一番星の王子さま 作:160万のワインを飲み損ねた
十二月の後半になれば冬休みが始まって、ママの誕生日とクリスマスがあってプレゼントをもらって、年末年始はだらだら過ごしてお年玉をたくさん貰う夢のような期間が始まる。片原のおじいちゃんの家に遊びに行けばボーナスタイムで、いろんな人からちょっとずつ貰えて、すごい豪華なご飯も食べられる。けど今年はさらに特別で、まさかの海外で過ごすことに決まった。前世を含めても初めての海外!
「おいルビー、まだ荷造り終わってないのか?」
小言のうるさいお兄ちゃんから圧が入る。
「どの服持っていけば良いのか悩んじゃうんだもん」
「だから早くからやっておけって言ったんだ。さっさと用意しないと間に合わなくなるぞ」
飛行機って何であんなに早く行かないといけないんだろうね。空港着いたらささーって飛行機に乗れれば良いのに。
「わかってるよ。逆に何でお兄ちゃんはそんなに早いの?」
新しいキャリーケースの中には、あれもこれもと積めたせいで畳まれていない服とかドライヤーとか、日焼け止めとか化粧水とかの美容グッズが盛られている。トーナメントに行く時はまだ国内だったしなんとかなったけど、海外って初めてだから何を持っていけば良いのかわからなくなる。
「海外って言ってもハワイだぞ。良いホテルなんだからアメニティだってしっかりしてるだろうし、服だってランドリーを使って洗濯すれば良い。それでも足りなかったら現地で買えば良いしな」
「何言ってんの、ハワイだよハワイ! 芸能人御用達のリゾート地だよ! ちゃんとした服にしないと馬鹿にされちゃうんだよ」
「どこのハワイだそれ。そもそも現地住人だっているし、芸能人がよく行くだけで周りは普通の観光客だ。変に着飾っても逆に浮くだけだぞ」
「ええー。じゃあ、お兄ちゃんはどんなの用意したのさ」
「何って、別に普通だけど。荷物だって結局このキャリーの半分くらいに収まってる」
「じゃあそっちにも私の入れされてよ! そしたら私の分も纏まるからさ」
「……仕方ねえな。ほら、早くしないと真面目に置いてかれるぞ」
なんだかんだお兄ちゃんも私に甘い。ぎゅうぎゅうに詰めて、私も荷造りがようやく終わった。
「やっと来たね。ルビーもアクアも忘れ物はない?」
「大丈夫! 早く行こ!」
タクシーに乗って、ちゃちゃっと空港まで行く。チェックインはよくわからないけどパパがまとめてやってくれてたみたいで荷物を預けるだけ。パスポートをスタッフさんに見せて、出国審査をする。日本人なのに日本から出る時もやるんだね。時間は夜だから、スタッフさんも疲れてるみたい。おじさんに手を振ったら笑って返してくれた。
時計を見る。なんだかんだ時間は余っていて、このまま免税店を回るのかと思ってたら航空会社のラウンジに行くことになった。
「そっちじゃねえよ。もう一個先だ」
「先?」
私が入ろうとしたところは違ったらしい。進むと、ファーストクラス専用ラウンジって書いてある。入ってみるとすごい高そうなソファとかが並んでいて、半個室とか仮眠室、シャワールームまで付いてる。ご飯も飲み物も無料。すごいけど、お爺ちゃんの家の方が豪華で、やっぱりすごいんだなって実感した。とりあえずジュースは飲んでおこう。
なんかこうしてラウンジで時間を潰してると、出来る人風な感じがしてくる。横に座るママを見てみれば、飲み物を飲む姿がすごい様になっていて目の保養になる。本当に尊い。ママの子供で良かった。いつでもオフショット見れるって最高じゃない?
搭乗時間のちょっと前にゲートに移動して、優先的に搭乗できる。私たちが乗るのは前の方で、これまた半個室みたいになってる。サイズ的に私なら足を伸ばせて寝れそう。扉までついてて、パーテーションを下げればお兄ちゃんが隣に座っている。前にはパパとママが座る。
CAさんが着てくれて、ウェルカムドリンクをくれるみたい。美人さんにもてなされて至れり尽くせりだ。
「あんまりキョロキョロするなよ」
「良いじゃん。初めてなんだから気になるんだもん」
小言が多いお兄ちゃんは早速本を開いて読み始めている。なんか熟れてる感がちょっとむかつく。
シートに座ってないと行けないから、私も貰ったドリンクを飲みながらモニターに流れてる映像を見ることにした。これから行くハワイの映像が流れていて、海がすごい綺麗。楽しみだなあ。ここから八時間、夜に出て向こうのお昼頃に着く予定だった気がする。
他のお客さんたちが乗るのを待って、ようやく飛行機が動き始める。飛ぶ時のふわっとした感じが、いよいよだなって思わせてくれる。しばらく飛ぶと椅子を倒したりシートベルトを外して良いみたい。私はすぐに倒して寝転びながら、どの映画を見ようか探し始めた。名作から割と新しいものまで、ママが出てるのもある。こうも多いと悩んじゃうよね。
ふと気になって起き上がって隣の席を覗きこむ。お兄ちゃんも横になってて、なんなら毛布に包まってる。しばらく見てると綺麗な目が開いて、私を半目で見てきた。
「なんだよ」
「もう寝るの? これからご飯来るよ?」
「お腹空いてない。それに着いたら向こうは昼だからな。入国にも時間かかるし、ルビーもなるべく寝といた方が良いぞ」
話は終わりと言わんばかりに目を閉じて寝に入ってしまう。どうせ寝るにしてもご飯食べてからにすれば良いのに。
ちょっと後にきたご飯は美味しくて、私もちょっと得意げにナイフとフォークを使って食べる。レストランみたいにいっぱいナイフとフォークがあるわけじゃないから、どれにどう使うとか考えなくて良いのは楽。味も美味しくて、ラウンジでもちょっとつまんだのに全部食べちゃった。デザートには高いアイスが出てきて、それも完食。食べすぎたかな……でも勿体ないもんね。増えたら減らせば良いだけだし。
お腹いっぱいになったら眠くなってきちゃった。毛布に包まると思っていた以上に快適ですっと寝てしまう。
起きたらだいぶ時間も進んでいて、あと三時間くらいで到着みたい。そこそこ寝てたみたいだ。
悩んだ末に映画を一本決めて見初めて、今度は朝ごはんを食べて、よくわからない紙を書いて、飛行機が着陸体制に入る。思っていた以上に体感時間は短くて、あっと言う間に着陸をした。
降りたらお兄ちゃんが言っていたように入国審査があって、そこそこの行列になっていた。他の国からも来るからしょうがないだろうけどね。
私たちの番になると、パスポートを渡して指紋を取って本人確認がされた。なんか緊張する。
全然何言ってるのかはわからないけど、目的とかどれくらいの居るのかとか聞いてる気がする。名前と数字くらいなら英語でもわかる。
それらに対してパパは英語で返していた。今日一番の驚き。
「パパ英語話せるの?」
「ちょっとだけな。トーナメント終わってから茂吉に頼んで教えて貰ったんだよ」
私もエレナちゃんに教えてもらおうかな。なんか話せたらかっこいい感じするし。授業だとどうにもつまらないけど、エレナちゃんと話しながらならできる気がする。
やっと審査が終われば、荷物を受け取っていよいよ。
「やっと着いたー!!」
外に出て、やっと私は伸びをした。冬なのに寒くない。けど暑いってほどでもなくて、ほんとにちょうど良い気温。一応水着は持ってきたけど、海に入るにはちょっと寒いかもしれない。
「これからどうしよっか。荷物置きに行く?」
「車借りるからどこにでも行けるけど、とりあえずはホテルに荷物置きに行くか。アクアとルビーもそれで良いか?」
私もお兄ちゃんも反対しない。
慌ててどこかに行かなくても、まだまだ時間はたくさんある。
レンタカーを借りて、いよいよ出発だ。
「道路も広いし、思ってたよりも都会なんだね」
空港からホテルに向かう時には高速を使ってる。道路も広くて、大きい車が多いのは海外って感じ。あとは運転してるわけじゃないけど、ハンドルとか走る道が日本と逆なのは違和感あるよね。
「この辺りは観光地だからな。北の方に行けば人も少なくなるみたいだ」
「へえー。詳しいね」
「ガイドブックに書いてあったからな」
「なんだ、しっかり楽しむ気満々じゃん」
「楽しみじゃないなんて一言も言ってないだろ」
素直じゃないんだから。海沿いに来ると、ヤシの木がいっぱいあって、リゾート感が出てくる。
ホテルまではあっという間に着いて、荷物だけ預かってもらえるようにお願いしたら、ラッキーな事にもう部屋は準備できてるみたい。スタッフさんが荷物をカートに積んでくれて、そのまま案内までしてもらう。最上階のロイヤルスイート。この階には私たちが泊まる部屋しかないんだって。だからすごい広くて、余白がすごいある。窓から一望できる海がすごい綺麗で、下を見れば人がすごい小さく見える。水平線って綺麗だよね。夕方になったらこっちに太陽が落ちてくるのかな。トーナメントの時に行った島も良かったけど、こっちも同じくらいすごく良い。
「落ちないように気をつけろよ」
「わかってるって。大丈夫大丈夫!」
そこまで子供じゃないもん。
「チェックインもできたし、まずは散歩がてらにビーチ行って見るか?」
「待って、そしたら先に着替えたい」
飛行機に乗るためにラフな格好してたから、別の服に着替えたかった。キャリーを開いてそれを探して、着替えられる場所を探す。年頃のレディとしては身内でも男の人に見られたくない。
「じゃあ私も着替えちゃおうかな。海には入らないでしょ?」
「この時期はあんまりはいる人いねえみたいだしな。入るにしても足つけるくらいだろ」
「オッケー。ルビーも一緒にあっちで着替えよ」
ママと着替えるために部屋を移動する。ママはよくアラサーだなんて言ってるけど若々しくて、肌も綺麗だ。小柄だけどスタイルも良い。どこをとは言わないけど、自分と比べる。……私はまだまだだけど、きっとこれからだよね。
日焼け止めを塗って着替えた後、ビーチに出てみる。ホテルから直結だから一階まで降りたらもう目の前が海。砂はサラサラしていて、裸足で歩いても大丈夫そう。
ビーチにはたくさんの人がいて、当たり前だけど肌の色とかが違う。エチエチでセクシーな人もいて、見ているこっちが恥ずかしくなってきちゃう。
波打ち際まで行くと、私も裸足になって歩いて見る。湿った砂はひんやりしていて、踏む感触も乾いた砂とは違う。波が来れば、足をひんやりと濡らしていく。以前じゃこういう事もできなかったから、色々経験できる今の自分が嬉しい。
後ろを振り返ればママも同じように足を濡らしていて、手は転ばないようにかパパと繋いでいる。繋いでいるのとは逆の手で長めの裾を濡らさないように少し持ち上げているのが、どこかロマンチックに感じる。
良いなー。私も将来は誰かとああやって手を繋いだり、一緒にビーチを歩いたりするのかな。せんせ、私がアイドルになったら見つけてくれるかな。
お兄ちゃんが私を呼ぶのでそちらを見ると、手を出してくる。サンダル持ってくれるのかな。
「ちげえよ。母さんたち見てたから羨ましいんだろ? 相手が俺なのは我慢しろ」
「……しょーがないなー。そんなに私と手を繋ぎたいなら繋いであげるからしっかりエスコートしてよね」
皮肉を言ったりするけど、お兄ちゃんも私のこと大好きなんだね。そこまで言うとまたぐちぐち言ってくるから、今は止めとく。相手に不満もないしね。