一番星の王子さま 作:160万のワインを飲み損ねた
「相変わらずお美しいですが、アイさんが三十代になられて一番変わったと感じることはなんでしょうか?」
今日は美容雑誌に載せるための写真撮影とインタビュー。雑誌は違っても十代から何度もやってきたけど、私も気づけば三十を過ぎちゃった。今回のターゲット層は私と同じ三十代。年齢なんてただの数字だし、私は元が良いし色々気をつけてるから二十代に見えてもおかしくない。ただ、その文字を見ると少し複雑な気分になる。
インタビュアーは私より若い子。始める前にいくつか言葉を交わして、名刺も貰った。今は名前がわかるけど、時間が経つとあやふやになる。この癖みたいなのは努力はしたけど、どうにもならなかった。覚えられる人と覚えられない人、早い話が私にとって重要な人だったり、才能がある人なんだと思う。
「そうですね。二十代の頃に比べて、やっぱり疲れが出やすくなったかなと思います。寝不足とかが続くと、どうしてもそれが肌に出ちゃいますね」
これは本当。
ふとした時に、昔は徹夜してても平気だったとになって思うことがある。肌もそうだけど、体力とかでもやっぱり昔の私と差は出てくる。
「お忙しいですからね。忙しい時でもこれだけはやる、と言うような美容ルーティンはありますか?」
「皆もそうだと思うんですけど、忙しい時はそのまま寝ちゃいたいって思うんですけど、メイクを落として保湿まではやりますね」
これも本当。
元が良い事もあって濃い化粧はしないから、そんなに手間暇かからず落とせるけど。
「なるほど。では、毎日やられているスキンケアは?」
「特別な事はしてないですよ。お風呂に入って血行を良くして、さっきと矛盾しちゃうかもですけど、クレンジングを使う時に落としすぎないようにして。あとは化粧水とか乳液とか、皆さんもやられてるような事をやってます」
基本は大事。人によって肌質はあるけど、皆がやってる事と変わらない。
「エイジングケアはいかがでしょう?」
「ほどほどにやってます。運動とか食事とか睡眠とか」
「もう少し詳しくお伺いしても?」
少しインタビュワーが前のめりになった。
「運動だと最近はヨガだったり筋トレを始めました。やっぱり年齢とともに体が硬くなったり筋肉が落ちて代謝が下がってしまうので、それにできるだけ抗おうとしてます。食事もジャンクフードはできるだけ避けて、低脂質な食事を心がけたり、必要な栄養素を摂るように栄養バランスを気をつけていますね。睡眠は、とにかく寝れる時によく寝る事です」
ちょっとだけ嘘をつく。ヨガは多分特別なヨガだし、筋トレも結構前から続けてる。食事面もそう。美容とかで思うのは、外側をどれだけ気にしても結局は内側から変えていかないとダメだと思う。どんなに高級な道具を使っても、下地がボロボロだとあんまり効果は無いんじゃないかと思う。
「ありがとうございます。本日のインタビューは以上になります。後ほど本日の内容を文字に起こしてお送りするので、内容の確認をお願いいたします」
「はい。ありがとうございました」
今回は割と本音に近い回答ができたけど、毎回そうだとは限らない。イメージと好感度が大事な世界だから、それを踏まえての回答が多くなるとほんとの考えと違う事は結構あった。
アイドルだけじゃなくて、芸能界自体が嘘を好んで使う。私にとっては最適な場所だったのかもしれない。
ただ、そんな業界とももう少しでお別れ。まだ具体的には決まってないけど、多分来年には辞めてると思う。皆が求める「アイ」を演じなくなるのは、ちょっとだけ名残惜しく思う事はあるけど代わりにルビーが頑張ってくれるし、私は私としての生活が始まると思えば、それも些細な事だった。
最後に挨拶をしてスタジオを離れる。
出口まで行くと、見慣れた後ろ姿があった。すっかり大きくなった背中は、もう大人だなーなんて思わせてくる。
「アクア? 何してるの?」
「俺も今日ここで仕事だったんだ。ミヤコさんから母さんもいるって聞いてたから少し待ってた」
「ありがと。嬉しい事言ってくれるね」
相変わらず私とアクアとルビーのマネージャーはミヤコさんがやってくれてる。拳願会の企業と仕事があったりすると偉い人が出てきて他の人に任せられないって言っているけど、他に拳願会の事を知ってる人いないってのもあるんだと思う。
「アクアも化粧品のお仕事だったの?」
「そんな所。ティーン向けにあれこれと」
「じゃあ似たような感じだ。私に似て顔良いもんね」
「おかげさまで。頭の良さは自前だけどな」
「それはそう。アクアの白衣姿楽しみだなー」
「気が早いな。まだ当分先だよ」
お医者さんになるなら六年制の大学に入って、そのあと研修があって配属とかだったかな。お医者さんになった後も勉強とか大変らしいから、好きじゃないと続けられないんだと思う。大学生になって一人暮らしをするかはわからないけど、いつかはアクアも家を出ていくはず。そう思うと、少し寂しい気分になった。
「アクアはこの後も仕事?」
「いや、特にないから帰るつもり」
「じゃあこのままデートしようよ」
「……父さんに怒られるぞ」
「大丈夫大丈夫。あ、私は平気でもアクアはカナちゃんに怒られちゃうか」
アクアが固まった。
「別に……あいつも怒ったりはしない、はず。って言うか誰にも言ってないのになんで知ってんだよ」
「ふふ。私に隠し事なんて通じないよ」
なんて。普通に聞いただけだけど。カナちゃんかアカネちゃんの二人の内どちらかだとは思ってた。ルビーにはいざとなったら応援するとは言っちゃったから、もしルビーが相手だったら色々と話し合わなきゃいけなかったから安心した自分がいた。
「護衛者たちからのリークか。余計な事言いやがって」
「そんな事言わないの。皆も喜んでたよ?」
アクアとルビーは産まれてからずっとお世話になってる。お爺ちゃんからしたら実際に孫だからともかく、護衛者さんたちからも二人は家族みたいに思われてる。
「絶対面白半分だったろ」
「否定はできないなー。お酒の場でどっちにするか位は賭けてたかもね」
「悪趣味にも程がある」
「愛されてるって事だよ」
「どんな愛だよ。今度行った時に絶対文句言ってやる」
アクアは悪態をつきながらも、そんなに嫌な顔には見えなかった。好きな子と付き合えて、それもそんなに日が経ってないなら多少のことは流せるのかな。一番楽しい時期だもんね。二人とも芸能人だし、表立ってデートに行ったりは中々できないんだろうけど、二人で共通の隠し事をしている気分になられから、私の経験だけどそれはそれで以外と楽しかったりする。私はもう既婚で子持ちな事は公表しちゃったから、そんなに気にする事もなくなっちゃったんだけどね。ただケイの存在は拳願会から圧力がかかってるのか公にされてなくて、私も一般人との結婚ってなってるから色んな旦那像がネットに上がってたりする。想像が膨れ上がってどこかの社長だとか、すごいエリート社員だとかになってて、ケイとそれを見て笑ってた。
あ、そうだ。大事なことを聞くの忘れてたよ。
「ところでさ、アクアはどんな風に告白したの?」
「……絶対言わねぇ」
「ええー良いじゃん。減るものじゃないんだし」
「減るんだよ。俺のメンタルがごっそりと」
「そんなに恥ずかしいかな?」
「恥ずかしいだろ。なんで自分の親にどうやって告白したか教えなきゃならないんだ。逆に聞かれても困るだろ?」
「全然。初めて仕合に連れてこられて、大きかった男の人倒した後に愛してるって言ってくれたよ」
初めて見た時は衝撃的だった。何か隠れてやってる事はわかってたけど想像してなかった事で、けど今思えばあれがなかったら今みたいにはなってなかったと思う。なあなあのままの関係を続けて、少しずつお互いの世界がずれて最後には疎遠になってた。
「聞く相手間違えた。……とにかく、言うつもりはないから」
そんなに拒否されると流石にこれ以上追求する気にはならなかった。そんなに恥ずかしいことかな。
アクアと他のことを話しながら帰る。
家の近くまで来ると、男の人が家の前で待ってた。
「ジャッキーさん?」
「ん? 君達か。ちょうど良かった」
アクアが言うように見た目はジャッキーさんなんだけど、違和感がある。ファッションの好みが変わった? 前髪無頓着なジャージ姿しか知らないからそれ以外はこう言う格好をするかもしれない。でもそうじゃなくて、もっと別の何かが決定的に違う。
「もしかして、もう一人の方のジャッキーさん?」
確証があるわけじゃないけど、そんな気がした。
「素晴らしい。よくわかったね。龍の君が気にいるのもわかる。アイ、君の言う通り私はもう一人の申武龍だ。彼の合意の下で今は入れ替わっていてね。彼が経験した事は私も理解しているんだが、折角だからと思って君達に会いにきたんだ」
「へぇ。じゃあやっぱりトラさんの方なんだ」
なんか話し方も少し違うかな。ちょっと固い感じがする。
「トラさん?」
「ジャッキーさんはもう一人を虎って呼んでたから、あだ名みたいな感じかな」
「あだ名か、悪くない。……ん? 私にもある? いやいや、ジャッキーは君が名乗った偽名だろう。私の方が先だよ」
遠くを見るようにして独り言、じゃなくてジャッキーさんと話してるのかな。二重人格じゃないって言ってたけど、こうしてみると一人二役を演じてる人みたい。
「すまないね。龍と話していた」
「それは良いんだけど、今日も遊び来たの? ケイは今日いないけど」
今日もお爺ちゃんの家で鍛錬って言ってたから、帰ってくるのは夜。
「そうなのか。折角だから手合わせでもと思ったが仕方ない。だが、主な目的は君達に会うためだよ。龍のお気に入りと話したくてね。だからルビーにも会えると良いんだが」
気づいてたけど、やっぱり私たちはお気に入りなんだ。
「ルビーは夕方には帰ってきますよ」
アクアが即座に答えた。ルビーのスケジュールは全部頭に入ってるんだろうなー。
「では待たせてもらっても良いかな。土産話と言うわけではないが、その間に少し話をしよう」
爆弾がどうとか、ローハンさんがどうとか。私達が処理しきれない話をこの後聞くことになった。
虎は目覚めようと思えば出てこれたみたいなので、ツクヨミとの取引時に出てきました