一番星の王子さま   作:160万のワインを飲み損ねた

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 嵐山戦から数日後。

 

 仕合こそ勝てたものの、かなりギリギリのところだった。臥王流の奇襲性に助けられた部分が大きい。龍鬼と鍛錬をしていく上で、互いの技を見せ合い勝手に真似したところではあるが、捨て札的な扱いをすればやはり臥王流は高い効果を発揮できる。反面、次に対戦する相手には同じ方法では通じなくなるだろう。せっかく覚えたからこそ、嵐山さん相手にも一度見せた上で、二発目以降も当てられる事を龍鬼に見せたかったが、やはりそう上手くはいかない。不殺でもトップ層相手に勝てる事を見せられただけでも良しとしよう。

 

 それに、嵐山さんと直接戦えたのは勝ち負け以上に収穫があった。柔王の名に相応しい技術は、自身の二虎流操流ノ型を更に発展させた形の一つ。まだ伸ばせると思えば、自然と修行にも身が入る。目標や道標があると無いとでは明らかに違いが出てくる。行く当てのない道を彷徨う事も時には必要なのは間違いないが、人間、時間にはどうしたって限りがある。もし永遠に時間があるのであれば、地道にひたすらに技を極める事だってできるはずだ。

 

「どしたの? 考え事?」

 

 冷蔵庫から飲み物を出してコップに注いだアイが隣に座る。

 

「ちょっとな。アイからしたらそこまで興味ねえ内容だよ」

「あー、武術のことね」

「な? そこまでだろ?」

「そだね。体動かすのは割と好きなんだけど、技とかになるとさっぱり」

 

 演技を二虎流に取り組む際にかなり手伝ってもらったが、アイからは当然ながら格闘技的な技術ではなく、演技に関することのみを教わった。どうすれば相手に見せたい物を見せられるかを徹底的に叩き込まれたが、畑違いではあるものの、極めることの大変さは何も変わらない。下地がない分かなり苦労したが、あれはあれで楽しかった。

 

「やろうと思えば基礎くらいならできんだろ。その気になったらいくらでも教えるぜ?」

「守ってくれるんでしょ? なら私はいいよ。立ち方教えてもらっただけで十分」

 

 モデルの立ち方とは違う、骨で立つ立ち方。教えたのはもう随分と昔のことで、アイと初めて会った時からかなりの時が経った。社長とかミヤコさんに言わせればまだまだ俺らもガキなんだろうが、少なくとも図体はだいぶデカくなった。

 

「任せとけって。アイだけじゃなくて、アクアもルビーもちゃんと守るさ」

 

 わかりやすい敵は蟲か。あのリーダー格の男が王馬と雷庵に打ちのめされ、煉獄との仕合会場でも成島さんと暮石さんにボコされ、ほぼ組織としては瓦解していると聞く。ただ、あくまでそれは日本において。本体は別にいて、各国でテロを行っているのが実情だ。日本も、少なくとも俺達の周りでは今のところないものの、いつ被害に遭うかはわからない。武を極めた所で、爆弾のような兵器には敵わぬかもしれないが、だからと言って鍛えない理由にはならない。

 

 他にも多く敵はいる。そもそもアイ達が働く芸能界は魔窟。昨今テレビでよく報じられるコンプライアンス違反を批判しつつ、平気な顔して自分達が守っていない事など序の口。実力だけでは足りずコネが必要になり、利用価値がなくなれば平然と切り捨て次に乗り換える。画面の向こうにある輝かしい世界はあくまで表向きだけ。裏では非合法のオンパレード。暴力団と繋がってる芸能事務所も未だあるし、ある一定の権力を持つが故にそれを濫用する輩も少なくない。俺が知る限り苺プロがその手の輩の被害に遭っていないのは、拳願会というさらに巨大な権力の中にいるからだ。

 

 長年、散々世話になっているが、拳願会がクリーンな組合とは言わない。成り立ちからして論外な上に、裏の住人達だって多い。商業の着地点を殺しありの格闘仕合の勝敗で決めている団体など、他にいないだろう。商人である事を理由に、法に背いた行為だって平然とする上に黙認する。流石に度が過ぎれば会員権を剥奪されるが、東洋電力のケースを見れば昨今ではほとんどない。

 

 苺プロに在籍する人達全てを、なんて大言壮語は吐くつもりはない。昔の小さい時ならまだしも、今は大きくなって知らない顔だって大勢いる。家族が守れればそれ以外はどうでも良い。という気持ちが正直なところだ。

 

「そういや、ルビー達は順調なのか?」

 

 アイだけじゃなく、アクアも俳優として精を出しているが、一番張り切っているのはルビーだろう。念願のアイドルとしてスタートを切り、ジャパンアイドルフェスのために三人で連日頑張っている。

 

「うん。今日も三人で動画撮るって言ってたよ」

「動画?」

「内容は聞いてないけど、新生B小町の活動の一環なんだって」

「新しく加入した子がそういうの得意だって言ってたな」

 

 年齢もだいぶサバ読んでたらしい。ちゃんと話したことはないが、ぱっと見ではわからなかった。まあ、当人達が納得しているのであれば、この件で俺がとやかくいうことはない。

 

「そうそう。元々ティックトッカーで、今はユーチューブで共に活動してるんだって」

 

 気がつけば情報の配信媒体は一気に増えていた。それぞれに特色やユーザー層が違うようなのだが、俺にはよくわからない。

 

「最近は大変だな。ユーチューブっていや、山下さんの息子のところだな」

 

 アンダーマウント社は相変わらず、むしろネット社会になるにつれてどんどん勢いを増している。絶命トーナメント時に二八位だった序列は、数年を経て今や一桁順位に食い込こむ勢い。息子の健蔵とは歳もそこまで変わらなかったはずだから、会社作ったのは若い頃。そこから短期間でここまで成長させたのは、凄まじいの一言に尽きる。

 

「元々はテレビとは別って感じだったけど、今はその境も曖昧だし、そのうち立場が逆転しちゃったりしてね」

 

 聞くところによれば、売れっ子はテレビに出たり、タレントが配信する人のチャンネル?番組?だかに出ることもあるようだ。

 

「そうなったらアイもネット系に行くのか?」

「どうだろ。今でも配信系のドラマとかは出たりするし、私はあんまり変わらないんじゃないかなー」

「ドラマ撮影でもネットとテレビじゃ違うんだろ?」

 

 素人の俺からすれば、同じように撮っているようにしか見えないが、媒体が違えば当然違うだろう。同じような打撃でも、ベースとなる格闘技術が違う、みたいな感じか。

 

「そだね。私もそこまで詳しくないけど、ドラマとか映画だったら撮影期間とかお金はテレビよりかかってるかな。過激な描写とかもネットだとまだできるし、こっちの方が表現の幅が広くて良いって言って行く人もいるってニノが言ってたよ」

 

 聞いている限りでは役者に限らず、監督やプロデューサーなども行く人はいるのだろう。ビジネスであることは変わりないが、金に糸目をつけずに作りたいものを作りたい職人気質はネットの方が向いているのかもしれない。

 

「自分じゃなくて新野さんからかよ」

 

 相変わらず仲が良い。

 

「だってあんまりその辺の違いに興味ないし。良い仕事ならどっちでもやるよ?」

「それで最近はCM多いのか」

「そう。コスパ良いんだよね」

 

 数十秒の映像が契約期間中にかなりの数が流れ、広告によって新規に獲得する利益の方が多くなるということで、CM出演料はタレントによりけりだが、かなり高いらしい。

 

 アイは、昔こそ出演単価を下げてメディア露出数を増やしていたが、名実ともに誰もが知る人となった今、単価を上げる方に舵を切っていた。CM一本でも新たに取ってくれば、俺の稼ぎを下手したら抜きかねないレベル。年収で比べたら、悲しいが逆立ちしても敵わない。

 

「色々と商品も貰えるしな」

 

 リビングにある巨大なテレビ。最近ペナソニックで販売されたテレビで、アイがCMを務めた商品でもある。瓜田先輩が売上が好調だからと言ってある日突然送られてきた大画面は、搬入するもの一苦労だった。なんならアイだけでなく、ルビーもアクアも使ってもらっているからか、我が家の家電は気がつけばほぼペナソニック製品で統一されている。もし家を建て替えるなら、家自体もペナソニック製になりそうな勢いだ。

 

「このテレビ大きくて良いよね。暇だし何か見ようよ」

 

 アイはそう言いながらスマホを操作して、何を見るか調べている。普段一緒に見るのは俺の興味があるアクション系がメインになっており、今アイが探している所では大体興味あるやつは見てしまった。

 

「たまにはアイが見たいやつで良いぞ」

「そう思って探してるんだけどねー。あ、そだ。あれ見てみようよ! ガチ恋」

「ガチ恋ってこの前B小町に入った子が出てるって言ってたやつか?」

「そうそう。なんか若い子達に人気なんだって」

 

 画面が切り替わり、早速始まる。正式名称は今からガチ恋♡始めます、恋愛リアリティーショーというリアルなのかショーなのかわからないジャンル。完全素人ではなく、芸能活動をしている高校生達が出ているようで、様々な業界の若い連中が出ている。前ハワイであった子も出てんのか。

 

「確かアクアも声かけられてたんだろ?」

「面白いから出て欲しかったけど、今回は絶対に出ないって言ってて断ってたよ。他の仕事にしたって。ちょうど五反田監督の作る作品があったから、それに出るみたい」

「自分の恋愛模様を他の奴らに見せるんだしな。嫌な奴は嫌だろ」

 

 個人的には見せたくはない。最終的に上手くいくならまだしも、失敗に終わってしまうのであれば尚更。

 

 アクアに関しては知人からの反応が嫌だ、という側面も強い気がするが。

 

 アクアもルビーも、彼女彼氏作ったって聞かねえんだよな。俺たちの子供で容姿もスタイルも悪くないはず。俺が真っ当な恋愛をしたわけではないが、学生時代に誰かと付き合っておいた方が将来的に変な相手に捕まる事はないはずだ。もちろん、その辺りは当人達が決めることだし、わざわざ親に言うことも無いから、報告されてないだけかもしれないが……。

 

「みんなキャラ作ってるだろうし、そんなに気にするかなあ」

「まだガキだし、嘘でキャラ作っても完全には切り離せねえだろ」

 

 アイだって嘘が始めから完璧だったわけではない。この番組のためにキャラを作るのだとすれば、どうしたって本来の自分と混ざってしまう。

 

「そうかなあ……。ま、良いや。とりあえずMEMちゃん推しで見とこー」

 

 最初だからか全員が当たり障りなく映っているが、番組の意図に沿う、沿わないで別れてきそうだ。

 

 何やらテーマがあるわけでもなさそうで、校舎を舞台に出演者達が割と自由にやり取りをしている。

 

 一話目を見た感想は、思っていたよりも割と面白かった。

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