う訳なんだけど、お願いして良い?」
「構わねえよ。ただ許可取ってくれば良いんだろ」
「助かるよ、ありがとう!」
「別に大した事じゃねえよ。機嫌悪くても当たり散らす人じゃねえけど、気になるなら機嫌良い時に行けば良いだろ」
「それはそうなんだけどさ。早めなのは良い事でしょ。それに待ってる間に二回目のレッスンもダメだったら大変な事になっちゃうよ」
「二回目はなんとか調整しとく。二人もなんか伝えたい事あんなら伝えとくぞ」
「私は特にないんで大丈夫です」
「私も今は特には」
「分かった。今はいねえから、帰ってきた時に伝えとく」
今いないんだ。拳願会の関係でママとアクアと私のマネージャーと、社長秘書を兼務だもんなぁ。B小町の事も色々やってくれるから、頭が上がらない。
「三人はどうすんだ? 特に用事ねえなら送ってくが」
今日は動画さえ撮っちゃえば後はフリー。学校も今日は休日だから行く必要もない。
このまま三人でお話ししてるのもアリだけど、二人には予定があるかもしれない。確認してみるとかなちゃんは無いけどMEMちょはさっき撮った動画の編集と自分のユーチューブチャンネルの撮影もする予定らしくて解散の流れになった。
それぞれの家まで送って貰って、最後には車内にいるのは私とパパだけになった。
「ねえ、パパは私達が産まれた時の事覚えてる?」
「そりゃあな。こんだけ身体鍛えててもあの時は何もできねえから妊婦、というか女性すげえなって思ったよ」
「他には?」
「他? ……そうだな、産まれた時はすげえ嬉しかったよ。後は産まれた時とは違えが、それまで散々世話になった先生がいたんだけど、その人にもお礼言いそびれてたな」
「……どんな先生だったの?」
「ガキだった俺達にもちゃんと親身になってサポートしてくれた良い先生だったよ。アイのファンだったみたいだから、胸中は複雑だったろうけどな」
名前を聞こうとしたけど、聞くまでもなく誰かはわかった。
やっぱりセンセはセンセだよね。私にだけ優しかった訳じゃないのは少し嫉妬しちゃうけど、でもそうじゃないとセンセじゃない。でもだからだろうな。どこかで女性問題でも起こしたんだ。そうじゃないと行方知れずになんてならない。
ちらつくもう一つの考えに蓋をするように、私は勝手に結論付けた。