一番星の王子さま   作:160万のワインを飲み損ねた

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『本日、ーーー区にあるレストランで爆発がありました。レストランは営業中でしたが幸いにも死傷者はおらず、警察と消防が詳しい状況を調べておりますが、ガス管の老朽化によるガス漏れ起因の爆発の可能性が高いとのことです』

 

 テレビを通じて映像が流れる。内側から爆発したのか瓦礫辺が道に散乱しており壁に関してはすっかりなくなっていたが、見覚えのあるレストランだった。

 

「ここ前に行ったことあったよね」

「二、三年前に行ったよな。飯もワインとか美味かったが、これだけ吹っ飛んでんなら全部ダメになってんだろ」

「もったいないよねー。っていうかガス爆発なのに壁壊れるかな? 普通は厨房じゃない?」

「確かに……ならそういう事なんだろうよ」

「仕合やるって決めたのに?」

「話が行き渡ってなかったか、行っててもシンパか一部の暴走とかだろ」

 

 そうなると死傷者無しってのもどこまで信じれるものやら。もしかしたらタイミング的にも桐生刹那が病院に運び込まれた件と関係があるかもしれねえ。少しスマホを見てみるが、追加の連絡はなさそうだった。

 

 関連していると思うともっと詳細を知りたくなるが、報道陣はそんな事を知るはずもなくすぐに次のニュースへと変わった。何ならこれ以上はストップがかかって追加情報はない可能性も十分にある。次のニュースはタレントの熱愛発覚と、随分と温度差がある内容。名前を見てもウチの人間じゃねえから、今度は途端に興味が抜けていった。

 

 視線をテレビから外しながらも、耳だけはそれとなく意識を傾けた。

 

 アクアもルビーも昼間だから学校でいない。講習も入れてないから会社の方は俺がいなくてもなんとかなる。

 

「どうした?」

「んー、似た人がいっぱいいるから、改めてちゃんと見ようかなって」

 

 前から伸びてきた小さい手が人の顔を触れていく。前髪を上げたり頬をつねってきたりとやりたい放題だが、なんだか楽しそうにしているからされるがままにしておく。顔周りは飽きたのか、次第に髪をいじりだす。そこそこの長さがある分結ぼうと思えば結べるから、おそらくはヘアゴムだとは思うがそれを使って変な所で縛られている感覚があった。どんな髪型になっているかは、あまり考えないようにするか。

 

「うん。やっぱり全く同じって訳じゃないんだね」

「元は同じでもその後の環境で差は出てくるんだろよ。って言うか後半ほとんど髪いじって顔見てなかったろ」

 

 元が同じでも成長後もそうなるとは限らねえはず。後天的な影響も大きいんだろう。

 

「そうでもないよ。違うなってわかったから弄りだしたんだし」

「ただ弄ってただけかよ」

「私のも弄って良いよ? これでおあいこね」

「どんなおあいこだよ」

 

 近づいて背を向けてくるもんだから、つい艶のある長い黒髪に手が伸びた。

 

 昔はルビーの髪型をセットしたこともあったから何パターンかはできたんだが、もうやらなくなって久しい。覚えてるのなんてせいぜい三つ編みで、それも正しいかどうかは微妙な所。当てにならない記憶を頼りに手を動かす。

 

「相変わらず綺麗な髪してんな」

「良いでしょ。そんなに特別な事してないんだけど、割と自慢なんだよね」

 

 ある程度遺伝的要素もあるんだろうが、何もしていない、と言いつつやることはやってるとは思う。こう言うのは本人が当然だと思っててルーティン化してる事で努力とも感じない事が多い。

 

「そうじゃない奴からしたら羨ましい限りだな」

「縮毛やってみる?」

「俺は遠慮しとく。こっちの方が俺には合ってる」

「そうかも。みんな癖っ毛だもんね」

「四人……羅漢も入れたら五人か、全員同じだからな」

 

 中身のない話をしていれば、左右それぞれで三つ編みを編み終える。こうして見比べてみると左右で太さがちげえな。昔はもうちょっと上手くできた気はしたが、やらなくなると忘れんな。

 

「ありがとー」

 

 インターホンが鳴る。特に予定はなかったが、またジャッキーさんでも来たかと思って見れば、顔は似てるが別人だった。

 

「それ解いてからいかねえの?」

「せっかく編んでくれたから良いかなって」

「まあ、良いなら良いけどよ」

 

 アイの髪を縛るのに俺に使われてたヘアゴムを二つ外したが、まだ残っていたからそれも外す。適当に手で髪型を直せば、アイが目線で何で取るかなと訴えていた。よく分からなん髪型で他人に会う勇気はねえよ。

 

 二人して玄関に向かう。

 

「やあ。お兄ちゃんだよ〜」

 出迎えれば、上機嫌そうな羅漢が一人でいた。開口一番になんかイラっとする挨拶。

 

「二人でお出迎えなんて嬉しいなあ。あ、入っても良い?」

「どうせ嫌って言っても帰らねえだろ。何しに来たんだよ」

「久しぶりに可愛い弟に会いに来るのに他に理由なんて必要ないでしょ。『連なる者』の中で珍しく家庭も持ってるみたいだし、マダムともお話ししたかったしね〜」

「連なる者?」

 

 聞きなれない単語だった。

 羅漢は靴を脱ぎ、俺たちに付いてくる。

 

「ああ、それも知らないんだ。なら、そこから話さないとだよね。まあ簡単に言っちゃえば、繋がる者のクローンの失敗作の事だよ。あ、ちなみに僕が第一号、つまりは長男ね」

 

 だからお兄ちゃんって訳、とこちらの反応に関係なく語る。

 

 リビングに着いて座らせ、適当に飲み物を出した。

 

「君らも良く知ってるオリジナルのアレが適当だからか、皆同じように適当でさ。僕や桂君みたいに名前がある方が珍しかったりするんだよ」

「その言い方だとオーマさんとかリューキ君の他にもいっぱいいるの?」

「マダムの言う通りだよ。二人は完成体だから特別だけど。二人を作るまでたくさん失敗したからね〜。一応は連なる者達も繋がる者の影武者として『蟲』の先代頭領管轄下にあったんだけど、当の本人が要らないって言い出してさ。使い道もなくなった連なる者達は各々が自由に生きることになった訳」

 

 聞けば堅気になった奴らもいるらしい。

 

「俺もその中の一人だってのか? 全然その時の記憶ねえぞ」

「そりゃあそうだよ。君は僕よりはだいぶ後期に作られてるしね。まだ小さかったから、当時アイツを神の如く崇めてる信者に渡してあげたんだ」

「……結局孤児院にいたけどな」

「そうなの? まあ蟲の連中なんて大概イカれてるからさ、途中で飽きちゃったんじゃない? ほら、育児って大変って言うでしょ」

 

 聞いてる限り何十人っていそうだな。思ってたよりだいぶ多そうだ。

 

「でも桂君としては良かったんじゃない? 素敵な奥様と出会えた訳だし。羨ましい限りだよね〜」

「それに関しちゃ同意だな。ってか、本題はなんだよ。それを言いにわざわざ来た訳じゃねえだろ」

 

 顔を見に来ただけなんてのも嘘だろう。いくら親しげに話しかけてきていても、常にまとわりついている嫌な感じが一向に拭えなかった。

 

「せっかちだな〜。まあ良いか。桂君はさ、申武龍の力の根源は何だと思う?」

 

 武龍? 苗字が羅漢と同じって考えれば、まあジャッキーさんの本名って所か。

 

「知識と経験だろ」

「その通り。何千年にも及ぶ歴代の繋がる者達の記憶が、申武龍を化け物たらしめる力の根源だ。君達もアイツに気に入られちゃって大変でしょ? 今は友好的かもしれないけど、いつ気が変わるか分かったもんじゃない」

「そりゃあそうだが、アンタは部下なんじゃねえのか?」

「部下? とんでもない。僕たちの事なんて何とも思っちゃいないよ。この前も言った通り、アイツが暴走しないように前もってあれこれやってるだけ。アイツはね、『人の形をした何か』だ」

「人じゃないって、神様とかそう言う感じ?」

「神様だったら素敵だったかもね〜。でもどちらかと言えば怪物の方かな。野放しにしておくと大変だもの」

「だから怪物退治に協力しろってか?」

「そう言う事。どう、協力してくれる?」

 

 繋がる者の退治。昔話みてえに懲らしめるだけで済めば良いが、ここでの意味は殺しだ。

 

「悪いが断らせてもらう。危険性を教えてくれたことには感謝するが、殺しをするならそれに加担するつもりもねえよ。他当たりな」

「残念。王馬君と龍鬼君にも断られちゃったし、僕って交渉下手なんだよね〜。仕方ない、また出直すよ」

 

 これ以上は無駄だと言わんばかりに、羅漢が即座に立ち上がる。

 

「それならもっと色々隠しとけよ。嘘が下手すぎるんだよ、お前」

「次からは気をつけるよ。気が変わったら連絡ちょうだいね」

 

 そこからは会話がなかった。

 

 何があっても対応できるよう注意をしていたが、拍子抜けするほど無防備な背中は何を考えているのか分からず、玄関を出た後もどんどん遠のいていった。

 

「どう思う?」

「なんか嫌な感じ。私みたいに自分を守るために嘘つくんじゃなくて、多分悪意のある嘘だよ。あとジャッキーさんの事は間違いなく嫌いだと思う」

「だよなあ。何考えてるかわかんねえけど嫌な感じだ」




主人公の名前は予想通りだとは思いますが、王馬とか龍鬼とか鵡角、武龍、飛みたいに将棋の駒にちなんでいる名前が多かったので、桂馬から取っています。
あとは読み方からカツラ→本物じゃない→完成体じゃない
とか花言葉からもそれっぽくしてあります
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