一番星の王子さま   作:160万のワインを飲み損ねた

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 黒川に全て話した。

 

 話さざるを得なかったと言う方が正しいだろう。黒川のプロファイリング力は異常だ。父親から教わったと言っていたから父親も同等かそれ以上なのかもしれないが、それは俺にはわからない。ただ、警視庁のお偉いさんだ。引き際はわかっているだろう。一方で黒川はまだ高校生。大人に比べれば冒険心が強く自制心が弱い。何かがあった時、そのまま突っ走る危険性がある気がした。だからこそ、あそこでジャッキーさんに出会ってしまった黒川に諸々を黙っておくのはリスクがありすぎた。容姿から父さんとの関連性には大凡の検討はついていただろう。

 

 話し終えた後の黒川は流石に驚いたようだった。家に来ていた龍鬼さんが居たのも、嘘ではない事を証明する良い助けだったのかもしれない。東ブレの打ち上げ時に王馬さんとは一度遭遇していたから、俺が知る限りでこれで全員に会ったはず。

 

「クローンって、本当に? 禁止されてるはずなのに、人間のクローンを作れるほどに研究が進んでたなんて」

「らしいぜ。生まれた時の記憶なんてねえから、確証はねえけどな。ただこれだけ似てる奴がいるならそうなんだろうよ。それにクローンだろうがなんだろうが、人間としての機能には問題ねえなら別に何でも良いさ」

 

 それはそうだろうな。寿命はまだ確実じゃないが、これだけ屈強なら肉体のレベルは申し分ないし、俺たちが生まれてる事から生殖能力も問題ない。出自以外は人としての機能に差異はない。

 

「そういや龍鬼は何か聞いてねえのか? 臥王鵡角だってどこかでお前を拾ってるはずだ」

「聞いた事ないなあ。あんまり自分の生まれとか気になった事もないし、爺ちゃんはそもそも自分の事とかも深くは話さない人だったから」

 

 父さんが隣に座る龍鬼さんに聞くも、まるで心当たりがなさそうだ。

 

 クローンの話は、片原の爺さんをはじめとして極一部の会員には伝わっている。当人たちも含まれていて王馬さんも知っているが、自分がそうだと知っても特に変わりはなかった。この辺りは全員が一貫していて、あまり興味がないのだろう。俺も転生した事は驚いたものの受け入れているのだから、あまり差はないのかもしれないが。

 

「目的は何なんだろう。すぐに思いつくのは臓器培養とか影武者だけど、それならいざって時のために手元に置いてくはずだし、ジャッキーさんが推定でクローンの元だとしても病気を患っているようにも見えなかった」

 

 俺も気になる所だった。作れるとは言っても、コスト面を見れば馬鹿にならないはずだ。それなりの施設だって必要だろう。成功体、失敗作があるなら確度だってまだ低いはず。それにも関わらず、貴重なクローン体を野放しにしておく理由がわからなかった。

 

「それにさっき話してくれた回生って疑似転生方法を試みるつもりだったなら、今更接触してきたのも納得できない。仮に何かが原因で全員が逃げ出したんだとしても、普通なら何が何でも確保しておきたいはず。そうなると、回生は初めから使うつもりはなかった、もしくは別の短期で可能な方法がもうできてるから余裕があったって考えられる。延長線上で考えるなら一瞬で記憶を転送する方法? 例えば記憶をデータ化して一瞬で転送できるとか……」

「いや、話したのは考えて欲しいからじゃなくてだな」

「えっ、あ……ごめん。つい考えちゃって」

 

 思考の海に潜っていた黒川が戻ってくる。

 

 全員がそれを見ていたのを自覚したのか、急に恥ずかしくなって俯いた。顔も見る見る赤くなっていった。我に返れる分まだ良いが、放っておくとやはりどんどん調べていきそうだ。

 

「このまま考えてもらったら、ささっと真実に辿り着いちゃうかもね」

「変に首突っ込ませないために話したんだ。それはダメだ」

 

 キッチンから届いたルビーの言葉に間髪入れずに否定する。

 

「アクアに同意だな。普段はただの気の良いオッサンにしか見えねえが、まだ差はでけえ上に何が地雷かわからねえ以上はやらない方が良いだろ。それに、目的は何かってのも気になるが今すぐ知りたい訳でもねえしな。俺の場合は失敗作らしいからそもそも狙われる事がないってのもあるが、龍鬼はどうだ?」

「俺もそんなにかなあ。狙われてるなら抵抗はするけど、何が目的かはあんまり興味ないし。そもそも、そのジャッキーさんともまだ俺は会った事もないしね」

「そう言う訳だ。あかね嬢のプロファイリング力は疑ってねえし、やればできるんだろうが、子供が危険犯してまでやるもんじゃねえよ。やりたいのは探偵じゃなくて女優だろ? それは演技にだけに使うべきだな」

 

 全て話したとは言ったが、俺とルビーの転生については話していない。ジャッキーさんがそこまで興味を抱かなかったのもそうだが、今回の件と俺らの件は別。これはこれでいつかは話すべきなんだろうが、それは今じゃない気がしていた。

 

 こう言う時に大人だと発言に説得力は出る。ましてや子育てを経験してる分、同年代の大人よりもあるだろう。多少なりとも昔を知る身としては成長したと感慨深く思う反面、自分がまだ子供の立場に甘んじている事に不甲斐なさを覚えた。

 

「お話はひと段落した? 良い時間だしご飯にしよっか。龍鬼君もアカネちゃんも食べていくでしょ?」

 

 キッチンでずっと立っていた母さんが小さい手にでかい皿を持って運んでくる。ルビーと二人で料理をしてくれていて、タイミングを測っていたようだ。

 

「良いんですか?」

「もちろん。お家でご飯作ってなきゃだけど」

「そこは大丈夫だと思います。遅くなるかもとは言ってあるので」

「じゃあ大丈夫だね」

 

 手伝ってと言われ、取り皿や飲み物を出して食べ始める。元から大食いの父さんがいるから量は多めで、黒川一人増えたところで作る大変さはほとんど変わらないだろう。そう言えば、龍鬼さんはそこまで大食いじゃない。この辺は個体差というやつか。

 

 食べ始めると、話題は仕事の話が多くなる。俺と黒川が出てるドラマの話や、その後の予定の話。黒川も順調なようで、今年のドラマや映画の予定は埋まっているとの事でかなり多忙なようだ。役によってキャラを変えられる上に演技力が高く、容姿も良いから重宝されるのだろう。日本の役者な演技力よりも容姿が先行されるが、演技力もあるなら現場としては喉から手が出るほど欲しいはず。俺と共演してるドラマも売れっ子の不知火と一緒にヒロイン候補に上がっていたのだから、それが今の黒川の評価とも取れる。

 

「学校でも今話題でね、お兄ちゃんはともかくあかねちゃん可愛いってよく話してるの」

「そう言われると嬉しいような恥ずかしいような」

「俺はともかくって何だよ」

「お兄ちゃんはカッコいいけどお兄ちゃんと言うか。役の前に普段の姿が頭の中に出てきちゃうんだよね」

 

 ルビーからの評価は役者としてはあまり嬉しくないな。

 

「大丈夫だよ。会社にいる時アクアの事話してる人多いよ」

「そう言う事じゃねえと思うぞ」

 

 龍鬼さんからの少し検討はずれのフォローに、父さんがツッコミを入れてる。イマイチ龍鬼さんはわかってなさそうだ。この純朴な感じが、芸能界に入ってすれたタレント達に刺さるのだろう。周りのガードが固いものの、龍鬼さんも密かに人気があるように見える。

 

「会社にいる人って誰?」

「アクア君の事務所での評判ってどんな感じなんですか?」

 

 ルビーと黒川が龍鬼さんの発言に食いつく。黒川は普段の声と変わらなかったがルビーは少し声が低くなってた。

 

「そうだなあ。ーーーさんとか、ーーーさんとか。評判も良いよ。社長の孫なのに偉そうじゃないとか、よく親切にして貰ったとか。悪く言う人は見た事ないかも」

「へぇー」

 

 男性タレントも在籍しているとは言え、男女比は女性の方が多い。龍鬼さんが上げた名前も女性の物で、二人のどこか冷めた視線が俺に向く。

 

「……悪い評価じゃないんだから良いだろ」

「そうだねー」

「アクア君そう言う所あるもんね」

 

 妙に居心地が悪い。父さんと母さんはそれを見て笑っており、龍鬼さんはやはりよくわかっていない様子。四面楚歌な状態に、誰でも良いから助けて欲しいと切実に思ってしまった。

 

 結局俺がそれから解放されたのは、別の話題になってからだった。

 

 ルビーの握手会での話になり、相変わらず春男さんが来てた事や、もう一人のクローンらしき申武漢なる人物が来たようだ。

 

「デスディーラーズって言えばPMCだろ。なんで日本に」

「可愛い姪っ子の私を見に来たって。後はなんか市場を調べるためって言ってた」

 

 詳しくは知らないものの覚えはある。比較的近年設立された軍事企業で、この前欧州のとある国で蟲の殲滅戦で多大な戦果を上げたと報道があったはずだ。ジャッキーさんは蟲に関連していると思っていたが、敵対していると言うことは違うのか。いや、そもそもクローンだからと言って彼らの味方という訳ではないだけか。実際拳願会も蟲とは敵対している訳だし。

 

「あんまり知らない奴にほいほいついて行くなよ」

「私を何歳だと思ってるの? ちゃんとわかってるって。なんか嫌な感じもしたしね」

 

 嫌な奴、か。仮に敵対していても素直に味方と思い込むのは危険だな。

 

 食後、父さんと龍鬼さんは一汗かいてくると言ってた部屋を出て行った。どうやら戦鬼杯に龍鬼さんがエントリーしたそうで、まずは勘を取り戻す所からと言っていた。定期的に組手はやっていて肉体的なレベルはキープできていても、それ以外の部分はやはり離れている分落ちているらしい。

 

 母さんとルビーはソファでくつろいでおり、俺と、手伝うと言った黒川が片付けをしている。人数が増えれば食器も増えるため、そこそこの枚数はあった。

 

「ねぇ、かなちゃんは知らないんだよね」

「ルビーがどこかでやらかすとは思ってたけど、いまだに秘密にできてるみたいだから知らないはずだ」

「またそう言うこと言う。でも、どこかで言うつもりはないの?」

「今のところはない。裏でどうこうなんて、本当は知らなくて良い事だろ。一応有馬にもMEMにも護衛はついてるが、多分大丈夫だ」

 

 幸か不幸かジャッキーさんと繋がりができた。ルビーが会った羅漢さんとは違ってジャッキーさんからは嫌な感じがしない。自分で言うのもあれだが、孫認定されている上に有馬達とも直接会っている。相手依存なのは情けないが、危害が及ぶ可能性は低いはず。

 

 現状、一番危険なのは黒川だ。父親が警察官僚と言うことも狙われる要因の一つだが、探究心が暴走した時に触れてはいけない物に触れる事が恐ろしい。

 

「護衛も増やして貰えると思うが、俺も落ち着くまでは極力一緒にいるようにする」

 

 俺にできることは限られている以上、それを確実にこなすしかない。

 

「……そっか」

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