一番星の王子さま   作:160万のワインを飲み損ねた

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感想、誤字訂正ありがとうございます。


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 絶命トーナメントまで開催まで、あと一ヶ月。

 

 トーナメントで初めて仕合を見るよりかは、一度どこかで見せた方が良いのではないか、となったため、信じられない事に家族総出で仕合を見にきていた。社長も別途来ているはずだが、パッと見た限りでは見当たらなかった。

 

 本来なら俺の仕合があれば良かったのだが、それもないため別の企業の仕合。

 

 ゴールドプレジャーグループ 対 岩美重工

 

 ナイトレジャー界の最大大手と、海洋・航空・宇宙開発、そして兵器製造まで事業を展開する大企業。どちらもすでにトーナメントには参戦表明をしており、敵情視察としても都合が良かった。

 

「こんなボロビルで本当にやるの? 今にも崩れてきそうだね」

「皆高そうな服着てるな、やっぱり大企業の集まりなのか」

 

 リングも何もない仕合会場はルビーとアクアの目にはさぞ異端に映るだろう。独特の熱気もこれまで感じたことのないもののはずだ。

 

 おい、あれ見ろよ

 あれ女優のアイだろ。あっちの子供も見たことあるぞ

 また苺プロか。十年くらい前にもガキ連れてきたことあったぞ

 

 ガヤの中には当然目立っている俺たちの話題も含まれている。

 

「またって言われてるけど?」

「前に社長にお願いして、母さんを連れてきてもらったことあんだよ。初ライブの後だったよな?」

「そうだねー、あの時は本当に驚いたよ。いきなり脱ぎ出すしね」

「何してんの父さん」

「仕合すんだからそりゃあ脱ぐだろ」

 

 道着ならまだしもあの時は私服だった。全力で動くためには、できるだけ邪魔な物がないほうが良いのだ。

 

「やっぱり俺達場違いだと思うんだけど」

 

 キョロキョロ辺りを見回すルビーをよそに、アクアはこちらに振り返り尋ねてくる。

 

「場違いなのは間違いねえさ。こんなに早く見せるつもりはなかったんだが、事が事だからな。社会科見学みたいなもんだよ」

「裏、だけどね……。大丈夫なの? 普段の仕合だってリスクあるんでしょ、俺はまだしもルビーを連れてくるのは」

「大人ぶってるけど、お兄ちゃんだって子供じゃん。そもそも双子なんだからタメですけど」

「俺はお前の心配してやってんだけど」

「相変わらず二人は仲良いねー」

 

 今はどんぐりの背比べだが、あと数年もしたらアクアもルビーもアイの身長を抜く日が来そうだ。母親としては、自分の身長を抜いてくれるのはやはり嬉しいのだろうか。

 

「あら? 珍しいお客様ね」

「理乃さんだ、お久しぶりです」

 

 群衆をかき分けてこちらに来たのは、夜職の女性が着るような衣服を着た女性。一見場違いに見えて、その実ゴールドプレジャーグループ代表である倉吉さんだ。倉吉さんの代になってから急激に成長してきた企業でもあり、経営手腕もさることながら色々な伝説もある人。

 

「アイさんは相変わらず可愛いわね。そちらはお子さん?」

「いえいえそんな、理乃さんも相変わらずお綺麗で。えっと、男の子の方がアクアマリンで、女の子の方がルビーです」

「可愛らしい名前ね。初めまして、倉吉理乃です。あなた達のお母様とはお友達をさせてもらってるわ」

「……日向アクア、マリンです」

「日向ルビーです!」

 

 二人の反応はそれぞれ。アクアは照れて視線を外しているし、ルビーは倉吉さんの顔と胸元を何度も見ている。この場の顔面偏差値やばーとか、ルビーはたまによくわからないことを口にしていた。

 

「あら、二人とも挨拶ができてえらいわね。今日はどうしたの? あまり子供が来るようなところではないのだけれど」

 

 倉吉さんがこちらを見てくる。

 

「東洋電力のせいで子供ともども参加することになりましてね、トーナメントが初めてよりも、少しでも慣れさせた方が良いかと思いまして」

「東洋電力……そう、速水会長が。ごめんなさいね」

 

 倉吉さんが謝る意味がわからなかったが、倉吉理乃が速水勝正の実娘であるという噂は本当なのかもしれない。会員としては百人会にも属しておらず、どちらかといえば反速水派だから色々とあったのだろう。

 

「それなら……零、こっちに来てくれる?」

「どうした理乃?」

 

 暴君の異名を持つ闘技者ではなく、音もなく近づいてきたのは道着を着た若い男だった。闘技者の中では小兵の部類だが、難なく打ち倒して闘技者が変わったとの噂も本当か。目の前の無機質な男からは底知れない圧を感じる。間違いなく裏出身、実力も紛れもなく本物だ。

 

「せっかくのデビュー戦で申し訳ないのだけれど、今日は可愛らしいお客様もいらっしゃるから派手にはしないで欲しいの。零の負担になってしまうけれど、できるかしら」

「問題ない。すぐに終わらせる」

 

 今日の相手は中国拳法家の洪小虎。拳願仕合成績は三五勝一敗で、唯一の負けも加納さんとの仕合によるもの。岩美重工が持つ最強のカードだろう。ただこの感じは、勝敗はすでに見えている。

 

「頼もしいわ。そうだ、ご紹介できていなかったわね。こちらは御雷零、今日がデビュー戦なのだけれど、ウチの代表闘技者よ。零、こちらは苺プロの皆様。以前話したことがあったでしょ? 日向さんとその奥様のアイさん、お二人のお子さんのアクアマリン君とルビーちゃん」

 

 御雷が小さく頭を下げた。下げていた頭を戻していたところで、俺と目が合う。目は口ほどに物を言うが、これは威嚇でも挑発でもない。

 

 気づいた時には、俺たちは握手を交わしていた。

 

 裏とか関係なく、同志を得た感覚と敬意の表れ。俺がアイのために戦っていたように、御雷も倉吉さんのために戦うのだろう。

 

「あらあら、お友達ができて良かったわね」

 

 倉吉さんは御雷の母親みたいなことを言っていた。

 間も無く仕合開始となるため、御雷と倉吉さんは人で囲われた中央に進む。

 

「ひえー、すごいえちえちな人だったね」

 

 ルビーが漏らした感想に、アクアが本人も意図せず首肯してすぐに動きが止まった。自分の行動に気づいたのだろう。巻き戻して行動し直す、なんてできるわけもなくルビーとアイの視線が刺さる。

 

「アクアはああいう女性がタイプなんだー」

「いや、ちがくて……」

「うわっ、結局顔と胸か」

「元はお前が言ったことだろ」

「私は同性だもんね。あーやだやだ、お兄ちゃんもオスか」

「お前ら一応は仕合見に来たんだからな」

 

 まだ始まっていないが仕合そっちのけで話が逸れるとは思わなかった。

 

 審判が合図し、仕合が始まる。

 

 両者の打ち合いは一見すれば互角だが、御雷の表情には変化がない。思っていた通り、だいぶ実力差はありそうだ。

 

「よくわからないけど、互角ってやつ?」

「様子見なだけだな。そろそろ動くぜ」

 

 しばらくて、自身の速さに付いて来られる御雷を洪は褒めるが、受けに回った際に洪は五指をへし折られる。先ほどとは比べものにならない速さと正確さ。わざと五回の打撃で一本ずつ折ったところが、より差を感じさせる。

 

 とはいえ、それで降参するほど柔な闘技者は存在しない。そもそも洪の強みは速さではなく、脳内麻薬をコントロールすることによる痛みの遮断。痛みがなければ恐れがなく、恐れがなければ躊躇いがない、とのことらしい。

 

「弱くはねえけど、今回は相手が悪すぎたな」

 

 痛みを感じない、故に止まらない。それならやる事は簡単だ。

 

 御雷は躊躇なく、洪の両膝に踏み蹴りを放ち破壊する。

 

 止まらないなら、動けなくすれば良いだけ。

 

 俺でもそうする。

 

 憑神にも言える事だが、身体能力が向上することも、今回のように痛みを無視することも、人体の構造を無視して強化されるわけではない。特に、耐久力に関して上がることはないのだから壊せる側の闘技者はそう対応してくるだろう。

 

 審判のストップが入る。勝者が告げられ、担架を持ってくるように審判が声を張る。

 

「こうして仕合がこれ以上無理ってなると、審判が止めに入るんだ。表ほど厳しいわけじゃないが、殺し合いを仕合に昇華させてんのはあの人たちのお陰だよ」

 

 ルビーとアクアに、アイにも改めて説明をする。

 

 洪は痛覚遮断を使用したまま諦めていない。審判を無視し、折れた膝で震えながらも無理やり立つ。

 

「まだ諦めないのか……」

 

 アクアが理解できないと言わんばかりの声色で本音を言う。

 

 いくら審判が止めても、洪みたいに止まらない奴は止まらない。そうなると仕合から逸脱していくため、家族が見に来ている手前止めに入った方が良いだろう。

 

 御雷の雰囲気も一層濃くなる。あれは壊すだけじゃく、殺しの経験もあるに違いない。闘技者の中にも、殺しを是とする人、やむなしと考える人、否とする人がいる。加納さんは勝つためにはやむなし、とするタイプであるが、俺や初見さん、関林さんは否定派に文類される。

 

 倉吉さんは殺し否定派の人だからと思っていたからこそこの仕合にしたのだが、アテが外れたかもしれない。

 

 倉吉さんが、警戒の色を見せずに洪の前に立つ。手負の猛獣の前に武器も持たず立つようなものだ。

 

「おすわり」

 

 動こうとした時、その一言で洪の体が突然崩れ落ちた。痛覚が戻ったのか、激痛によって顔はより歪み、汗の量も尋常ではない。

 

「えげつねえことするな、倉吉さん」

「理乃さん何したの?」

「詳しい事はよくわからねえけど、男限定で命令して言う事聞かせる事できるんだってよ。アイの方が仲良いだろ、本人から聞いてねえのか?」

 

 難しい原理はよくわからないが、一種の催眠術のようなものだと思っている。あの言葉で洪の脳内麻薬コントロールは強制的に切らされたのだろう。命令の範囲や強度は不明だが、対男性とすれば、ある意味最強なのは倉吉さんだ。

 

「そう言う事は話さないから初耳だよ」

「そういや普段どう言う事話してんだ?」

「内緒。女同士の秘密ってやつだよ」

 

 何気なく聞いてみたが、あっさりかわされる。どんな会話しているのかイメージが湧かないが、アイの言葉通り女性同士しか話せないこともある。不躾な問いだったか。

 

「で、二人は初めて見てみてどう思った?」

「思ってたよりあっさりしてた」

「これくらいならまあ」

「そうか。トーナメントはもっと派手になるだろうけど、無理なら無理ってちゃんと言ってくれよ」

 

 倉吉さんの言葉通りに従ったのかはわからないが、確かに派手さだけでいえば今回は控えめ。超日本プロレスの方がよほど派手に仕合をやっている。蛍光灯一万本デスマッチとか、とんでねえ事してたしな。

 

 アクアとルビーの反応は頼もしく思えてしまう反面、どうしても不安は拭えない。単発の仕合ではなくトーナメント。短期間で普段以上に厳しい仕合を繰り返ししなければならない。決勝まで行くことを考えれば、戦い方も考えなければならない。

 

 

 

 

 

 さらに時が進む。

 

 幸いなことにトーナメントまで仕合はないため、思う存分に調整ができる。型の見直し、頭からつま先まで神経を張り巡らす。筋力トレーニングは最低限に、筋肥大は今回は不要。現在の肉体のポテンシャルを最大限に引き出すためにやっていく。可能であれば、相手が欲しいところではある。

 

「ケイ、オーマさん来たよ?」

 

 アイに案内され、王馬がまたやってくる。今回は事前に連絡もなかった上に、山下さんもいないようだ。

 

「よう、ヒュウガケイ。アンタもトーナメント出るんだってな」

 

 王馬が乃木グループとしてではなく、山下さんが独立して設立した山下商事の代表として出場するようだ。乃木会長も自身が優勝するべく策を練っている。

 

「成り行きでな。今日はなんの用だよ? 来るって聞いてねえから肉だってねえぞ」

「そいつは残念だが、今回はちげえよ」

 

 少し雰囲気が変わったか。初対面の時ほどギラついてないと言うか、地に足ついたというか。

 

「色々と思い出してな。まだ調整足りねえんだ。アンタも二虎流使うんだ、ちょっと闘ろうぜ」 

 

 




御雷vs洪はアシュラ3巻のおまけの内容となります
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