一番星の王子さま   作:160万のワインを飲み損ねた

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「B小町を復活させる? 良いけど、もう私も三十すぎちゃったからなー」

 

 ミヤコさんに告げられた衝撃の事実に、私は思わず拒否をした。あの衣装を着て歌って踊っていたのはとうの昔。身長はあの時からほとんど変わらないし、体型も体力もキープはできているけど、さすがに可愛い衣装を着て踊るのはなあ。ルビーとかカナちゃんとか見て触ってみると、若い時の肌の弾力がいかにすごかったかわかる。あの時はほとんど気を使わなくても保てていて無敵に思えたけど、今は色々気をつけないと大変だし、それでもあの子達に勝てない気がする。

 

「貴女じゃないわよ。第一、当時のメンバーでウチの事務所残ってるのはアイとニノしか残ってないでしょ」

 

 引退したり、独立したり、移籍したり。それぞれの道を進んでいると、やっぱり時間が経ったんだなって思う。私もアイドル辞めてだいぶ経つ。アクアもルビーももうすぐ高校生って考えると、当然と言えば当然か。私もケイも高校には行かなかったから、憧れもあるんだろうけどあの子達にはちゃんと学生生活を楽しんでほしい。

 

「ルビーの方か! ビックリしちゃったよー」

「勝手に勘違いしたんでしょ。壱護とも前々から話していたんだけどね、せっかく貴女の娘がアイドルとしてデビューするなら、B小町の名前が良いって話してたのよ」

「でも良いの? 私早々に抜けちゃったし、最後はニノが引っ張ってたよ」

 

 私たちを超えて欲しいけど、グループ名が私たちの同じになるとは考えてもいなかった。

 

「勿論、先に許可は取ってるわよ。だから貴女には許可を取るために話したんじゃなくて、ただの報告」

「うわー辛辣。私も頑張ってたのになー」

 

 最初はイジメみたいな事もあってほんとに嫌だった。多分思い出補正もあるかもだけど、今思えばあれも含めて良い思い出。皆まだ若くて、自分で大人だって思っててもどうしようもなく子供で。私が本音を初めてぶちまけた時、あのままバラバラになってもおかしくなかったと思う。続けるって決めて、朝から晩までレッスンして、最後の方には友達になれた。私のかけがえのない青春時代。

 

「知ってるわよ。でも禁止してなかったとは言え、男作ってたじゃない」

 

 正確には付き合ってはいなかったけど、ほぼ同じか。

 

「まあねー。あの時のケイがほんとにカッコ良くてさあ。自分よりも大きい人に一発で勝っちゃってね。あ、勿論今もカッコ良いんだけどね」

 

 初めて仕合に連れてかれて、初めて見て、色々と想定外の事すぎてかなり驚いちゃったけど今でも鮮明に覚えてる。その後告白までされちゃったもんなー。

 

「隙あらば惚気るんじゃないの」

 

 ミヤコさんに盛大にため息を吐かれた。

 

「仲が良いのは良い事だけど、貴女はまだ男性ファンも多いんだから気をつけなさいよね」

「大丈夫! 外じゃ控えてるし、最強のボディガードもついてるしね!」

 

 どこでも惚気るほど分別なくないよ。

 

 それに最近は物騒だから、外出する時はほぼケイが付いてきてくれる。ストーカーでも厄介ファンでもパパラッチでも気配でわかるって言うから捕まることもない。先読み?より簡単だって言ってたけど、よくわからない。そもそもケイといる時は、男の人から声かけられる事はほとんどないんだけどね。

 

「相変わらず仲良いのは知ってるけど、外でやってたら引くわよ……」

「その辺はさすがにね」

「……アイ、貴女本当に大人になったわね」

 

 ミヤコさんがしみじみとつぶやく。小学生の時からこの世界に入って、ミヤコさんとはその時からの付き合い。二十年も経てば大人になるもんね。

 

「でしょ。どう? 大人の魅力で溢れてる?」

「私から言わせればまだまだよ」

「そっかー。まだシショーには敵わないね」

 

 ミヤコさん、私よりも一回りは上なのにまだまだ若いもんなあ。この前もヒアルロン酸入れたとか言ってたっけ。仕事もバリバリできるし、美人秘書さんで拳願会でも通っているみたい。社長も良い奥さん捕まえたよね。

 

「そうよ、存分に敬いなさい。ただでさえ秘書で大変なのに、貴女とアクアとルビーのマネージャーもやってるんだから」

「感謝してるし敬ってるよ。けど大変なら他の人にやらせないの?」

「できるならしたいけど、貴女達半分拳願会会員みたいなものだから、簡単に他の人に引き継げないのよ」

「守秘義務的なやつ?」

 

 なんか当たり前になりすぎて違和感ないけど、普通に違法だもんね。

 

「そうなのよ。まあその分、他の子達にも仕事振れるから、ウチとしてはありがたい事なんだけどね」

 

 初めの時は変に緊張して肩凝ったわ、なんてミヤコさんがぼやく。入りたての時はまだ苺プロも小さかったから、他の企業は雲の上。私は特に何も考えて無かったけど、会社を背負ってたミヤコさんと社長は気が気じゃなかったのかも。でもそんな中頑張ってきてくれたから、ちゃんと仕合を介さずに仕事が取れて、順当に事務所が大きくなったんだと思う。

 

「それに貴女とニノが前例を作ったから、有馬さんもアイドルやるって言ってくれたんでしょうし」

「へえ〜、カナちゃんアイドルになるんだ」

 

 カナちゃんはアイドルとか興味なさそうだったんだけど、気が変わったのかな。

 

「最初はルビーがしつこいくらいに声かけてたんだけどね。あまりに誘い方が下手すぎたから流石に手伝ったわ……」

「あ〜。ルビー交渉とかした事ないもんね」

 

 なんか簡単に想像できた。

 

 私と違って社交的で、誰とでもすぐ仲良くなるルビーだけど、これまでやってきたのはおねだり。みんな甘くて駆け引きとかは全然経験してないから、カナちゃんみたいにちゃんとしてる子相手だと大変かも。

 

「そしたらルビーとカナちゃんの二人でやるの?」

「いいえ。とりあえず最初は三人でスタートかしら。そのあと前みたいに追加しても良いし、三人で良い感じならそのままかしらね」

 

 メンバーが多いとその分とっかかりが増えてファンは増えやすいかもだけど、その分メンバーをまとめるのが大変になる。

 

「あと一人か。目星はついてるの?」

 

 若い子達もいっぱいいるから、探したらすぐに見つかりそう。

 

「実はそれで困ってるのよ。壱護が何人か候補を絞っていて、皆魅力のある子達なんだけど、あの子達に合うかどうかがね」

「仲良しじゃなくても良いけど、仲悪いと色々大変だもんね」

 

 私たちの時はまだSNSも発展していなかったけど、今なら一人一台スマホがあって当たり前に情報を発信できる。あのグループ仲悪そう、なんてすぐに流れてくるし、裏垢でメンバーの愚痴をひたすら呟いていたのがバレて炎上、って言うのも何度か見てきた。

 

 考え方は人それぞれだろうけど、私はアイドルを嘘に嘘を重ねて皆に夢を与える仕事だと思ってる。だから暗い事で現実を見せるのはタブー。私はケイと一緒にいたいと思ったから、そこでは嘘をつきたくなくてアイドルを辞めた。

 

「貴女なら良くわかるでしょ? それにルビーも有馬さんも、普通のアイドルじゃセンター張れる容姿をしているから、それに引けを取らない子じゃないと逆に浮いちゃうのよ」

「そだね。バランスも考えないといけないのかー、大きいと大きいで大変だね」

 

 きっと私たちの時はそんな事を考える間もなかったはず。規模が大きくなって人がたくさん集まると、色々より良い方へって考えて中々進まないのかな。

 

「嬉しい大変さではあるのだけどね」

「前ルビーが誘ってたって聞いたけど、カルラちゃんとエレナちゃんは?」

「どちらもダメだったわよ。呉さんは家がばたついていて余裕がないのと、ロビンソンさんはお兄さんが結局猛反対してね」

「二人とも可愛いと思うんだけどダメか。鞘香ちゃんも人気出そうだけど、烈堂君が絶対やらせないだろうしなあ」

「まずそっちから探す考えを辞めなさい。これ以上関係者増やされても私じゃカバーしきれないわ」

「この際、見切り発車でも何とかなるよ! ルビーは私の娘だし、カナちゃんも才能あるのは間違いないし!」

 

 私譲りのルックスがあるルビーなら、間違いなく人気は出る。カナちゃんも負けず劣らず可愛らしいし、ルビーとは系統が違うからファン層が被ることもなさそう。二人で始めても、案外上手く行くかもしれない。

 

「私もそれでは良いと思うのだけれど、壱護の構想じゃちょっと違うみたいなのよね。あの人、ああ見えて割と商才はあるから、きっとそっちの方が良いのよ」

 

 それを聞いて、私も嬉しくなる。

 

「笑っちゃってどうしたの?」

「ううん。二人が仲良さそうって思ったら嬉しくてね。ミヤコさん美少年好きだからさ、ちょっと心配してたんだよねー」

「前半だけだったら良い話だったのに……。美少年好きなのは間違いじゃないけど」

 

 前々から言ってたもんね。お酒入って社長の愚痴聞くと、美少年と仕事できると思ったのにーって話に大抵なる。

 

「そうそう、美少年と言えばリューキ君はどう?」

「龍鬼君は美少年ではないでしょ。美少年ってあれよ、中性的で可愛らしくて線が細い子の事を言うのよ。一八〇あるゴリゴリの成人男性ではないの」

「細い方じゃない?」

 

 頭の中で比べてみる。

 

「そりゃあ貴女の旦那と比較すればね。比較対象がおかしいのよ、一般人と比べてみなさい」

「んー、確かに役者さんとかと比べると……厚みはある、かも」

「かも、じゃなくてあるのよ。まあ、そこは置いておくとして、龍鬼君は良くやってくれてるわよ」

「ほんと!? 良かったあ」

「物を知らなすぎる所はあるけれど、指摘したら直すし、物覚えも早い。ちゃんと期日も守ってくれるしね」

 

 そんな話をしていると、ちょうどリューキ君が入ってくる。

 

「あれ、アイちゃんもいたんだ。ミヤコさん、言われてた資料まとめたけどこれで良い?」

「ありがとう。確認させて貰うわね」

「いたよー。リューキ君はどう? 慣れた?」

 

 リューキ君は対抗戦の後から、簡単な手伝いを苺プロでしてくれている。一時的に仕合から離れて、世間に触れて、色々と考える時間が必要だったみたい。最初は山下さんの所にいたみたいだけど、暇なら手伝えってケイに連れてこられた。今はミヤコさんの家と山下さんの家を半々で行ったり来たりしてる。

 

「パソコンとか使うのは簡単だから楽だったよ。周りの人も良い人たちで、俺のいた所とは違いすぎるけど、ちょっと楽しいかも」

「わからない事あったら、何でも聞いてね!」

「ありがとう。でもアイちゃんより事務仕事はできるから大丈夫だよ」

「へえー、言ってくれるね」

 

 さらっと言われる。そんな事はないはず。私だって一応見てきて何となくはわかる。

 

「そもそもパソコン操作できるの?」

「それは……やった事ないけど、きっとやればできるよ」

 

 触る機会ないんだもん。スマホで大抵のことできるしさ。

 

「できない人の台詞じゃん。大丈夫だよ。本当に悩んだら相談させてよ」

 

 ちょっとは周りの人にも心が開けてきたのかな。自然な笑顔が増えた気はするし、周りからの評判も良い。ケイと似てるとは言われるけど、幸い髪型と色も違うし、リューキ君は伊達メガネかけてるから親戚だって説明している。年上の女性から人気あるのは、純朴な感じが良いのかな。

 

「勿論。ウチにもいつでも遊びにきてね」

「ありがとう。今度桂さんと簡単に組手するから、その時にはお邪魔させて貰うね」

 

 ケイはなんだかんだリューキ君の世話を焼いてる気がする。あの時の話が本当なら二人はクローンで、オリジナルがどこかにいる。それはきっと対抗戦で会ったジャッキー、って名乗ってたあの人だ。偽名なのは間違いない。日本語が流暢だったけど、多分アジア圏の別の国の人。一緒にいた人がヤンさんだったから、中国の人かな? クローン作る人なんて悪い人たちなんだろうなって勝手に思ってたけど、ジャッキーさんからは不思議とそんな感じはしなかった。

 

 そういえばヨーガの呼吸とか教えてくれそうだったけど、あの後帰っちゃったから教わらず終い。せっかく若さを保てるなら教えて欲しかったなあ。

 

「はい、大丈夫よ。いつも助かるわ」

「次は?」

「今日はもう良い時間だし大丈夫よ。私も上がるから帰りに買い物手伝ってくれるかしら」

 

 夕飯の買い出しにはちょうど良い時間。

 

「うん、わかった」

「アイも遅くまでありがとう。貴女も帰りなさいね」

「うん。アクアとルビー回収して帰るね」

 

 二人は受験生だから、今は受験勉強中。芸能科のある高校にするって言ってたけど、ちゃんと受かると良いな。

 

 子供の進路に心配するなんて母親っぽいな、なんて思いながらとりあえずケイに連絡して帰り支度を始めた。

 

 

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