一番星の王子さま   作:160万のワインを飲み損ねた

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 モニター上に映る二人の内、龍鬼は暗くなり、光我にWinnerの文字が浮かぶ。まさしく奇襲特化の臥王流がその真価を発揮したと言うべきか、まさか光我が使ってくるとは俺も思わなかった。教わってねえはず。目が良い分、覚えるのも得意って事か。

 

「お疲れ様デース!」

「龍鬼君は残念だったね」

「お疲れさん。ブランクが長かったかもな。でもまあ、負けちまったが良い仕合だったよ」

 

 解説席でマイクを切ったジェリーさんと鞘香嬢との会話。

 

「頼まれたらまた鍛えて上げるの?」

「その時はな。ただ、多分来ねえんじゃねえか? 俺に教わるより、光我や他の同年代の奴らと切磋琢磨した方が刺激になんだろ」

 

 見た感じ今の所実力は近いレベルになってる。短時間で光我がそこまで実力を伸ばしたのはあいつの努力の賜物だが、もう一度仕合をしたら結果はまた変わってくるだろう。

 

 とりあえず、ねぎらいにでも行ってやるか。

 

「烈堂にも言ったけど、爺ちゃんにもよろしく言っといてくれ」

「はーい」

「ん? 何のSTORYデスか?」

「家族の話だよ。それより準決と決勝も実況と解説頑張れよ。楽しみにしてるぜ」

 

 二人に挨拶して、龍鬼が運ばれただろう医務室への向かう。

 

 初めて来た場所だが、思っていたよりも造りはシンプルで迷わない。個人的には閉鎖空間よりは日光を浴びれる方が好きだが、そこは好みによる。使われなくなったここをわざわざ買い取るのは遊び心があると言うか何と言うか。

 

 案内板を頼りに医務室があるフロアまで到着して、龍鬼の部屋を探す。見つけて入ってみれば、龍鬼がちょうど治療を受けていて、ほぼ終わる所だった。

 

「なんだ、思ってたより軽傷だな」

「酷いなあ、鼻だって折れてるんだよ。まあ体は動くし、今日中に退院はできるんだけどさ」

「なら良いじゃねえか。これまでに比べたら気楽なもんだろ?」

「うーん、負けたのに思ってたよりもスッキリしてるのは俺も驚いてるよ。ただやっぱりまだ仕合用の闘い方が完璧じゃないや。今になってみればもっとやりようはあったかも」

「これまでとは違った闘い方に急ピッチで変えようとしたからな、いきなり違和感なく動くの難しいだろうよ。むしろそれで本戦まで来てんだから上等だろ」

「あれだけしごかれたらね。むしろ予選落ちしてたら今より酷かったかも」

「よくわかったな。予選落ちだったならあの量を倍にしてやろうかと思ってた」

「……本戦までこれて良かったよ」

 

 冗談を言う元気もあるなら、メンタル面も問題なさそうだな。相手が光我だったのも良かったか。

 

 話をしていると、背後から気配が一つ。

 

「あ、桂さんも来てたんスね」

「光我か、準決勝の準備は良いのか?」

「治療受けてたんでこの後すぐ行きますよ。その前に龍鬼に顔見せようかと思って」

 

 光我が包帯の巻かれた左手を見せてくる。おそらくは瞬鉄を使った際に折れたんだろう。複合技といっても、単に同時に使えば良いってものじゃねえしな。

 

「席離れるか?」

「気にしないで良いッスよ。一言だけ言いに来たんで」

 

 そう言って龍鬼の側まで歩いていく。

 

「皇牛苑、席だけ予約しておけよ」

「はあ……わかったよ。約束だからね、予約しておくよ。ここしばらく普通の給料しか貰ってなんてないんだから、ちょっとは遠慮してよね」

「何言ってんだ、定期的に収入あるなら問題ねえだろ。破産するまで食ってやるから覚悟しとけ」

 

 戦った直後に来て何を言うかと思えば、まさかのそれか。なんか肩の力を抜けんな。

 

「なんだ、飯の奢りでも賭けてたのか」

「そうッスね。桂さん達も来ます? 負けた方が奢りなんで、今日は全部龍鬼持ちですよ」

「えー。桂さん大食いだからなあ」

「本人の前で嫌そうに言うんじゃねえよ。本当に破産させるぞ」

 

 感情を少しは隠せ。

 

「まあ、俺は遠慮しとくよ。めんどくせえ奴らに捕まってるから俺が行くってなると多分そいつらもついてくるぞ」

「面倒な奴ら?」

「ジャッキーさんと成島」

「え!? ……オジさんがすいません」

「気にすんな。なんか意気投合して二人で飲んでるよ。いっそ二人で連んでそこで集約してくれんならマシな方だ。それにどうせ誘うなら、俺じゃなくて社長とミヤコさんにしてやれよ。喜ぶぞ」

「それもありか。光我もミヤコさん達が来ても大丈夫?」

「ああ、俺は別に気にしねえよ。とりあえず人数分の席だけはよろしくな」

「はいはい。その辺はやっておくから光我は準決勝の準備してきなよ。俺は大丈夫だからさ」

「そうか? なら遠慮なく。桂さんも応援よろしく」

「理人は強えぞ。頑張れよ」

 

 忙しそうに部屋を出ていく光我を見送る。

 

「……ジャッキーさんって敵なんだよね?」

 

 光我は反応しなかったから知らないのだろうが、龍鬼は当事者と言うこともあり話をしてある。面識はまだ無いはず。

 

「一応な。場所がわかってるお前と王馬を回収しにいく素振りもねえし、基本食べ歩いてるらしい。後はたまにウチでヨガ教えたりしてるな」

「それは聞いたことある。ミヤコさんも家でやってたしね。話聞いてると本当に俺達狙ってるのかわからなくなるね」

「だな。とは言え俺と違ってお前は成功体らしいからな、気を抜かねえ方が良い」

「勿論。なにが基準なんだろうね、強さだけなら俺達の中だと桂さんが一番強いと思うけど」

「そこは関係ねえんだろ。割と強くなった自覚はあるが、まだ届きそうにねえしな」

「そんなに強いんだ」

「ああ。今まで出会ってきた中でもダントツにな。それに俺の強さも、現状抜け駆けしてるようなもんだ。誰だって、それこそほぼ遺伝子も同じなんだから龍鬼だってこのレベルまでは来れるさ」

 

 何と言えば良いのか、勝手に頂点だと思っていた場所がまだ中腹だったと言うか、先があるとわかると自然とそこを見据えて修行ができる分強くなれる。ゲームで言えばレベルの上限解放ってのが近えかもな。

 

 ジャッキーさんの強さの根源が、最初の一人から繋げてきた武の記憶と経験だって言うならあれだけ強いのも納得できるし、基準に強さを求めていないのもわかる。回生か、別の方法かはさておいて、それらが継承できるんなら現状の強さは最低レベルあれば大丈夫なはずだ。

 

「なら、俺も強くならないと」

「まずは怪我治すためにゆっくり休んどけ。無理して動く必要はねえよ」

 

 負けを引きずる訳でもなさそうだな。

 

 地上ならまだしも、出入り口が限られているこの場所で拉致とかもねえだろうから、怪我してる状態でも一人にして大丈夫だろう。

 

 部屋を後にして、とりあえず焼きそばを探す。数は、まあ人数分買っていけば良いだろう。ビールは適当に買っておけば良いか。アイツら何でも飲みそうだしな。

 

 席に戻ってみれば空き缶が増えており、ずっと酒盛りをしていたようだ。

 

「ほらよ。遅くなったが焼きそばと追加のビールだ。好きなだけ持ってけ」

「待ち侘びたぞ。ジャッキーちゃん、早速食べよう」

 

 周りに聞いてみても大人組は食べず、アクアとルビーは小腹が空いたと言ってそれを受け取る。残りは置いておけば誰かが後で食べんだろ。

 

「龍鬼君は大丈夫だった?」

 

 ミヤコさんが聞いてくる。忙しい中でも色々世話してくれてたから、心配な気持ちは人一倍だろう。

 

「さっき様子見てきましたけど大丈夫そうでしたよ。怪我もそこまでですし、意識もはっきりしてます」

「そう、それなら良かったわ」

 

 ほっとしたのか胸を撫で下ろす。

 

「良い仕合だったな。光我君だったか、良い戦士じゃないか」

「光我は俺の甥なんだ」

 

 それとは別に謎のアピールと謎の乾杯をあげる二人。ジャッキーさんの方を見ても変化はない。成功体の龍鬼の負けに対して何か思う所があるんじゃねえかなんて考えてたが、杞憂だったか。この感じじゃ、これまでの仕合と同じく普通に観戦してたな。

 

 席に戻る。

 

「おかえりー」

「ただいま。特になにもなかったか?」

「大丈夫だったよ。ただ私達も成島麦酒会の会員だって。芸能人だから広報担当みたい」

「人の家族を勝手に広告塔にするんじゃねえよ。そもそもアクアとルビーはまだ飲めねえのにどうやって広告させんだか」

 

 下を見ても半球型の椅子では様子はわからねえが、どうせ聞いてもいねえだろ。空手は相当に上手くて強えのに、普段はつくづく適当だな。

 

「お酒かー。アクアとルビーももうちょっとだね」

 

 アイが感慨深そうに呟いた。

 

「飲めるようになったらアクアと飲む約束してるの!」

「良いねー。それじゃあ、その時はお酒用意しておくね」

「爺ちゃん家に生まれ年が当たりだった良いワインがあるらしいから、それ貰ってくるから飲んでみろよ」

「ワインだって、なんかオシャレな感じじゃない?」

「ああ。当たり年はちょっと楽しみだな」

 

 赤か白かはわからねえが、多分赤だろう。比較的若いのならルビー色のなんて表現されるワインもあるが、生まれ年なら飲む時には二〇年経つ。濃くなってまた違った色になる。そういや勝手にボトルで用意してあると思ってたが、まさか樽で買ってねえよな。

 

「私も二十歳の時飲んだんだっけ?」

「家でお祝いした時に飲んだな。芋焼酎、森伊蔵だったと思う」

「おおー、よく覚えてるね」

「大事な日だろ。できるだけ誕生日とか記念日は何をやったか覚えてるようにしてんだ」

 

 勉強はてんでダメだったが、こう言うことは不思議と覚えられた。記憶力に関してはそこそこ自信がある。とは言っても、いつと何をが繋がらなくなることはたまにあるが。

 

「私は全部覚えてる自信ないなあ」

「良いんだよそれで。俺が好きで覚えてるだけだ」

 

 失敗作として処分されなくて良かった。何ならハズレと分かって売られたのか、捨てられた所を拾われたのかはわからねえが、その点に関しちゃ蟲にも感謝しておかねえと。

 

 会場で流れていた音楽が緩やかなものから激しいものへと変わり、準決勝のアナウンスが入る。

 

 準決の出場者はコスモにアダムに理人に光我。四人中三人が絶命トーナメント出場者ってことはなるべくしてなった感じだ。そこに光我が入ってきた事に若い世代も育ってきた事に嬉しい気持ちがある。我ながら、年寄りみてえな事考えるようになった。

 

 俺も気楽に観戦させてもらうとするか。

 

 余った焼きそばを一つ手に取って食べてみる。成島が言うのもわかる、久々に食べたが美味えなこれ。

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