一番星の王子さま   作:160万のワインを飲み損ねた

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 我が家のテレビではライブ映像が流れていた。懐かしのアイがいる時代のB小町の映像。

 

 ソファの中央に座らされた王馬が、それを見させられている。

 

 山下さんの説明では中々理解ができなかったため、それなら実際に見せた方が早いとなった。ただ見せても理解が難しいだろうからと、アイドルに一際強い思い入れのあるルビーが説明役に回っている。昔から会長の家に行って護衛者たちを見てきたせいか、大柄な男性に対しても恐怖心は少ないようで、初対面の王馬に対してもルビーはどんどん話をしていた。

 

「つまりはアイドルってのは歌って踊る奴らのことだろ?」

「だからそれだけじゃないんだって何回言えばわかるの!? ほらもう一回見てよ、ここのシーンとか」

「まだ見んのかよ」

 

 先ほどまでの敵愾心はどこへ行ったのやら、王馬も王馬で律儀に相手をしている。無邪気に寄ってくる子供相手を邪険にする奴なんていないか。っていうか泣かしたらぶちのめす。

 

「ルビーほどほどにしてやれ。すみません王馬さん、うちの妹が」

「えー、だって王馬さん全然わかってくれなんだよ」

「俺は別に構わねえよアクアマリン」

「だからアクアで良いって言っただろ……」

 

 王馬はどうやらフルネームで呼ぶ癖があるのか、俺のこともそうで、アクアとルビーに関しても二人が訂正して訂正して今の呼び方になった。アクアはさらに訂正しようと頑張っているが、王馬もわかっていて直さない気がする。割と楽しんでいるのだろうか。

 

 アイは鼻歌まじりに料理をしていた。ルビーたちがライブ映像を流している間、時間的にもちょうど良かったので昼食の準備を始めている。どうせならと、王馬と山下さんにも声をかけて珍しく六人での昼食となる。幸いにもオムライスの予定だったから、一人分ずつしか作れないとはいえ、比較的ストックのある卵と米さえあればなんとかなった。

 

「ご機嫌だな」

「そう? なんだかケイの兄弟が遊びに来たみたいだからかな。私たちってこういうのなかったし」

 

 お互い兄弟はいない上に血縁上の親族はいない。社長やアイの友達たちが遊びにくる事はあっても、血縁者が来る事は無かった。

 

「だから兄弟じゃねえって」

「はいはい。これ先に運んでおいてー」

 

 適当に流される。

 ランチョンマットを人数分テーブルへと運んだ際に、椅子に小さく座っている山下さんに声をかけたれた。

 

「あの……本当に我々がご一緒してもよろしいのでしょうか?」

「構いませんよ。せっかくだから話してみたいとは思ってますし、午後一にはどうせ出るので」

 

 山下さんは何故こうも下から来るのだろうか。悪いことは何もしていないのだから、堂々としていれば良いのにと思ってしまう。いや、もしかしてこういう振る舞いをして油断させる作戦なんだろうか。悪い人ではないと思うが、山下さんの話も色々聞いてみたいものだ。

 

 一皿ずつオムライスが盛られていく。それが六つ並ぶとちょっとした料理屋みたいに見える。サラダも盛り付ければ調理は完了だ。

 

 昼食時はライブ鑑賞もさすがに中断し、座り続けていた王馬は伸びをしてからリビングテーブルへと来た。

 

「お、美味えなこれ」

 

 いただきますと唯一言わずに早々に食べ始めた王馬は、かなりのスピードで食べていく。スプーンの持ち方も歪だ。食事中は隙ができる瞬間でもあるから外敵からの襲撃に備えて早く食べるようになり、カトラリーの持ち方も教えてもらえなかったとかだろう。『中』の環境を垣間見た気がした。

 

「ええ、本当に美味しいですよ」

「ほんとですか? 良かったー」

「おい、おかわりねえのか?」

 

 見れば王馬の皿は早々に空になっていた。

 

「ごめんね、今日はもう材料ないんだー。今度はたくさん用意しておくね」

「そいつは楽しみだ。次は肉で頼むぜ」

 

 また来る気なのかよ。

 

「んで、本当に今日は何しにきたんだよ」

 

 アイドルを教えるためでも、タダ飯食わせるためにもわざわざ残したわけじゃない。

 

「言ったろ、モドキを見に来たってよ。それ以外に目的なんてねえさ」

「乃木会長からは、同じ流派使う人がいて強いから会ってみたら良いんじゃないか、と言われてまして」

 

 山下さんが情報を追加してくれる。王馬に発破をかける事と、俺を試金石することが目的だろう。氷室のあの話は近いと言うことか。それにしても、初見さんのこといい、あのオッサンまた巻き込みやがった。

 

「モドキじゃなかったろ。俺も、多分お前とは違う二虎からだろうけど、こっちで二虎流を教わったんだ」

 

 子供達もいるため、『中』は避けて二虎にだけ言葉を絞った。二虎流の名前だけであれば、二人に聞かれていても問題はない。

 

「違う二虎? 何言ってんだ?」

「ああ? そっちの二虎から聞いてねえのか。二虎は七人いたけど、どんどん脱落していって、最後まで残ってたのは三と四と六の二虎だ。三が俺の師匠で、四は見たことねえけど、六は白い逆立てた髪に眉なしのオッサンだよ」

「脱落って選考みたいな?」

 

 ルビーはオーディションでもイメージしているのだろう。

 

「そんなもんだよ。訓練がきつくて残ったのが三人だけだったんだ」

「なんで数字なの?」

「さあな。便宜上そう呼んでただけだとは思うけど、真相はわかんねえ」

 

 殺し合あったことは子供達もいる手前、別の言葉に言い換えた。ルビーがちょうど質問してきてくれたことで、うまく補完できたため俺としてはありがたい。

 

「白い、逆立てた髪……」

 

 俺の言葉に、王馬は何かを考えるように黙った。

 

 なんとなくではあるが、四が王馬の師匠で六はどこかで接点があったとかだろう。

 

 王馬が急に立ち上がった。上着を掴んで、そのまま玄関へと向かい始める。

 

「お、王馬さん? 突然どうしたんですか」

「帰る」

「え、帰るって……ちょ、ちょっと待ってくださいよ! あ、ごちそう様でした!」

 

 山下さんはスタスタと歩いていく王馬の後ろを追いかけていく。なんというか、王馬の情緒が不安定すぎる。憑神も簡単に使っていたし、心臓の限界以外にも何か弊害があるのかもしれない。

 

「最後不機嫌だったね、どうしたんだろ?」

「さあな。思い出したくない事でも思い出したんじゃねえの」

 

 先ほどまで静かに食べていたアクアが、こちらを見てくる。

 

「父さん、本当に親族とかじゃないの?」

「少なくとも覚えてる限りじゃな。髪の色だって違うだろ? なんか気になる事でもあったか?」

「いや、何でもないよ。ちょっと気になっただけ」

 

 何かを考えている様子だが、それをアクアが口にすることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 数日後、木村証券ビル地下駐車場にて一つの仕合が行われてる。

 

 関林ジュン対十鬼蛇王馬。

 

 関林さんは超日本プロレスの不動エースで、表においても有名なプロレスラーだ。肉体の性能差は歴然で、半端な打撃は通じない。常日頃から粘りのある筋肉をつけ、避けることをしないプロレスラーの頑丈さは凄まじく、トップの関林さんともなれば並のレスラーの比ではない。

 

 山下さんの姿はあるが、乃木会長や秋山さんの姿は見えない。この前のことについて文句の一つでも言ってやろうと思っていたのだが。

 

 あたりを探すと、見知った顔があったので挨拶に行く。

 

「若槻さん、見に来てたんですね」

「日向か。今日は関林と、うちの派閥の乃木グループの仕合だからな」

 

 現最多勝利数を誇る若槻さん。ついに三百勝という前人未到の偉業を成し遂げている。所属する古海製薬とは業種が異なりすぎて、残念ながら戦った事はない。ただ若槻さんは二十年以上、俺も十年以上は闘技者をやっていることもあり、自然と顔見知りになった。

 

 仕合が始まる。

 手数で攻める王馬に、関林さんは安定のプロレスで対抗する。鉄砕を使う様子は見られないが、俺とやった数日前よりちょっと速いかもしれない。

 

 関林さんの挑発。王馬が挑発をやり返し、血が昇った様にみえる関林さんは、柳の餌食になる。

 

「十鬼蛇王馬、理人戦も見たが、あれはお前と同じ二虎流か?」

「あー、やっぱり気づきますよね。そうですね、王馬も二虎流を使うみたいなんですよ」

「お前たち面識があったのか?」

「ついこの前ですけどね。家族団欒時に突然来ましたよ」

「そいつは御愁傷様だな」

 

 雑談をしている間にサービス終了、と言った関林さんが王馬をコンクリートの地面へと叩きつけた。あの音、かろうじて不壊を使ったようだが、油断しすぎだ。プロレスラーも興業上演技を行う。痛みに耐えながら演じるため、ベテランレスラーほど演技力も高い。それにまんまと騙された形だ。

 

 関林さんは追撃をやめない。何度も叩きつけられ、何度も殴られ、ついには王馬の意識が飛ぶ。

 

 審判のストップが入る前に、関林さんはトドメと言わんばかりにアルゼンチン・バックブリーカーを決めにかかる。言ってしまえば背骨折り。

 

「やはり関林の相手では無かったか」

「いやー、それはどうでしょうね」

 

 二虎流の全てが使えない、もしくはなんらかの理由で使わない可能性は、この前の件とこの一戦でほぼ確定だろう。操流と火天に特化し、金剛と水天ははっきり言っておざなり。ただ、この状況を打開するには今王馬が持つ手札の中にも一つだけ手はある。もっとも意識が戻る事が前提だが。

 

 というか、二虎流使う上に人と似た顔してボコボコにされてんじゃねえよ。見ていて気分が悪くなるし腹が立つ。

 

 王馬の心音が速く、周囲にも大きくなっていく。

 

 死ぬことが怖くないのか、よくもまあそんなに憑神を使えるものだ。いや、今王馬は前借りと言ったか。寿命の前借り、と言う意味で使っているのか、もしくは技の名前すら覚えていないか。

 

 ひたすら殴打を続ける王馬と、それを全て受けて耐える関林さん。いくらプロレスラーが避けないとはいえ、ルール無用の拳願仕合でもそれを実行することに脱帽するしかない。

 

「あ! 若槻さんに日向さんじゃん、久しぶり!」

「コスモか。この前も圧勝だったな」

「見てくれてたんだ。今度どこかで戦えると良いね」

 

 一七三センチと小柄な体躯ながら、絞技師としての腕は超一流。デビュー戦で三〇キロ以上差のある相手を絞め落とした技量は侮れない。

 

「そこは西品治さんにお願いしてみたら良いんじゃねえか。仕合になればいつでも戦うさ」

「そうだなー、先輩に仕合組んでくれるようにお願いしてみようかな」

「お前らは仕合をなんだと思ってるんだ」

 

 今目の前の仕合は一進一退。速度が上がることで攻撃性能は上がるものの、肉体的な差が大きすぎて活かしきれていない。

 

「にしてもアイツすごいね。関林のオッサン相手に良い勝負してるし」

「どうだろうな。回転力は先ほどより上がって押しているが、ダメージが大きいのは十鬼蛇の方だ」

 

 予測を立てる中、仕合の決着は不意に訪れた。

 

 狙い澄ました一撃が気管を捉え、脳への酸素供給を断つことで強制的に意識をシャットアウトさせる。その代償に指をへし折れたが、あのままやっていても関林さんに勝てなかっただろうから、勝ちのために指数本となれば安く済んだものだ。

 

「見事」

 

 一言で会場の空気が変わった。会長が加納さんの仕合でもないのに見にくるのは珍しい。氷室が言っていた例の件だろうか。

 

 その答えはすぐに出てきた。

 

 会長のそばに乃木会長が現れ、関林さんの雇用主も出てきて話を進める。あの噂通り、会長の座をかけた戦いが始まるのだ。

 

「本日この場にて拳願会会長の名において、『拳願絶命トーナメント』開催を宣言する!!」

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