一番星の王子さま   作:160万のワインを飲み損ねた

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感想、誤字訂正ありがとうございます。


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 アイとアクアが共演した初作品を皮切りに、アイは女優としても大きく活躍するようになった。あの映画がきっかけで演技力も評価されたのだろう。ドラマにも抜擢され、メイン級の役が充てられていた。まだ撮影が始まっていないものでも、すでにいくつかスケジュールは抑えられている。

 

 アクアも子役として少しずつではあるが作品に出るようになっており、いつかまた有馬かなとの共演もあるかもしれない。役者一本で行くのかはわからないが、当面は彼の熱も続きそうだ。

 

 ルビーに関しては、役者よりも先にモデルとしての仕事が舞い込んできた。大手アパレルメーカーであるユナイテッドクロージングが出している幼児向けの広告塔として抜擢され、初撮影ではカチカチに緊張している姿は見ていて可愛らしかった。今では店舗の幼児服コーナーに行けば色々な服を着たルビーを見ることができる。髪も伸ばしていてますますアイに似てきており、その時の姿は知らないが小っちゃいアイのようだ。

 

 十二月。アイもいよいよ二十歳を迎える。来春からはアクアとルビーも幼稚園が始まる。園自体は昨年度あたりから探し始めており、実際に足を運んでみたりもして立地や雰囲気など、一番良いと思ったところに決めた。

 

「ねえ、卵ってこれで良いの」

 

 背の関係から踏み台の上に立ち、ルビーは拙い手つきで卵を割っては白身と黄身を分けていた。少し殻が入っているがそれもご愛嬌。気づかれないようにそっと取り除く。

 

「上手にできてるよ。そしたらこっちに黄身を入れて、手でぐちゃぐちゃに混ぜてみな」

 

 ルビーが挑戦しているのはハンバーグ作り。包丁や火を扱うのはまだ危険なためその辺りは俺がやるが、できるところはルビーに任せている。

 

 飴色にして一度冷やされた玉ねぎとひき肉の上に黄味が落とされる。小さな手がそれを押し潰した。

 

「うえっ、なんか気持ちわるっ」

 

 圧力によって指の間から溢れてくる肉や、少し冷えた玉ねぎ、黄味が潰れてどろっと広がる感覚など、初めてやる子供にとっては良い感触ではないかもしれない。

 

 発端はアイの誕生日が近づいてきた頃、珍しくアイについて行かなかったルビーが、自分たちもサプライズで何かしたい、と言ったことだった。アクアとも三人で話し合い、簡単な飾り付けと手料理を振る舞うことで決定。初心者でも作りやすく、ちゃんと作った感じもでるハンバーグになった。

 

 そして今日がアイの誕生日。幸か不幸か仕事が入っており、朝から出かけている。

 

「アクアの方は順調か?」

「こっちも大丈夫。ハサミ使わせてくれたらもっと早くできるよ」

「刃物は危ねえからまた今度な。指切ったって知ったらアイが泣くぞ」

 

 アクアは飾り付け担当。すでにハサミで切られた折り紙で輪っかを作りつなげていく。ある程度はすでに切ってあるが、在庫がなくなればまた切り直さなければならない。アクアは自分でできると言っていたし、しっかりしているから大丈夫だとは思うのだが、念の為だ。アクアもアイが悲しむと言えばそれ以上は言ってくることもなく、淡々と任された作業をこなしている。

 

「この後はハンバーグの形にこねれば良いんだよね?」

「そうだな。その時に一緒に叩きつけて空気抜いておくと良いんだけど、それもやってみるか?」

 

 空気があると加熱時に膨張してそこから爆ぜるので、できるだけ空気は抜く方が好ましい。

 

 やってみると言ったルビーは、小さい手でお肉を小さい小判形に成形し、置いていあるまな板の上に叩きつけた。手から離れずそのまま小判が潰れる。小さくて軽い分、自重で落ちなかったのだろう。微笑ましい光景に思わず笑ってしまう。

 

「ちょっと、笑わないでよ! 初めてなんだからしょーがないじゃん」

「悪い悪い。そうだよな、初めてだもんな。ほら、時間はまだあるから納得するまでやってみろよ」

 

 焼くのはアイが帰ってきてから。今日は社長とミヤコさんもくる予定だから少し量としては多いが、余裕は存分にある。

 

 ルビーは何度か挑戦していくと、ようやくコツを掴んだのか綺麗な形ができてくる。本人も納得の出来なのか、嬉しそうな顔でこちらをみてきた。

 

「上手いな。俺より全然才能あるよ」

 

 初めから完璧にできてしまったら面白くないだろうし、全部道順に沿って進んで順調に行ったとしてもそれはそれで面白くないはずだ。色々自分の中で創意工夫をして成功するというのは、どんなことでも糧となる。

 

 作るのはルビーに任せて、アクアの方に向かう。黙々と作業をしており、ほとんど事前に用意していた分は終わっている。

 

「あと追加で5枚くらい切ってくれない」

「5枚だけで良いのか?」

「うん。目算したから足りるはず」

 

 まだ足し算さえ習っていないのに、アクアは何を持って計算したんだろうか。試しに言われた通りの枚数をカットしてみる。慣れた手つきで均等な長さの飾り付けがいくつも完成した。壁にそれを貼り付けてみれば、程よい長さだとわかる。失礼な話だが、俺もアイも賢くはないため、どこからこの賢さがきたのだろうかと思ってしまう。突然変異ってやつだろうか。

 

 準備が終われば、後は待つだけ。子供達の体力では夜まで持たないので一旦寝かしつけ、俺は別の部屋へと移動する。演技の練習等をするためと壁一面に鏡がつけられた部屋で、ここは俺にとっても良い修行部屋でもあった。大きな音は立てられないし、サンドバッグさえないものの、鏡によって自分の型を確認することができる。修行時間は以前よりもどうしても減ってしまったため、より濃密な修行が必要だ。

 

 スイッチを切り替える。

 

 正中線を確認する。問題ないことがわかれば、一つ一つの型を重心の位置や足の角度、拳の位置、背中の曲げ度合いなど、細かいところまでを確認していく。頭で理想は入っていても、出力する際に寸分違わず、というのは思いの外難しいものだ。それを訂正し、体に染み込ませていくことでようやく極めた、と言えるだろう。

 

 シャワーを浴びて汗を流した後、指定した時間にケーキが届けられる。それで目が覚めたのか、タイミングよく二人も起きてきた。スマホにはアイから連絡が入っており、もう少しで帰るとのことだ。

 

「ただいまー」

 

 ルビーに言わせればママ成分が圧倒的に不足しているため、帰宅とともにルビーはミサイルのように玄関まで行ってはアイに飛びつきにいく。

 

 社長とミヤコさんもアイに続いてお邪魔します、と入ってきた。

 

「おおーすごいね!」

「二人がアイの誕生日に驚かせたいって言ってな。この飾り付けもアクアがやってくれたんだ」

 

 自分でアクアは言わないので、代わりに成果を伝える。

 

「ハンバーグは私が作ったんだよ!」

「二人ともありがとー! 作るの大変だったでしょ」

 

 アイが子供達とワイワイやっている間に、俺は料理を始める。だいたい準備は終わっているため、火を通したり温め直す程度だが。

 

「おう、祝い酒持ってきてやったぞ」

 

 アイと一緒に社長とミヤコさんも入ってきていた。社長の手には森伊蔵と書かれた芋焼酎が握られている。初めて酒を飲みに連れて行ってくれた際もバーだったため、蒸留酒が好きなのかもしれない。

 

「ありがとうございます。冷やしておいた方が良いですか?」

「そのままで大丈夫だ。それにしてもお前、似合わねえな」

 

 すでに酒が入っているのかと思うほど社長は上機嫌だ。何か良いことでもあったのだろうか。

 

「んなもん自分が一番わかってますよ」

「全然料理しない人より遥かに良いと思いますけど」

 

 ミヤコさんの言葉のナイフが社長を後ろから突き刺した。

 社長の様子がおかしいことをミヤコさんに聞いてみると、気にしないで、と返ってくる。

 

「手伝いましょうか?」

「大丈夫ですよ。そんな時間かからないんで、ミヤコさんも社長も座って待っててください」

 

 料理を作り終えれば、それをダイニングテーブルへと運ぶ。広めのテーブルではあるが、六人分となると少し手狭に感じる。スペース的にもケーキを出すのは食事後になりそうだ。

 

 六人でいただきます、と言って食べ始める。

 

「美味しい! ルビーは料理が上手なんだね」

 

 アイに褒められ、ルビーはご満悦だ。浮いている足が前後にフラフラしており、その振り幅が彼女の機嫌のバロメータになっている。その様子を見る社長とミヤコさんも嬉しそうだ。

 

 食事を進めていくと、大人たちは酒を楽しみ始める。

 

 食事が終われば、いよいよケーキの出番。

 

 片付けられる食器を片付けてから、ケーキを運ぶ。ルビーとアクアの時は数字を模した蝋燭だったが、今回は大きめの蝋燭が二本だけ。火を灯して、部屋の明かりを消してから子供達がバースデーソングをプレゼントする。

 

「誕生日おめでとう!」

 

 蝋燭の火をアイがふっと息を吐いて消した後、全員で拍手をしながら祝う。嬉しそうに笑うアイの笑顔はここ最近中でも一番のものだった。

 

 大きかったケーキも六等分すれば大人からすれば小さくなる。あっという間に平らげてしまう。子供達にはまだ量が多かったようで、残した分は明日に取っておくために冷蔵庫へと戻した。

 

 食器類を片付けている間にも、社長とミヤコさんは酒が入っていく。

 

 アイはアクアとルビーを抱えてソファでくつろいでいた。

 

 片付け終わると、社長が俺にグラスを差し出してくる。

 

「良い酒なんだからこの前みたいに一気飲みなんてするなよ。味わって飲め」

 

 最初にバーに連れていってもらった際、ウイスキーを飲ませてもらった。せっかくだからストレートで飲んでみろと言われたので、グラスにちょこっとだけ注がれたそれを一気に飲み干す。以前師匠と飲んだものよりもだいぶアルコール感が強く、喉がかっと熱くなった。後で知ったことだが、ストレートやロックなどはちびちび飲むのが正しい飲み方のようだ。あの一杯、おそらく三〇ミリ程度で数千円というのだから、お酒の世界はすごい。

 

「美味いですね、これ」

 

 以前飲んだ芋焼酎と比べても独特の臭みがなく非常に飲みやすい。

 

「お酒かー、私も二十歳になったし飲んでみようかな」

 

 アイも興味が出てきたのか、そんなことをポツリと呟いた。

 

「二十歳の祝い酒だ! お前も飲め飲め」

 

 マジでもう酔っ払ってんじゃないだろうか。以前も先に潰れたのは社長の方だったことを思い出した。他に飲み比べた人はいないが、社長はあまり強くない部類なのかもしれない。現にミヤコさんも飲んでいるが、そこまで酔っているようには見えなかった。

 

 ミヤコさんから氷入りのグラスを用意してと言われたので、それを持ってくると随分と慣れた手つきで注いでくれる。水も入れてかき混ぜて、それをアイに手渡した。適度に水を飲みながら、とか、絶対に自分のペースで、と懇切丁寧に飲み方を教えている。

 

「あ、美味しいかも」

 

 一口飲んでの感想。それを聞いて社長はさらに機嫌が良くなり、じゃんじゃん飲めと後ろから煽る。

 

「社長マジでう……機嫌良いですけど、どうしたんですか?」

 

 本音が出そうになるのを堪えて、改めて聞いてみる。

 

「よくぞ聞いてくれた! アイがB小町を抜けてから四年経ったが、ついにだ。ついに二年後のドームが決まったんだ!」

 

 上機嫌だったのも合点がいった。アイが抜けた後もその穴を埋めるように頑張っていたのは知っていたが、それがようやく実ったと言ったところか。

 

「おー! でも、私まだ誰からも聞いてないよ?」

 

 拍手をしながらアイがチラリとこちらを見たので、肩をすくめる。ここ最近の仕合でもドームの開催権を賭けたものはなかった。

 

「今日が最終選考でまだあいつらにも言ってないからな。前みたいに年末ドームとはいかなかったが、夏の枠をようやく取れたんだ。これでもう、アイ頼りのアイドルグループなんて言わせねえ。お前らがいなくてもあいつらはやれるんだって証明できた!」

 

「お前らって、父さんは別に関係なくない?」

 

「何言ってんだ。こいつはしょっちゅう仕合でーーーあ」

 

 誰が止めるよりも先に、社長がとんでもないことを漏らした。アクアも聞き逃さず、改めて問う。

 

「仕合ってなに?」

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