一番星の王子さま   作:160万のワインを飲み損ねた

48 / 171
感想、誤字報告だけでなく、評価、お気に入り登録までありがとうございます。


11

 

 昨夜、社長達だけが集められトーナメントの組み合わせ抽選会が行われた。スロットのような機械を回して、数字が大きい人から好きな場所を選べるようで、一番数字が大きかったのは山下さんだったらしい。会長は現拳願会のトップということもあり、シード枠にあてがわれていた。他の企業は『滅堂の牙』との早期仕合を避けるべく、遠い位置を取りに動いた。苺プロは割と後半の順位だったらしく、俺の仕合はABCDと四ブロックある内のDブロック一仕合目。今日一日で全十六仕合を実施するため、出番まではまだ十分時間がある。

 

 仕合が行われる会場は拳願ドーム、約十万人は収容できるほどの巨大さは、かつてB小町がライブを行ったドームの約二倍の規模となる。いわゆるVIP席には各国首脳陣も来ているとのことで、どれだけ絶命トーナメントが世界的に見ても注目されているかがわかる。

 

 会場内に設置されている全てのモニターには、現在トーナメント表が映し出されていた。

 

 

 Aブロック

 第一仕合 河野春男(NENTENDO) vs 鎧塚サーパイン(夜明けの村)

 第二仕合 賀露吉成(あじろ水産) vs 桐生刹那(皇桜学園グループ)

 第三仕合 今井コスモ(西品治警備保障) vs アダム・ダッドリー(ボスバーガー)

 第四仕合 十鬼蛇王馬(山下商事) vs 呉雷庵(アンダーマウント)

 

 Bブロック

 第五仕合 阿古屋清秋(若桜生命) vs 二階堂蓮(白夜新聞)

 第六仕合 初見泉(乃木グループ) vs 因幡良(ペナソニック)

 第七仕合 室淵剛三(ユナイテッド・クロージング) vs ユリウス・ラインホルト(東洋電力)

 第八仕合 坂東洋平(十王通信) vs 英はじめ(帝都大学)

 

 Cブロック

 第九仕合 関林ジュン(ガンダイ) vs 鬼王山尊(禍谷園)

 第十仕合 若槻武士(古海製薬) vs 沢田慶三郎(マーダーミュージック)

 第十一仕合 目黒正樹(海一証券) vs ムテバ・ギゼンガ(岩美重工)

 第十二仕合 理人(SH冷凍) vs 黒木玄斎(モーターヘッドモーターズ)

 

 Dブロック

 第十三仕合 茂吉ロビンソン(セントリー) vs 日向桂(苺プロダクション)

 第十四仕合 御雷零(ゴールドプレジャーグループ) vs 千葉貴之(義武不動産)

 第十五仕合 氷室涼(義伊國屋) vs ガオラン・ウォンサワット(八頭貿易)

 第十六仕合 大久保直也(ムジテレビ) vs 根津マサミ(栃木デスティニーランド)

 シード枠 加納アギト(大日本銀行)

 

 

 会場の灯りが消えると、しばらくして中央にいる女性にライトが集中する。驚くとは言っていたが、この事か。確かに器用万能なイメージがあったから、華やかさも含めて適任に思えた。

 

『皆様、お待たせいたしました。これより! 拳願絶命トーナメントを開始いたします!!』

 

 スピーカーからは、鞘香嬢の声が聞こえてくる。

 

 開始の宣言に伴って、会場は一気に湧き上がった。

 

「鞘香ちゃんだ! すごーい、司会やるんだ!」

 

 ルビーは手を振っているが、はたして気づいてもらえるか。そういや、烈堂坊ちゃん見ていない。護衛者の中でも指折りが入る殲滅部隊という物騒な名前の部隊を率いているはずだが、外周警備かもしれない。

 

 トーナメントは全五日。

 

 一回戦と二回戦の後にそれぞれ中休みがあり、最終日には第三回戦以降、つまりは準々決勝から決勝にかけて一気に行われる。やはりスケジュール的に見てもかなりハードだ。

 

『さあ、いよいよ皆様お待ちかね、第一仕合の開始です!!』

 

 鞘香嬢の選手紹介に入る。

 

「無理して見る必要ねえからな、気分悪くなったらちゃんと言えよ」

 

 その言葉に返事はなかった。誰もがついに始まる仕合に注目している。

 

 まず出て来たのは、NENTENDO代表の河野春男。身長二四〇センチ越え、体重三〇〇キロ越えの超巨体。通算仕合数は四戦だけにも関わらず、三〇〇〇億円超を稼いでいる。

 

「なんだあの大きさ。本当に同じ人間か」

「あんな人間いたらそりゃあ強いわよ」

 

 社長とミヤコさんの言葉に同意。何を食べたらあそこまでデカくなるのだろうか。長らくこの業界に携わってきたが、歴代最高の身長と体重だと思う。あの特異体質を持つ若槻さんでさえ、体重は二〇〇キロを越えていない。

 

 対戦相手の紹介が始まる前に、例の如くフライングにてサーパインが走りながら入場する。雄叫びはマイクを使っているはずの鞘香嬢の声を掻き消し、会場全てに届かんとする勢い。こちらは一七勝して二〇〇〇億円超え。

 

 毎仕合賭けが行われるため、現在のモニターではオッズが表示されている。競っているが、わずかに河野が優勢。体格差を考えても普通はそう考えるだろう。ただ結局勝敗がどうなるかなど、よほどの差がない限りはやってみなければわからない。

 

「あれだけ声量あったらマイクいらずだね」

 

 なんならマイクを破壊しそうだ。

 

「仕合となると普段以上にうるせえな」

「知ってるの?」

「何度か仕合見たことあるし、いつだったか俺の仕合見に来てた時に絡まれて、そこから会う度にうるせえの何の」

「その割には嫌そうじゃないね」

「割と聞き分けは良いしな。騒がしいだけで悪い奴じゃねえよ。……なんで笑ってんだ?」

 

 嫌がることを無理やるやる奴ではない。ちゃんと理由を話せば納得もしてくれるから、本当にうるさいことを除けば真っ当な奴だ。

 

「ううん、友達いて良かったねーって思って」

「別に友達って訳じゃねえよ」

「またそんな事言う」

 

 闘技者の関係は複雑だ。顔見知りというほど薄くはなく、友達と言われるほど濃くもない。同業者と呼ぶにも、何か違う。

 

 アイと会話をしている間にも、仕合が始まった。

 

 両者清々しいまでのど付き合い。

 

 手数はサーパインが多いが、一撃重さは河野の方が圧倒的に上。二〇〇キロを超える体重さにサーパインが文字通り足を掴まれて振り回され、吹っ飛ばされるが、あいつの体も普通とは言えない。すぐさま起き上がり、気合いの咆哮を上げて再び特攻をかける。初戦からアクセル全開の激しい仕合に、会場の熱気もそれに追従するかのように上がっていく。

 

 仕合の勝敗を分けることになったのは、最後のサーパインの膝蹴り。

 

 人類最高硬度を誇るサーパインの骨。それをベースに繰り出される拳と蹴りが河野の膝にダメージを蓄積させたことに加えて、河野自身の体重によって右膝が耐えきれなくなり破壊。体勢が崩れたところに、必殺の頭突きが顔面にクリーンヒットした。あれをまともに受けて立てる奴はいない。

 

「勝者ッ、鎧塚サーパイン!!」

 

 勝者の雄叫びが再び会場を震わせた。

 

 

 

 

 

 

 目を開けて知らない天井があったのは、人生で二回。一回目はその後にアイの姿を見て、小さくなった自分の姿を見て驚いたものだ。二回目は、ここはどこだろう。でも懐かしい匂い。そう、これは病院でよく嗅いでいた。

 

 俺は勢いよく起き上がった。

 

「お兄ちゃん! 大丈夫!?」

「アクア、目が覚めたのね」

 

 ルビーとミヤコさんが心配そうに俺を見てくる。辺りを見渡しても、父さんと母さん、社長の姿は見えなかった。

 

「アイ達は少し前までいたけれど、仕合が近いからそっちに行かせたわ」

 

 父さんの仕合はDブロック。A、Bブロックが終わって昼を挟み、Cブロックが始まるはずだったからだいぶ意識を失ってしまったようだ。

 

「目が覚めたようだね。失礼ーーーうん、問題ないようだね」

 

 白衣を着た、医者と思われる男性に目にライトを当てられ、瞳孔の収縮瞳孔径と眼球の向きの確認、対光反射を確認される。

 

「さて、日向アクアマリン君、君はどこまで記憶があるかな?」

 

 一瞬前世の事かと思って心臓が飛び出そうになったが、すぐに仕合のことだと理解した。

 

「確か、仕合を見ていて……二回戦の時にーーー」

 

 吐き気がまた込み上げてくる。

 

 一回戦は二人とも血まみれになりながら戦っていたけれど、見ている分には大丈夫だった。前世の職業柄、血には慣れているつもりだ。

 

 だけど二回戦、賀露さんと桐生さんの仕合。原理がよくわからない捩れる打撃が賀露さんの心臓を捉えて、そのまま賀露さんが倒れた事を見て、俺は死を思い出した。

 

 一つ目の死は、特に救いたかったけど救えなかった子。まだ幼かったのに、夢があったのに、大病で衰弱して最後に大事な宝物を託して死んでしまったさりなちゃん。さりなちゃんの事を忘れたことなどない。産医だから、当然この世に生まれてくることができなかった赤子だって見たこともある。救えなかったのはさりなちゃんだけじゃないけれど、俺が前世での後悔があるとすれば、間違いなく彼女を救えなかったことだ。

 

 二つ目は、他ならぬ俺自身。うろ覚えだった記憶が、あの時突然フラッシュバックしてきた。

 

 俺は、俺に殺された。間違いない。自分で言っていても意味がわからないが、顔も声も、あれは紛れもなく雨宮吾郎だった。

 

「ふむ、大方戻っているようだね。君は賀露吉成と桐生刹那との仕合を見た後、過呼吸になり意識を失った。凄惨な仕合を見てしまったことが原因だろう」

 

 医者とはいえ、前世のことなど初対面の人間に話せるわけもなく、かと言って同じく転生したルビーに話すのも違う。

 

「恥ずかしがることじゃない。君くらいの年齢ならば、それが正常な反応だよ。全く、精神が未成熟な子供がいるというのに、闘技者たちは御構い無しさ」

 

 俺が黙っていることを別の意味に捉えてくれた先生がフォローをしてくれる。

 

「それ、先生が仰いますか……」

 

 何のことかはわからず、ルビーとミヤコさんの方を見てしまう。二人とも顔色が悪い。

 

「英先生は坂東って言うグニャグニャする人と戦って、剣出したり、踵をボンって爆発させて戦ったんだけど、首折られて負けちゃったの……」

「は? 剣? 爆発? それに首? 首が折れたら死んじゃうだろ」

 

 ルビーが説明してくれるが、武器は禁止じゃなかったのだろうか。それに坂東洋平という名にも覚えがあった。まだ俺が雨宮吾郎だった頃、帝都大学の医学生だった彼の凶行をニュースで見たことがある。暴力団の事務所を単身で襲撃、組員と駆けつけた警察さえも殺した大量殺人鬼。何年か経った後に東京の大学に出ると言ったときも、祖母に随分と反対されたものだ。

 

「ルビー君、説明ありがとう。私は医者だからね、万が一に備えて色々と仕込んで置いたんだよ。それに付け加えるなら、コレはロマンだよ。アクアマリン君も男の子だ、隠し武器だったり、体を改造してみたい気持ちはわかってくれるだろう?」

 

 英先生は両腕から本当に剣を出し、それを叩き合わせた。音的に金属ではなさそうだ。疑問が顔に出ていたのか、自身の大腿骨を切り離して加工、手術して取り付けてくれたものらしい。ちなみに爆発は踵に仕込んだ高圧ガスとの事。意味がわからないが、どうやらルビーの説明は間違っていなかったみたいだ。

 

「いえ、全然わからないです」

「ふむ。それは残念」

 

 さらにはその後遺症でまだ少し痺れが残っているらしく、解剖ができるのはもう少し先だと至極残念そうに呟いていた。

 

「あの、俺はいつ頃」

「最低でも君は……いや、ルビー君も含めて今日一日はここにいた方が良い。君が倒れた後も平和に進んだとは言い難いからね。残りの仕合もどうなることやら。お父上の仕合というのであれば、尚更だ」

 

 言い出そうとしたことに先に反論される。いや、全くもって正論か。

 

 モニターを見れば、Cブロック第四仕合である理人さんと黒木さんの仕合が終わったところだった。倒れ込んだ理人さんに、担架を持ったスタッフが駆けつけている。

 

 先生が解剖しがいがありそうだ、なんて呟いているが、本当に大丈夫か。

 

「少年、すまないな」

 

 低く重低音な声が、隣のベッドから聞こえる。仕切りが開かれ賀露さんが顔を見せた。治療されたようで包帯を巻かれているが、どうやら無事だったらしい。賀露さんも体が大きいから、医務室と思われるこの部屋にあるベッドでは小さそうだ。

 

「俺が弱かったせいで、辛い思いをさせてしまった」

「賀露さんが謝ることじゃないです。俺の方こそすみません」

 

 モニター上では既に次仕合のオッズが表示されており、賭けが始められている。聞けばやはり死人は出てしまったようで、言葉通りの絶命トーナメントだという事を嫌でも再認識させてくる。会長の座など、命を賭してまで欲しい物なのだろうか。理解できない。

 

『お待たせいたしました。ただいまより、Dブロック第十三仕合を開始いたします!!』

 

 鞘香さんの言葉により、父さんの仕合がついに始まってしまう。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。