一番星の王子さま   作:160万のワインを飲み損ねた

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 予選会場では、五人の闘技者以外地に伏せている。彼らが意識を戻すのはまだ先になりそうだ。

 

 予選が終了したことに伴い、絶命号は進路を変えて、拳願号の隣に付けるように動き始めることが通達された。予選通過者とその企業関係者は、これからそちらに移動できるとのことだ。

 

 護衛者たちによって閉ざされていた扉が開き、俺たちは予選通過者としてその扉を通り抜ける。甲板に上がる階段を登ってアイたちと合流し、船が停まるのを待つ。出向からもほとんど時間も経っていないことで、すでに目的の船は視界に入っていた。

 

「お疲れ様。あっという間だったね」

 

 アイから労いの言葉をもらう。

 

「少しはかっこいい所見せなきゃいけないからな」

「いつもかっこいいよ?」

「サンキュー。アイはそう言ってくれるけど、子供たちがどう見てるかわかんねえからな。二人ともどうだった?」

「まあ、かっこよかったんじゃない?」

「私はずっと信じてたよ! パパ最高!」

 

 一応賛同の言葉をもらうが、ルビーは質問との答えとずれている気がする。拳願号に乗れるようになった事に引っ張られていないだろうか。せめてチラチラ船の方を見ずに、まっすぐこっちを見てから言って欲しい。早く着かないかとソワソワしているのが一目見てわかる。

 

「お! 一夫じゃねえか! それにえーっと……」

 

 アイたちが山下さんと一緒にいたからか、王馬に続き、王馬に付いてきた理人も合流する。理人の視線が、アイ、ミヤコさん、秋山さんと、もう一人と秘書さんに綺麗に動いていく。盛りのついた犬、という言葉が今の理人ほど当てはまる事はそうないだろう。いや、犬に失礼か。

 

「言っとくけどアイは俺の妻だし、ミヤコさんは社長の奥さんだからな。手出そうとしたら本戦前に海に沈めんぞ」

 

 三三よりも三二の方がキリが良いだろう。ちょうど良い。

 

「ハッハー! 安心しろよ! さすがに俺も人妻には手を出さねえよ、残念だけどな。ところで、アンタは乃木グループの姉ちゃんだったろ。なんでここにいんだ?」

 

 目が明らかに本気だったろ。理人は本当に諦めたかどうかわからないが、秋山さんにターゲットを絞ったらしい。

 

 秋山さんも真面目だから、名乗ってから事情を簡単に説明してしまう。

 

「なるほど! じゃあ秋山ちゃん、この後向こうの船で飯でもどう?」

「なにがじゃあ、ですか。お断りします」

 

 理人は早々にボディタッチを繰り返しながら秋山さんを口説き始めた。秋山さんは非常に迷惑そうにしているも、理人は意に介さず諦めもしない。彼氏はいるのか、どこに住んでるのか、終いにはどストレートにヤらせろと完全にアウトな誘い方をしている。

 

「理人、秋山さんは王馬に勝てない奴には興味ないってよ」

「んだと十鬼多ァ!」

「おい、俺を巻き込むんじゃねえよ」

「お前のところの秘書だろ。それとも理人に勝てねえなら変わってやろうか?」

「……チッ、仕方ねえな」

 舌打ちしながらも王馬は前に出て理人と話をしている。すでに本戦が決まった身、この場で闘り合うほど馬鹿ではないだろう。

 

「すみません。助かりました」

「お気になさらずに。あれは子供たちの教育にも良くないもんで」

「俺がああなると思ってんの? さすがに失礼にも程がある」

 

 雑談をいる内に停船し、両船を渡るための橋が再び架けられた。

 

 近くにいるからこそ、その差はより大きく感じた。もし拳願号が動きだしたら、それが作る波によって俺たちが今いる船は大破しそうにさえ思えた。

 

「良かったねルビー。これであのすごい船に乗れるよ」

 

 アイと言葉に、飛び跳ねる勢いで喜ぶルビーは今度こそという思いなのか、古びた架け橋であっても嬉々として渡っていく。俺たちも、ルビーの後に続いた。

 

 新たに乗船した俺たちを出迎えてくれたのは、会長と護衛者一行。歓迎セレモニーと謳った檄を軽く飛ばされ、今後の進行を聞いてからそれぞれの部屋へと荷物を置きに行く。内部は船だとは思えないほどで、船体の巨大さ故かほとんど揺れも感じない。部屋の内装も高級ホテルと似たようなもので、違いを挙げるとすれば、揺れに備えて念の為に一部の家具が固定されていることくらいだろうか。

 

 荷物を置いて中央ホールに向かえば、映画でかつて見たそれとは比べられないほどの豪華絢爛。提供される飲食全てが参加費等で賄われているため、所謂食べ放題飲み放題の状況だ。圧倒的な資金力に物を言わせた作りに、俺もアイも空いた口が塞がらない。施設育ちだった二人が、よくもまあここまで成り上がってきたものだ。

 

 驚いていても仕方ないため、ひとまず立食を始める。社長とミヤコさんは挨拶回りに行き、アクアとルビーも見える範囲で自由に食事を取っている。

 

「船で旅行とか、そういやした事なかったな」

 

 そこまで頻繁に旅行へ行く家族ではなかったし、行ったとしても日帰り。少し長めで二泊程度の短旅行しかなかった。速度上時間がかかる船は乗ること自体が初めての経験となる。

 

「アクアとルビーいたし、仕事も忙しかったからね」

「いつか時間作って旅行するのも良いかもな」

「海外とか?」

「それも良いな。どこか行きたいところあるか?」

「んー、あんまり海外のことわかんないしなあ。まずは無難にハワイとか?」

 

 子育てのこともあり、アイは海外ロケをNGにしていた。子供達も大きくなってきたから、一足先にパスポートだけでも取得するにも良いかもしれない。飛行機だろうと船だろうと、国外に行くのであればそれは間違いなく必須になる。それに資金力のある企業はMVを海外で撮ることもあるそうだから、ルビーたちがアイドルを始めた時にはそこで撮影となる可能性もなくはないだろう。アイもアクアも俳優業なのだから、こちらも海外撮影だってあるはずだ。

 

「じゃあハワイにするか。確か年中温暖なんだろ? こっちの寒い時期にでも行くか」

 

 今年はアクアとルビーも小学校を卒業する年だから、記念に行くと考えればちょうど良い。

 

「良いねー。なんか芸能人っぽい!」

 

 交通手段は飛行機が早くて良いが、これだけ豪華な船であれば、ゆっくり行くのもそれはそれで風情があって良い旅になりそうだ。言語に関してはハワイのため英語になるが、そこはなんとかなる。

 

 食事を楽しみながらたわいのない会話をしつつも、ちらほらと見知った顔が視界に入る。ふらついている初見さんに、後ろ姿ではあるが関林さんとコスモ。ボクシング四大団体統一王者のガオランに、あの髪色は氷室か。それに地を這うような独特の歩き方と一度も切っていないのではないかと思うほどの長さの髪、懐かしいな。

 

「やあ、日向君じゃないか」

 

 近くにいたスーツを着た男性が、こちらに気づいて声をかけてくる。

 

「瓜田先輩、ご無沙汰してます」

「ケイ、どちら様?」

「中学の時の先輩。色々世話になってたんだよ。あっちは因幡先輩、見た目に反してフレンドリーな人だよ」

 

 卒業後も交友があったわけではない。家庭のこと知らなかったし、数年前に仕合で偶然出会って初めて、大手電機メーカーのペナソニックの社長になったことを知った。因幡先輩も聞けば暗殺者として有名な因幡流の現当主になったらしい。軽く手を振れば、器用に髪を動かして返答してくれる。裏にいるからか、呉家と言い因幡家と言い、暗殺者に縁がよくできる。

 

 ペナソニックは瓜田先輩の代になってから、闘技者を偏重せずに常に有利になるように選抜して五年間負けなしの実績を誇る。トーナメントには因幡先輩が出るのだろうか。

 

「へえ〜、あ、初めまして妻のアイです」

 

 アクアとルビーを呼んで、二人も自慢の子供達だと紹介をした。

 

「もちろん存じ上げていますよ。先ほど斉藤社長にもお会いして、仕事の話をさせていただきましてね。今度ぜひ、うちの新商品のCMに出ていただければと」

「ママCM出るの!?」

「君たちのお母さんだけじゃないよ。君たち含めた三人で一緒に出てほしいんだ。社長からはまずは本人たちの意思を、と仰られてね。どうだろう、出てくれるかな?」

「ママと一緒……出ます!」

「ありがとう。アクア君も良いかな?」

 

 瓜田さんは知ってか知らずか、一番許可が出やすそうなルビーから攻める。この人の性格的に、そのあたりは周知か。

 

「ルビーが良いって言うなら、僕もそれで良いです」

 

 ルビーとアクアが出るといえば、ほぼ必然的にアイも出ざるを得ない。CMの中身や商品、放送期間などは社長とすでに話しているのだろう。三人まとめて出すから出演料は多少低めで、と言う話もしているかもしれない。タレント業は表に出て売れてなんぼの世界だから、社長もよほど悪い条件でなければ断る事は少ない。

 

「良かった。詳しい話は後日に行いましょう。もう少し話していたいところですが、まだ私も挨拶回りがありますのでこれで」

 

 瓜田先輩は忙しそうに移動を始め、因幡先輩も後に続く。失礼ながら亡霊が跡をつけているようにしか見えない。

 

「アクアとルビーと一緒に出るの楽しみだね」

 

 アイと子供たちがどんなCMだろうね、と話していると、ロビー上部に会長が現れて、今後の予定を発表する。

 

 決戦の地には約二七時間後に到着。

 到着した後にトーナメント出場者の登録を行い、正式エントリーとする。

 船内での闘技者同士の私闘は禁止。

 ルールを破れば護衛者からの制裁が行われる。

 

 まとめると、このような内容だ。

 

「正式に登録、闘技者同士私闘禁止って事は、それ以外の人なら良いって事?」

 

 会長の言い方に引っかかったアクアがそんな事を聞いてくる。アクアが気にしなければ俺は気にも留めなかったが、合点がいった。

 

「そう言う事だろうな。よく気づいたな」

「別に。大した事じゃないよ」

「どう言う事?」

「闘技者じゃない人たちなら、闘技者とここで戦っても問題ないって事。裏工作がありなら、事前に敵になる企業の闘技者の座を奪うとかして良いって事でしょ」

「お兄ちゃん賢いね」

 

 会長は本当に遊びが好きだな。

 

 このルールの穴、と言うか趣旨を正確に理解した人たちは、優勝するために様々な手を使ってくるのだろう。禁止されたのが闘技者同士となれば、企業のトップに対して脅しをかけることも有効という事。一番あの手この手で手駒を増やしそうな東洋電力が、すでに苺プロを抱えていたのは不幸中の幸いか。

 

 ふと、殺気を感じて振り返った。

 

 人がいすぎる事と、対して強くもないせいで誰が放ったかはわからない。俺に来る分にはあの程度気にする程ではないが、アイや子供達に降りかかる事は避けたい。丸一日と少し、家族とは一緒にいる方が良さそうだ。 

 

「俺らには関係ないけど、巻き込まれると危ねえからな。夜ももう遅いし、今日はさっさと寝て明日に備えようぜ。パンフレット見たけど、映画館とかプールとか、カジノまでついてるみたいだから暇になることはないだろ」

 

 カジノが子供が入れるかどうかはわからないが。

 

 深夜出航したこともあり、すでに深夜二時を回っている。非日常に興奮して寝ていないだけで、普段であれば寝ている時間。美容的にも、夜更かしは大敵。特に反対意見も出ることもなく、俺たちは部屋へと戻ることにした。

 

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