一番星の王子さま   作:160万のワインを飲み損ねた

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 長らく協議が続いていた仕合の内容が決まり、会員にルールが開示された。

 

 通常の拳願仕合と異なる特殊仕合。

 

 拳と描かれたメダル型デバイス、通称『証』の争奪戦。これまでの一対一のガチンコとは違って、一対多も認められてる。武器の持ち込みや殺しは禁止されてるが、この言い方だと現地で武器を作るのはありなんだろう。流石に何年もいればわかってくる。そして、どんな手段を使っても最終的に長く持ってた奴に勝者の権利が与えられる訳だが、権利ってなると、それこそ前のトーナメントと同じく最終的に権利を誰かに渡す事もできるんだろう。大きな括りは拳願会と煉獄の合同チームと、武龍チームの二つだが、ウチは相変わらず派閥争いがあるから、多分いくつかにグループが分けられるはずだ。

 

 優勝者には賞金十億円と、副賞で実現可能なあらゆる願いを叶えると言うもので、派閥争いが出てくるのも副賞の方だ。合同チームが負けても、おそらく王馬と龍鬼の身柄が取られるだけで、損を出さない派閥は強かに出てくると思う。ぶっちゃけ十億は魅力的だが、強い連中なら稼げない額じゃねえし、ウチにだってそれくらいのは資産は普通にある。

 

 仕合会場は前に絶命トーナメントで使われた願流島だが、範囲は一部の観戦エリアを除く島全土。全十二時間の中で時間経過と共にエリアが小さくなり、最終エリアは拳願ドームとなる。

 

 全員に渡される腕時計型のデバイスで証の位地はわかるらしい。これが参加者の状態と確認していて、制限時間内に閉ざされエリアから抜けられなかった場合らは脱落。本人じゃなくてデバイスでの判断なら、格上相手に対してでも、そのデバイスを壊したらエリア外に捨てられれば相手を失格にさせられるのか?

 

 小難しい上に、他にも俺が気付いてないルールがあるんだろう。

 

「アクア、後でルールのおさらい頼むわ」

「ちゃんと自分で覚える努力しろよ」

「適材適所って言うだろ? 頭脳担当は任せたぜ」

 

 同じ場所でルールを聞いてるアクアに任せた。録音の類は禁止されてるから、覚えの良いアクアに任せる方が良い。俺じゃ本番までに間違いなく忘れる。

 

「本番で忘れても文句言うなよ……。それより、森の中とかで戦った事あんの?」

「王馬から鬼鏖を教えてもらう時に一度樹海には行ったが、そんなに長居はしてねえな。ほぼ素人だよ。こちとらシティボーイなんでね」

「自分で言う奴は大抵シティボーイじゃ無いと思うぞ。ほとんど経験ないのに大丈夫なのか」

「今からやった所で付け焼き刃にしかなんねえが、なんとかするさ」

 

 島全土ならいくつか整備されたエリアがある。そこか一目散にドームまで行くのも手だな。後は長丁場をどう過ごすか。さっき春男が聞いたみたいに飲食の持ち込みが可なら必要最低限持って行くか、最悪現地調達になる。それを含めての体力管理。こまめに休憩を挟んで、なんなら仮眠まで取れれば良いが、これは仕合って言うよりサバイバルって言う方がしっくりくる。そうなると、この手の経験が薄い俺には結構な枷になる。アクアにはなんとかするとは言ったが、どうするかな。

 

 ただ、何であれやるしかねえ。最後の仕合と言うのもあるが、龍鬼と王馬のためにもできることをするだけだ。他人と言うには親しくなりすぎた。いや、そもそも成功とハズレはあっても元は同じなんだから兄弟なんだろうが。にしても、ずっと独りだと思ってた俺に、まさかあんなに多くの兄弟がいるとは昔なら夢にも思わなかっただろう。若干の違いはあってもほぼ似たような面だ。全員集まったらすげえ絵面なんだろうな。

 

「説明を聞いた限りじゃ食料は持っていけるみたいだし、救急キット位は持っていけるかもな。ウエストポーチならそんなに動くのに邪魔にはならないだろし、そこに携行食と一緒に入れておくのが良いかもしれない。多少なら気にもしないだろうが、骨とかやった時はちょうど良い大きさの枝でも見つけてテーピング撒いたりすれば応急処置にはなる。そうなったらデバイス壊されて負けてるかもしれないが、処置は早いに越したことはない」

「救急キットか、あれば便利かもな。……ん? なんか、俺が負ける前提になってねえか?」

「そんなことはない。勝っても怪我することはあるだろ。それに勝ち負けどうこうよりも、こう言うのはワーストケースで考えた方が良いだろ。ただでさえ慣れてない上に日没からのスタートだからな、用心に越したことはない」

「それもそうか」

 

 アクアの言う通り、日没からのスタートと言うのも俺からしたら不安材料だな。仕合も夜間がメインだが、必ず車のヘッドライトなり持ち込みの照明なりで光源は確保されていた。今回のフィールドを考えるに、森林区画にはそれらがない。音や気配でわかるにはわかるが、闇夜に慣れている連中とは比べられる物じゃねえ。何にしても、広範囲とはいえ多数のドローンで仕合様子は放送されるみてえだからな、最後の仕合ってのもあって無様な姿は見せられねえ。

 

 説明会が終われば早々に解散となる。

 

 帰りながらも対策を考えるが、良い案は思いつかなかった。武器の持ち込みは不可って時点で、ライトの類は鈍器にもなるから多分不可。日没からの開始とは言ったものの、スタート地点も現時点では不明。ランダムで配置されてスタートなのか、同じ位置からのスタートなのか。多分言わなかったのは意図的。となると、考えるだけ無駄で、やっぱり闇夜に目を慣れさせる事が優先だな。

 

 会場の外に出れば海に面してる事もあって比較的灯は少ねえが、これだけでも普段とは視野の広さが違う。光が届かない影の部分はほぼ見ねえ。……気は乗らねえが、山籠るか。王馬に、いや、最近はカルラ嬢とよく一緒にいるからあんまり邪魔すんのもよくねえか。龍鬼に色々聞かねえとな。

 

 そのまま寄り道もせずに帰ると、家ではアイとルビーが待っていた。ソファーに二人とも座りながら二人で一つのタブレットを見て何やら笑いながら話してる。アクアがただいまと言って、帰って来たことに気づく。

 

「おかえりー、どうだった?」

 

 二人の視線は、初めから聞くべき相手がわかってんのか俺じゃなくてアクアに向いてる。今日の説明をアクアが噛み砕いて説明してくれた。

 

「へぇー、じゃあ暗い中の仕合なんだ」   

「それじゃあ私達も見えなくない?」

「多分ドローンでも飛ばすんじゃないか。暗視用カメラを付けてるドローンなら森の中でも見えるし、設置型のカメラより確実に仕合を拾える。どうせまた誰が勝つか賭けるんだろうし、多分俺の読みは間違ってないと思う」

 

 結果だけ出されても冷めるしな。アクアの読みは十中八九当たってる。

 

「そしたら後は暗さ対策だけ、なのかな?」

 

 アイが顎に指先を当てながら考えているようだった。

 

「足場の不安定さもあるが、そっちはある程度夜目が効くようになれば何とかなる」

 

 元々仕合になれば五感は研ぎ澄まされる。よほど荒れた足場ならわからないが、それ以外なら何とかなる。戦闘においても先読みとかで気配で捉えることもできるが、見えるに越したことはねえ。

 

「あ、私良い事思いついたかも!」

 

 ソファーの上からルビーが挙手と共に勢いよく立ち上がる。俺を含めて、ルビー以外の三人は呆気に取られていた。

 

「良い事?」

「暗闇対策の特訓! 今からやってみようよ」

 

 月の満ち欠けでも見え方は変わるから実際に森に行って慣れようと思ってたんだが、娘の申し出を断る理由はなかった。

 

 ルビーの言われるがまま、ダンスのレッスンなどで使う部屋に全員で移動する。俺だけタオルで目隠しされ、部屋の灯りも消された。元々窓がない部屋は、廊下の灯りも落とせばそれだけで真っ暗になる。目隠しもすれば視界は完全に封じられた。そのまま待たされると、またドタドタと足音が聞こえて来てアイたちが部屋に入って来る。

 

「目隠ししてなんかやれば良いのか?」

 

 答えが来る前に、ポスッと軽く柔らかい物が床に当たる音がした。スポンジ、か? クッションにしては軽い上にあまり聞き慣れねえ音だ。

 

「今から私達がバット使って叩くから、頑張って避けてね。もちろん反撃はなしで」

 

 スポンジ製のバットか。そう思えば割とイメージは付く。

 

「お前らは見えてんのか?」

「この前のユーチューブでの撮影で使った暗視ゴーグルがあるから大丈夫だよ。ママもアクアも見えるよね?」

「問題ない。結構高いんじゃないか、これ」

「大丈夫ー。これ凄いね、ドラマとかで見てるみたいに見えるよ」

「二階堂さんに貸してって言ったら喜んで貸してくれたんだよね。天狼衆お手製のゴーグルとか言って説明してくれたんだけど、内容は忘れちゃった」

「……それ使って何撮ってたんだよ」

 

 アクアもアイも感心してるようだ。二階堂達が作ったなら正規品より高性能のはずで、さぞはっきり見えるんだろう。

 

 呆れていたところで、俺の左側から誰かが攻めて来た。踏み込んだ時の音からしてアクアだな。アイとルビーの体重じゃ出ない大きさ、上からの振り下ろし、速度と高さもあってアクアで確定か。

 

「危ねえな。合図もなしかよ」

「当日も毎回合図があるならそうするさ」

「そりゃあそうだな」

 

 アクアの言う通り、奇襲なんてのもあって当然。これまで俺がやってきたレフェリーのいる仕合とは違う。

 

 意識を切り替える。

 

 素人三人、余裕と思ってると一発は貰いそうだ。

 

 聴覚、嗅覚、触覚と言った使える感覚をフルで使いなが、三人の気配を捉えようとする。最初に拾えるのはやはり音。服が擦れる音、スポンジバットの音、三人の息遣い。こう言うのは慣れてない最初を乗り切れば何とでもなる。

 

 一回、二回、三回。

 

 三人の攻撃を躱していきながらも情報は集まり、どんどん見えないはずの輪郭が出来上がっていく。それに伴って回避距離も短くなる。三人も工夫をし始めて無駄な音を出したりするが、それもどんどん無駄な情報として削ぎ落とされていった。

 

 見えないのに視える。灯りがあって直接視えるに越したことはないが、暗闇でもできないことはなさそうだ。

 

「こうも当たらないと意地でも当てたくなるな」

「やれるもんならやってみな」

 

 息が少し荒れてるアクアを煽る。

 

「お兄ちゃんがんばー」

「言い出しっぺのお前もやるんだよ」

「えー、だって当たらないんだもん。応援するからさ頑張って?」

「いらねぇ。口じゃなくて手動かせ」

 

 ルビーはすでに飽き気味。アイの反応はねえが、どこだ? 囲われてるなら大体後ろか? 少し距離はある。動かれても気づけるか。

 

 ただアクアとルビーの言い合いが始まり、それが続くとどうしても意識がそっちに向いちまう。このままやるのかやらないのか聞こうとしたところで背後に気づくも、その瞬間には軽い物が頭に触れた。なるほど、やられた。

 

「これで私達の勝ちだね」

「……二人で騒いでたのはブラフか」

 

 目隠しを取る。

 散々暗がりにいたから近くのアイの顔は何となくわかる。ゴーグルがついてるが、したり顔だ。

 

「ふっふっふ、まだまだ修行が足りないねー」

 

 意識の大半をアクアとルビーに割いたのもあるが、俺に当てるつもりがないように偽ってた。殺気ほどじゃねえにしても、相手への意図的な行為も読みやすいから大丈夫だと思ってたんだが、まんまと騙されたな。

 

 三人はハイタッチを交わしてる。この部屋に来る前に事前に打ち合わせしてやがったな。

 

「私達が勝ったからそれぞれ好きな物買ってもらおうかな」

「そんな事聞いてねえぞ」

「言ってないよ。だって言ったらケイはもっとムキになるし、中々こう言うので勝てる機会ないから良いじゃん。だめ?」

「……常識的な範囲でな」

 

 わかりきってた事だが、ここでノーとは言えねえんだよな。

 

 三人がそこそこの値段のものを要求した事で、一時的に俺の懐は少しだけ寂しくなった。

 

 

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