一番星の王子さま   作:160万のワインを飲み損ねた

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 トーナメントから早くも一月以上が経過した。季節的には秋になる。それでもお昼時はまだ暑くて、日陰に入ると少し風が気持ち良い、そんな季節。窓を開けて寝たら心地よさそうだけど、仮にも芸能人なので防犯上それもできない。だから寝室から出られるバルコニーに寝る前に出て、ケイとまったり過ごすのは結構好きな時間だったりする。バルコニーからはまん丸のお月様が見えていて、久しぶりにじっくり見てみれば模様がウサギに見えなくもない。星座もそうだけど、昔の人の想像力ってすごいよね。たまにグリーンバックで撮る時あるけど、どうしたってイメージするのが難しい時あるし。

 

 イメージって言えば、芸能人もイメージが大事だから、役柄以外では基本的に明るいキャラを演じているけど、こうして素に戻る時間が大切なんだって改めて実感する。私自身わかってないけど、疲れ、みたいなのはあるんだと思う。陽キャとか陰キャとか、二分した分け方を聞くけど、ほんとの私は陰寄りかな、なんてどこかで聞いた時に思った。ルビーみたいにすぐ誰かと友達になるなんてできないし。

 

 ルビーもアクアも気づいたらすごく大きくなって、私の背はあっという間に越されそうだ。やっぱり私は小柄なんだなって気づいて、子供達が大きくなってくれる嬉しさもあるけど、一番小さいのが私と思うと、なんか複雑な気分だった。

 

 でも、隣を見るとしょーがないか、って思える。身長は、街に出ればいないことはない高さだとは思うけど、厚みがやっぱりすごい。二の腕とか私の太ももくらいあるんじゃないのって思うし。ルビーがこんなに大きくなったらそれはそれで大変だけど、アクアもこれくらい大きくなるのかな? 筋肉をつけなきゃすらっとして、女の子にも今以上にモテそうだ。

 

「そんな見てどうした?」

「何でもないよ。相変わらず大きいなーって思って。あとは手も綺麗に治って良かったねって思ってた」

「何だそりゃあ。手に関しちゃ、ちゃんと言いつけ通り大人しくしてたからな。指輪もサイズ直ししなくて済んで良かったよ」

 

 包帯が取れたケイの左手薬指にはちゃんと指輪が付いている。相変わらず修行とか仕合の度に付け外ししてるみたい。まだ子供達が小さかった時かな、無理してつけなくても良いよって言ったら、拗ねられたことがあった。全然他意はなくて、私も仕事柄外すことがあるからの提案だったんだけど……うん、あれは私が悪かった。

 

「良かった良かった。ねえ、明日はほんとに一日良いの?」

「最近そういう時間取れてなかったしな。リハビリがてら色んな物持つのも大事だろ」

 

 少し戯けたように言ってくる。

 

 アクアとルビーも来年からは中学生で、元からそうだったけどほとんど手がかからなくなってきた。私も仕事が忙しかったし、ケイも修行とかで朝だけいないとか多くて、丸一日二人で過ごす時間は中々取れてなかった。

 

「楽しみだなあ。朝はどうする? せっかくだし待ち合わせとかしちゃう?」

 

 自分でも浮かれてるのがわかる。でもしょーがないよね。もうアラサーなんて言われる年になっちゃったし、結婚して一〇年以上経ったけど、いくつになっても楽しみなものは楽しみなんだから。

 

「それもありだな。少し歩くけどハチ公前にでも集まるか?」

「良いねー、そしたら久しぶりにちゃんと変装していこうかな」

 

 平日でも人が多く集まるから、この辺りはちゃんとやっておかないとね。私より若くて可愛い子なんてこの業界いっぱいいるけど、まだまだ人気な自覚はある。

 

「どんな格好になるか楽しみだな」

「先に行って待ってようか? 誰が私か探す的な」

「待っててもナンパされるだけだろ。待たせるのも好きじゃねえし俺が先に行ってるよ」

「そっか。そしたら私はケイより後に出るね」

 

 ナンパされても無視するだけだけど、気にしてくれる事が嬉しい。つい口元が緩んじゃう。明日は天気予報も晴れだったし、何着ていこうかな。周りに私だってバレないようにしなきゃだから、世間のイメージと変えなきゃだよね。あえてフォーマル感を出していく……のは良くないな。前のドラマの役でOL役だったからそんな服装たくさん着てた。ワンピースは広告にデカデカと使われてたっけ。意外と難しい……あ、そうだ、定番かもだけどあれにしよ。

 

 スマホを見ると、意外と良い時間だった。明日に備えないとね。

 

「そろそろ寝よっか」

 

 ケイも同意して、使ったカップを一階のリビングまで運んでもらう。その間に私はお手洗を済ませてベッドに潜り込む。

 

 ケイが戻ってきて電気を消してくれる。最近はいつもやるわけじゃないけど、今日は気分だったから手探りで手を見つけて繋いでみる。どうせ寝てる間に勝手に離しちゃうんだけど、こうすると安心する。

 

 おやすみ、と言って目を閉じる。

 

 緊張して寝られないかもなんて思ってたけど、ばっちり熟睡。起きたら朝の七時過ぎだった。アラームかけないで起きる朝って良いよね。

 

「おはよー。起きてたんだね。私も起こしてくれて良かったのに」

「おはよう。随分と気持ちよさそうに寝てたからな。半ごろになったらルビーがパン焼くって言ってたから、時間になったら起こすつもりではあったぞ」

 

 あと一五分。目も覚めちゃったし、起きようかな。ベッドの中で体を目一杯伸ばしてから、リビングへと向かった。

 

「あれ、ママ早いね。まだパン焼けてないよ」

「おはよー。目が覚めちゃったから起きてきちゃった。ルビーの料理姿でも見てようかな」

「えー恥ずかしいなあ、って後はパン焼くだけだけどね」

 

 ナイトキャップを被りながらもトースターにパンを入れる我が娘は、動くたびにキャップ先にある飾りが揺れて可愛らしい。

 

 テーブルにはもう目玉焼きとサラダが用意されていて、アクアも座って朝からタブレットをいじっていた。挨拶をすればちゃんと帰ってくる。

 

「アクアは朝から何見てるの?」

「新聞だよ」

「面白い?」

「……面白くて読むものじゃないよ。ちゃんと世の中がどうなっているか知っておかないと損するのは自分だから読んでるんだ」

「へえ〜。アクアは大人だねえ」

 

 さすがはお医者さんを目指す男、インテリだね。

 コーヒー飲みながら新聞を読むって、なんかおじさんみたい、と言いかけて慌てて口を塞いだ。きっと読む人は読むよね。アクアが変に似合ってるのが悪い。

 

「逆に母さんも父さんも読まないの?」

「暇な時にスマホでニュース見るくらいはするよ」

「俺も見ねえな。テレビついてる時に流れてるの見るくらいだ」

「……良くこれまで騙されなかったな」

 

 難しい話はよくわらないし、眠くなっちゃうんだよね。お金に関しては大事だから興味はある。ただ、かくてー申告?とか投資とかは片原のお爺ちゃんお抱えの人に任せちゃってるし、他のわかんないことは社長とかミヤコさんに聞けば教えてくれるし。

 

「この溢れ出る人徳のおかげかな」

「俺にはもう騙されやすいカモのオーラにしか見えないよ」

「うわー辛辣」

 

 こういうのはできる人に任せるのが良いんだよね。いまさら私に勉強なんて無理だし。

 

「あ、パンの焼ける良い匂いしてきた」

「露骨に話題逸らしたな」

「あーあー聞こえませーん。お腹すいたなー。パンも焼けたし、みんなで朝ごはん食べるよ!」

 

 たまにアクアは、私より年上なんじゃないかって思う時がある。アクアもこれ以上はこの話題には触れてこなくて、BGMがわりにテレビでそれこそニュースを流す。

 

「ママは今日はパパとデートなんでしょ? 良いなー、どこ行くの?」

「良いでしょー。表参道に行ってみたいお店があるからまずはそこ行って、その後はショッピングするつもりだよ」

 

 SNSで有名になったお店で、事務所とかでもタレントさんたちが話をしていた。土日だともう開店前から行列でとてもじゃないけど入れないから、平日に行くに限る。

 

「それってこのお店じゃない!?」

 

 ルビーがスマホで調べて見せてくれたのはまさに行く予定の所だった。

 

「私も行きたかったなー。ここって平日でも待つくらい人気のお店でね、学校でもすごい話題なの!」

「そんなに有名だったんだ。そしたら早めに行った方が良さそうだね」

「絶対その方が良いよ! あーあ、デートじゃなかったらついていったのに」

 

 そんなに行きたいなら別に学校サボってもって思ったけど、ルビーも気を遣ってくれたみたい。

 

「じゃあ今度はルビーと二人で行こうね」

「うん! あとで美味しかったか教えてね」

 

 朝ごはんも食べ終わると、最初にアクアとルビーが学校へ登校する。私が支度をしている間にケイが先に出て、ちょっと遅れて私も出かける。

 

 電車でも良かったけど、タクシーの方が楽で早いからタクシーを使ってハチ公前まで行ってもらう。移動中ぽけっと外を眺めていると、思っていたよりも早く着く。

 

 うん、わかりやすい目印だ。

 

 ハチ公前には平日に関わらず人がたくさんいるけど、ケイは見つけやすかった。そこだけ人が少ない。目が隠せるから私もサングラスはよく使うけど、金髪でガタイが良くてサングラスをつけていて威圧感があるのかも。この前みたいに寄ってこられても困るから、これで良い。

 

「お待たせー。どう? 懐かしいでしょ?」 

 

 私の格好は黒スキニーにオーバーサイズのパーカー、キャップも目深に被ってポシェットを肩からかけて、スポーツ感を出すようにコーデした。最近は着ていなかったし、あんまり周りの人もこの格好と私は結びつきにくいはずだ。

 

「確かに久しぶりだな。そういう格好も似合ってるよ」

「でしょ? 平日でも並ぶみたいだから行こ!」

 

 手を奪うかのように取って、少し大股で歩き始める。身長差が三〇センチ以上あるから足の長さも当然あるわけで、ケイもゆっくり歩いてくれるけどこうでもしないと歩幅が合わない。

 

 天気も良かったから歩いても気持ち良くて、たわいのない話をしながら目的地に着く。開店前だけどルビーの言った通り並んでいて、私たちも順番待ちをすることにした。私たちの他には学生のカップルだったり、友達同士で来ていたり、一人だったり、それぞれがそれぞれで話していたりスマホを見ていたりして、こちらを気にする様子はない。

 

 私もスマホを使って、何を頼むかメニューと睨めっこをする。

 

「どれにするつもりなんだ?」

「悩み中ー。この苺のかカスタードのかで悩んでるんだよねえ」

 

 他にも美味しそうなのはいっぱいあるけど、食べるとしたらこの二択ってところまでは絞れてて、でも最後まで決めきれなかった。

 

「じゃあ俺はカスタードにするから苺にしすれば良いんじゃね? あとで半分に分けようぜ」

「良いの?」

「俺もその二つが気になったんだ。別に一人二つずつ買っても良いぞ」

「それはカロリー的にキツイかな」

 

 運動してる方だから別に一回くらい食べ過ぎても問題はないんだけど、積み重ねがね。気づいたらあれもこれもってなって大変なことになりそう。出産したあと戻すのも結構頑張ったから、減らすことの大変さはわかってるつもり。

 

 ケイなら簡単に食べて、すぐにそのカロリーも消費しちゃうんだろうけどね。

 

「ならそれで良いだろ。俺はコーヒーにするけど何にする?」

「私はルイボスにしようかな」

 

 カフェイン取るとどうしてもね。せっかくのデートなんだから、少しでも長く一緒にいたい。

 

 待っていれば開店して、やっと中に入れる。

 

 テイクアウトのお客さんもいるけど、私たちはイートインにした。できるだけ目立たない席を選んで、サングラスだけ外す。

 

 早速食べてみれば、ザクザクの食感が新鮮で、苺の酸味とクリームの甘味が良い感じに合わさってて美味しい。ちょっと崩れやすいから、綺麗に半分に割るのは難しそう。

 

「ケイのもちょうだい」

 

 それならちょっとずつ食べた方が良いかな。一口もらうとカスタードの方も美味しい。こっちは酸味がない分より甘く感じられる。ドリンクも甘いやつにしなくてよかった。ちょっと渋みがあるくらいでちょうど良い。

 

「苺の方も美味いな」

「ね! 来れてよかった」

 

 美味しいからどんどん食べられる。何度か交換してお互いのを食べ比べしていると、あっという間に食べ終わっちゃった。以外とお腹は膨れたから、お昼は何なら食べなくても良いかもしれない。

 

 ご馳走になってお店を出れば、次は買い物。最初は少し歩いたところにある商業ビルに入ってみた。あんまりブランド品に拘りとかはなくて、良いなって思うものを普段から着る。普段着だったらファストファッションで十分。でもせっかくだから普段入らないようなお店にも入ってみて、とりあえず物色する。

 

 早いところは秋物だけじゃなくて冬物も少し出始めていて、きっと気づいたら年末だって言っているんだと思う。今年は私の誕生日前から家族で休みをとって旅行に行って、年越しを向こうでして帰ってくる予定だから楽しみ。パスポートも遂に取ったし、初めての海外旅行だ。せっかくだから新しく買った服を着ていきたいけど、場所が場所だからもう少し薄着の方が良いのかな。

 

「欲しいのなかったのか?」

「これだってのが中々ないんだよねー」

 

 色々なお店に入っては見るだけみて、試着もしてみたりするけど結局買わない。見ているだけでも楽しいんだけど、買うとなるとまた変わってくる。

 

「連れ回してごめんね。退屈でしょ?」

「退屈じゃねえよ。せっかくだから気に入ったの見つかるまで探せば良いじゃねえか」

「ありがと。ケイも見たいところあったら言ってね」

 

 ちゃんと付き合ってくれるのは嬉しい。ただ一つ不満があるとすれば、試着した時に感想を求めても似合ってるとか、良いじゃん、とかしか返ってこない来ないところ。似合ってないって言って欲しいわけじゃないけど、なんて言うか、もっとこう褒めるにしてもバリエーションが欲しいというか。

 

 数時間色々と散策して、買ったのは袖にフリルの付いたブラウスとチェスターコートの一着ずつ。それぞれ丁寧に紙袋に入れてもらって、それをケイに持ってもらう。

 

 時間を見ればまだ四時前。夜どこかで一泊しても良いんだけど、そこはさすがに帰らないといけない。そうなるとあと五時間くらい。まだまだ時間はあるから、今日は目一杯甘えて楽しもう。

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