一番星の王子さま   作:160万のワインを飲み損ねた

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 戦鬼杯予選第二回戦。

 

 グループHは仕合会場が函館のため、再び北の大地への向かう。一仕合目は既に終了し、いよいよ龍鬼の出番が来る二仕合目。

 

「じゃあ行ってくるよ。桂さんもアイちゃんもありがとう」

「気楽にな。負けても別に死にはしねえよ」

 

 龍鬼から持っていて欲しいと言われたメガネを受け取って、どうするか一瞬悩んでアイに掛ける。大の大人用と女性の中でも小柄な部類のアイじゃ当然サイズが違うため、早々にズレる。

 

「頑張ってねー。ちなみに、負けても何も無し?」

 

 度が入って無いんだと言いつつ、アイはズレたメガネを両手で直す。……眼鏡も良いな、なんて考えてるとつい質問に答え忘れそうになる。

 

「いや、この前のトレーニングを倍にして体に叩き込む」

 

 仮に負けてもまだチャンスはある。それならそれを掴むためにもよりハードに鍛えるのは当然。

 

「……頑張って勝ってくるよ」

 

 御雷が来てくれた後も今日に回復が終わるように考えてひたすら反復させたからな。最後の方にはだいぶ慣れているように思えたが、仕合でどうなるか。

 

 龍鬼がゆっくりとリングへと向かっていく。歓声が湧き出す。グループHの中じゃ、一番盛り上がる対戦カードだ。

 

「シショー的にはどう思う?」

「師匠になったつもりはねえが、できることはやった。千葉さん相手に十分成果を発揮できんなら上等だよ」

「ならお手並み拝見ってやつだね」

 

 たった一週間かそこらで劇的にレベルが上がることは、余程のきっかけがねえと厳しい。仕合用に調整した事で実力を一回戦よりは発揮しやすくなるだろうが、技をいくつか教えても自力自体はそこまで変わってねえ。

 

 二人とも出揃い、向かい合う。千葉さんも龍鬼が相手だからしっかり調整を入れてきたようで、一回戦よりも状態は良さそうだ。

 

 常に最高の状態を仕上げて仕合に臨むのが当たり前だとしても、毎回の如く心身共に百パーセントの状態に持って来れる事はまず無い。実力が伯仲している場合は、勝敗はちょっとした事が鍵となって分けられる。さて、どうなるか。

 

 レフェリーの合図によって仕合が始まる。

 

 当初は速攻をしかけようとしていた龍鬼は、敢えてそれをせずに散歩でもするかのようにゆっくりとリング上を歩く。

 

 速攻も一つの手だ。絶命トーナメント時、御雷は雷心流最近の技を持って実際に千葉さんを破った。ただあれは事前情報が無かった事と、そもそもわかっていても反応が難しい程の速さがあったから。龍鬼はフットワークに優れていても、御雷のそれには届かない。千葉さんもかつての敗北から対策は考えているだろう。そうすると、下手に速攻をするよりは、得意とする方法で挑む方が良い。

 

 ゆっくりタイミングを見計らう龍鬼を見て、千葉さんは加納さんの無形を真似る。俺と仕合をした際も使ってきた無形は、あの時でもかなりの精度だった。あれからまたレベルが上がっているのであれば、一層オリジナルに近づいているはず。

 

 先手は龍鬼。

 

 ある程度歩いた場所から最短距離で近づき、挨拶代わりの地伏龍。当たる直前で流れるように躱され、技の動作上放った後の隙が大きい分相手の行動時間は増え相手の選択肢は増える。千葉さんは避けた勢いを殺さず、龍鬼の左側に滑り込みミドルキックを放った。

 

 左腕でのガード。左足を少しだけ地面から離して右側に重心を運び、蹴りの威力を利用して右手を地面に付け、浮かせていた左足を一度地面につけてから蹴り上げる。狙いは千葉さんの側頭部。これも右肩で弾かれるが、蹴りで片脚立ちだった分仰け反らせる事はできた。その間に体勢を立て直し、龍鬼はインファイトに切り替える。

 

 千葉さんも無形からシラットに切り替えて肘で捌いて応戦。捌きながら、隙を見て一撃が龍鬼の顔に入る。わずかにできた隙間に入り込むように、下からショートアッパーが飛んで来きてはギリギリの距離を通過する。

 

「カノーさんにロロンさんに、あれはガオランさん?」

「だな。相変わらず器用に切り替えて使ってんな。見た感じ無形は防御より、シラットは中間、ボクシングは攻撃寄りって感じか。それぞれの特性的にも理にかなってんじゃねえか」

 

 千葉さんのフラッシュ、とは言え、ガオランのように一呼吸で一五、六発も打てるわけじゃねえが心理的なプレッシャーは相当のはず。龍鬼からすればトップ層の三人が相手してくるように感じてもおかしくはねえ。

 

「へえー、リューキ君大変そうだね」

「問題ねえさ。あれくらいで気圧される奴じゃねえよ」

 

 これに関しては仕合や殺しは関係ない。散々臥王鵡角に鍛えられてきたおかげか、相手にビビる事はねえ。

 

 使う技は多くても、それを使うのは千葉さん一人。身近に中身をトレースするとんでもねえ女優がいるからつい勘違いしちまうが、千葉さんはあくまでコピーできるのは技やコピーだけ。本人達とは思考が違え上にコピーしたそれぞれの技も限られる分、どの時にどの技を使ってくるかは予測できる。

 

「仕掛けるならそろそろかもな」

 

 攻守が頻繁に入れ替わる仕合も、一分が経過しようとしていた。

 

 ガオラン模倣をした打撃、フラッシュを打ち終えた後、左でのストレートに移る。

 

 龍鬼は拳をギリギリまで引きつけ、バックステップを思わせる上体の動きに反して、下半身はしっかりと地についたまま。膝の屈伸を使い、懐へと入り込む。

 

 臥王流、針抜き

 

 右拳が頬を捉えた。

 

 この仕合初のクリーンヒットは龍鬼。

 

「お、上手えな」

 

 とは言え、それで決まるほど緩い相手でもねえ。畳み掛けるように龍鬼が攻める。数発のヒットの後、再び無形を使った千葉さんが龍鬼の猛攻から逃げ出す。

 

 追いかけ、身を低くして突進する。初手の地伏龍に似た動きに、自然と千葉さんも地伏龍を意識したんだろう。

 

 二虎流火天ノ型、烈火

 

 直前での急加速をして、そのままタックルに入る。

 

 予想外の攻撃だったんだろう。無形で逃げられず、烈火の勢いもあって腕に捕まって勢いよく倒される。これまでの仕合で一切見せた事が無かった行動。龍鬼はマウントポジションまで難なく移る。サブミッションは時間がなさすぎて教えなかったが、マウントからの攻撃は他にもある。抜き手ではなく拳を握り固め、鉄槌を振り下ろした。

 

 ガードはしているが、着実にダメージが入っていく。ここからの逆転は中々難しい。

 

 数発の後、レフェリーからの静止が入った。振り下ろそうとした拳がピタリと止まり、龍鬼は千葉さんから離れる。

 

 程なくして龍鬼の勝ちが宣言された。

 

 千葉さんも気は失ってねえ。最近の拳願仕合は不殺を心掛けるためかレフェリーの判断も早い傾向にあったからな。もしかしたらあそこからひっくり返す技もあったかもしれねえが、まあ妥当な判断だろう。龍鬼もすぐにレフェリーの声に反応したから、ちゃんと周りも見えてる証拠か。

 

「リューキ君勝ったね。どう? 問題なし?」

「良いんじゃねえか。後は自分なりの戦い方に上手く落とし込めていけば言う事はねえや」

「意外と素直に褒めるね」

「褒める時は褒めるさ。その方が誰だって嬉しいだろ?」

「それは確かに」

 

 本来なら一歩目から使うべき烈火も、最後の加速で使ったりと既に自分なりに考えて使ってる様子はあった。あれだけ散々色んな相手とやらせたから、言われた事だけじゃ追いつかねえってのは理解してるはずだ。

 

 龍鬼が戻ってくる。足取り的にも怪我はしてなさそうだ。

 

「手応えはあったか?」

 

 タオルを投げ渡しながら聞いてみると、

「少しはね。まだ動きづらい感じもあるけど、前よりは闘りやすくはなったかな」

 

 龍鬼本人からも満更でもない答えが返ってくる。

 

「それで勝てんなら問題ねえさ。この調子で次の仕合勝ってストレートで本戦出場決めてこいよ」

「そうだね。光我と戦えるように頑張るよ」

 

 同じくグループEの二仕合目を戦っていた光我も順当に勝ったことがわかり、二週間の、二人は三勝〇敗で予選を突破する事となった。

 

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