一番星の王子さま   作:160万のワインを飲み損ねた

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 テレビでは、ちょうどアクアと黒川あかねが出てるドラマが放送されている。四月になって始まったこのドラマは今日が初回放送。他のバラエティ番組なんかでちょくちょくゲストとして、ソロだったり黒川あかねと一緒だったり、違う役者と一緒だったりして何度か番宣をしてた。ちょっと変わった役の演技が多かったから、王道というか普通というか、その手のキャラクターを今演じるとどうなるか気になるところ。

 

 原作が有名な小説という事もあって、注目度は高い。私もオーディションに出ようかと思ったけど、メインは事前に決まっていたから断念した。黒川あかねがヒロインで私がサブなんて、なんて言うか色々と複雑だった。それにアイドル活動に支障が出ても困る。今年の一二月末で引退する契約だけれど、それまでは私はアイドルが主業務。そう言い聞かせながらドラマを見る。

 

 冒頭の子役達のパートが終われば、アクア達のパートに入る。

 

 アクアも上手い。ちゃんと感情が出てるし、ちょっとした仕草でそれをより可視化させてる。東ブレの時からまた上手くなってるのは間違いない。けど、憎たらしいけど隣を歩く黒川あかねに目が奪われる。まるでアイさんを見ているようで、天才天才と周りが言う理由がわかる。こいつもこいつでまた上達してる。

 

 CMに入ると、自分が瞬きもそんなにしないで見てたのがわかる。乾燥して目薬が欲しくなった。

 

「二人とも上手いなぁ」

「……そうね」

「やっぱり女優の方が良い?」

 

 隣に座るルビーがストレートに聞いてくる。

 

「正直ね。別にアイドルが嫌って訳じゃないわよ。アイドルはアイドルで楽しんでるけど、こうして知り合いが出てて私が見てるだけってなると、少し複雑な感じになるだけ」

 

 今更取り繕う仲でもないから、私も素直な思いを出した。

 

「まぁ見てなさい。来年から本格的に復帰して、どっちが本当に上か見せつけてやるわよ」

 

 黒川あかね、アンタはこれが気に入らないんでしょうね。でも、アンタがどうこう言っても、私の選択にケチなんてつけさせない。アイドルで得た技術だって役者の肥やしにして、あっという間に抜いてやるわよ。

 

「おお、強気だね」

「まぁね。今はどうでも最後に勝てば良いのよ」

 

 CMが終わって、ドラマが再開する。

 

「にしても、黒髪似合わないわね」

「えー、黒髪も良くない? メガネとかかけてくれたらもっと良かったのに」

「なんでメガネ?」

「なんか知的でカッコいいじゃん。絶対似合うと思うんだよね」

 

 アクアのメガネ姿。確かに顔が良いから似合うは似合うはず。スクエア型……悪くないかも。

 

「確かに、悪くないかも」

「でしょ、この後お願いしてみようよ」

「メガネ持ってるの?」

「こんな事もあろうかと伊達メガネ買ってある」

「その情熱はどこから来るのよ……」

 

 リビングの扉が開いて、首からタオルを下げたアクアが出てきた。ドラマと同じ髪色。ただ少し湿ってて、格好も部屋着だからラフな格好。お風呂上がりだ。

 

「有馬も来てたのか」

「明日朝早いからね。アンタのドラマ見た後このまま泊まらせてもらうわ」

 

 明日は朝から仕事があるから、まとまってた方が楽なのは本当。

 

 アクアは冷蔵庫から飲み物を出すと、コップに注いで飲む。喉が動くのを、思わず目で追ってしまう。

 

「何?」

「え、ああ、元の髪色の方が似合ってたなって。染めるついでに切った方が良かったんじゃない?」

「皆それ言うよな。この髪色褒めたのルビーだけだけど、そんなに変か? 普段が明るいからそう思うだけで普通だと思うんだが」

 

 自分で髪を少し掴んで引っ張ると、それを視界入れて確かめてるようだった。色は確かに普通なんだけど、毛量の関係かなんかもっさりしてる。

 

「なんか重く見えるわよ」

「黒ならそうだろ」

 

 少し不服そう。割と気に入ってたのかしら。

 

「気にするならウィッグにすれば良かったのに」

「あれ蒸れるだろ、あんまり好きじゃないんだよ。別に染めるのに抵抗もなかったしな」

「あー、それはわかる。自分の髪がぺったりくっつくのも嫌だし、その上に被ってるのも変な感覚なのよね」

「そんなに変な感じなの?」

「被ってみたらわかるわよ」

「機会あるかな」

「アイドルやり切ったら女優やってみたら? そうなったら機会なんてその内来るわよ」

「そんな感じで初めて良いわけ?」

「始める理由なんてなんでも良いのよ。下手でやる気もないなら、そのまま日の目を見ずに消えるだけ」

「厳しい事言うなー」

 

 話題性はあるだろうから、最初はオファーも来るんでしょうけどね。けどそのまま使われ続けるか消えるかは、ルビーの実力と姿勢次第。本気でやったら成功する気はする。顔は良いし、背もあるから画面映えだってするはず。

 

「どの世界だってハンパでやってたら成功しないでしょ」

「それはそうかも。でもアイドル辞めた後のことはまだ考えられないかな」

 

 そりゃあそうでしょ。アンタが本気でアイドルやってるなんて、こっちは何度も目にしてるし理解もしてる。先の事を事細かに考えられるほど器用じゃない事も。

 

「まずはドームライブやって、ママを超えるアイドルになって、そのまま全力で走り切って、満足したら後のことは考えるよ!」

「大きく出たじゃない。まぁ、頑張りなさいな」

 

 自分がアイドルになってみて、旧B小町の話は各所で聞くようになった。弱小企業発祥の地下アイドルが数年でトップまで駆け上がっていくシンデレラストーリーは、それ以降聞いた事もない。私達はそのB小町の名前を継いだ以上、どうしたって過去と比べられる。

 

「何言ってんの? かなちゃんも今年いっぱいはB小町のメンバーなんだから一緒にやるんだよ。引退ライブでドームでも良いじゃん」

「それは……悪くないかも」

「でしょ。だからまだまだ一緒に頑張ろうね」

 

 そう言えば、ドームとかならもう決まっててもおかしくないって言うけどどうなんだろう。

 

「引退ライブっていつか決まってんのか?」

 

 少し涼めたのか、アクアが飲み物片手に私たちが座ってるソファに来て座った。横切った時に良い匂いがして、思わず意識しちゃう。

 

「……さぁ。年末ってのは話してるけど、具体的な会場とか時期とかは、あんまり教えてもらえないのよね」

 

 この辺に入れるから空けとけとしか言われてないのよね。今のところ連日入るほど忙しくないから別に良いけど。

 

「なら、割とデカいところかもな」

「なんで?」

「サプライズ的な感じでやりそうだろ」

「すっごいペラペラな根拠なんだけど」

「所詮は勘だからな。あんまり遠くない所だと行きやすくて助かるんだが」

「あら、健気だ事。私の引退ライブも来てくれるのね」

「普段のライブもよほど予定合わない時以外は行ってるだろ。ルビーも普段から世話になってるし、最後なら予定空けて必ず行くさ」

 

 そんなこと言っても相変わらず箱推ししてんのよね。ライブに来てくれるのは嬉しいけど、そこだけは白にして欲しくてちょっと複雑。今もさらっとシスコン発言してるし。

 

「そ、そう。ならチケット抽選落ちしないように願ってる事ね」

 

 なんでこう捻くれた言い方になっちゃうのかしら。自分が嫌になる。でも素直に喜ぶのも私のキャラじゃないって言うか……考えるだけで恥ずかしくて無理。ちょっと顔が熱くなってきたから話題変えないと。

 

「って言うか、MEMはどうしたのよ。遅くない?」

「えーとね、もうちょっとかかるって。三十分前に来てるね」

 

 ルビーがスマホを見て答える。私も見てみれば、グループの方にそれがチャットされてた。そろそろ着いても良いかはず。

 

 私の心を読んだかのように、この家のインターホンが鳴る。

 

 アクアが出迎えて、MEMが入ってきた。

 

「ごめん遅くなったぁ」

「MEMちょお疲れー」

「アクたんのドラマ始まってるよね!? 最初見逃したぁ」

「今時ストリーミングでいくらでも後追いで見れるだろ」

「それはそうだけど、リアタイで見るのに意味があるんだよ。あとアクたん、お邪魔させてもらうからお土産買ってきたんだけど、アイさん達いる?」

「そんなもんか。土産もわざわざ悪いな。今は出かけてるけど、二人ともその内帰ってくるから伝えとく」

「デート? 相変わらず仲良いんだねぇ」

 

 デートか、良いなぁ。苺プロは恋愛禁止をしている訳じゃないけど、アイドルは特に気をつけないといけない。私が思ってる以上に、ファンはアイドルに男の影がチラつくのを嫌う。バレたら急に手のひらを返して、罵詈雑言を浴びせてくるケースなんてざらにあって、せっかく人気だったのにそれが原因で辞めるアイドルなんて大勢いる。正直、その心理にはふざけんなって言いたくなるけど、私も二人のためにも軽率な行動をとるべきじゃないことだけはわかってる。アクアの家にいる? ここはルビーの家でもあるからセーフ。何より一対一にはならないのが大きい。

 

 MEMも参加して四人でドラマを見続けると、アクアが体育館でリングポストめがけてボールを放って、ボールがポストを通過した。詳しくはわからないけど、綺麗なフォームに見えた。

 

「へぇ、随分と様になってるじゃない」

 

 画面の向こうのアクアは、ポストを通過してバウンドしているボールを見ていたあと、徐に走りだしてそれをキャッチした後に今度はダンクを決める。

 

 実力はあるのに、いざ試合になるとメンタルのせいで十分な実力を発揮できない。試合描写はどうするかわからないけど、個人の実力を見せつけるにはわかりやすい表現に思えた。

 

「お兄ちゃんすご! これスタントなしでやってるの?」

 

 確かによくある手法で足元だけ写した後、次にはダンクのシーンってのがありがちだけど、今回のはずっとアクアの全身を映していて、スタントがいたようには見えなかった。

 

「助走もあるし一応は。さすがに何回か届かなくてリテイクしたけど、コツ掴めば何とかなるもんだな」

「いやならないでしょ。アンタどんだけ跳んでるのよ」

「えっとね……地面から三〇五センチの高さにあるみたいだから、アクたんの身長から考えると一メートルくらいはジャンプしてるんじゃない?」

 

 MEMがすぐに調べて答えてくれる。私の倍くらいあるって事じゃない。

 

「ジャンプ力化け物じゃない」

「失礼だな。別に俺より背が低いけど同じような事できる選手だっているんだし、俺ができても不自然じゃ無いだろ」

「アンタは選手じゃないでしょ」

「何でも良いだろ。運動は昔からできる方なんだよ」

「できるレベルで片付けて良いわけ……」

 

 コイツ、思ってる以上に運動神経良いのよね。

 

 なんて言うか、ドラマの内容以上にアクアの身体能力に驚かされて頭に入ってこなかった。あとでもう一回見ておこう。

 

 ドラマが終われば私達も寝支度を始める。地方ロケが入ってて朝が早い分、夜も早めに寝ないとパフォーマンスに影響が出る。

 

 でも寝よう寝ようって思うと中々すぐには寝付けなくて、寝てる二人を起こさないようにベランダに何となく出てみた。外は少し涼しくて、閑静な住宅街だから騒がしくないのが良い。隣の部屋はまだ灯りが点いてて、アクアは起きてることがわかる。医大目指すって言ってたから、勉強頑張ってるのかしら。

 

 カーテンが突然開くと、驚いた顔をしたアクアと目が合った。そりゃあカーテン開けてこっち見てる人間がいたら驚くか。アクアもベランダに出てきた。

 

「……何してんだよ」

「寝れなくて外に出てたらアンタの所の灯り点いてて、何となく」

「普通にビビるから辞めてくれ」

「悪かったわよ」

 

 これに関しては私が悪いのはわかる。私も立場が逆なら多分叫ぶ。

 

「で、アンタは勉強でもしてた訳?」

「そうだな」

「帝都大学だっけ? またすごい所目指すわね」

 

 日本で一番頭が良いところの医学部。私も勉強はしてるけど、そこに受かるのは無理だってのはわかる。

 

「やりたい事に繋がるからな。有馬だって目標のためならレッスンが辛くても頑張れるだろ? 似たようなもんだ」

「最初に医大行くって聞いた時はそんなに本気だとは思わなかったわ。なんで医者目指そうと思ったの?」

「そんな大層な理由がある訳じゃない。好きな小説に出てくる医者が格好良くて、それに憧れただけだ」

「へぇ、アンタとは付き合い長いけど初めて聞いたわ」

 

 子供みたいな理由だけど、夢なんてそんなものよね。

 

「芸能事務所入ってたら、そのまま芸能人としてやっていきたい人が多いだろうしな。あえて話す機会も中々ないだろ」

「それもそっか」

「有馬は大学どうするんだ?」

「実は悩んでるのよね。一応は勉強してきたからそこそこの所には行けるとは思うけど、役者が忙しくなったらそんなに勉強に時間充てられないでしょうし。入るだけ入って留年するのは嫌なのよね」

 

 アクアが医者になるために、高校で役者を辞めるって聞いた時には勿体無いとは思ったけど、私にはできない決断だと思った。

 

「……これは俺の知人の話だけど、周りの期待に流されて結局やりたい事ができなくて、心の底では後悔してる奴もいた。人生なんて基本一度きりだからな、本当に好きな事を選んだ方が良いとは思う」

「それで食えなくなったら? 皆が皆それができるほど甘くはないでしょ」

 

 役者は水物。才能があって努力してても、何かのきっかけで急に仕事がなくなる事だってある。一回沈んだ後、また浮上するのは前例が無いことはないけど難しい。

 

「だから皆必死に頑張るんだろ? 俺は有馬ならできると思ってるけどな」

「そ、そう……?」

「ああ。他人の事とやかく言える程偉くはないが、少なくともトップレベルに才能はあるし努力もしてるだろ。それだけじゃ売れるほど素直な業界じゃないのは分かってるが、ある程度は何とかなる位には事務所も力はある。まぁ、最後に決めるのは有馬だ。やらぬ後悔よりやる後悔って言うしな、前者になら無いようにしろよ」

 

 やらない後悔か。

 

 私にとっての後悔しない選択。仕事に限らず、色々あるわよね。でもだからってすぐ想いを伝えるのは無理だし、私も女の子だから男性側から言って欲しい願望はあるわけで。

 

 そんな事を悶々と考えてると、アクアが「俺はもうひと頑張りするから明日に備えて早く寝ろよ」と言って部屋に戻っちゃった。

 

 私の将来、か。もう少しちゃんと考えようと思った。

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