人気ロボアニメ続編の上司キャラに転生したので、不遇主人公を導きたい   作:聖成 家康

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三話 憧れの出会い

 

 アーク連邦 北欧区域基地

 

 

 肌寒さが目立つ季節。

 ”アーク連邦”の北欧区域には、ちらほらと雪が伺えるようになってきた。

 

 異星文明”アーク”。突如地球に往来し、人類との共存を持ちかけてきた地球外生命体……なのだが、その姿は地球人と何ら変わりはない。

 唯一の相違点と言えば、”アーク”の民が持つ()()()()()だろうか。

 

 ”アーク”の民は生まれながらにして地球人とは違う臓器を持つ。

 それは『波臓』と呼ばれる物で、周辺へ特殊な周波を発生させる。この周波には様々な能力があるのだが、これがまた個人差があったりで膨大な情報量であり、書物一冊に収まるかどうか危うい。

 

 普遍的なのは周波を通じて意識を共有し合うだったりだ。

 加えて、これの周波数は個人によって決まっており、アークの民ならば周波を察知するだけで個人を特定できる。

 

 

 ……なら、”アーク連邦”に属するシズって隠れようがなくない?ARK REBIRTH開始直後は、私もそう思った。

 

 

 

 ”アーク連邦”という組織自体、”アーク”の民だけで構成されているわけではなく、連邦を支持する地球人の組織も含まれるため、全員が全員『波臓』があるわけではない。

 

 そこを突いた結果、彼女が取った策は『波臓』を手術で摘出し、地球人になりすますという手段だ。

 命に関わるかもしれない行為をしてまで、”アーク連邦”に残りたかったのは……きっと、彼女が戦争でしか生きる術を知らないからだろう。

 

 

 そんなところもカッコいい……!!

 と、ついナポリっぽくなってしまった。

 

 

 シズは暫くの休憩が設けられた為に、部下達二人の目を盗んで、一人で気晴らしの外出に出かけていた。

 

「……あの二人には悪いけど……私は一人が好きなのよね」

 

 シズは哀愁混じった声音で呟く。清廉なそれに混ざった負の感情は、一体何に対するものなのか私は考えたが、分からなかった。まだまだアニメの周回数が足りない。

 

 そんな考えの私の意志を内側に孕みながら、シズは物静かに町中を見て回る。

 女の子っぽい、可愛らしい小物や服を物色しているところを見て、私の中は甘酸っぱいもので満たされた。

 展示されてあった猫のぬいぐるみを持ち上げ、綻びそうな笑みをぐっと堪えるシズ。何かをぐっと押し殺し、名残惜しそうにぬいぐるみを元に戻す。

 

 

 かわいいなぁ……この子!

 このギャップで男女、オタク非オタク問わず沼に落とした女はやっぱり違う。

 

 

 化粧品が並ぶ店に入ろうとしたシズは、即座にその足を止めた。

 周囲の人々の目を気にしたからだ。

 ”アーク連邦”の軍人が遊んでいる――なんて思われたら、周りに迷惑がかかる。

 

 彼女はそれを防ぐべく、隣の服屋にそそくさと忍び込んだ。

 適当な服を選び、値段も見ずに購入し、試着室へ急ぐ。

 

 

 えぇ……またシズの裸体拝めちゃうの?

 ――というか、この展開になったってことはもしかして……。

 

 

 私の気持ちも顧みず、シズは手早く衣服を脱ぎ始めて、また桃色の下着に包まれた白い肌を惜しげもなく晒した。

 大きな姿見に反射するその姿は、男が見たら失神するほどに色気がある。

 

 

 シズは衣服を脱ぎ、暫く鏡に映された自らの身体を見つめ、お腹をすりすりと撫で始めた。

 そうして引き締まった腹筋を撫でる指先にあったのは、胸骨のすぐ下の方に残された痛々しい傷跡。縫われたような痕跡があり、それが手術の後であるのは明白だ。

 

「消えないよね……これ」

 

 その傷こそ、彼女がミライア・ココ――【煉獄の凶星】と恐れられた兵士であった何よりの証拠だ。

 消したいのは山々だが、裏社会に片足を突っ込んだようなヤブ医者にやってもらった手術だから、消せない傷をつけられたのだ。

 

 シズが諦めた表情で、購入した服を身につけようとしたその時。

 

 試着室と外界を仕切るカーテンが、勢いよく開かれた。

 

 シズは咄嗟に胸を隠す。

 だが、本当に隠すべきはそこでは無いことに速攻気がついた。

 

 外には一人の軍人が立っていた。

 美麗な顔立ちで、可愛らしい容姿の若い軍人だった。

 その赤々とした瞳が、自身の下腹部に移った瞬間、シズは意を決した。

 

 彼女(?)の顔面を掴んで、周りにバレぬよう、無音で自分の試着室に引きずりこんだ。

 

 相手の持っていた服が宙を舞う中、口を塞いで、顔面をなぜか真っ赤にした彼女(?)に鬼のような形相で迫った。

 

「いい!? この傷のことは絶対内緒ね!? 分かった!?」

 

 少女……らしき軍人は、こくこく、と制限された顔の可動範囲で最大限の理解を示した。

 

 

 この子だ……!!

 

 

 焦るシズの中で、私は一人高揚していた。

 艷やかなボブの黒髪、凛として少しきりりとした蒼穹の瞳。”アーク連邦”の軍服に身を包んでいる、少し筋肉質な華奢な身体。

 この子こそ、『双導機兵ダグラスARK REBIRTH』の主人公 ルナ・ハルカ。

 最終話付近の絶望に満ちた表情とは正反対の、人間らしい面立ちの彼女に、一人感動していた。

 

 

 シズは身の安全を確認するとホッとして、子供の口を覆い隠していた手を離す。

 平然を取り戻して、まじまじとその子どもの風貌を凝視してみると、不穏な事実に彼女は気がついてしまう。

 

 丸くない肩や腰回り、一切の膨らみが見当たらない胸元、その年の女の子の割には高い身長――。

 

「君ってさ……もしかして」

 

 持っていた服で自らの裸体を隠しつつ、シズは恐る恐る口を開いた。

 子供兵は目元を腕で隠し、なおも紅潮の収まらない頬を晒しながら、ひっそりと呟く。

 

 

()……男です」

 

 

 悲鳴が出そうになるのを抑えた。

 異性に裸をみられた事の恥辱に、それを上回る()を女の子と間違えてしまった罪悪感が混じった、とてつもない声量を呑み込んだからか、思わずその場に蹲る。

 

「す、すぐ出ますから!!」

「出たら勘違いされるでしょぉぉっ!!」

 

 取り乱すシズに、恥ずかしがるルナ。

 

 

 あぁ……なんて尊い空間。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 広場にあるベンチまで退避してきて、座るルナにシズは躊躇いも無く土下座した。

 上官に土下座され、大慌てするルナ。

 だが彼女は、あの一瞬でそこまでしなければ収まらない情を抱えてしまったのだ。

 

「か、顔上げてください大尉。もういいですから」

「本当にごめんなさい……傷ついたでしょ……?」 

「慣れっこですから」

 

 ルナは苦笑を浮かべ答えた。

 シズの立場上、彼の証言次第で、彼女が独房生活を余儀なくされる、あるいは、退職を強いられる可能性だってある。

 下着姿の女が少年を試着室に連れ込むなど、世間に出回れば炎上確定だ。

 

 だが彼は何故だかあっけらかんとしている。

 大方、「女の裸見れてラッキー」とでも思っているのか。それならそれで良い。

 

 

 うん、そうだよシズ。

 私はそう、助言してやりたかった。

 

 

 じんじんの痛む額を擦りつつも、気が収まらずにシズは買ってきた缶ジュースを彼に手渡した。

 

「も、もらえません!!」

 

 と彼はそういった態度だったが。

 

「口止め料!! 安い!?」

「い、いえ!!」

 

 半ば強引に押し付けた。もはやどちらがやらかしたのか、曖昧になってきた。

 ひんやりした缶の感覚が手から離れた瞬間、押し寄せていた感情がすっと消えた。

 

「大尉、ご自分の用はいいんですか? 服買ってましたけど」

「え……? あぁ、いいの。君に迷惑かける羽目になったし……」

 

 シズは彼の隣に腰を下ろしつつ囁いた。

 

 彼女はちらりと彼を一瞥する。

 横から見ると、その美顔が際立つ。作りが繊細が硝子細工を鑑賞してるようで、少し楽しい。

 

「あの傷……やっぱり戦争で?」

 

 ふと投げかけられた問いに、シズは目を見開く。

 

「……そんな所」

「消さないんですか?」

「戒めだよ。あんな傷、死んでもおかしくないからね」

 

 息をするように嘘を吐く。消さないのではなく()()()()だし、そもそも戦争でできた傷ではない。

 だが、嘘も平然と利用しなければならないほど、彼女の正体は()()()()()()()()()のだ。

 

「ルナくん、だっけ。君もパイロットだよね」

「はい、一応」

 

 彼は意気揚々と頷く。笑顔も可愛い。

 バジーナ大尉、は北欧基地では有名なのだろう。少しでもお近づきになりたい、という彼の意図が汲み取れた。

 

「そんな感じする。やっぱり、独特な雰囲気があるよね」

「雰囲気?」

「そ。何というか、常日頃から違うんだよね。意識とか行動とか。節々に現れるから」

「そ、そうなんですか」

 

 身なりを気にした彼は、きっと自分の外見を見直そうと思った事だろう。

 別に、悪い事だとは言っていないのに。

 

「……大尉は、地球人でありますか?」

 

 ぎこちない敬語で、そう尋ねてくる。

 

「……そう、ね。でも、どうして?」

 

 彼女もまた、ぎこちない返答を口にした。これが大嘘である故の動揺によるものである。

 あの傷を戦争の物と思うくらいには、彼も純粋だ。多分、バレはしない。

 

「俺は、アーク人で……相手が同種かどうか、すぐに判るんですけど。大尉の場合はなんか、曖昧になっちゃって。それで聞いたまでです」

 

 ――前言撤回。中々勘が鋭いわ、この子。

 

 

 シズにまた動揺が垣間見える。

 アニメでは見られなかった感情を体験できるのは格別だ。

 ……でも、こんなシーンあったかな?

 

 

 薄っすらと大地を照らしていた銀陽は、いつの間にか頭頂にその温かみを届けるようになっていた。

 そろそろ戻らないと、艦長の雷が落ちる頃合いだ。

 シズはそう思って、彼と別れようとした。

 

 

 いやぁぁ別れないで! まだ見たい!

 だが、私の切なる思いを彼女は知る由もないために身体は勝手に動いた。

 

 

 しかし――彼女の背筋に悪寒が走る。

 

 心胆が凍りつき、心臓がその活動を停止させるくらいに恐ろしく、それでいて腸が煮えくり返るような憎悪をも同時に感じさせてくる、嫌な気色。

 第六感、というものだろうか。確信はない、ぼんやりとした、だけれども確固とした影響をこちらに齎す感情。

 

 シズは居ても立ってもいられなくなり、咄嗟に走り去っていった。

 

「た、大尉!?」

「ごめんね!! またいつか会おう!!」

 

 既に遠くなった彼にそう告げて、シズは全速力で何処かに向かうのだった。

 

 

 始まるのか……。

 私は揺れる視界の中でやるせない気持ちに満たされた。

 ARK REBIRTHの物語の本格始動。

 それは、この世界の住民からしたら()()()()()()が火種となる。

 

 それが、これから始まろうとしているのだ。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 がらん、とした格納庫。大量の”オニキス”が詰まってはいるが、ほんの僅かな整備班しか残っていない、人気のない場所になっている。

 

 彼女はそこへ大慌てて入ってきて、階建を駆け上がり、キャットウォークを通じて自分の赤い機体の元へやってきた。

 

「た、大尉!? 演習は終わりだぞ!?」

「出してください、私の機体!」

「は、はぁ!?」

 

 ぜぇはぁと息をするシズに、整備班の男は驚愕の意を見せた。

 

「出撃命令か?」

「出てない……けど、そのうち出ます!」

「はぁぁ!?」

 

 適当な理由で”オニキス”に乗り込もうとする彼女を、男は全力で引き止めた。

 責任やらあれこれ押し付けられるのは、乗り込む彼女だけでなく、機体の管理をする彼もだからだ。

 

「待て待て待て! 命令も出されてないのに出せるかってんだ!」

「ですから後々出ますって!」

「何なんだそりゃあ!」

 

 二人が言い争いを繰り広げる中、空気を轟かすような大爆発の音が、どこかから発せられた。凄まじい音であり、遠方であるはずなのに鼓膜がビリビリと痺れた。

 

「なんだぁ……? 今の音……?」

「緊急事態、ですよね! もう!」

 

 油断した整備班の拘束を振り解き、シズは”オニキス”に飛び乗った。

 かくいう整備班の男も、もう余計な抵抗はせずにシズを見据えていた。

 

「あんた……これを予期して……」

「早く逃げてください!! もうすぐ()()になりますよ!! ここは!!」

 

 コックピットのハッチが閉ざされ、視界は束の間の暗闇に堕ちた。

 そしてすぐ、〈ゲイツチェイサ〉用のOSが起動し、機器系統に光が灯る。

 点灯したメインモニターには、メンテナンスヘッドにて”オニキス”を取り囲んでいたキャットウォークが収納されてゆく光景が映される。  

 話の分かる整備班で助かった、とシズは微かに安堵した。

 

 

 私は訓練とは違う、切迫したシズの様子に胸が締め付けられた。

 これから始まるのは訓練でもなんでもない、()()()()()()

 演習の時は、私が介入した。結果的には何事もなかったものの、二度も上手くいくとは限らない。

 

 ――何もしないほうが、いいのかな。

 

 私が状況を悪化させる可能性だって十分にあり得る。

 そうなったら、あの子(不遇主人公)を救うことなんて――。

 

 葛藤する私に容赦なく、シズはすぐさま出撃準備を整えた。

 

 

『大尉、だったか!? 何事もなかったらすぐ帰ってくるんだぞ――まぁ、あんな爆発でなにもない方がおかしいけどな!!』

「分かりました。ご協力、ありがとう」

 

 サブモニターに映った男はぐっ、とサインを送ってから闇の中に消えた。

 細やかな贈り物に微笑ましくなるシズ。だが、すぐにそんな気持ちを払拭するように、固く操縦桿を握る。

 

 

「こんな街中でまで……何を企んでる、”地球連盟”め……!!」

 

 

 私に強い憎悪が流れ込んでくる。

 シズは――ミライア・ココは、”地球連盟”も”アーク連邦”も、どちらも好ましく思ってはいない。

 だが、横暴が過ぎる”地球連盟”に対してはこの上ない嫌悪感を覚えていた。

 

 

 ”街中で戦闘する奴らなど、連盟以外にあり得るものか!!”

 

 

 どす黒いシズの憎悪は、なおも私を蝕む。

 ――当然だ。こんなにも連盟を憎む理由が、無印の頃から彼女を見てきた私には、自分ごとのように理解できる。

 

 だからこそ、私は()()()()()()()()()という疑問を覚えた。

 

 

 シズの身体へ物凄いGが降りかかると、真紅の機体”オニキス”は蒼炎を背にして、不穏さの欠片もない、蒼穹の大空へと羽ばたいた。

 

 〈ゲイツチェイサ〉は今や人殺しの道具――空を見上げた市民達の心情を考えると、胸が痛んだ。

 だが、シズは”死”以上に恐ろしいものはないと考えている。

 

 

 ここを戦場になど、してたまるか……!!

 それも、連盟のために!!

 

 

 シズはその一心で、〈ゲイツチェイサ〉を駆る。

 

 

 私はまだ、決意を固めた筈の自身の心に疑念を抱いたまま、彼女の勇姿を傍観するしかできなかった。

 

 

 

 

  

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