一番星の王子さま   作:160万のワインを飲み損ねた

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感想、誤字訂正ありがとうございます。


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 ルビーとアクアは平均的な子供よりも早く話始め、一人で立派に歩けるようにまで成長した頃には本当によく話すようになった。

 

 ルビーは部屋の中を動き回ることが多く、外に連れ出しては公園で遊ぶことが多い。帰った後はアイにひたすら甘えて幸せそうな顔をしている。髪型もまだ伸びきっていないが、アイとお揃いと言ってその日その日で髪型を変えて楽しんでもいた。

 

 アクアの方も一緒に遊ぶこともあるが、本を読んだりする方が好きなようでルビーほど駆け回ることはない。本も絵本や図鑑ではなく小説のような活字が好きなようで、難しい漢字もネットで調べたと言って普通に読んでいる。双子とはいえ男女だからか、こうも違いが出てくるのは面白い。

 

 アイは初めのCMを皮切りに徐々に仕事が増えている。別のCM、ファッションモデル、バラエティ番組など、その幅は広い。アイに限らずであるが、苺プロ所属のタレントは拳願会の企業が割と起用してくれている。とはいえ給与が格段に良くなるかと言われるとそうでもなく、社長曰く今は出演単価を下げて量を増やす段階らしい。この辺りのバランスは俺にはわからないが、所謂売れっ子になれば俺の稼ぎなど容易に追い越していくのだろう。

 

 そしてついにアイが初めてドラマに出演することとなり、本日がその放送日となった。主演ではなく脇役ではあるが、皆楽しみにしていた。

 

 始まる何分も前からテレビの前に集まり待つ。ルビーとアクアに関してはソファではなくカーペットの上に座り込みこれでもかというほど近づいていた。

 

 テレビ台にはこの前撮影した写真がフレームに入れられ飾られている。散々泣いたあとだから目を腫らしながらも笑うルビーと、同じ衣装を着せられて不服そうなアクアをそれぞれ抱えるアイと俺が写った写真。定期的に写真を撮って、アルバムを作っていくのも楽しいだろう。二人が大きくなった時に見返して、こんな事あったな、なんて笑い合う。それは素敵な事だ。

 

 ドラマが始まり、アイが映るとアクアとルビーはテレビを食いつくように見入る。ヒロインの友人の一人でクラスでの会話シーン。だいたい五分程度だろうか。高校が舞台だから、アイも制服を着る。本人は着られなかった制服を着て喜んではいた。俺もアイも最終学歴は中卒だから、高校生活というものに憧れはあった。

 

 シーンが変わり、その後も物語は進んでいく。結局アイが映ったのはごく一部だけで、その後登場する事はなかった。

 

「なんかアイの出番少なくね?」

 

 撮影には当然ながらアイとマネージャーをしてくれているミヤコさん。一緒に行きたい行きたいと駄々を捏ねまくったアイ大好きっ子二人に、ミヤコさんから、子供の面倒は見れないからお前が見ろと言われて俺が同行。まさかの大所帯であった。現場には苺プロの子役なので現場に慣れさせるために、とミヤコさんが最もらしい理由づけをしてくれていた。

 

「私そんなに下手だったかなあ」

「そんな事ないよ!」

「父さん携帯貸して!」

 

 演技のことはまるでわからないけれど、下手かどうかはわかりやすいとは思う。いかにも作り物っぽい動作や棒読みなんかが良い例だとは思うが、贔屓目が入っているにしてもアイの演技は良かったと思う。

 

 アクアは人の携帯、最近ようやくスマホに変えたためスマホになるが、それを使って監督に電話をかけ始めた。タブレットは家にあるから使い勝手はわかるのだろう。

 

 数コールしたのちに、電話が繋がる。アクアのやつスピーカーにしてんな。

 

『あー、どうも。何かご用で?』

「監督! アイ全然使ってないじゃん! どうなってんの?」

『お、なんだ早熟ベイビーの方か』

 

 現場に行った際に流暢に、それでいて大人顔負けの敬語で喋るアクアを気に入ってくれたようで名刺を貰っていた。アクア本人にはまだ携帯は持たせていないから、代わりに俺のを使う。というか、ルビーはスマホとしか言わないのに、アクアは携帯と言うのか。俺やアイが使ってる言葉から学んだのだろうか。

 

 監督の後ろからは注文を取る声が聞こえる。ビールだなんだ聞こえるから、居酒屋、というやつだろうか。

 

「この思い立ったら即行動する感じはケイみたいだね」

「パパも何か前やったの?」

 

 スピーカーに拾われないように小声で話す。アイも似たようなものだと言いたかったが、間髪入れずにルビーが聞いてきたので期を逃す。

 

「色々やってたよ。ねー?」

「……ノーコメントで」

 

 心当たりがあり過ぎるが、自分の若気の至りを子供に話すつもりはない。器のでかい大人が周りにいてくれたおかげで助かったところは大きい。

 

 アクアと監督は二人で会話を続けている。

 

『俺個人の感想としては、アイの演技は悪くなかった。現場でも話したように、目を惹くのも間違いない。だがこの世界も、結局はビジネスだからな。下っ端が何言おうと、上がこうと決めたら従うのが現場だ』

 

 主演の子は可愛過ぎる演技派女優として売り出し真っ最中の女優。確かに演技はアイよりうまかったが、どちらが可愛いかを尋ねたらアイと答える人の方が多いに違いない。仕合でもそうだが、商人側に全ての決定権がある以上、今後もこういったことはあるだろう。そもそもの話だが、子持ちの人妻捕まえて学生の役やらせること自体何考えてんだと思ってしまうが。

 

「ぜんぜん納得できない」

『俺だって悪いと思ってるよ。まあ、そうだな、埋め合わせと言っちゃなんだが今度撮る映画にお前も出ろ』

 

 苺プロ所属って言ってたろ、と監督の言。

 

 子供からのクレームに律儀に相手もしてくれるのだから、随分とアクアを気に入ってくれたものだ。

 

「はあ? 意味わかんないんだけど。俺じゃなくてアイにーーー」

『その代わりアイも映画に出演させてやる。どうだ、文句ねえだろ?』

「うっ、文句は……ないけど」

『詳しい話は明日連絡するから楽しみにしとけ』

 

 俺はこれから飯だから切るぞ、と言って監督は電話を終えた。

 

「すげえな、仕事取ったのか」

 

 気づいたら二歳にも満たない子供が大人と話して仕事取っていた。天才か。

 

「アクアはたまに子供っぽくない時があるよねえ。妙に大人びてるっていうか」

 

 アクアに限らずではあるが、ルビーも含めてうちの子たちはとにかく育ちが早い。監督の言う早熟とい言葉も、言い得て妙だ。

 

「直談判なんてよく思いついたよな」

 

 監督の番号自体は登録してあったが、そもそも電話自体よくかけられたものだ。

 

「えっ、あ、いやこれは……この前見た映画であったから真似してみただけで」

 

 突然しどろもどろになるアクア。こう言ったところは、まあ子供らしいと言えばらしい。

 

「子供は色々覚えんの早えな。まあせっかくデビューが決まったんだ、頑張れよ」

「アクアも映画デビューかあ、親子初共演作品だね! ルビーともいつかできるかな」

 

 いつかはしてみたい、なんて話もしていたが、こうも早く叶うとは。

 

「私もママと一緒の出たいー!」

 

 ルビーはアイドルになりたいとは言っているけれど、それはそれ、これはこれ、と言った感じか。演じる事そのものよりも、母親と一緒の事をやりたいという思いが強く感じられた。

 

 アクアが仕事を取ってる快挙を成し遂げた後、社長にも話をしてアクアとルビーが正式に子役タレントとして登録された。近いうちにルビーも何らかの形でデビューする日が来るのだろうか。

 

 撮影当日。

 

 アイも出ると言っても役によって撮影日は異なるため、今日はアクアの出番のみ。アクアの出演と引き換えにアイを出す、どうやらこちらの業界ではバーターと言うようで、基礎的なことのようだ。

 

 ルビーはママが行かないなら行かない、と言って自宅でアイを独り占めにしている。好きなのは伝わるのだが、たまにオタクみたいな事を言い出すので、彼女の将来が不安になる時もある。

 

 今回の映画はホラー映画、になるのだろうか。あらすじを聞いてもどんな映画になるのか想像もつかない。

 

 アクアは監督となにやら話している。

 

「はあ……、貴方はまた仕事増やして」

「それはすいませんって謝ったじゃないですか」

 

 マネージャー業に関しては結局ミヤコさんが担当してくれることとなった。保護者がやる事もあるが、俺ではいろはも分からず、要らぬトラブルを生むからとの社長判断だ。余計な仕事を増やしてしまったミヤコさんには申し訳ないが、我ながらまあ妥当な判断だと思う。おそらく何らかの形でルビーがデビューした際にもミヤコさんにはお世話になるのだろう。

 

「まあ良いわ、壱護にその分給料上げてもらうし、貴方には稼がせて貰ってるし」

「今より高い額賭けてくれたらもっと稼げますよ」

「そこまで博打する気はないわよ」

「そりゃあ残念。社長は割と賭けてくれてますよ」

「なにそれ、聞いてないんだけど」 

 

 やばいな、余計なこと言った。内心で社長に謝罪を入れておく。

 

「何の話してるの?」

 

 監督と話終わったアクアが帰ってきた。視線を合わせるために膝を曲げる。

 

「社長がミヤコさんに多分怒られる話、気にすんな」

 

 いくら賢くてもお金の話は早いし、仕合のことも話す必要があるため、できるだけ触れたくはない。いつかは話さなければとは思うのだが、流石に二歳にも満たない子供に見せても理解できないだろう。

 

「ふーん、じゃあ良いや」

「アクアの方はどうだ? 緊張してるか?」

「なんのスキルもないんだから全然」

「そりゃあ良いことだな。記念すべきデビュー作だ、せいぜい楽しんでこいよ」

 

 アクアと話していると遠くで小さい子のハキハキとした声が聞こえてくる。目線を向ければ赤い髪をした小さな子がADさん達と話したり、荷物を持たせてたりした。

 

「へえ、アクアの他にもちっこいのいるんだな」

 

 背丈から見たもせいぜいアクアとルビーの一個上かそこらだろう。

 

「今天才子役で話題の有馬かな、知らないの?」

「どこかで聞いたことはあるような」

 

 テレビをそこまで見ない上に流行り廃りにも疎いため、そう言われても分からないものは分からない。アクアに目線を移すと、意図を察したアクアが首を横に振る。

 

 そのかな嬢がこちらに気づくと、真っ直ぐ向かってくる。

 

「あなた、コネの子でしょ!」

 

 開口一番、アクアに対して口撃をしてきた。

 

「ママも絶対ゴリ押しだって言ってた! アナタともう一人だって、本読みの段階じゃいなかったんだから!」

 

 誰も反応してないのにひたすら続く。他人が特別扱いされるのは気に入らないような物言いだ。小さいながらにプライドがあるのだろう。

 

「監督のドラマ見たけど出てたのだってほんの少しじゃん。媚び売るよりも練習した方が良いんじゃないの? 私の邪魔しないでよね」

「は?」

 

 アクアの額に青筋の浮かぶ。何か言い出しそうになったので、首根っこを掴んでそれを抑えた。

 

「な、なによ? じ、事実でしょ……」

 

 アクアに対してだけじゃなく、大人にも啖呵切れるのは良い性格をしている。個人的には好ましい性格ではあるが、この業界ではどうだろうか。人との付き合いがメインになるのだから、ある程度は協調性は必要のはずだ。

 

 持っている台本も、閉じている状態でも折り目等が付いているのがわかる。アイやアクアの役が追加されたこともわかっているし、ちゃんと何度も読んでいるのだろうから努力していることもわかる。

 

「嬢ちゃんの言う通りだよ。アイもアクアもまだペーペーだからな、良かったら先輩として教えてやってくれ」

「せんぱい……。ま、まあ、気が向いたらね」

 

 かな嬢は言いたいことを言って満足したのか、身の丈に合わない大股な足取りで去っていく。高い椅子に頑張って座ると台本を読み始めた。足が完全に地面から離れてしまっている。

 

「ちょっと、なんで止めたの!?」

「問題ごと起こして、せっかく役くれた監督の面子潰すの良くねえだろ?」

「ア……母さんがあんな風に言われて悔しくないの!?」

「んなもん言わせとけよ。コネやゴリ押しってのも、強ち間違ってないしな」

 

 アクアはまだ納得しているようには見えなかった。

 

「そもそもお前の母さんがあのちびっ子に負けると思うか?」

「思わない」

「だろ? こういうのは言わせるだけ言わせといて、後でひっくり返すのが面白いんだよ。それでもモヤモヤがまだ残ってるってんなら、もっと良い方法があるぞ」

「良い方法?」

 

 首を傾げるアクアに、俺は拳を作って顎を打つ真似をする。

 

「相手の土俵に敢えて乗って倒すんだ。それが一番スカッとする」

 

 寝技なら寝技で、打撃なら打撃で。相性もなにもない。相手の得意分野で倒すと言うのは、ある種の絶対的な格付けを完了させる行為。

 

「アクアはまだ演技始めたばかりだからまだ難しいだろうけど、それがああ言う手合いには一番効くんだ」

 

 演技について詳しくなんて分からないが、なんであれ才能と正しい努力と言う組み合わせは最上の結果を生み出す。たとえカットされて放送されなくとも、直に見ているのであればそれはわかるはずだ。

 

「色々と難しいこと言ったが、アクアは俺と違って賢いからな、自分なりにどうすれば良いか考えてやってみな」

「……わかった。やってみる」

 

 仮に上手くいかなかったとしても、考えた上で実行してみると言うのは、結果に関係なく良い経験になるだろう。

 

「意外とちゃんと親やってるのね」

「意外は余計ですよ」

 

 ミヤコさんからの率直な感想に、俺も素直に返答する。手探りではあるが、やれることはやっているつもりだ。

 

 アクアの出番がくる。

 

 アクアの役は、村の入り口付近で主人公と出会う気味の悪い子供達。もともと一人だったところにアクアが捩じ込まれた形。

 

 まずはかな嬢からの演技。子役だと高を括っていたが、素人目に見ても異質な雰囲気は出ている。天才、と呼ばれることが頷けた。

 

 次いでアクア。今回が初出演なのだから、はっきりいって技術は天と地ほども差がある。監督としてはそれを分かっていての採用なのだから、期待しているのは技術的なことではないということか。

 

 いつも通りのアクア。演技というよりも自然体といっても差し支えない。それでも、監督はオッケーを出す。監督の顔は満足そうで、撮りたかった物を撮れた、と言ったように見える。

 

「撮り直して!!」

 

 意識を割いたのは、縋るような、けれど大きな声だった。

 

 次はもっと上手くやるから、もう一度だけ。

 

 あれは幼いながらに持っているプロ意識から来る対抗心、というだけではないだろう。今呼ばれている天才子役という役割を真っ当しなければならないという使命感や義務感に近い。

 

 アクアがかな嬢と監督のやりとりを気にしながらも戻ってくる。

 

「なんか、悪い事したかな」

「気にすんなよ。アクアは自分のやることやっただけだ。もし撮り直しがあるなら、変に手を抜かずにやってやんな」

 

 負けた相手に手心を加えられるのは傷口に塩を塗るようなものだ。監督が何を意図していたのかは聞く他ないが、少なくともアクアにできるのは、リテイクがあっても変に気を遣わない事だろう。

 

「……わかった」

 

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