一番星の王子さま 作:160万のワインを飲み損ねた
アクア君の家で夜ご飯をいただいて、そのまま流れでお泊まりする事になった。お母さんに連絡した時は心配されたけど、どこに泊まるか伝えたら納得してもらえた。
「あかねちゃんサイズ大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。ありがとう」
パジャマは持ってないから、ルビーちゃんのを借りる。身長はほとんど同じだから大きすぎず小さすぎず、本当にちょうど良いサイズだった。
「本当? あかねちゃんスタイル良いから、短いとかキツイとか言われないか心配だったよ」
「そんな事ないよ。ルビーちゃんの方がスタイル良いし、いざ着てみるまで私の方が心配してたんだから」
「えへへ。一応スタイル維持のために頑張ってる甲斐あったよ」
「普段は何してるの?」
「食事管理と適度な運動だよ。あかねちゃんは?」
「私も似たようなものかな。運動はそんなに得意じゃないから、ちょっと大変だけど」
「あかねちゃん何でもできそうなのに」
「全然。得意分野以外はてんでダメで。ほら、恋リアの時とか……」
今思うと、あれは露出を増やすために焦りすぎてた。周りが見えなくなって、ゆきにも怪我をさせちゃって炎上して……自殺まで考えた。
「あー……あれは、ね」
「あの時もアクア君達に助けられちゃった。仕合だってしてくれてたんでしょ? 他の会社と関係悪くなってたりしてたら申し訳なくて」
「パパは仕合できるなら楽しんでるから大丈夫だよ。珍しくアクアに頼られて嬉しそうだったし。それに他の企業の関係はわからないけど大丈夫じゃないかなぁ。ママの時は拳願会に所属してる全テレビ局とかに喧嘩ふっかけたって聞いた事あるし、社長が上手くやってるよ」
「もしかしてアイさんの妊娠報道の事?」
時代が良かったのもあると思う。今みたいにSNSが普及していたら、もっと大変だったはず。
「みたいだよ。私も聞いただけだから、どこまで本当かわからないけど」
「きっと本当の事だよ。前に色々調べた時に不自然なくらい報道が少なかったから」
「それで違和感持ったんだよね? プロファイリングかー、なんか漫画とかに出てくる探偵みたいでカッコいいよね!」
「興味あるなら教えるからね」
「やった! どうやるの?」
ルビーちゃんがずっと抱えてたモッキーのぬいぐるみが押し潰される。文字通り前のめりになってくれると、それだけ興味があるんだって思えて嬉しくなった。
犯罪捜査、マーケティング、ITセキュリティにも使われてるけど、役者として主に使うのはそれとはまた別のもの。
「一口に言っても色々種類があってね。私が主に使っているのは心理学的な物なんだけど、基本はやっぱり情報収集と分析かな。例えばルビーちゃんに対してやってみようとすると、生まれはどこで、家族構成はどんなか。幼少期から今までどんな過ごし方をして、得意と苦手な物は何か。人間関係とか、何が好きかとかをひたすら集めるの。集めた後は分析で、さっきの好きな物なら、いつどこで何が理由で好きになったのかを集めた情報の中から考察していくんだよ。好きな人の影響とか、思い出が詰まってるとか。ここで気をつけなきゃいけないのが偏見や先入観。これが入ってくると正確に分析ができなくなっちゃって、出来上がる人物像も変わってくる。仮にそう言った物がなくて完璧にできたとしても、あくまで確率的な物だから、必ずしも合ってるとは限らないから注意だよ」
皆そんなにロジカルに生きてるわけじゃないから、違う事だってたくさんある。突発的や偶然的な要素が絡んでくると特にそう。何度か過去に似たケースがあれば類推はできるけど、確率はぐっと下がる。
「なんとなくわかったような……わからないような……」
ルビーちゃんの頭から煙が出てるように見えた。
「最初はそんな感じだよ。でもやっていくと、だんだんパズルが解けていくみたいに全体像が見えてくるよ」
「よくこんな難しいことできるよね。やろうと思ったきっかけとかあるの?」
「五歳くらいだったかな、お父さんが持ってた本に何となく興味を持ったのが最初だった気がする。原理を聞いて、演技にも活かせるかもってたんだけど中々上手くできなくて、少しずつできるようになったのは、もう少し後だったと思う」
きっと周りと浮いてたから、相手を知れば仲良くなれるって思ったのが最初かも知れない。かなちゃんに憧れてこの世界に入って、稽古や舞台で平日も学校に行かない日があったりしたけど、その前から距離感がうまく掴めなかった。
本格的にプロファイリングを使ったのは、オーディションの時。かなちゃんとペアを組んで、喧嘩して。あの時からただ憧れるだけじゃなくて、水と油みたいにそりが合わなくて嫌いが追加された。
「五歳から。やっぱり売れる役者さんは違うんだね。私が五歳の時何してたかな」
ルビーちゃんは感心したように言ってくれる。表情がコロコロ変わって素直だから、きっと私と違って誰からも好かれるような子。同性から見ても羨ましく思えた。
「私なんてまだまだだよ。小さい時のルビーちゃん可愛かっただろうなぁ」
「自分で言うのも何だけどすっごい可愛かったよ。そうだ、確かこの辺にアルバムがーーー」
本棚、ではあるけど本よりもぬいぐるみとか他の置物が多い中で、目的の物はすぐ見つかった見たい。
「最近はスマホだけど、それまでは確かまとめてたのがあったんだよね」
ベッドの上で開く。見せてもらうために、私もルビーちゃんのベッドの上にお邪魔させてもらった。
「かわいー!」
七五三の時の写真を始めとしてお遊戯会とか運動会とか、小さい時の色んなルビーちゃんの写真があった。お目目が大きくて人形さんみたいで、時々周りに筋骨隆々な人達がいるのは目を瞑ろう。双子だから、アクア君も時々写ってる。今とは違ってまだ子供としても愛らしさもあって、ドラマとか映画のメディア媒体で見るよりも自然な表情をしている。こんな風に笑うんだ。
「あかねちゃんってさ、お兄ちゃんの事好きなの?」
「ええっ!? いきなりどうしたの!?」
「何となく気づいてはいたんだけど中々聞く機会なかったから、聞くなら今かなーって」
「そ、そうなんだ……」
どうしよう。これって正直に言うべきだよね。心臓が急に激しく動き出したのがわかる。
口にするのはまだ恥ずかしくて、首を縦に振るのがやっとだった。
「やっぱりモテるなぁ。どこが好きになったの?」
「それを言うのは恥ずかしいよ……」
初めて会った時から、少し惹かれていた。年が近くて同じ役者で、高頻度じゃ無いけどやり取りをしていく中でどんどんそれは強くなって、明確に自覚したのは台風の中駆けつけてくれた時。その後も助けれてくれて、私にとって王子様みたいな人。これで好きにならない方が無理だよ。
……でも、アクア君はきっと私の事をあんまり恋愛対象とは見てない。ゼロじゃ無いんだろうけど、アクア君のタイプに完全に合う感じではないって言うのかな。薄々とは気づいてたけど考えないようにしていて、けど、今日の件ではっきりした。好きだから守ろうとしてくれてるんじゃなくて、私が危ない立場にいるから守ろうとしてくれてるだけ。自覚すると火照った顔も冷めてくる。私的には結構頑張ったつもりだけど、振り向かせるにはまだ足りないみたい。
「……い、今は付き合ってる人いないんだよね?」
「いないと思うよ。医大受かるまでは作るつもりないって前言ってたし」
それを聞いて安心してしまう。
今は恋愛対象になってないからと言って、簡単に諦められるほど軽い想いじゃない。今はまだってだけで、断られた訳じゃない。特定の誰かがまだいないなら、私にもチャンスはある。
「そうなんだ。……ルビーちゃんは好きな人いるの?」
「いるけど内緒ー」
「ずるいよー、私だって恥ずかしいけど答えたのに」
「……じゃあ、アルバムに写ってる人ってだけ。ここから先は恥ずかしいから、あかねちゃんでもダメー」
「へぇ、ルビーちゃんは年上の人が好きなんだ」
「ノーコメント。何か言ったらあかねちゃんわかっちゃいそうだもん」
「この情報だけじゃ流石にわからないよ」
アルバムにいる人、アクア君以外皆年上。候補も多いしまだルビーちゃんが、どんな人がタイプかわかってないから流石に絞りきれない。
そういえば、友達と恋バナなんて初めてかも知れない。例の件以降学校の友達ともどこか気まづくて、こう言う話をする雰囲気にはならなかった。私も仕事が増えてきたこともあって今まで以上に行けなくなっちゃったから、関係を元通りにするのは時間がかかる。ララライではしないこともないけど、だいたい複数人だし男性もいるから、忌憚なく話すのと少し違う。
話はどんどん広がっていって、他の人の恋バナになっていく。かなちゃんとかメムちゃんとか、学校の友達の話。楽しそうに話すルビーちゃんを見てると、私も自然と楽しくなった。
寝ようってなったのは、日を跨いだくらいだったと思う。
床に布団を敷いてもらって、部屋を暗くしながらも話は続けた。
先に寝たのはルビーちゃん。話してて返答がなくなったから起こさないように様子を見れば、可愛く寝息を立てて寝ていた。
「おやすみ」
私はまだ寝れそうに無い。
静まり返った部屋の中で、天井を見つめながら頭を整理させる。今日は色んなことがあったから、抜け落ちてるところがあるかも知れない。アクア君の事も、攻め方変えないとかな。初恋は叶わないなんて言うけれど、最後までわからないもんね。
段々と眠くなってくる。隣の部屋の扉が開いた音がした。勉強してて飲み物でも取りに行くのかな。今なら話せるかもとは思ったけど、眠気の中じゃ体は動かずにそのまま夢の中へと誘われて行った。