一番星の王子さま   作:160万のワインを飲み損ねた

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 ページを捲る。

 

 何回も読んだからほとんど内容は頭に入ってるけど、読み返すと新しい発見があったりして、それが作品に対してより深い理解や考察に繋がる。私とアクア君が共演するドラマの原作小説を読むのは、もう片手じゃ足りなくなっていた。

 

「スミレちゃんは凄いなぁ。ちゃんとまっすぐ想いを伝えられて」

 

 物語の後半で、スミレはミナトに想いを告げた。

 

 二人は幼馴染。小さい時は女の子の方が成長が早いから、スミレの方が大きかった。ミナトの頭によく手を置いて、小さいね、なんて言いながら茶化していた様な子。身長が逆転したのは中学生になってから。入学時にはまだ下に向いてた視線が、夏には同じ目線になって、冬には少し上になってた。二年目にはさらにぐんと伸びて差は大きくなる。変声期もあって声が低くなって、体付きが子供もから大人に変わっていく。これくらいのタイミングから、スミレは自分の中に芽生えた感情が何なのかよくわかっていなかった。自覚したのは、ミナトが他の誰かに告白された時。友達に紹介してって言われて紹介をしたから、抜け駆けとかじゃない。ただ、たまたま告白する所を見ちゃってモヤモヤした感情が湧いてきたのと、結局断った所を見て安堵したのを経て、それが恋愛感情なんだって気がついた。

 

「私は、ちょっと難しいかな」

 

 なかなか自分から告白するのはハードルが高い。私だって高校生だから、やっぱり告白は男の人からして欲しいって言う乙女みたいな感情はある。ただアクア君はカッコいいから周りにも狙ってる子も多くて、先に伝えた方が有利なのはわかってるんだけどね。演技ならできる事も、私個人となると途端に難しくなる。もし告白して、失敗した時の事を恐れているんだと思う。今の関係は、きっと成否関係なく続けられないから。危機感がないわけじゃない。裏を知ってるから他の子よりも有利なはずだけど、アクア君の周りには可愛い子が多いからそんなの関係なくモタモタしてたら取られちゃう気がする。

 

 きっとアイさんを真似したらすぐにできる気がする。というか、それが一番正解。でもそれは、私じゃなくて私を通してアイさんを見ているだけで、仮にOKが出ても私に対してじゃない。私にもプライドがあるから、それはできなかった。

 

「あぁ〜、どうしたら良いんだろう」

 

 ベッドに倒れ込む。

 

 世の女の子たちはどうしてるんだろう。公式だったり理論がわかれば解ける勉強の方がよっぽど簡単だ。

 

 一人で悶々と考えてると気づいたら寝ていて、アラームが鳴った事に驚いて起きる。ナイトキャップを被ってなかったから寝癖が付いてて、それを直したせいでいつもよりも準備に時間が掛かっちゃった。

 

 慌てて撮影現場に向かう。何とか間に合ったけど、周りからは珍しいね、なんて言われちゃった。

 

「いつもは早く来るのに珍しな」

「ちょっと考え事してたらそのまま寝ちゃって、そしたら寝癖が酷くてね」

「そうか。頑張るのは美徳だと思うが、ほどほどにな」

 

 さすがに本人を前に貴方の事で悩んでたよ、なんて言えないから適当にはぐらかす。幸いな事に、アクア君もそこまで深く追求はしてこなかった。

 

 一安心するのと、自分の中で役に入り込むように意識のスイッチを切り替える。

 

 役に対する理解と考察。これは私の武器で、演じるからには、誰よりもその役に成りきる。最近はそれも評価されてきて、周りの人もすごいって言ってくれたから自信もついてきた。同じ役の作り方なら誰にも負けないって自負がある。

 

 多少好きに演じても、アクア君は合わせてくれた。前に東ブレで共演した事があるから勝手もわかってるってのもあるんだろうけど、すごく演りやすい。

 

 いくつかのシーンを撮って、体育館のシーンに移る。

 

 休憩中に練習技に着替えて、余った時間は台本を読み直したり休憩したりと人それぞれ。アクア君は台本片手にもう片方ではボールを弄ってた。ボールには目も向けてないのは器用だなって思う。

 

「そう見てると本当にバスケ部みたいだね」

「普段触らないからな。ちょっとでも扱いに慣れとかないと不自然さが出るだろ。だからできるだけ、役が決まってからは触る機会を増やしてるんだ」

「運動神経良いんだし部活やってみれば良かったのに。中学でもやらなかったんでしょ?」

「この仕事をしてたからな。不定期で抜けるメンバーなんて、他の部員からしたら良い迷惑だろ。ましてやそれでレギュラーなんて取ってたら尚悪いしな」

「それはそうかも。いくら実力があってもそれはね」

 

 芸能人だから生意気だとか調子乗ってるとか、こっちは普通にしてるつもりでも周りは思っているだろうから、それが正解なんだと思う。

 

「だから授業でやるくらいで良いんだよ。別に将来スポーツ選手になりたい訳でもないんだ」

「お医者さんだもんね」

 

 アクア君は前に言ってた。将来は役者でもなく、医者になるんだって。大学は医学部に行くから、役者は高校までだって。誰かを治療して助ける仕事はピッタリだと思ったけど、ちょっと勿体無いとも思った。

 

 でも何だろう。この事を話している時、アクア君はたまに不思議な表情を見せる事がある。それが何なのかは、まだわからない。

 

 スタッフさんから声がかかる。そろそろ撮影再開だ。

 

「後半も頑張ろうね。その後はちょっとお茶でもしに行こうよ」

 

 意外と私に残されたチャンスは少ないのかもしれない。だから確実に、少しずつ距離を縮めないと。

 

 午後も順調で、夕方前には予定していた撮影が終わった。

 

 アフタヌーンティーにもちょっとだけ早いけど、ここは日本という事で割愛。

 

「行きたいところってどこなんだ?」

「紅茶も美味しいんだけど、ケーキが特に美味しく有名なんだって」

「小腹も空いてるしちょうど良いな」

「アクア君意外と食べるもんね。遺伝かな?」

 

 お義父さんすごい大食いだって聞いた事あるし。

 

「高校生の男子なんてこんなもんだよ。遺伝的にはどうなんだろうな、胃もたれしないのも若い時だけかもしれないし、後十何年経たないと何とも言えない気はする」

「そういえば、お父さんも脂がきついとか言ってた気がする」

「歳を取るとどうしても消化機能とか代謝が落ちて脂肪を分解する力が弱くなるからな」

「へぇ、さすが医学部志望」

「そんな誇る知識でもない。そもそもこの前の模試俺より成績良かっただろ」

「そりゃあ私の方が一つ年上なんだから。むしろ習ってないはずなのによくアクア君は問題解けたよね」

「……まぁ、予習はやってるからな」

 

 なんか変な間が空いたけど、何か変な事言ったかな。

 

 考えながら歩いてると、事前に調べてた目的地が見えてきた。

 

「ここの角曲がるとすぐだよ。ケーキ残ってると良いけど」

 

 まだ完売したってアナウンスはないと思うから大丈夫だとは思うんだけどな。今更かもしれないけど、SNSで念の為チェックしておく。やっぱり大丈夫そう。

 

 スマホに意識を向けてたから、注意してたつもりでも周りへの意識が疎かになってたんだと思う。扉に手をかけようとして、先に扉に触れてた人の手に指先が当たる。

 

「あ、すみません」

「お気になさらず。どうぞお先に。……おや?」

 

 なんだろう。会った事はないはずだけど、何処かで見覚えのある顔だった。髪型のせいかな、すぐに出てこない。手が触れちゃった男性は、私じゃなくて後ろにいたアクア君を見ていた。

 

 アクア君は知っているみたいで、ジャッキーさんって驚いた様に呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 B小町は相変わらず大忙しで、今日は握手会のイベント。一人一人は短い時間だけど、流れ作業にならない様にしないと。

 

 MEMちょが加入してスタートした時、人気はやっぱりMEMちょが一番あった。今も変わらないかもしれないけど、ライブとかで見る分には割と均等に近い気もする。握手会もその時その時で多少は違うけど、誰か一人がすごく多いとかすごく少ないとかはない。

 

 ファン層はやっぱり男性が多くて、けど同姓だったり小さい子だったりも応援してくれてて、私もルビーちゃんみたいに成りたいなんて言ってくれる事もある。私がママを見て憧れたみたいに、誰かの憧れになれてるなら、それはすごく嬉しい。

 

「ねぇ、お姉ちゃんは今幸せ?」

 

 そんな事を聞いてきたのは、白い髪に赤い目をした浮世離れした小さい子だった。手も当然ちっちゃくて柔らかい。白い肌もあってお人形さんみたいに可愛らしい子。雰囲気はなんだか不思議な感じ。

 

「うん! 好きな事できてるから幸せだよ!」

 

 一つ嘘をついた。

 

 お兄ちゃんがセンセだってわかった時、再会できて嬉しかった。でも、結婚してって約束はちょっと叶いそうにない。センセとさりなは他人だったけど、アクアとルビーは兄妹。ママは正面からは否定しなかったけど、それがダメなことはわかってるつもり。折り合いをつけるのは、もう少し時間がかかりそう。

 

「……そう。これからも頑張ってね」

 

 ぱっと見た感じはいないけど、お父さんとお母さんが出口の近くにいるのかな。まだ幼稚園通ってるくらいだと思うから、一人で出かけることはないとは思うんだけど。

 

 でも次から次にファンの人が来るからその子ばっかり気にしてられなくて、他のファンの影に隠れてその子は見えなくなっちゃった。ちゃんと合流できたかな。

 

 握手し過ぎて右手の感覚がない状態。ようやく最後が見えてきた。

 

 最後の一人が終わる。見送ると、終わったって達成感と安堵感から疲れがどっと出てくる。

 

「疲れた〜」

「今日多すぎ。右手ついてるかしら」

「あはは。私もあんまり感覚ないんだよね」

「春男君は相変わらずかなちゃん推しだねぇ」

「あの時の手凄い上下に振れてたもんね」

「あのまま体浮くんじゃないかと思ったわよ」

「実際軽々持ち上げられそうだもんね」

「また体大きくなってたしねぇ。周りもすっかり慣れちゃって。ある意味名物ファンだね」

 

 目立つ分他のファンからも覚えがあったみたいで、今じゃすっかり有名人になってた。あれだけ体が大きい人なんていないからすぐに超日所属のプロレスラー、マシンジャガーだって話題になってたんだけど、一応覆面レスラーのはずだけど身バレとかその辺は良いのかな。

 

「ああ、良かった。時間ギリギリ」

 

 最後の人が終わったと思ったら、一人だけ追加で来てくれた。話してたせいか全然気づかなかったけど、いつの間に入ってきたんだろう。高そうだけどあんまり趣味は良くなさそうなスーツを着て、サングラスをかけてる男の人。髭のせいかな、なんかちょっと胡散臭い。

 

「僕にも一つサインを下さいな。名前は羅漢(ローハン)君でよろしく」

「ごめんなさい、今日はサインじゃなくて握手会で。握手会ももう終わっちゃったんですけど」

「あれ、そうなの? それは残念」

「ごめんなさい。そうなんです……って、おじさん何処かで見たことあるような」

「わかっちゃった? そう、君のお父さんのお兄ちゃんだよ。君からすれば叔父さんになるのかな。親しみを込めて羅漢君でも羅漢叔父さんでも好きな方で呼んでね。ちょっと仕事で日本に来ることがあってね、良い機会だから一度見ておきたかったんだ」

 

 軽い口調で言いながらサングラスを取った姿は、髭さえ除けばそっくりだった。

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