一番星の王子さま   作:160万のワインを飲み損ねた

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 加納さんの負け。

 

 それがもたらす意味は大きい。これまでは名実共に玉座にいた加納さんが、ついにその座を誰かへと渡すこととなったのだ。次に座るのは王馬か、黒木さんか。いずれにしても、間違いなく新たな流れができる。拳願会としても、半世紀にも及ぶ会長の政権が終わる事で、波乱が待ち構えていることは間違いない。

 

 これはどの分野でも同じなのだろう。かつて破竹の勢いでトップまで上り詰めたB小町が解散をした後、アイドル業界も戦国時代に入っている。新たなトップが生まれたと思えば、翌年、早ければ半年で次の王が誕生している。

 

「なんだよ、随分と良い席にいるじゃねえか」

 

 上から降ってくる氷室の声と共に、多く足音が近づいてくる。

 

「そっちこそVIP席にいたんだろ? わざわざ降りて来たのかよ」

「おうよ、あんな遠くから観戦なんてしてられねえぜ!」

 

 代わりに答えたのは関林さんだった。他の闘技者も次から次へと降りて来ては、決勝戦を間近で見届けようとしていた。

 

 そしていよいよ、二人が入場してくる。

 

『決勝でのこの対戦カードを、誰が予想していたでしょうか!? 優勝候補とされていた強豪達を打ち破り、ついに! ついに決勝出場者が出揃いました!!』

 

 トーナメントが始まるまで、予想は加納さんを筆頭に、拳願仕合にて好成績を残している闘技者達だった。蓋を開けてみれば、トーナメント前に数仕合しかしていない王馬と、初参戦の黒木さん。会場にいる誰もが思ってもいなかった組み合わせだろう。

 

『我々は今、新たな時代の幕開けを目にしています!! 新時代の王者は阿修羅か、魔槍か。いよいよ決勝戦の開始です!!』

 

 鞘香嬢の宣言に、会場が一斉に静まり返った。

 

 審判のコールが会場全体に響く。

 

 二人が構える。

 

「オーマさんの動き、どこかぎこちなくない?」

「最小限の力で動く技があるからそれだろうな」

 

 操流ノ型極、傀儡。省エネか、もはやそうせざるを得ないか。準決勝でも出力はどうあれ憑神を使った以上、それの影響もあるのだろう。

 

「準備は良いな!? ーーー始めェェッッ!!」

 

 王馬は先読みを使えない。黒木さんに完全に読まれてしまえば、勝つのは難しくなる。だからこそ、開始宣言と共に攻めた。

 

 操流ノ型、水天ノ型、火天ノ型、金剛ノ型。傀儡をベースにする事で最小限の力で四系統に繋いでいく。歩法で惑わし、奇襲を仕掛け、不規則な打撃を放つ。それでも、黒木さんはそれら全てに対応をしていく。

 

 誰かが、規格外だと口にした。

 

 二虎流の事を知っているとは言っても、相手は王馬。決勝まで上り詰めた実力者。それをよくあそこまで完璧に対処できるものだ。

 

 ようやく王馬の打撃が黒木さんを捉えた。幽歩による離脱からの、省エネ版の憑神の使用しての強襲。勝っても負けても、これが最後になるかもしれない。

 

「最後なら勝って終われよ」

 

 二虎流を制限なく使える今の状態がベスト。半分にも満たない出力だが、相手は黒木さん。純粋な身体能力では呉一族さえも上回り随一の若槻さん相手に勝った以上、それでは勝負できない。出力を上げるよりも、この省エネモードの方が良い。

 

 優位に立てていたのはわずかな時間だった。憑神を使用している状態に慣れたのか、一気に攻勢に出た。

 

 的確で重い攻撃。足の魔槍。肘打ち、裏拳、手刀。

 

 あれは水月か。

 水天と操流の複合技によって急所は避け、ダメージも散らしている。だがそれでも、ゼロにはできていない。水月だけでなく、操流ノ型、流刃で手甲を使って攻撃も逸らしていくも、王馬の体が赤く染まっていく。

 

 王馬は攻める際に絞技を使わない。カウンター向きの章魚や双魚之縛も使えるはずだが、魔槍を警戒しているのだろう。加納さんとの試合で折れたものの、親指は顕在。それだけでも出来そうなのが怖い所だ。

 

 警戒が判断を遅らせる。ついに顎にもらい、一気に畳み掛けられる。

 

 距離を取れ、立て直せ、耐えろ。

 

 王馬への声援は、本人に届いているかどうか。なんとか踏ん張り、一撃返す。

 

 そして最後の攻防。

 

 満身創痍の中、最後に王馬は、ここ一番で放たれた魔槍に対して前借りと鬼鏖を併せて放つ。誰の二虎流でもない。王馬自身の二つの奥義を掛け合わせた渾身の一手。

 

 だがそれでも、黒木さんには届かなかった。

 

 黒木さんが新たな王者となり、俺たちのトーナメントが終わる。

 

 

 

 トーナメントの後は打ち上げパーティが開催されていた。今日が最終日。船が出るのも夜だから、出港まではどんちゃん騒ぎだ。

 

「あーあ、もう終わりかあ」

 

 名残惜しそうにちびちびと飲み物も飲むルビーの前には、色々な出店から取ってきた食べ物がずらりと並んでいる。

 

「ルビーは楽しめた?」

「うん! 怖い時もあったけど、友達もできたし私は満足だよ」

 

 交友関係が大きく広がったことは、今後様々なことに役立っていくだろう。

 

「アクアは?」

「正直、やっと終わったっていうのが本音かな。でも色々と仕合を見て、色々な人と話して、自分の将来についても考えられたと思う」

「将来? 役者さんじゃないの?」

「色々な人生を体験してるみたいで、役者も本当に面白いよ。最後まで悩んだけど……けどやっぱり、俺は誰かを救う仕事がしたいんだって改めて思ったんだ。もちろん役者だって役を通じてできるはずだけど、もっと直接的が良いっていうか。ーーーだから、医者を目指そうと思うんだ」

 

 アクアの言う通り、役者も、例えば入院している患者を勇気づけるなどして間接的に助かることはできる。確か海外の俳優たちが直接患者の下へ訪れる事をやっていると聞いたことがあった。それも素晴らしい事だとは思うが、アクアはより直接的な方を選んだのだろう。

 

「アクアもやりたい事を見つけたんだね」

「うん。だから役者は高校までで辞めようと思う。卒業したらちゃんと医学に専念したいんだ」

 

 アクアの目には迷いはなかった。随分と逞しくなったように思える。

 

「そっか。それがアクアの決めた事なら、私は反対しないよ」

 

 アイの言葉通り、やりたい事であるのであればそれを止める事はない。医学部は他の学部に比べて在籍年数も多く、学費も高いとは聞くが、幸いにも稼ぎは十分にある。俺だけでも何とかなるだろうが、天下の大女優がいる以上金銭の心配は皆無。いつからか、当たり前のようにアイの稼ぎの方が多くなっていた。確定申告をする際に金額を見たとき、改めて売れている芸能人の凄さを思ったものだ。

 

「ありがとう。頑張るよ」

 

 学部は聞くまでもないだろう。

 

 アクアは優しいからこそ、このトーナメント中に苦しむことも多かったはず。だが、ちゃんと得られる物もあったとわかると安心してしまう。

 

「ごめんなさい、少し良いかしら?」

 

 アクアが将来を決めた後たわいのない話をしていると、俺たちのところに来たのは、御雷と倉吉さんだった。そういえば、御雷とは二回戦以降話をしていない。

 

 座るかどうかを聞けば、時間はかからないからと御雷は立ったまま話し始める。

 

「負けたことに言い訳はしない。俺が、暗殺拳ではなく拳法としての雷心流が、未熟だったから負けた事は間違いないからな。だから新しい雷心流を磨き上げたら、もう一度勝負をして欲しい」

「ああ、いつでも闘ろうぜ。このまま拳願会で仕合するなら、どこかで戦えるかもしれないしな」

 

 芸能とナイトレジャー、なかなか無いとは思うが無いわけではないだろう。それに会長が変わる今、その辺りも変化があるかもしれない。

 

「いや、理乃にはすでに伝えているが、仕合にはしばらく出ないつもりだ。課題を残したままにはしたくはない」

「しばらくは修行に専念するのか」

「ああ、候補地はすでに決めてるんだ。そこで新しい雷心流が完成させる。仕合への復帰はそれからだ」

 

 二、三年、もしかしたらそれよりも長い間かもしれない。戦ってみて分かった事は、雷心流は最速最短の攻撃が多いから、暗殺という事を考えれば本来は短刀などを使う流派なのかもしれない。あの速度で刺されれば、不壊では到底防げない。

 

「そうか。その時までに、俺も修行してもっと強くなってやるさ」

 

 俺もまだまだ強くなれる。手札は多いに越した事はないが、黒木さんを見て思ったのは、新しく技を作るよりも一つ一つの技の練度を上げる方が良いと言う事。

 

「望むところだ」

 

 御雷と倉吉さんは手を繋いで去っていく。倉吉さんは一度負けた闘技者を二度と使わないせいで色々と噂が立っていたが、あの様子であれば問題なさそうだ。

 

 御雷たちが来た後も、俺達のところには多くの闘技者や関係者達が来て話をしていく。優勝したのは黒木さんなので、指名権は雇用主の鷹風社長にあるが、彼は乃木さんを拳願会の新たな会長として指名したらしい。それを聞いた少し後に、山下さんが慌てた様子で王馬を見ていないか聞いてきた。飯食ってくると言って抜け出したらしい。知らないと答えれば、すぐに走り出してしまった。

 

「オーマさん、抜け出して大丈夫なのかな?」

「大丈夫じゃねえよ。本当に限界まで追い込んだんだ。山下さんには悪いけど、動けてんのも奇跡だろうさ」

 

 英先生とのやりとりから考えても、アクアはおそらくある程度理解している。アイはよくわからないが、先の医務室のやりとりから察してはいたのだろう。

 

「そっか……。ケイとは兄弟みたいで、アクアとルビーにも良くしてくれたのにね……」

「だから兄弟じゃ……いや、そうだな」

 

 最初に会ってからトーナメントが始まるまで、何かと家に来ては修行して飯食っていた。俺にはともかくとして、アイやアクアとルビーには割と始めから懐く、と言うのも変な表現だろうが、悪くない関係を築いていた。ひょっとしたら、アイとしては義理の弟のように、アクアとルビーは叔父のようにでも思っていたのかもしれない。

 

 太陽は次第に西の海へと沈み始め、徐々に暗くなって行き、やがて夜となる。提灯に灯りが付き、赤い光が周囲を淡く照らす。王馬の事でずいぶんとしんみりとした空気となった。

 

「最後に英先生の所行って挨拶してくるか。アクアも散々世話になったしな」

「そうだね。俺もちゃんとお礼言っておきたいし」

 

 もしかしたら吉報を聞けるかもしれない、なんて淡い希望を持ちながら提案すると、アクアもそれに便乗してくれる。

 

 軽く周囲を見てみるが、白衣の姿は見当たらない。

 

 医務室にいるだろうと思って四人で向かっていると、奇跡的に鉢合わせる。英先生の手には何かの箱と、なぜか後ろには護衛者達がいた。

 

「おや、まさかこのタイミングで鉢合わせてしまうとは。コレと言い、どうやら王馬君は悪運が強いようだ」

 

 護衛者達が陰になって見えなかったが、王馬が運ばれてきたようだ。

 

「桂君。もしかしたら君の助けを借りるかもしれないが、その時は良いかな?」

「俺の助け? ……ああ、そういうことか。死なない程度に取ってくれて良いぜ」

 

 お互いの誕生日さえも知らないが、多分同じはずだ。

 

 ここで起こったことは他言無用とされ、王馬の雇用主である山下さんへ伝えることを禁じられた。

 

 あっという間にそれも終わり、王馬が長い眠りについた事が公表された。

 

 俺たちも帰りの船にはなんとか間に合い、それに乗り込む。ここからまた長い旅になるが、どうにも目が覚めて四人とも甲板に出て空を眺めていた。以前星を見に行った時と同じように、雲ひとつない空には、星がこれでもかと言うほど散りばめられていた。

 

 長い船旅を終え、本土へと戻ってくる。

 

 それぞれの場所へと帰っていき、俺たちもようやく自分たちの家へと帰ってきた。二週間にも満たない時間、それでも実に濃い時間を過ごした。

 

 それはアイも、アクアもルビーも同じだったのだろう。家に着いた時は全員でホッと息をついた。

 

「ただいま」

 

 四人全員でそう言った事で、一つの旅がようやく終わったような気がした。

 




Q.あなたから見た日向桂は?

A.
王馬:いつか本気で闘ろうぜ
アギト:好敵手。拳願仕合の王ではなくなったが、リベンジはいつでも受けて立とう
若槻:良い奴だな。闘える時を楽しみにしている
関林:プロレスラーになりたいなら大歓迎だ。いつでも声をかけてくれ。
黒木:強き者。いずれ拳を交えてみたい
御雷:仕合には負けたが、愛の強さでは負けたつもりはない。リベンジは必ず果たす
氷室:友人。また飲みに行こうぜ
金田:ぜひお手合わせ願いたいですね。
コスモ:強いよね。トーナメントじゃできなかったけど、絶対に闘おうね
初見:最近、護身術の講義に呼んでくれねえのはなんでだ?
理人:女の子の紹介ならいつでも言ってくれ!
沢田:良い男♡
大久保:実はタカミー推しやねん。今度紹介してや
茂吉:必ずリベンジさせていただきます。今後ともご家族でお幸せに
阿古屋:……。悪はいずれ滅する
雷庵:あ? ぶっ殺してやるよ
室淵:是非とも闘ってみたいね
アダム:Fu○k!! ガキどもを仕合につれてきてんじゃねーよ
英:なぜあそこまで似ているのか興味が尽きないよ。解剖をお望みであればすぐに連絡して欲しい。
鬼王山:話した事ねえから知らねえよ。仕合で当たればぶちのめすだけだ
賀露:特にないが、心優しい息子を持ったな
ガオラン:加納との仕合、実に見事だった。許されるのであれば、一武闘家として闘ってみたい
サーパイン:ダチだ! 家族のために闘うなんて熱い男だぜ!!
刹那:可哀想な人。これは以前も今も変わらないよ
ムテバ:良い女を連れているな。もし1ダースの良き女を当てがってくれるなら依頼を受けても良いぞ
ユリウス:細い。真の強者に技など不要だ
千葉:ご家族が役者と聞いているよ。ぜひ一度、役者として話してみたいものだね
春男:ほとんど話した事ないからなあ。今度プロレスラーとしてデビューすることになったので、ぜひご家族で見に来てください
因幡:小生意気な後輩かな。まさか闘技者になってるとは思わなかったけど。
二階堂:我らの新たな主のご子息か。であれば、まずは自己紹介から始めよう。俺の名前は二階堂蓮。誇り高き天狼衆の長にして稀代の中国武術家だ。そもそも天狼衆というのは旧日本軍特殊部隊の事であり、本トーナメントでは性質上拳闘のみとなったが、本来は武器術にも精通しているのだ。隠し武器の多いので詳しいことは話せないが、例えば……以下略


目黒:死亡のためコメントなし
坂東:面会できずコメントなし
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