一番星の王子さま 作:160万のワインを飲み損ねた
「ねえねえ、アクア君って彼女いるのかな?」
学校の昼休み。仲良しの三人組で話をする。
「お兄ちゃん? いないと思うけどなあ」
中学生になると、小学生とは色々と変わってきた。私も自画自賛じゃないけどどんどん大人の女性に近づいてる気はするし、お兄ちゃんは身長がグングン伸びて私が全く勝てなくなっちゃって、学校の女子たちに限らずやけにモテるようになってきた。確かに顔はママ譲りで良いし、背もパパに似て高い。筋肉もついてないからスラっとしてて、まあ、悔しいけどモテる要素は詰まってる。
「本当!? そしたらお願い! アクア君紹介して!」
私たちくらいの世代はこの手の話が多い。
「紹介するのは良いけど、辞めといた方が良いよ? シスコンだし。確かに見た目は良いかもだけどさ」
私とお兄ちゃんは普通の中学生とは違う。お兄ちゃんがどんな前世から知らないけど、あの知識とかから頭は良かったんじゃないかと思う。もしかしたら大人だったのかな。何にしても、そんなお兄ちゃんが一三、一四歳くらいの子に現を抜かすのは、なんかモヤモヤする。
「見た目だけじゃなくて、頭も良いし運動もできるじゃん。落ち着いてて大人っぽいしさ。しかも芸能人! 他の男子が芋に見えるよ」
「芋……」
そこまでだろうか。周りの男子が子供っぽく見えるというのは同意だけど。やっぱりセンセみたいな優しくて、そばに居てくれる人は中々いない。
「ルビーはブラコンだから、お兄ちゃんを誰かに取られたくないんでしょ?」
「違うって。双子だからそーゆーの複雑なの」
「そうなの?」
「そうだよ。だって身内だよ? 複雑以外ないって」
転生と言うことを横においても複雑だ。仮に友達とお兄ちゃんが彼氏彼女になったら、私はどうすれば良いのかわからない。年上の彼女さんならお姉ちゃんって呼べるけど。あれ、もしお兄ちゃんが年下の子と付き合って結婚したら私がお姉ちゃんになるのかな?
「私らはそうだけど、ルビーはまた違うじゃん? 家族全員美形ってやばくない? アクア君に、お母さんは若くて超美人だし、お父さんは……って私ルビーのお父さん見た事ないかも」
「ママが美人なのは激しく同意だけど、パパは普通だと思うけどなあ」
「ねえ、写真ないの?」
「写真なんてあるかなー」
ママの写真ならいっぱいあるんだけどな。とりあえずスマホを開いて、写真を探してみる。ママ、スイーツ、なんか可愛いって思って撮ったやつ、鞘香ちゃん、エレナちゃん、カルラちゃんに……あ、お兄ちゃんいた。あとは、カナちゃん先輩。どうせなら良い感じに撮れているのを見せてあげたいけど、あんまり撮ってる記憶はない。やっぱりあんまりないなあ。
「んー、これとか?」
だいぶ遡って、今年の年始にタヒチに行った時に私と撮ったやつを見せる。雨季だったみたいでスコールが何度も降ってきて大変だったけど、ちゃんと晴れてくれて楽しかった。
「普通にイケメンじゃん」
「そうかな? 割と見る顔じゃない?」
王馬さんとか龍鬼君とか。
「見ないよ。周りが良すぎてルビーの感覚バグってんじゃないの? そりゃあこの学校の男子共じゃ相手にされないわ」
「ひどっ!? 大事なのは中身だし、見た目はそんなに気にしないよ!」
「出た出た、芸能人の顔は気にませんアピール」
「顔が良いのは必須条件で、もはや言う必要はないってやつね。これで勘違い男が増えるのよ」
「そんなことないって」
そりゃあ多少は必要だと思うけどさ、芸能人だって顔は良くてもって人は結構いる、らしい。ほとんどかなちゃん先輩情報だけど。
「じゃあ今月何人に告白されたの?」
「今月……は三人……」
三人ともSNS使って来たけど、一人はそもそもほとんど話した事もなかった。告白されるにしても、もっとロマンチックなのが良いなって思っちゃう。
「そりゃあルビーのお兄ちゃんも心配になるでしょ。何なのあんた、卒業までに男子生徒制覇する気?」
「そんなつもりないんだけどなあ」
「ちょっとチョロそうなのが悪いんじゃない? もうちょっと性格悪そうな感じで行くとか?」
「あーね、バ……抜けてる感じがワンチャンあるかも、って思わせるんだろうね」
「ねえ、今バカって言おうとした?」
勉強の成績はイマイチだけどさ、バカって酷くない? これでもテスト前はお兄ちゃんに頼んで教えてもらってるんだけどな。その度に日頃からやっとけ、とか小言言われるけど、なんだかんだ甘いから教えてくれる。
「それだ。あんた誰それ構わずにSNSのアカウント教えるのやめた方が良いよ」
「その時点できっと男子の勘違い始まってるんだよ。うちのルビーはそんなに安くないから」
「……あんたのでもないでしょ」
私の置いてどんどん会話がヒートアップしていって、気づいたら別の話題に移って昼休みは終わった。
その日の夕方。
「って事があったんだけどさ、どう思う?」
かなちゃん先輩に、今日話した事を話してみる。
「あんたがバカでチョロそうなのは同意。そもそも個人のアカウント教えてんの?」
酷い言われよう。
「だってクラスのグループとかあるじゃん。そしたらそこから申請どんどん来るし、私から送る事ないから良いかなーって」
スマホも仕事用とプライベート用で分けてるし、やましい事もないし。
「こっちに恋愛感情なんかなくたって、簡単に勘違いするのが男って生き物なんだら。特にあんたは顔が良いんだから、一層気をつけなさい」
「なんか実体験籠ってる?」
先輩もロリって感じだけど可愛い。髪もツヤツヤだし、性格はずばずば物事言うけど、表向きはどうなんだろう。
「そりゃあ、私だって女優だし、言い寄ってくる男の一人や二人いますとも」
「でも彼氏いた事ないでしょ?」
「……別に、今はまた仕事が少しずつもらえるようになってきたから頑張り時なだけで、そっちに時間割いてる余裕ないって言うか? 変に男の影がチラついて人気低迷になっても困るって言うか? そもそも作る気がないって言うか? って言うかあんただって彼氏いた事ないでしょ!」
「私はアイドルやるから彼氏作らないもーん」
ママはアイドルしてる時からパパと付き合ってたみたいだけどね。
「よくもまあ、そんな真っ直ぐな目で言えるわね。好きな人できたらどうすんのよ」
「好きな人かあ……その時はその時かな!」
センセ、私がアイドルになったら私だってわかってくれるかな。一六歳までもうちょっとだよ。
「何の話してるんだ?」
お兄ちゃんが私たちを見つけて近づいてくる。手には本を数冊持っている。
「恋バナ的な感じ? お兄ちゃんは勉強?」
「勉強ってほどじゃない。……有馬も居たのか、ちょうど良かった。これありがとうな、面白かったよ」
よくわかるシリーズ。読書好きな先輩がよく読んでる本だ。一冊目はよくわかるマネートレード。よくわからない。お金はお金じゃん。
「居て悪かったわね。このシリーズ、題名通りよくわかるでしょ?」
「悪いなんて言ってないだろ。本はそうだな、俺が思っていたよりわかりやすくて驚いた」
私がスペースを開けると、お兄ちゃんは私の隣に座る。
「でしょ? こんなでよければいくらでも貸してあげるわよ」
「そうだな、今度また借りる」
ぶっきらぼうに言うけど、先輩はお兄ちゃんといると少し楽しそうだ。演技派なのに、こう言う時はわかりやすい。
「そうだ、友達がお兄ちゃんを紹介してって言ってるんだけどどうする?」
「またか……。断るのも面倒だろ? 俺が適当に遇らっておくよ」
心底面倒臭そうな顔をしている。中学に入って、一年生の後半くらいかな。背が大きくなってきたあたりでこの手の話は増えていった気がする。
「うわっ、あんたその内刺されるわよ」
「ちゃんと丁寧に断るに決まってんだろ。俺の対応のせいでルビーの評判が悪くなるのは避けたい」
「シスコン極まってるわね。あんたもその、彼女とか作らないの?」
「今のところ誰かと付き合う気はないな」
「ふーん、今のところ、ね」
嬉しそうだけど複雑そう。やっぱりかなちゃん先輩はお兄ちゃんの事好きなのかな。
「ねえ、来週から夏休みだけど何か予定あるの?」
学生の私たちは来週から夏休みになる。友達と遊びに行ったりレッスンしたり色々と予定は入っている。
「家族と知り合いとで海に行くくらいだな」
闘技者を目指している光我君の休みに合わせて、山下のおじさん達と海に行くことになってる。
「相変わらず仲良い家族で羨ましいこと。海ってどこの?」
「プライベートビーチ」
「は?」
「俺の爺さんが持ってるプライベートビーチ、二日間だけ貸してくれたんだ」
「ナチュラルに金持ちアピってくるわね。まあ、あんた達家族も有名人だし、その辺の海に行くよりは良いとは思うけど」
「二十五日なんだけど、かなちゃん先輩も来る? 私たちだけじゃなくて知り合いのおじさんとお兄さん達もいるけど」
先輩がうーんと唸って悩んでいる。お兄ちゃんが小声で話しかけてきた。
「……おい、どう言うつもりだ? 有馬には拳願会のこと言うつもりないぞ」
「わかってるよ。でも光我君もオフだって言うし、龍鬼君にも社交性身につけさせたいって山下のおじさん言ってたじゃん。事前に友達来るって言えば大丈夫だよ」
「もしそうなったら、ちゃんと自分で言えよ」
「わかってるって」
姿勢を戻す。
先輩はまだ悩んでいた。
「有馬、別に無理する必要ないぞ」
「何よ、来て欲しくないってこと?」
「そうは言ってないだろ。知らない人がいたら気を遣うだろうから、無理をするなって言ってるんだ」
「舐めないでよね。私は女優よ? ごく普通に振る舞ってあげるわよ」
「じゃあ決まりだね!」
その日の夜にパパにまず言ってみれば、良いんじゃないかって言ってくれる。山下さんにもパパが連絡してくれて、問題なく先輩も行けるようになった。
そして当日、山下のおじさん達はおじさん達で来るみたいだから、私たちは途中で先輩を乗せて向かう。無人島じゃなくて、伊豆にある別荘地だから移動時間も短くて済む。
私たちが着くと、すでに山下のおじさん達も到着してた。光我君と龍鬼君の他にも、秋山さんと康夫さんもいる。
手を振ったら返してくれた。先輩が肩をトントンと指先で叩いてくる。
「ねえ、知り合いのお兄さん達ってあの二人?」
歩きながら聞いてきた。
「そうだよ。銀髪の方が光我君で、パパを黒髪にした方が龍鬼君」
「似てるって認識はあったのね。歳の離れた弟とか?」
「さあ? 私もよくわからないんだよね」
「知らないんかい!」
だって本当に知らないんだもん。世の中に三人は似ている人がいるって言うし、パパの場合は王馬さんと龍鬼君だったんじゃないかな。
「やっほー、光我君も龍鬼君も元気?」
「元気だよ。ルビーちゃんも元気そうだね」
光我君は短く、龍鬼君はちゃんと返してくれる。
「そりゃあ勿論! あ、紹介するね。電話で話した友達の」
「有馬かなです。すみません、お邪魔しちゃって」
綺麗なお辞儀。うわー猫かぶってるなー。
「大勢の方が楽しいし気にすんなよ。あれか、アクアの彼女か?」
なんか光我君はおじさんみたいな聞き方。
「かのッ……」
「違います。友人です」
お兄ちゃんはすごいはっきりと答えた。先輩はそれを聞いて肩を落としている。彼氏彼女じゃないんだから間違ってないんだけど、お兄ちゃんは女心がわかってない。
とりあえず荷物を別荘に置いて、男性陣が先に着替えて出た後、私たちも着替える。今年初デビューの水着。ちょっと大人びた感じのデザインを選んでみたから、着るのが楽しみだった。着替えた後、周りを見てみる。ママはパレオがよく似合っている。白い肌に、手には麦わら帽子もあって尊すぎる。あとで写真撮っておこう。秋山さんは……でっか。先輩も目が釘付けになっている。
「二人ともどうしたんですか?」
「ちょっと圧倒されて……」
何をしたらああなるんだろう。食べ物かな、運動かな。運動とかはやってるんだけどな。
ビーチに行けばすでにデッキチェアにシートにパラソルまで用意されている。スイカまであるってことはスイカ割りもやるのかな。やったことないから楽しみ。
光我君と龍鬼君は若くて元気が有り余っているのか、お兄ちゃんを拉致して早々に海に行って泳ぎ始めている。あれ、パパとか山下さん達どこ行ったんだろう。
私たちはまったりチェアに腰掛けながら、波の音を聞く。日陰になるだけでだいぶ暑さも和らぐけど、それでも暑い。せっかく塗った日焼け止めも汗と一緒に落ちゃいそうだ。
「何か飲み物飲むか?」
パパの声がして頭だけ傾けると、パパ達三人がそれぞれトレーを持っていて、色々なジュースが乗せられていた。
「ありがとう! 何があるの?」
さっすが、気が効くね。
「持ち込みだからそんなに種類ねえけど、今あるのはパイナップル、ココナッツ、ブルーハワイだな」
「じゃあパイナップルちょうだい」
ストローから流し込む。冷たさと甘酸っぱさが良いね。いかにも夏って感じ。横を見れば先輩も寛いでいるみたい。
「泳ぎに行かなくて良いの?」
「日焼けしちゃうでしょ。こうして本でも読んでるくらいで良いわ」
しばらくのんびり過ごす。お昼にはBBQをして、スイカ割りをして。目隠しすると難しいんだね。夜は花火をして楽しんだ。龍鬼君は大抵のことが初めてって感じでリアクションが新鮮。先輩はちゃっかりお兄ちゃんの隣を陣取っている。
光我君は明日からまた特訓って言ってたから、山下さん達はそのまま帰っていく。私たちは一泊して、明日帰る予定。
「疲れた……」
お兄ちゃんがふらふらとソファに倒れ込んだ。一日中光我君と龍鬼君と遊んでいたから、体力が限界なんだと思う。
「大丈夫?」
「大丈夫に見えるか? 今なら一日中だって寝れる気がする」
「寝るならお風呂入ったほうが良いよ?」
「今日はシャワーだけで良い。後で浴びる」
今は先輩が使っている。先に女性陣が使って、男性陣はあと。
「順番来たら起こしてあげるから寝てて良いよ」
「ありがとう……」
はやっ。すぐに寝息を立て始めてお兄ちゃんは寝始めた。寝顔を見る。普段は大人ぶった言動が多いけど、寝顔はまだ幼さが残っていた。