人気ロボアニメ続編の上司キャラに転生したので、不遇主人公を導きたい 作:聖成 家康
北欧基地は、アーク連邦が保有する中でもかなりの規模を誇る軍事施設だ。
市街地からは隔離された場所に、数多くの区画を有する。
そんな中からであれど、遠方から聞こえた爆発の音源を探り当てることは容易だ。
あれだけ大きな爆発があったのなら、煙の一つや二つ昇っていなければおかしい。
シズは目を凝らし、爆発の痕跡を探した。
”オニキス”のモノアイタイプの光学センサは、型落ちの機体についたそれであれ、かなりの性能を誇る。どんなに小さな狼煙でも、この機体ならば――。
咄嗟に、シズは機体を急速旋回した。
コックピットが大きく揺れると共に、メインモニターの前面を覆い尽くすほどの黄金の光条が、機体の目前を掠める。
光条は暫く蒼穹に金色の軌跡を残して、やがては粒子となって消えていった。
シズはそれが、地上から放たれたレーザーであると理解する。
黄金のレーザー……!!
私はそれを見て、事態を即座に察した。
「”ヴァグ”か……!! 面倒なことに……!!」
シズは高度を下げ、地上を俯瞰するように機体を動かした。
モノアイが見据えた先。
そこには、荒野を切り裂いたヒトなど容易に超えるほどの巨体を持った生物が、飛翔する物体を獲物と見据え佇んでいた。
それは例えるなら幼虫。大地から突き出るように伸びる長い身体に、四つにぱっくりと割れ、悍ましい数の歯が揃った異形の口。
――地球外生命体”ヴァグ”。
遥か彼方より来訪した、地球に巣食う化け物の名だ。
”オニキス”は、奴が追撃を仕掛ける前に高周波ブレードを引き抜き、急降下する。
こちらを見据える”ヴァグ”。
異形の口を展開し、体液を滴らせるその様は手の出しようが無く思える。実際、あの甲殻はこの剣では刃すら通らない。
しかし、奴らが獲物を捉えている際、その甲殻は筋肉の隆起により大きく変形し、肉を露出する。
”ヴァグ”の放ったレーザーが虚空を貫くと、
残像さえ見える一瞬の攻撃は”ヴァグ”の、露出した肉部分を的確に捉え、その肉体を真っ二つにして大地へと伏せさせた。
〈ゲイズチェイサ〉は本来、対”ヴァグ”を目的として製造されていた兵器。その真髄は、
シズは感じた悪寒を動力に変え、すかさず機体を駆る。
”オニキス”は背後から放たれたビームを寸前のところで回避し、モノアイで敵を捉えた。
飛翔する〈ゲイズチェイサ〉。”オニキス”と比べ幾分かスリムで、白と黒の装甲に包まれただけの無機質なデザイン。バイザータイプの複眼を持つ頭部まで見ると、洗練された軍人の様を思わせる。
”地球連盟”の量産機――”ノード”。
それが目前にいるということは、敵が何なのかは最早明白である。
「やはり貴様らか……!!」
怒号を吐き出すシズの憤怒は、高周波ブレードの白刃に乗せられた。
ビームライフルの乱射を寄せ付けぬ高速機動。そして、敵機の目前に迫った瞬間に死角に回って、コックピットを的確に貫く。
初戦は量産機、手に負えない相手ではない。
だが同時に、
爆散する”ノード”。
その爆炎を切り裂き、新手の三機が参戦した。
「このっ!!」
散開する三機。
先程の復讐、と言わんばかりに頭上からビームライフルを乱射し、アーチ状の熱戦雨を降り注がせてくる。
心を平然にし、一度地上を一瞥してから、機体を繰る。
垂直に高速上昇した”オニキス”。
奇しくも射線を逃れ、”ノード”達の高度を上回ったが、奴らはすぐに標準を、射線から逃れた
しかし――地上から放たれた黄金の光条に飲み込まれ、その三機は瞬く間に灰と化す。パイロットも諸共、だ。
ゆっくり堕ちてゆく機体の亡骸を、中に入った肉塊求めて、新手の”ヴァグ”が飲み込んだ。
凄い……と私は息を呑まされる。
同時に、この混戦っぷりに周りの状況が心配になった。
アニメでは、この辺りはほとんど戦いの様子しか描かれていない。だからこそ、街の人々を重んじてしまうのだ。
”ヴァグ”は一体で都市を壊滅しかねない宇宙の化け物だ。こんなものが、目視できるだけでも二体いた現状は、想像を絶する被害を出すのではないか……?
刺客を退けたシズは、”オニキス”を駆り、低空飛行で静けさを満ちた軍事施設上空を飛翔していた。
必死に捜索していたが、突如起こった大爆発と一瞬のうちに大空の蒼穹を汚した黒煙のおかげで、探す手間が省けた。
「あそこは!!」
煙が昇った場所。
そこは、紛れもなく数多の〈ゲイツチェイサ〉が納められている格納庫区域の一画。
ここを攻め込まれたら、少なくとも”ヴァグ”に対する反撃の手立てなんて無くなってしまう。
それだけは阻止せねば――。
”オニキス”が建物上に飛び乗り、周辺地域の光景を光学センサに捉えたところで、シズは言葉を失った。
それは、私も同じだった。
延々と燃え盛る焔。火炎に包まれた大地に散らばるのは、格納庫に備わっていたものと思われるシャッターの破片と、赤黒い物体。
それが人間の肉塊だと分かった瞬間、酸っぱいものが迫り上がるのを感じた。
そして、火焔に囲まれて屹立する三機の〈ゲイズチェイサ〉の姿があった。
「これ……は……」
三機の姿は、あまりにも異質だった。
共通する内部フレームを持ち、その全てが人の物を思わせるツインアイとV字型のブレードアンテナを保有した、兵器とは思えぬヒロイックなデザイン。
一機は、
武装は刀らしき高周波ブレードとビームライフル。
もう一機は、黒いボディが
武装は不明。だが、腰部後方から
最後の一機は、
武装は背部に備わった大型ビーム砲に、腰部に携えられた大型ビームサーベル。
「〈ダグラス〉……!?」
シズは忌々しきその言葉が、自然と口から漏れ出した。
私は唖然としていた。
この三機は、作中でも特別強力な機体である〈ダグラス〉の系列機。
〈スサノオ〉〈ノーヴェ〉〈バハムート〉――。
その三機の奪取シーンは、作中では邪悪ながらもヒロイックさを感じさせる機体のデザインを前面に出し、「カッコいい」と言う感想しか出ない場面だった。
だが……私が見ていたのは、大人たちが視聴者の購買意欲を掻き立てるために作った映像に過ぎないのだと実感する。
転がる死体を見て、私は今すぐにでも吐きたくなった。
――こんなの、あんまりだ……!!
シズは即座に、あの三機とのコンタクトを開始した。
チャンネルは恐らく”アーク連邦”のもの――あれに乗っているのが敵であれ味方であれ、通信は繋がるはず。
この惨状だと、敵も味方も関係ないが。
回線が繋がると同時に、シズはそこへ吐き捨てる。
「そこの三機!! 何をしている!! その機体はなんだ!?」
小さな口から吐き出された言葉は、行き場のない怒りと、果てしない憎悪と後悔が入り混じった凄惨ささえ感じられるものだった。
三機のパイロットからの返答は、最悪の形で返ってくることになる。
『なんだお前は? 連邦のパイロットか?』
『そうでしょ。一つ目の〈ゲイズチェイサ〉に乗ってるのは、全部宇宙の化け物なんだから』
翡翠の武士〈スサノオ〉と九尾の怪人〈ノーヴェ〉からの通信が入る。
その会話は、到底味方のものとは思えないものだった。
シズの操縦桿を握る手に、あり得ないほどの力が入り、血が流動する脈の様が浮き彫りになる。
「何をしていると聞いているんだ!! 答えろ!!」
『うるせぇな、見て分かんないか?』
『これ、ウチらが貰っちゃうから』
「なんだと……!?」
貰う――その口ぶりからして、あの機体は本来
そんな情報、誰からも――。
『見られたからには殺す。悪く思うなよ【煉獄の凶星】』
一際冷酷で、不思議と殺意さえ覚えぬような儚い声音が彼女の耳を突き刺した。
彼女は即刻反論を突きつける。
「【煉獄の凶星】は死んだ」
『ほう? なら、貴官は何だ。【煉獄の凶星】の亡霊か?』
「貴様らに質問する権利など無い。機体を放棄して投降せよ」
『……失敬。やはり俺の勘違いだったようだな。かの【煉獄の凶星】――冷酷で残忍と呼ばれる最強のパイロットが、こんなにも陳腐な文言を吐くはずがない』
挑発――と汲んで良いのか。生憎、それら一連の会話はシズの癪には一切触れなかった。
それ以前に、奴らが安々と警備を惨殺し、機体を奪取したという行為自体に、この上ない憤りを感じていた。
「……投降する気が無いならば、貴官らはここで撃墜する」
『ウケる、旧型の一つ目で〈ダグラス〉に勝てると思ってんの?』
〈ノーヴェ〉の女がシズを嘲笑する。
平然を装ったが、彼女の言う事は至極真っ当なことだった。”オニキス”は旧世代型の〈ゲイズチェイサ〉――どの世代であろうと高性能機である〈ダグラス〉への勝算は限りなく低い。
シズの指は、静かに通信系統の機器が並ぶパネルへと伸び、周辺へ緊急信号を送るボタンを押した。
救援が来るまで持ちこたえれば良い。
――たとえ、この身が滅びようと。
シズの覚悟が、ひしひしと伝わってきた。
私はそれを受けて、酷く考え込む。
軽い気持ちだった。
私は軽い気持ちで、この世界に干渉し、
だが、私の意志が宿る身体は、それを上回る覚悟と志を持って生きていることに、今更ながら気がついた。
そんな彼女に、私が干渉していいのだろうか?
シズの”オニキス”が飛翔と同時にビームライフルを放つ。
鮮やかな翡翠の光条により、三機の〈アリオス〉は各方向に散開。飛行を開始する。
真っ先に突っ込んできた〈スサノオ〉。
刀を鞘から引き抜き、その刀身で”オニキス”を潰さんと、全体重を刃に乗せた。
”オニキス”は片手に隠していた高周波ブレードで、重々しき斬撃を一重に受け止めた。
散る火花がきらびやかな情景を成す最中、〈スサノオ〉の背後から飛び出してくる〈ノーヴェ〉の機影を見た。
〈スサノオ〉の腹部へ蹴りを入れ、奴を後退させた後に、スラスターの逆噴射によって高速後退を行う。
刹那――先程までの足場であった建物が、さながら野菜のように細切れになり宙を舞う。
〈ノーヴェ〉の腰部から伸びる九本のワイヤー。それには、小型のビームサーベルがマウントされてあり、獲物を焼き切らんと疼いているようにまで見えた。
ビームライフルで牽制した〈ノーヴェ〉が安々と下がり、深追いしようとした”オニキス”は思いとどまって空高く舞い上がる。
その足先を、〈バハムート〉の大型ビーム砲から放たれた真紅の光条が掠めた。
迫りくる〈バハムート〉は、大型のビームサーベルを引き抜き、”オニキス”の片腕をいとも容易く切り落とした。
弧を描き舞い上がった腕を見据え、シズは苦渋を滲ませた。
(これが最新の〈ダグラス〉……! なんて忌々しい……!!)
少なからず〈ダグラス〉に因縁がある彼女にとって、今相手している三機に対しては複雑な感情を抱く。
ツインアイ、V字のアンテナ。
ヒロイックに見え、子供ならば英雄の駆る機体と誰もが思うそれを、彼女は忌避し、断つべき因縁として捉えていた。
光の巨剣を構えし〈バハムート〉に続き、〈スサノオ〉と〈ノーヴェ〉が”オニキス”に迫る。
増援は――期待できないだろう、と今になって思う。
奴らの手口は敵ながら上等。
”ヴァグ”を率い、その騒動に乗じて新型機を奪還する……。
どんな手段を使ったかは定かでは無いが、街中は十中八九、”ヴァグ”の襲撃で大混乱で、軍は分散されている。今の世においては最適の奇襲方法だろう。
飛び上がった〈ノーヴェ〉は、”オニキス”目掛けて九尾を叩きつけた。
この時まで腰部へ隠し持っていたビームサーベルを抜刀。九刃を一条の光線によって受け止める。
『死になよ、亡霊女!!』
「このっ…!!」
機体を捩り、降り注いだ九刃を受け流した”オニキス”は〈ノーヴェ〉の脇腹へ足蹴を叩き込んだ。
大きく態勢を崩した〈ノーヴェ〉。
九尾のうちの一尾が、”オニキス”の放った斬撃によって斬り落とされた。
宙を舞う硬質ワイヤー。輝きを失った光刃は、無慈悲にも粒子へと変わって溶けてゆく。
『ちぃっ!!』
散々喧嘩腰だった〈ノーヴェ〉のパイロットには、相応の焦燥が見えた。
そこへ追い打ちをかけるよう、シズは一気に間合いを詰めて斬撃を叩き入れる。
「動きはいい。だけど、お前は先が見えていない」
『っ……! 黙れ、宇宙人!』
〈ノーヴェ〉のパイロット。攻めは天晴だが、守備と反撃はいまひとつだ。この機体の特性を活かしきれていない。
まずは、こいつから――。
だが、〈ノーヴェ〉との激しい接近戦を繰り広げているうちに、
「しまった――」
何機たりとも奪われるわけにはいかない。
それを安々見逃すなんて――。
シズは罪の意識に苛まれながらも、執拗に取り付いてくる〈ノーヴェ〉を引き剥がそうと藻掻くが、奴は安々と離してくれなかった。
「退けろ!!」
『そう言われて、退くヤツがいる?!』
高揚した敵パイロット。それに応じて、彼女のほうも血液が煮え滾るのを感じる。
落ち着け――冷静さを欠いたら死ぬ。
シズはそう思っても、眼の前の光景に焦りを隠せずにいた。
〈ノーヴェ〉の八尾が、”オニキス”のビームサーベルを弾き返し、そのガラ空きになったボディへ八つの矛先が迫る。
しかし、その攻撃は途中で中断された。
『なに!? どうしたの、キサラギ! ルーク!』
敵パイロットの混乱が伝わってきた。
だが、それはシズも同じだ。
来た……!!
私が何度も、何度も見返した、”あの神展開”だ!!
興奮を隠せない私を内側に孕みながら混乱するシズは、敵前にも関わらず眼の前の機体へ背を向けた。
すると――一機の〈ゲイズチェイサ〉が高速で突っ込んできて、”オニキス”の肩を掠めた。
激しく揺れるコックピットに、さらに追い討ちをかけるよう、外部で凄まじい爆発が巻き起こった。
再度踵を返せば、シズはその光景に自然と歓喜を覚えた。
大地に立つは、一機の〈ダグラス〉。
装甲色は赤、黒のツートンカラー。背部には四基のスラスターと四枚の羽を携えた紅のバックパックを背負っている。
握りし大型ビームサーベル”シュヴェルトティガー”の光刃は、まるで煌々と燃え盛る紅蓮かのように空を焼いている。
そのヒロイックなデザインには、
刹那、サブモニターを埋め尽くしたのは見覚えのある少年の姿。
漆黒のパイロットスーツに包み込まれた彼の様は、
『大丈夫か!? ルナ・ハルカ少尉、救援に来た!!』
「ルナ……くん」
モニター越しに見つめあって、互いに驚愕の意を抱く。
『っ!? 大尉!?』
私は、言葉を失っていた。
あの頃。恋い焦がれてる、といったほうがいいほどにまで執着していたアニメのキャラ。グッズも彼の登場機も、新商品が出るたびに買い集め、セリフも殆ど暗記したほどに。
それが今眼の前にいて、命を救ってくれた。
こんなに嬉しいことはない。
でも――同時に悲しかった。
こんなにも格好良くて、遠く離れた救援要請に、誰よりも早く駆けつけてくれるくらいには優しいのに。
――あんな結末が待ってるなんて。