一番星の王子さま   作:160万のワインを飲み損ねた

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感想、誤字修正ありがとうございます。


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 自然と目が覚める。アラームで起こされた時とは違って、二度寝をしたくなる感じはない。スマホで時間を見ると、朝の七時。子供達の朝の支度を考えるとあと三十分は寝られる。

 

 幼稚園に入るまでは一緒に寝ていたアクアとルビーも、今では隣の部屋で寝るようになった。一緒に寝てる時も天使のような寝顔が見れて良かったけど、これも成長の一つと思えば寂しさはない。キングサイズのベッドもさすがに四人で寝るには少し手狭になってきてたから、タイミングとしては良かったのかも。もう少し二人が大きくなったら、男の子と女の子だし部屋を分けた方が良いのかもしれない。少し広めの部屋だけど、そうなってくると引越しも考えた方が良いのかもしれない。

 

 隣で寝てるはずのケイの姿はない。寝る時は大抵一緒にベッドに入る。私が安心するからと手を繋いでもらっているけれど、ケイ曰く、しばらくすると寝返りをうって勝手に離してしまうそうだ。じゃあと腕に抱きついて寝たこともあったけど、結果は変わらなかった。どうやら、私の寝相はそんなに良くないらしい。

 

 ケイは別に私の寝相の悪さでベッドから蹴落とされた、というわけじゃない。そもそもそんな力ないしね。朝早く起きてトレーニングするのは彼の日課で、私やアクアとルビーを起こさないように静かに家を出ていく。時々は朝まで一緒の時もあるけど、今日はその日じゃなかった。

 

 耳を澄ますとリビングで音はするから、もう帰ってきてるようだ。

 

 伸びをしてからベッドを降りてカーテンを開ける。すでに明るい空は、ほぼ覚醒していた私の意識を完全に覚醒させた。うん、今日も良い天気。

 

「おはよ〜」

 

 リビングに行けば、食欲をそそる良い匂いがしてくる。

 

「おはよう。今日は早いな」

「目が覚めちゃってね。お味噌汁ってことは今日は和食?」

「ど定番だけどな。あと少し経ったら鮭焼くつもり」

「定番で良いじゃん」

 

 昔はトラウマから苦手だった白米も、ここでならガラスとかは絶対に入らないから安心して食べる。それはそれとして、パンの方が手軽に食べられるしジャムとかで色々な味が楽しめるから、本音を言っちゃうとパン派ではあるんだけどね。アクアとルビーにはちゃんとバランスよく食べて欲しいから、我が家では色々な食事が出すようにしている。

 

 ケイは卵を割って、砂糖を入れてかき混ぜる。卵焼きかな。昔からそうだけど、この料理をしている姿がなんだか見ていて面白い。

 

 まだ火も使ってないから、なんとなく後ろからくっついてみた。

 

「どうした?」

「んー、なんとなく?」

 

 そっか、と言って特に離そうとはしなかった。動いてシャワーも浴びたあとだから、温かいし良い匂いもする。こうしていると落ち着くんだけど、どう鍛えたらここまでゴツゴツした体になるんだろう。やっぱり男の人だからかな。私も産後からちょっとずつやってはいるけど、あくまで体型維持とか健康のため。デカくしようと思ったらできるのかな、アクアも将来的には鍛えてこうなるのかな、なんて考えて、ムキムキの二人がポーズを取っている姿を想像して慌てて消した。 

 

 堪えきれなくて、くっついたままくつくつと笑ってしまう。今の私はさぞ情緒不安定に見えているんだろう。

 

 火を使うからと言われて、しぶしぶケイから離れる。代わりに毎朝作ってくれてる、適温まで冷めた白湯を受け取って、リビングのソファへと映った。飲むと適温で温かい。

 

 見るものがあったわけではないけど、音寂しい気がしてテレビを付けた。朝のニュースが流れる。芸能人の不祥事だったり、スポーツのハイライトだったり。

 

 ぼけっと見ていると、魚の焼ける匂いがしてくる。七時半になったので二人を起こしにいく。

 

 そっと扉を開けると、まだ寝ていた。相変わらず可愛らしい年相応の寝顔だった。思わず突きたくなる頬を指先で押してみる。すごい弾力で、まだまだ私もぜんぜん若いけど、これが若さか、なんて一人でつぶやいた。

 

「おはよー。よく眠れた?」

 

 頬を突いていたからか、ルビーが目を開けた。寝ぼけながら私のところに這ってくるので、そのま抱える。甘えん坊さんなのは昔から変わらない。

 

「アクアも起きて。みんなで朝ごはん食べよ」

 

 軽く肩を叩いてあげると、アクアも起きた。

 

 アクアも抱っこする? と聞けば、恥ずかしがって来てくれない。アクアもアクアで相変わらずおませさんだ。

 

 みんなでいただきます、と言ってご飯を食べ始める。二人はお箸の使い方もすぐに覚えて、なんなら私より綺麗に持てるかもしれない。

 

「ママ、今日はお仕事?」

「今日は特にないから一緒に幼稚園行こっか」

 

 その答えにルビーは喜んでくれる。仕事があると時間が合わないせいで中々行けないから、たまに行ける時は行ってあげたい。

 

 特に今日は新しいオフィスに顔を出す予定だから、送った後にそのまま向かえる。

 

 朝ごはんを食べ終えて、朝の支度を進める。普段からそこまで化粧に時間はかからないし、寝癖も櫛で解かせば直せるから、身支度は割とすぐに終わる。

 

 二人の支度もバッチリだ。

 

 屈んで二人と視線を合わせようとするとふとしたことに気づく。

 

「ルビーの方がちょっと大きいんだね」

 

 女の子の方が成長が早いというから、それもあると思う。ルビーはアクアを見て勝ち誇った笑みを浮かべていた。

 

「パパが大きいから、アクアもすぐに大きくなるよ」

 

 あからさまに落ち込んでいたアクアの頭を撫でる。ケイのとは違う柔らかい髪質。私に似たのかな。

 

「あそこまで筋肉つけるつもりないよ」

 

 ちょっと拗ねたような言い方。ちょっと見てみたかった気もするけど、どうやら今のところ、私の妄想は杞憂に終わりそうだ。

 

 幼稚園に行くと、先生が園児たちを向かえるために正門前に出ていた。

 

 今年ルビーとアクアのクラスを受け持ってくれている若い先生で、二人に気づくとちゃんと名前を呼んで挨拶をしてくれる。二人もちゃんと挨拶を返してえらい。

 

「いつも子供たちがお世話になってます」

 

 先生たちはネームプレートを付けてくれるから、他人の名前が中々覚えられない私も助かっている。

 

「今日は奥様がいらしたんですね」

「はい。と言っても夫は近くの駐車場で待っててくれてるんですけど。時間ある時は仲良くみんなで来るようにしてるんです」

 

 名前は覚えられなくても顔は覚えている。

 

 密偵のアクアからの垂れ込みで、この先生がケイに多少なりとも色目を使っているのはわかっていた。そりゃあ幼稚園の先生は出会いもないだろうし、私の夫は強くてカッコいいから惹かれてしまうのは仕方ない。夫がモテるというのは私としても嬉しいけど、それはそれ、これはこれ。私の教育のおかげでちゃんと受け答えして貰えていることと、当の本人からなんとも思われてない事をわかって欲しい。

 

 基本は男社会だから油断してたけど、今後はアクアとルビー繋がりで今回みたいな事も考えられるから、気をつけないといけない。

 

 仲が良いことを強調した後にようやく事務所へと向かった。

 

 新しい事務所は出来立てということもあって、ガラス張りの綺麗な作りをしていた。警備員さんもいる。挨拶をして中へと入った。

 

 一階はエントランスと駐車場。セキュリティゲートを抜けると上の階に上がれて、二階と三階がレッスンやエクササイズ、撮影もできるようになっている。トレーニングの機材も揃ってるのはそういうことかな。四階が事務所とか会議室に当てられていた。会社員じゃないから所属のタレントがみんな集まることはないとは思うけど、ワンフロアに余裕で入りそうなほど大きい。

 

 B小町のみんなも、この前お茶した時にあとちょっととは言ってたけど、ここでレッスンすると思うと羨ましく思えてしまう。

 

「社長奮発したんだねー」

「昔の事務所と比べたら随分とでかくなったな」

 

 私もケイも最初を知っているから、ほんとに会社として大きくなったんだなとしみじみ思ってしまう。こうして目に見えた成果が出ると、頑張ってきた甲斐がある。

 

 事務所の奥に行くと、社長室と書かれた扉が見えた。

 

「社長、来たよー」

 

 扉を開けると、奥の窓ガラスを背にして社長が座っていた。ミヤコさんもいる。

 

「びっくりした……ノックくらいしろよ」

「今日は私たちだけしかいないんだし良いじゃん」

 

 社長って言っても、私からしてみたら父親みたいな人だし、変に畏まるのも不自然。あ、でも二人がイチャイチャしてたら気まずかったかも。そこは反省。

 

「それにしても……似合わないね」

 

 ザ社長室って感じの部屋だけど、座らされていて身の丈にあってない感じが強い。

 

「うるせえな。俺だってこんな畏まった部屋じゃなくても良かったんだよ」

「この人こんなだから、少しでも貫禄出た方が良いでしょ?」

「ミヤコさんが座ってた方が、敏腕女社長って感じがするよ」

「あら、ありがと。でも私にはこっちの方が合ってるわ。拳願会の会合とか本当に無理」

「それは大変そうだもんねー」

 

 ミヤコさんは秘書も兼ねてるから、会合に行くこともあるらしい。あそこはほんとに日本のトップが集まってるから、色々と大変なんだろう。そう考えると、なんだかんだ上手いことやって仕事取ってくる社長もすごいのかも。私は見たことないけど、他所の社長や会長もみんな仕事モードになると違うのかな。片原のお爺ちゃんとか、普段は気さくなお爺ちゃんなんだけど。

 

「それで、なんで俺まで呼ばれたんですか?」

「お前にも見せておこうと思ってな。あとはこの前の件で乃木さんからお詫びの品が届いたから渡しておきたかったのと、お前に仕事の話だ」

 

 机の上にあった紙袋は、ちょっと前に話題になって今は中々買えないことで有名な焼き菓子のものだ。私も興味あったから、どうせなら今食べられないかな。

 

「仕事? 仕合じゃなくてですか?」

「仕事だ。苺プロで福利厚生を考えていてな、一応肩書きは警備部だろ? うちは女性タレントが多いから護身術とか、トレーニングを教えてやって欲しいんだよ。あとはこの前会合で話題になったが、拳願会での福利厚生で、スポーツとかをやるからその時の対応を頼みたい」

 

 社長がぽろっと仕合のことを洩らしちゃったあと、反省してしばらくは禁酒してたらしい。それもあってちゃんと仕事を持ってきてくれたんだろうけど、さっきの件も考えると両手をあげては喜べなかった。

 

「言われたからにはやりますけど、護身術やって変にストーカーとかに手出してもかえって刺激して危ないですよ?」

「内容は腕掴まれた時とか、後ろから抱きつかれた時の対処法とかで良い。あくまでいざって時の自衛手段だ」

「毎日じゃなくて良いんですよね?」

「そりゃあな。その代わりある程度時間は決まっちまうだろうが、ここにあるジムとかはお前も使ってくれて良いぞ」

「まあ、そういうことなら。使える時間決まったら教えてください」

 

 やっぱり設備が揃ってたことはそういうことか。ケイもちょっと嬉しそうだ。どうせ新しい修行場所できたとか、やっと子供達にニートだと思われないとか思っているだけなんだろうけど。

 

「あとは……そうだ、入る時に見てきたと思うが、警備員も組織上はお前の下につかせるからな。デイリーレポートとかはちゃんと目を通すようにしといてくれ」

 

 お前のノーパソだ、と言って社長はケイにパソコン一式を渡した。

 

「パソコンなんてほとんど使ったことないんですけど」

「はあ? じゃあアイが教えといてくれ」

「私も使えないよ?」

 

 学校でちょこっとあったくらいで今は触る機会がないし、スマホでやり取りはできるからますます使うことはない。人に教えるなんて無理だ。

 

「普通使えるだろ……。……仕方ねえ、とりあえず簡単な操作は今教えてやるから、あとは俺かミヤコにその都度聞け」

 

 その日は予定よりも大幅に滞在時間を延長して、まさかのパソコン教室が開催された。本人には言えないけど、ぜんぜん理解できなくて悪戦苦闘しているケイは見ていて面白かった。

 

 

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