一番星の王子さま   作:160万のワインを飲み損ねた

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感想、誤字訂正ありがとうございます


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 アイの出産から数日、母子ともに健康なことが確認できたため無事退院となった。

 

「センセ、どこ行っちゃったんだろうね」

「だな。まあ大人だしどこかで元気にやってんだろ。もしくは傷心旅行とか」 

「二人に会わせたかったのになあ」

 

 先生とはまだ連絡が取れない。看護師さんたちにも話を伺ったが、これまで無断で休むことはもちろん、連絡が取れなくなることもなかった。一部の人は当日先生らしき人影を見たともいう人もおり、詳細はまだはっきりしてない。散々世話になったのだから直接面と向かってお礼を言いたかった。裏のことが頭をよぎりどうしても不安になるが、アイに伝わらないように努めた。

 

 行きは飛行機だったが、赤子は生後八日後からしか搭乗できないため、帰りは陸路を選択した。長時間かかるため定期的に休憩を挟み、アクアとルビーも非常にお利口で大人しくできていた。

 

 久しぶりの我が家はどこか懐かしさを覚えた。二十四時間換気はされているはずなのだが、こんな匂いだったな、なんて思う。

 

「アクア、ルビー、おかえり。ここが私たちのお家だよ」

 

 社長にお願いして設置してもらっていたベビーベッドにまずは二人を置いて、必要な荷物だけ取りだす。アイにはひと足先にシャワーを浴びて休んでもらう。お風呂の方が良いとは思うのだが、出産から一月程度はお湯漏れのリスクがあるためシャワーが推奨されていた。

 

 赤ちゃんは一日に一五回程度トイレをするため、オムツを定期的に確認して変える必要がある。二人になれば単純に二倍。タイミングも個人差があるから、常に変えているような感覚。

 

 サイクルとしては寝て、オムツ変えて、授乳してを二時間間隔で繰り返す。綺麗に二時間というわけでなく、ぐずりもするから実質的にはもっと短いだろう。

 

 アイが少しでも寝れるように、早いうちから哺乳瓶でのミルクも慣れさせておく。母乳とミルクとどちらが良いか議論は色々あるが、バランスよくあげるのが良いのだろう。

 

 夜になれば沐浴。バスタオルの上にベビーバスを用意して、温度管理が容易なリビングで行う。二人して小さな体を洗うのにてんやわんやで、初めは自分たちもかなり濡れてしまった。

 

 期間が決まっているため、出生届と婚姻届もまとめて提出。ようやくともいうべきか、俺とアイはやっと公的に夫婦となり、役所の人は訝しんでいたが、無事アクアは愛久愛海、ルビーは瑠美衣としてそれぞれ受理されている。

 

 順当に成長していき、二人の首も座り始めたころ、早くも二人の中で差というか違いが出てきた。

 

 まずはルビー、とにかくアイが好きなのかベッタリで、哺乳瓶では一切飲もうとせず、よほどのことがない限りはひたすら母乳を飲んでいる。俺のことは早くも嫌いなのか、抱えると泣き出しアイが抱えると泣き止む。オムツを変える時もそうなのだから、心が折れそうになる。あとは夜中夫婦の時間を過ごしている時もそうだ。良い雰囲気になると見計らったように泣き出しまう。ママが取られると思っているのだろうか。

 

 次いでアクア。アイに抱えられる事は嫌なわけではなく嬉しそうなのだが、こちらは逆に哺乳瓶で飲むことを好んでいる。俺が抱えても、オムツを変えようとしても泣かないため、折れそうな心をすんでのところで繋ぎ止めてくれていた。

 

 子供の成長は早いもので、ハイハイもするようになった。 

 

「なんで俺はこんなにルビーに嫌われてんだろうな」

 

 アクアを抱えながら、答えが返って来ないことをわかっていながらも問いかけてしまう。あう、と何かしら言葉を発してくれる。彼なりに答えてくれているのだろうか。

 

「早くも反抗期か? アイはどう思う?」

 

 反抗期の時期も諸説あるが、女の子だし早いのかもしれない。

 

「さあ? なんででちゅかねールビー?」

 

 アイの問いかけにルビーは動物のように唸って答える。タイミング的にも本当にこちらの言っていることがわかっているのではないか。

 

 ちょうどテレビの音楽番組では、新曲を出したB小町が呼ばれており、時折画面に映っている。

「ふむふむ、なるほどねえ」

 

 隣に座るアイはルビーの唸りに相槌を打っている。

 

「ルビーはなんて?」

「えっとねー、ケイのせいで私がアイドル辞めたからだって」

「ファンだったかー。そりゃあ嫌われんのも納得。ただルビーは知らないだろうけど、俺はアイドルやる前からアイ推しだったんだ。悪いがキャリアが違う」

「どこで張り合ってるの?」

 

 時期的にアイがアイドルをしていたことなんて知る由もないから、もちろん二人の冗談でしかない。俺も大人気なく新規ファンに古参ファンアピールをした。

 

 テレビの中でB小町の順番が回ってきた。六人で新曲を披露する。事前のMCとのやり取りで恋愛系の歌と言っていたが、どこかアイのことを歌っているようにも思えた。

 

「皆頑張ってるなあ」

 

 センターをアイに変わって務めているのはニノこと新野さんだった。初期から一緒にやってきたメンバーで、それこそ初期はアイに嫉妬や嫌がらせをしていたであろう人。直接のやりとからはわからないが、アイから聞く分には今は関係は良好なようだ。

 

「私もがんばろーっと」

 

 諸々の回復期間ということもあってアイの仕事復帰はまだ先だ。体型を戻すために一緒にトレーニングをしたり、アイ本人の努力もあってほぼ元戻っているはずなのだが、本人はまだ気になるところがあるらしい。妊娠中にあった浮腫もここまで来れば完全に取れており、アイの左手薬指にはシンプルなデザインの指輪がはめられていた。

 

「ほどほどにな。ゆっくり復帰していけば良いさ」

 

 幸いなことに、仕合数はたくさんあるためその分報酬も稼げる。億はさすがにいかないが、慎ましく暮らせばしばらくはお金には困らない程度には溜まっていた。

 

「ありがと。ケイもほどほどにね、無茶しちゃダメだよ」

「もちろん。そのためにも育児大変な中時間貰ってるしな」

 

 何もしないで勝ち抜けるほど拳願仕合は甘いところではない。鍛錬を怠ればたちまち追い抜かれ、致命傷を負うことになる。そうしないためにも日々の研鑽は必須だし、仕合に出ることによって家計を支えることもできる。俺から武術を取ったら、これ以上稼げる手段はない。

 

「ううん。世の中ママだけで頑張ってるところもあるんだし、一緒に色々やってくれるからだいぶ助かってるよ」

 

 世の家族はどのようにして育児をしているのだろうか。まとまった睡眠が取れないのは人によってはかなり辛いものがある。これをワンオペする母もいるのだから、母は強しという言葉にも納得だ。

 

「ルビーの世話ももう少しできたら、もっと楽させてやれるんだけどな」

「そうなってくれると私もありがたいけどね。ルビー、どう? パパがルビーが懐いてくれないって泣いてるから相手してくれる?」

「泣いてねえよ」

 

 唸りながら、悩んでいるような顔をしているように見える。

 

 家族でワイワイ話している間に、お風呂が沸いた通知がリビングに届く。一人暮らしの時にはなかった機能で、自動で設定した湯量を張ってくれるのだから実に便利だ。

 

「そだ、皆で一緒にお風呂入ろっか。水入らずで仲良くなれるかも」

 

 お風呂なのに水入らずなんて変なのーなんて言うアイを他所に、アクアは顔を一気に赤らめルビーは首を激しく横に振る。二人の表情は本当にコロコロ変わるので、見ていて面白い。

 

「最近は一緒に入れてなかったしな。アクアとルビーの分先に用意してくるよ」

 

 アクアをアイに渡すと、アイが二人を抱える形となる。出産当時も同じように抱いていたが、随分と二人は大きくなったものだ。

 

 二人のバスタオルと着替えを用意すると、一足先にささっと自分の体を洗ってしまう。濡れてワカメのようになった髪は邪魔だからかきあげてオールバックにする。まだ赤子の二人は入っていてもせいぜいが十分程度で、入った後体を拭く担当も必要だ。

 

 タイミングを見計らって、嫌がるアクアとルビーをアイが連れてくる。二人の服を脱がせてシャワーで軽く流し、その後に髪の毛をお団子にしたアイが入ってくる。小柄ながらに艶かしい体はいつ見ても魅力的で、二人がいるからとなんとか自制心を保たせる。

 

 四人で風呂に入れば、元々四人用に湯量を調整していなかったせいで浴槽から滝のようにお湯が流れ落ちた。

 

「見て見て二人とも、お風呂がじゃばーってなってるよ!」

 

 楽しむアイを他所に、二人は相変わらず面白い反応を見せてくれる。アクアは見ることに罪悪感でも覚得ているかのようにアイの方をこれでもかと見ない。体を向かせれば目を瞑り、こっちを向かせれば目が開く。

 

「アクアは恥ずかしいのか? ませてんなあ。そりゃあアイは世界一可愛いけど、アクアの母さんだぞ。そんなに照れんなって」

 

 濡れた手でアクアの金髪を撫でる。アクアだけでなく、ルビーも綺麗な色で良かった。顔立ちもアイに似て目がぱっちりしているから将来は美形になるだろう。

 

「ルビー聞いて、私世界一可愛いって言われちゃった! ルビーもそう思うー?」

 

 首がまだ座っていないんじゃないかと疑ってしまうほどの激しい首肯。あるはずもないが、ファンだと思えば俺への当たりの強さも理解できる。ファンなのは大いに結構。ただ、父としてはこちらにも懐いてほしいのが本音。まだまだ時間はかかりそうではあるが、少しこちらを見る頻度が増えた気もする。

 

「ケイの体が珍しいんじゃない? 私と違ってゴツゴツしてるし」

 

 そう言われるとルビーは初めて見るかもしれない。

 

「筋肉はまあそこそこにあるけど、そんなに褒められるほど付いてるか?」

 

 骨格を考えれば、割と理想的なつき方はしていると思う。骨格に合わない量の筋肉を搭載することは重りをつけているようなものだ。重くなるから当然馬力も上がるが、それ以外のパフォーマンスを下げかねない。個人的にはもう、少し増やした方が完璧に近づける気はしている。

 

 もっとも、肉体改造だけに専念するのもよろしくはない。最後に勝敗を分けるのは武を極めた方だと考えている。俺は筋密度が常人の何倍もある超人体質でもなければ、最高の肉体を持ってるわけでもない。身長だって一般的に見れば高い方だが、闘技者の中で見れば平均以下だろう。それでいて勝ち続けることができているのは、武のおかげで間違いない。

 

 要は二足のわらじともいうべきか、どちらも磨き上げることが重要だ。

 

「別に今は褒めてないんだけどなー」

「でも好きだろ?」

「それは……そうだけど。別にそこだけじゃ……も〜今はルビーの話でしょ!」

 

 アイといちゃついていると、ルビーの機嫌が悪くなる。それでもアイに抱かれているからすぐに機嫌が戻っては、思い出したようにこちらを可愛い目で睨む。

 

「そうだったな。これじゃあ好かれるのはまだ先だな」

 

 今度はルビーの頭を撫でる。

 

「アイが大好きなルビーにはあとで賄賂でもやるか」

「賄賂?」

 

 アイが何を想像しているかはわからないが、ファンからしたら垂涎物のはずだ。

 

「アイがB小町として活動したての時のグッズとかライブのDVD。風呂上がったらみんなで見ようぜ」

 

 その日の夜、DVDを見た時のルビーの喜びようは想像以上で、我が子ながらちょっと引いてしまった。

 

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