一番星の王子さま   作:160万のワインを飲み損ねた

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 新しい制服に袖を通す。芸能科がある高校なだけあって可愛い制服だけど、ちょっと複雑。スクールリボンはぴっちり締めようとしたけど、少しだけ緩めてみる。やっぱりこっちの方が可愛い感じが出てる気もするけど、いっそ外したほうが良いかな。

 

「おい、まだ着替えてるのか? 遅刻するぞ」

 

 ノックと同時にお兄ちゃんが催促してくる。可愛い妹が一番可愛く見えるように考えているんだから待てないかな。……リボンはこのままで良いか。ブレザーを羽織って準備はおしまい。

 

 あんまり待たせると小言がうるさいから、ささっと部屋を出る。

 

「わかってるよー。どう? 可愛いでしょ?」

「……スカート短くねえか。折っただろ」

「良いじゃん。この方が足も長く見えるし」

 

 制服が届いて家でファッションショーをした時より、二回折って短くしてある。お兄ちゃん、パパよりおじさんみたいなこという時あるんだよね。

 

「ほどほどにしておけよ」

「はーい」

 

 そうは言っても絶対直せ、とか否定的なことは言わない。階段を降りれば、音を聞いてママが顔を見せにきてくれる。

 

「その制服姿もやっぱり可愛いねー! アクアも学ランからブレザーに変わったから大人びて見えるよ」

「……ありがとう」

「可愛いでしょ! ママもまた着てみる?」

 

 身長差はそこそこあるから、ウエストは私の方が……ううん、ほとんど変わらない。スカートは巻けば丈なんてかけられるし、袖の長さが長くなる分萌え袖感あって可愛かったんだよね。

 

「それまた今度かな。気をつけて行ってきてね」

「はーい! 行ってきまーす!」

 

 ママに見送られて学校へと向かう。最近は何かと物騒なのと、一応芸能人ということもあって念の為パパに送迎してもらう。

 

 通勤時間と被るから少し道は混んでいたけど、なんとか始業式には間に合いそう。校門の近くになると学生も増えて、ちょうど同じ様に送ってもらう人たちとも被る。ちょっとした渋滞みたいになっていたから、早めに下ろしてもらってそこからは歩いて学校へと向かった。

 

 入学式に出て、先生たちのありがたーい話を聞く。体育館に関しては普通な感じ。中学に比べて、大きさもそこまで変わらない気もする。

 

 周りはキョロキョロ見ていると、お兄ちゃんからじっとしてろって小言を貰う。はいはい、って返事をしてお兄ちゃんを見ていると、視線は前を見ているけど話を聞いていなそうなのがわかる。内心早く終わらないかなって思ってる顔。

 

 それから一時間くらい経ってようやく終わる。

 

 やっとクラスに移動。芸能科は普通科と違ってたくさんクラスがあるわけじゃない。Fクラスが芸能科だから、クラスに行けばみんなが芸能人ってことになる。

 

「楽しみだなー」

「そうか? 芸能科って言っても普通の学校と変わらねえだろ」

「夢がないなあ、お兄ちゃんは。美人とイケメンに囲まれて授業受けるんだよ? なんかこう、良いね! ってならない?」

「家とか事務所にいても変わらねえだろ」

「そうだけどさー。なんか同世代の子が多いとワクワクするじゃん!」

 

 クラスの前に来て、ドアをスライドさせる。

 

 ほら、美人とイケメンが沢山……沢山? 芸能科だけあって皆他人に見られる事を強く意識するから、身なりにも人一倍気を遣っているし、容姿が整っている人たちが多いのは間違いないんだけど、なんだろう。イメージもなんか違う。

 

「ほらな? 毎日誰を見てると思ってんだ」

「そっかー、慣れって怖いね」

 

 私もお兄ちゃんも生涯ママ推し。ずっとずっと見続けてきたけど、やっぱりママが一番可愛いし美人だなって思う。

 

「だろ。周りは全員プロかもしれないが、俺たちだってプロだ。それに俺達は一応最大手の苺プロにいるし、メディアにも出てる方。どちらかといえば、有名なのは俺達の方だよ」

 

 そう言われると、テレビとかで見た事ある人はあんまりいないかも。毎年沢山新しい人達がデビューしているように思えるけど、実際にはもっと沢山いて、表に出てこれるのは本当に一部なんだと思い知らさせる。周りからも小さい声でアクアだルビーだとちょっとざわつかれると、自信がついてくる。

 

 席表を見ると、出席番号と席順がバラバラ。初めから席替えをしたみたいな感じ。お兄ちゃんとは離れた席になってる。

 

「じゃあまた後でね。ちゃんと友達作るんだよ?」

「俺をなんだと思ってんだ……」

 

 小中学校でも話友達はいたっぽいけど、休みの日に遊ぶほど仲良しな子って見たことない。基本的に年上の人としか一緒にいないんじゃないかな。

 

 お兄ちゃんの心配を他所に、私も自分の席へと向かう。芸能人オーラはきっと私が一番出ている。ママの遺伝子を受け継いだ私は誰にも負けてない、くらいの認識で胸を張って進む。なんならドヤ顔で席に座って、視線を感じたから隣を見た。

 

 負けた! 凄い子がおった!

 

 私の視線はその子の一部に釘付けになった。ブレザーを脱いでるからはっきりとわかる。これは勝てないよ。

 

「すんません。ジロジロ見てもうて……めっちゃ美人さんおるやんっておもたら、ルビーさんやろ?」

「いやいや、こちらこそまじまじと見ちゃって……ってあれ、私のこと知ってるの?」

「アイドルやるん知っとるよ。それに先月の雑誌の表紙飾っとったやろ? うち毎月あれ読んどるんよ」

 

 MEMちょ様々だね。アカウント作って昔のB小町の曲を歌ったりした動画や、三人でワイワイやってる動画を上げてる。MEMちょのファンとかも見てくれたからスタートダッシュはちょっとズルした感じはあるけど、そこそこ有名になってきたってことかな。

 

「わー! 嬉しい! ありがとう!」

 

 最近はアイドルやるためにほとんど他の仕事はしてなかったけど、少ない中の一つにティーン向けファッション誌の仕事があって、それが先月発行された。顔見知りの人からは買ったよとか読んだよ、って言われてたけど、初対面の人に言われるとまた違った嬉しさがある。

 

「うち、寿みなみ言います。よろしゅー」

「よろしくね! ねえ、私のことはルビーで良いから、みなみって呼んでも良い?」

「ええですよー」

「やった! みなみはモデルさん?」

「せやねん。グラビアを一応」

「グラドル! 通りですごいのを持ってるわけだ。ググっても良い?」

「え、ええけど……中々非人道的な事しはるなあ」

 

 検索したらすぐに出てくる。魅惑のGカップなんて文言で写真集も出てる。ウエストちゃんと細いのに出るところ出てるってずるくない? 拳願会のお姉様方ともバトれる逸材だ。

 

「えちえちじゃん! 一冊買っとくね」

 

 ネットショッピングはその場で買えるしすぐに届くから便利だよね。おー、明日さっそく届くみたい。

 

「わざわざ買うてくれたん? おおきに」

「友達が出てるなら買うよ。みなみは関西出身なの?」

 

 関西弁って言うと大久保さんがいるけど、なんか大久保さんと違っておっとりした話し方だからか、見た目が可愛いからか華やかさがある。仕事のために上京してきたとかかな。

 

「生まれも育ちも神奈川だよ」

 

 思いっきり標準語で、全然関西圏じゃない出身地だってカミングアウトされた。

 

「え? じゃあその話し方は?」

「話し方はなんて言うか……ノリ? キャラ付けみたいなもんやから、本場の人が聞いたらエセやってわかってまうやろね」

「すごいね! 本場の人と話したことあるけど全然わからなかった!」

「ほんま? ルビーは知り合いとか親戚が関西の人おるん?」

「ちょっと面識あるくらいの人がいるよ。みなみもテレビとかで見た事あるんじゃない? えっと……ほら、この人!」

 

 ググって一番お目白い顔をしている大久保さんを選ぶ。

 

 表総合格闘家のチャンピオンだから、テレビとかの仕事もあるみたい。よく発言で炎上してるけど、本人は全然応えてなさそうだからすごいよね。

 

「見たことあるような、ないような……誰?」

「あれっ、知らない? 大久保直也って格闘家なんだけど」

「うち格闘技は見ぃひんのよ。ルビーは好きなん?」

「んー、格闘技自体はそこまで好きでもないかなあ。たまたまよく見る環境にいるってだけだし」

 

 一生懸命やってる姿はカッコいいとは思うけど、これはこの技だ!とかわかるほど詳しくない。

 

 みなみも大久保さんを調べてるみたいで、すごい人だーなんて呟いてる。

 

「そうなんや。やっぱり大手やとすごい人とも知り合いになれるんやね」

「え? あ……うん! まあそんな感じかな」

 

 表じゃまだ一緒に仕事した事なかった。実は密かに開かれてる非合法の仕合があって、そこで知り合いました、とは言えないもんね。

 

「そだ、連絡先交換しようよ」

「ええよー」

 

 墓穴掘る前に話題変えないと。まだかなちゃんにもMEMちょにもバレてないから油断してたけど気をつけないとね。みなみにQRコードを読み込んでもらって交換する。

 

 随分と盛り上がる声が聞こえたのでそちらの方を見ると、まさかの中心にいたのはお兄ちゃんだった。

 

 お兄ちゃんはあからさまな猫を被っていた。中学の時も役柄とズレがないように振る舞ってたけど、それよりもさらに役作ってる気がする。実は今日あまの演技でストーカー経験ありとか言われてたの気にしてたのかな。面白いから写真撮りたいけど、他の人たちがいるからさすがに撮れない。

 

「あれお兄さんやろ。人気者やね」

「見た目は良いからねー」

 

 かなちゃん先輩も言ってた処世術ってやつなんだろうけど、別にキャラ作らなくても良いとは思うんだけどなあ。そんなに擦れてる訳でもないんだし。

 

「嫉妬?」

「違う違う。普段とは違うから変な感じするだけだよ」

「身内も芸能人やと、やっぱりその辺のギャップが気になるんやね」

「いつもはああじゃないのに!ってなるよ。みなみは兄弟姉妹いないの?」

「うちは一人っ子やから、兄弟おるの羨ましいと思ってまうわ」

 

 その後もみなみと話してるとあっという間にSHRの時間になって、それも終われば一限の授業が始まろうとする。いきなり授業なんて面倒だなって思ってたら、不知火フリルが遅れて登校してきた。月9のドラマで大ヒットして、歌って踊れて演技も上手いマルチタレント。私たちの世代で一番有名な女優って言えば、絶対名前が上がるだろう有名人の登場に教室がざわつく。

 

 やっぱり可愛いなー。

 

 そんな事を思ってると、こっちを見て微笑んだ気がする。もしかしてファンサ!? やばい、どうしよう。休み時間とかに話しかけて良いかな。でも勘違いだったら? 実は私じゃなくてみなみを見てたとか? だとしたら恥ずかしい奴すぎる。授業なんて集中できないよ。

 

 一限の授業はまるで頭に入ってこなかった。科目そもそもなんだっけ。

 

 休み時間に声かけようとしてみたけど、周りにはすでにいっぱいクラスメイトが集まってて声をかけられなかった。

 

 二限も終わり。三限も終わる。

 

「近づけへんね」

「本当だよー」

 

 力尽きて机に突っ伏してしまう。大行列で近づくことさえ敵わない。初日だし仕方ないとは思うけど人気者がすぎるよ。

 

 初日ということもあって今日は三限まで。結局、不知火さんには話しかけることさえできなかった。残念だけど、一緒のクラスなんだからこれからいくらでもチャンスはあるよね。

 

 学校終わった後どうしようなって考えてると、ママから連絡が入る。絵文字で拳が使われてるから仕合の事だ。滅多に来ないから、パパの仕合が組まれたとかそんな感じかな。

 

 開いてみれば案の定。対戦する日付と相手が書かれてた。

 

 仕合はニ週間後。

 対戦相手は嵐山十郎太。

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