一番星の王子さま 作:160万のワインを飲み損ねた
第一仕合勝者 鎧塚サーパイン
第二仕合勝者 桐生刹那
第三仕合勝者 今井コスモ
第四仕合勝者 十鬼蛇王馬
第五試合勝者 阿古屋清秋
第六仕合勝者 初見泉
第七仕合勝者 ユリウス・ラインホルト
第八仕合勝者 坂東洋平
第九仕合勝者 関林ジュン
第十仕合勝者 若槻武士
第十一仕合勝者 ムテバ・ギゼンガ
第十二仕合勝者 黒木玄斎
第十三仕合勝者 日向桂
第十四仕合勝者 御雷零
第十五仕合勝者 ガオラン・ウォンサワット
第十六仕合勝者 大久保直也
一回戦終了後、夜には滅堂ホールと名付けられた別会場で打ち上げパーティーが催されていた。アクアも退院したてということもあり不参加も考えたが、変に気を遣われることを避けたかったのかアクアが行くことを進言したため、家族総出で行く事にした。こういう時、念のためにと持ってきていたフォーマルな衣装が役に立つ。アクアも俺と同じくスーツを着て、ルビーは可愛らしいドレスを、アイもオフショルダーのドレスを身に纏っている。二人して髪が長いから、ハーフアップにして髪飾り以外お揃いの髪型にしていた。
やはり周囲の目を引くのか、視線がこちらに集まってくる。贔屓目抜きにしても容姿が良いから、当然ではあるのだが。
「アクアもルビーも逸れないようにね。もし逸れちゃっても、護衛者さん達がいると思うから、その人たちにちゃんと言うんだよ」
「はーい」
「わかってるよ」
アイが二人に気をつけるように軽く念押しした。会場には大勢の人が集まっているため、小柄な二人、アイを含めると三人だが、逸れてしまうと見つけるのが困難となる。社会的に高い身分の人間が集まっているとはいえ、人として正しいかどうかは別だ。何人かの会員は当然のように愛人を連れてきているし、気をつけるに越したことはない。
大勢いても闘技者の姿は見つけやすい。ガタイが良いこともあるし、皆すこし近づき難いオーラでも放っているのか、周囲に人が少ない。
「良かった、こちらにいらしたんですね」
「意識は戻ったんだな。大丈夫か?」
「ええ、おかげさまで」
だから、茂吉を見つけるのも簡単だった。彼の場合は牧師の正装をしているのもわかりやすい。エレナ嬢も一緒にいる。
「今回は完敗ですが、次は必ずリベンジさせていただきます」
「ああ、また闘ろうぜ」
握手を交わす
仇敵でもない。仕合をする時は双方相手を倒すことを考えて行動するが、仕合が終わってしまえばノーサイド。時間が経った後にあえてすると言うのは、エレナ嬢やルビー達のためだろう。
その後も少し話をして、茂吉達と別れる。
「あーやっと会えた!」
「鞘香ちゃんだ! そのドレスすごい大胆だね」
次いで話しかけてきたのは、司会を務めていた鞘香嬢だった。ルビー達がくることは言っていたが、確かに島に着いてから会えていなかったから気にかけてくれいたのだろう。
胸元がざっくり開いたドレスは露出度が高い。羞恥心が少ないのかスタイルに自信があるのか、ルビーの言う通りかなり大胆だ。
「そうかな? ルビーちゃんはお姫様みたいで可愛いね」
「可愛いでしょ! 髪もママとお揃いにしてみたの」
「アイさんは綺麗な黒でルビーちゃんは綺麗な金色で、良いなー」
「鞘香ちゃんの髪も綺麗だよ」
「ふふ、ありがとう。ーーーあ、烈君」
鞘香嬢にジャケットが掛けられる。
「姉ちゃん。ちょっと肌出しすぎじゃね……。いや、自由だけどさ、冷えると体に悪いから」
少し赤らめた顔をしている烈堂坊ちゃんは、心配しているのも本音だろうが、それ以上に他の男達に見せたくはないのだろう。
「アイさんもアクアとルビーも久しぶりだ……なんだよ二人ともその目して」
「なんでもないよー」
「烈堂さんは相変わらずで安心したよ」
年はひとまわり近く違うが、昔から付き合いがあるためアクアとルビーからしても、この二人は従兄弟のような関係になっている。烈堂坊ちゃんは顔に墨入れたことでぱっと見取っ付きにくくなっているが、中身は昔から変わっていない。彼も、茂吉とはまた違ったシスコン。それが変わっていないことを理解して二人もある意味安心したのかもしれない。
「烈堂坊ちゃんも仕事終わりか?」
「坊ちゃんは止めてくれ。アンタに言われるとむず痒いんだよ、普通に烈堂で良い。仕事は終わったけど、親父が追加ルールを発表するって言うから、一応警備に来たんだ」
他の護衛者には同じように坊ちゃんや若と言われているのに何が違うのだろうか。
「追加ルールってどんな?」
「いや、俺も詳しくは知らない。多分これから発表されるとは思うんだけど」
アイの質問に、烈堂も何が追加されるかまではわかっていないようだ。
タイミングよく、プロジェクターから会長の胸像が映し出される。
『はろ〜皆の衆。打ち上げパーティーは楽しんどるかの?』
間延びした言い方ではあるが、会場の空気が張り詰めた。どんなとんでもないルールが追加されるのかと、誰もが息を呑む。
二回戦以降、一度だけ闘技者の変更を認める。人選は本人の合意さえあれば一切自由。変更は仕合直前まで可。
その短いメッセージを残して放送は終わった。
会場内は、その追加ルールに対する話題で各々のグループ内で話し始めた。静まり返った会場が再び騒つく。
「あのメッセージってそんなに重要なこと?」
アイの言う通り、言葉通りに受け止めれば単にリザーバーを認めるという内容。知らないとアンフェアだと言ってまで放送する内容でもなく、なんなら大会時に初めからあっても良かったルールだ。
「一切自由ってところが、だろうな。要は引き抜きしてもオッケーって意味だろ」
「一回戦に負けちゃった人をまた雇っても意味あるの?」
「それよりは残ってる闘技者の方だな。例えば、乃木グループがすげえ高い金を払うから俺に王馬の代わりに仕合に出ろって依頼してきて、それを受諾して出るケースもあり得るんだよ」
一回戦敗退の中でも、呉雷庵がいる。王馬と戦って負けはしたが、実力は抜きん出ていた。品種改良によって頑強な肉体を持つ呉一族であれば、明後日になれば普通の闘技者以上に回復してくるだろうし、連戦にも向いている。
「あーそっか、新しい人と交換じゃなくて、残ってる闘技者を買収しても良いんだ」
「今回は初出場が多いし、闘技者を金で雇ってる企業も多いだろうしな」
加納さんを他の企業が買収することは不可能だろうが、モーターヘッドモーターズが採用した黒木玄斎であればどうだろうか。黒木さんの人となりはまだ話したことがないのでわからないが、もし買収できるのであればその企業は一気に優勝に近づく。理人戦では全てをまるで見せていないが、レベルの差は誰が見ても歴然だった。
東洋電力が直接動くこともないだろう。ほぼ無傷で勝ち上がったユリウスがいる以上、他の闘技者に交代するメリットはほぼない。あるとすれば、苺プロにやったように圧力をかけて手駒に闘技者を変えることだろうか。
「二階堂蓮と目黒正樹は東洋電力が雇った闘技者だった。どっちも一回戦敗退、しかも目黒に関しては死んだが、二階堂には奴が率いてる天狼衆がある。速水の側には守護者もいるし、奴らの動きにも気をつけておいた方が良い」
烈堂が小さい声で情報を伝えてくれる。
守護者は詳しくは知らないが、簡単に言えば護衛者達の速水会長バージョン。黒服に対して白服で、意識しているのが丸わかりだ。
「ありがたいが、良いのか? 今は一応敵対企業だろ?」
「大したことは言ってねえよ。書類上の兄貴にこれくらい言ったって文句は言われねえさ」
それを言えば俺以外に何人も兄弟はいることになるが、烈堂なりに心配してくれているのだろう。
烈堂と鞘香嬢がその場を離れると、俺たちもしばらく楽しんだ後に宿泊しているホテルへと戻った。
翌朝、目を開けるとカーテンの隙間からは明かりが入り込んでいた。起きようとすると突っかかりを覚え、見てみるとアイが俺のシャツを握って横向きに寝ていた。部屋は広いもののベッドはキングサイズのそれが二つ。流石に四人で一つのベッドで寝るのは狭いため二人ずつ別れるのだが、昨夜は俺とアイ、アクアとルビーの組み合わせになった。
子供達の方を見る。二人ともまだ寝ているようだ。
俺も再び寝る体勢になりながらも、アイを起こさないように気をつけながら頭を撫でる。普段から手入れをしているからか本当に綺麗な髪だ。最初も考えたようで考えていなかったが、大変な事に巻き込んでしまったものだ。もし今のまま過去に戻れるのであれば、仕合のことはずっと隠し通していたかもしれない。
たまに思うことがある。もしそうなった場合、俺とアイはどうなっていたのだろうか。もしかしたら結婚はおろか付き合うこともなかったのではないか、と。本音を隠して嘘をついて、アイも俺が嘘を付いていることには気づきつつも気づかない嘘をつく。もしかしたら別の男と一緒になっていたかもしれない。そんな事にはなっていない以上考えるだけ無駄なのだが、そう考えるからそこ、絶対に離したくはない。
「ん……、起きてるの?」
「ついさっきな。まだ二人も寝てるから、寝てて良いぞ」
中休みの今日は特に予定がある訳ではない。一日で急に強くなれるほど簡単なものではないから、身体を痛めつけて修行をするよりも、コンディションを整える方に注力した方が良い。肉体の調整であればそこまで時間もかからないし、メンタル面であれば家族と一緒にいるに越したことはない。
「ねてる……? じゃあ、おいで?」
半開きの目。アイは目が覚めたわけではなく、まだ寝ぼけているようだ。シャツを掴んでいた手を離しては、両腕を上に伸ばしてハグを要求してくる。
改めて子供達を見て、それに応える。体重をかけないように注意しながらも抱きしめた。出るところは出ているが、それでも小柄な体は包み込めるではないかと思えるほどに小さい。にもかかわらず、その温かさは逆に俺を包んでくれる。
時折もぞもぞと動いて、首筋に当たる寝息がこそばゆい。
軽く首筋を噛みつかれ、足が絡んできたところで、ようやく気づいた。
「……目覚めてんだろ」
「バレた?」
小さい声で言うと、アイは舌を出してきた。
「首噛んできてやっと気づいたよ」
「さすがの演技でしょ?」
「さすがだけど、二人が起きたらどうするんだよ」
他所の家族の事情はわからないが、仲が良い家族でもこういったところまでは子供達には見せないだろう。仲良いことはわかっていたとしても、自分の親がベッドでいちゃついている姿は見たくないはずだ。
「まだ起きてないからこれくらいなら大丈夫だよ。それとも、嫌だった?」
悲しそうな表情にその聞き方はずるい。
「嫌じゃねえけどさ」
「じゃあ良いじゃん。起きるまでこうやってくっついていようよ」
俺が大丈夫じゃなくなるが、仕方ない。我慢すれば良いだけだ。少し強く抱きしめれば、アイは満足したように同じように力を強めた。
少し経てばアイはおそらくは本当に寝落ちして、俺は全然寝れる気配がない。悶々とした時間は、アクアが目を覚ます一時間後まで続いた。
朝八時過ぎ、ルームサービスで朝食を済ませる。各々が着替えた後は完全に自由時間となる。
ルビーはエレナ嬢とカルラ嬢から川で遊ぼうと言われているようで、ひとまず山下さん達がホテルから移って宿泊しているペンションに向かうようだった。少し確かめたいこともあったので、部屋でゆっくりしていると言っていたアクアも連れて、全員でそちらへと移動した。
ペンションに行くと、ちょうどカルラ嬢が王馬を外から呼んでいるところだった。なぜか引率役として英先生と、助手の吉沢さんが来てくれており、万が一の事故があっても二人がいれば安心だろう。
王馬は結局出てこない。山下さんからはこそっと隠れていることを教えてもらった。何やってんだあいつは。
俺も川には誘われたが、あくまでアクアとルビーを送りに来ただけだと説明して、皆は俺たちを残して川へと向かった。
カルラ嬢達の姿が見えなくなると、ペンションの扉がゆっくりと開く。周囲を警戒しながら王馬が覗いてくる。
「カルラ嬢なら川へ行ったからいねえよ」
「そうか。……なんでお前がいんだよ」
王馬が出てくると、後ろから護衛者の吉岡さんも出てくる。
「ルビー達の送迎と、お前の様子を見にな。思ってたより元気そうで何よりだよ」
「お陰様でな。昨日の夜まで呉一族の治療をぶっ続けで受けてたからな。体は嘘みてえに軽いぜ」
雷庵との仕合後に医務室にいないと思っていたら、まさか呉一族の治療を受けていたとは思わなかった。殺しに長けている分、逆に生かす術もお手のものということだろうか。それにしても、いくら身内に勝ったとは言えよく認めたものだ。
「呉一族、ね。晴れて婿に認めてもらったのか」
「知らねえよ。そもそも俺はカルラと結婚する気はねえ。まだガキじゃねえか」
高校生と言っていたから、王馬の年はわからないもののざっくり十歳程度の差があるのか。
「ええ〜。カルラちゃん可愛いし良いじゃん。オーマさんが何歳か知らないけど、誤差だよ誤差。芸能界じゃ年の差婚だって珍しくないよ」
「アンタも余計なことアイツに言うんじゃねえよ。飯行く事になっちまったじゃねえか」
「ほんと!? いつ? どこ行くの? おすすめのお店教えてあげよっか」
「いらねえ。そんな先のことなんてわからねえし、飯もこの島で十分だろ」
アイは不満そうだが、王馬の言い方に引っ掛かるものを覚えたのでアイを止める。仕合の結果によっては死ぬこともあり得るが、それ以上に王馬は憑神の多様で寿命を削っている。王馬の性格を考えれば、こいつが懸念しているのは後者の方だろう。最悪自分の心臓の限界を察していてもおかしくはない。
「最初はヨシオカに頼もうと思ったが、お前がいるならちょうど良い。ちょっと手伝ってくれ」
「構わねえよ、俺も調整したかったしな。……アイも悪いな、そんな時間はかからねえと思うが、ちょっと待っててくれ」
「良いよ。待ってるね」
ちょうどペンションの前には程よい広さがあったので、簡単に組み手を始める。アイは吉岡さんが気を遣って持ってきてくれた椅子に腰掛けがら、飲み物を飲みながら俺たちの訓練を見ていた。
午前中はそれで終わり、午後は少しだけアイと二人で過ごすことができた。夕方になればわざわざ英先生がアクアとルビーを送り届けてくれて、夜は壮行会会場で食事をする。
夜が更け、明けていく。
そしていよいよ、絶命トーナメント二回戦が幕を上げた。