人気ロボアニメ続編の上司キャラに転生したので、不遇主人公を導きたい   作:聖成 家康

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五話 怒れる瞳②

 

 降り立った〈ダグラス〉は、翡翠(エメラルド)のツインアイをぎらりと輝かせ、その残光が消えぬうちに、ビームサーベルを振りかざした。

 

 〈ノーヴェ〉の八尾と、その騎士が振るった光刃が激突し、眩い閃光となって辺り一面を色鮮やかに染め上げる。

 

 識別コードは――〈アストラル〉とある。

 先程まで相手をしていた三機と、どこか似通った風貌があった。

 

 シズは呆然とそれを眺めていたが、即座に意識を現実へと引き戻し、”オニキス”を緊急回避させた。

 足先を掠める、二筋のビーム。

 〈バハムート〉と〈スサノオ〉が戦戦に復帰してきた。しかし、竜王たる機体の肩部からは黒煙が漏れ出て、猛々しい武士を思わせる機体は酷い亀裂の入った盾を構えていた。

 

 既にあの騎士を思わせる機体と戦闘し、負傷したのだろうか。

 しかし――なぜわざわざ戻ってきたのか。

 

『大尉!! ”ヴァグ”です!!』

 

 ルナの声を聞き、その答えはすぐに判明する。

 

 二手へ散開した二機の影から、地面を引き裂いて紫の巨獣が降臨する。

 巨大な影を地上に落とした”ヴァグ”は、”オニキス”とルナの機体を目にするや否や、黄金のレーザーを吐き出した。

 

 

 作品のタイトルにもある〈ダグラス〉。

 『双導機兵ダグラス』シリーズでは、共通して”すっごく強い機体”として必ず登場する。

 ARKシリーズにおける〈ダグラス〉の在り方は、初代作品とは大きく異なっていた。

 

 強い機体、というだけでなく今作では()()()()を授けられて登場する。

 それは、地球外生命体である”ヴァグ”を()()()()()()()()()能力。

 

 この設定は、当時のロボットアニメとしては斬新なものであり、ロボット、人間、地球外生命体、様々な者が錯綜する戦場を描いた複雑ながらも見ごたえのある作品として多くの注目を集めた。

 

 ……私はそれを、()()体験しているわけだが。

 

 何もかもが()()()()()()()()だ。

 〈バハムート〉〈スサノオ〉〈ノーヴェ〉が奪取され、シズが一人でそれに挑む最中、主人公であるルナが〈アストラル〉に乗って舞い降りる。

 突如眼の前に現れ、シズとルナを驚愕させている”ヴァグ”も、私は何周もした一話で何度も見てきた光景だ。

 

 

 レーザーが大地を薙ぎ、赤熱した岩片が乱れるように宙を舞った。

 

「ルナくんは〈ノーヴェ〉を!! 私はこっちを抑える!!」

『無茶だ! 大尉!』

 

 そう――確かに無茶だ。彼女の機体は旧型の”オニキス”で、そのうえ片腕すら失われている状態。

 だが、シズは戦うことしかできない。

 戦いでしか、生きることができない。

 

 彼女はゆえに止まれない。

 

 高周波ブレードを抜き取った”オニキス”。縦横無尽に空を駆り、極太のレーザーを翻って回避する。

 甲殻の隙間から露呈する禍々しい肉。

 それを捉えた瞬間、〈スサノオ〉が身を投じてまで”オニキス”の行動を阻止した。

 

 亀裂の入った盾であれ、衝撃は十二分でありシズはコックピットを襲う揺れに悶える。

 

 上空で体勢を崩し、次なる反撃をその目で捉えた”オニキス”。胸部に埋め込まれた近接防空システム(CIWS)を乱射し、その弾道で〈スサノオ〉を翻弄した。

 

 背面からの〈バハムート〉の奇襲を難なく躱し、”ヴァグ”を仕留めようとした。

 だが、既に奴らの手中に収まった”ヴァグ”は思った通りの動きはしてくれない。彼女の放った斬撃を、地中へ身を潜めることで退けたのだ。

 

 かと思えば、大地を切り裂いて”オニキス”の影を頬張るように飛び出てくる。

 間一髪のところで、奴の噛みつきを回避できたが、今度は間髪入れずにレーザーを放たれる。

 

 彼女にはその”ヴァグ”の動きが、まるでプロゲーマーに操作されるゲームキャラのように洗礼されて、隙がないように見えた。

 

(三機が同時に……? 厄介だ……!)

 

 〈ダグラス〉は”ヴァグ”にのみ有効な洗脳周波数を常に発し、奴らを手駒のように扱うことができるシステムを搭載されている。

 故に、あの予想外の動きは間違いなく、あの三機が関与しているのは確かだ。

 

 これまで――誰よりも〈ダグラス〉の相手をしてきた彼女には、火を見るより明らかであった。

 

 

 なんで? なんで!?

 どうして自由に動かせないの! 私はまた、見てるだけなの!?

 

 目の前で繰り広げられる戦闘は、確かに私の目が見ているもの。なのに、まるでVRで映像を鑑賞しているだけで、蚊帳の外に放り投げられた気持ちを捨て切れない。

 

 目の前にいるのに――。

 私は、八尾の怪人と剣を切り結ぶ愛しき騎士の背を見ながら、込み上げる気持ちを押し殺した。

 

 序盤はいい。ARK REBIRTHの序盤は本当に面白かった。ルナも、確かに主人公だった。

 

 でも――あの子にはこれから()()()()()が待ち受けている。多分彼自身では避けようのない、あまりに残酷な運命が。

 

 そんなの、あんまりだ。

 私は知ってる。あの子がこれから、どれだけ苦しんで、立ち塞がる壁を乗り越えようと藻掻くのかを。

 

 定められた運命(シナリオ)が絶対で、私がこの身体(シズ)を動かせないのだとしたら、彼の結末も決定事項に違いない。

 

 ――でも、私は一度だけそれに(そむ)くことができたじゃないか!

 それは、()()()()あの悲惨な運命を変えられる唯一無二の存在という証明なんじゃないの?

 

 お願い……! 動いて……!

 

 私の想いとは裏腹に、シズは理路整然と戦闘に臨んでいた。

 

 

(何としてでも、この三機を逃がすわけにはいかない!)

 

 前大戦では、〈ダグラス〉一機で戦況が覆ったのだ。それだけこれは、強力で危険な兵器――いわば魔剣なのだ。絶対的な力を持つが、必ず()()()()()()()()()

 

 今の連盟軍の手に渡れば、世界が再び混沌に落ちかねない。

 血で血を洗うような、あの地獄に――。

 

「いい加減……落ちろッッッ!!!!」

 

 シズは声を荒げた。

 それに呼応するよう、”オニキス”の眼がギラリと煌めく。

 

 変形する腹部装甲の隙間から、三角形の兵器で飛び出てきて、鮮やかなビームの刃を形成した。

 機体をぐい、と捻りそれを勢いよく投擲すれば、凄まじいスピードで回転し、さながら円盤を投げたかのような軌道を描く。

 

 ビームブーメラン。量子通信によって実現した投擲武器。今の今まで忍ばせていた最終兵器だ。

 

 鮮やかな軌道は、〈スサノオ〉の構えていた大太刀の刀身を捉える。

 赤熱する断面図から融解した金属を撒き散らし、刃が軽い小爆発を起こしながら地上へと堕ちてゆく。

 

 攻撃手段がなくなったのを良いことに、”オニキス”の機体を〈スサノオ〉へと激突させた。

 

「投降しろ!!」

『そう言われて素直に降りるやつがあるか!!』

 

 シズはこの期に及んで、敵へ投降を呼びかけた。当然、〈スサノオ〉のパイロットが応じるはずもない。

 

 

 この女――シズは、()()()()()()軍人だ。命令通りに動き、上層部が拍手喝采するような仕事を淡々と熟す。

 だがこうやって指揮系統が混乱し、命令が得られないときは、彼女なりのマニュアルに沿って動くしかない。

 

 このときの彼女は新型を()()のではなく、()()()()にすることに専念していた。上層部がそれを望むだろう、そう命令するだろうと勝手に確信して。

 

 だから――三機丸ごと奪われてしまうんだ。

 

 〈ダグラス〉という強力な兵器を奪われた結果、戦況は大混乱に陥る。

 そうして混沌(カオス)な戦場という深淵(アビス)が目まぐるしく変わっていくうちに、ルナは追い込まれて、気が狂い、自暴自棄になってしまう。

 

 あの時の彼は、見ていられなかった。全てが脚本のせいだと知っていながらも。

 

 私が操縦したところで、戦況が変わる保証なんてないけれど――それでも、結末を知っているのに何もできないなんて、本当に嫌だ!

 

 

 動け動けと願う私と捨てるべき情を抱えながら、シズは激動の戦場に身を委ねていた。

 

 〈ノーヴェ〉と〈アストラル〉の描く斬撃の軌道が、シズの網膜を狂わせる。散る火花は多量なれど、どちらも自らへの攻撃を許さず剣を交わし合うのみ。

 

『いい加減にしなさいよ!』

『黙れ! 街をムチャクチャにしておいて……! それはこっちの台詞だ!』

 

 ルナが怒りを吐き出し、〈アストラル〉の足蹴が八尾の怪人に炸裂する。

 すかさず反撃しようとした奴の尾を、”シュヴェルトティガー”の刃で弾き返した。

 

 シズはそれを横目に受け、彼の腕が十分であることを自覚する。

 〈ノーヴェ〉は任せてもいい――いや、腕が十分過ぎるが故に撃破してしまうかもしれない。

 彼の援護をするためにも、こっち(スサノオ)を早く片付けなくては。

 

 激昂し反撃する〈スサノオ〉。

 三機をまとめて落とす――いいや、落としては駄目だ。()()()()にしなくては。

 この三機は”アーク連邦”にとって決定打になりうる兵器。安々破壊していい筈がない。

 

 〈スサノオ〉の太刀と、〈バハムート〉のサーベルが同時に迫った。

 ここまでか――と、シズは腹を括ろうとする。

 

 

 違うでしょ!?

 向こうに渡すのが脅威なんなら、()()()()じゃあなくって、()()()()いいでしょ!?

 この状態で前者の方を遂行するのは難しいって、どうしてわからないの!? この軍人バカ!! 自惚れるなよ!!

 

 REBIRTHでのシズの行動は、最終話まで議論があった。もしああしていたら、もしこうしていたら……なんて事が多すぎる。

 

 あぁもう! なんかイライラしてきた!

 可愛いがーとかギャップがーとか甘やかしてきたけど、実際、ルナ(憧れの子)を目の前にして考えが変わった。

 

 あの子は今も、必死で戦ってるの!

 街の人達を守ろうと、救難信号を出した一人の哀れなパイロットを助けようと!

 

 その思いを無下にするわけ?! あなた(シズ)は!!

 

 悪いのは脚本に監督に、それに指示した上層部。私はそれに怒りを露わにしている。

 大好きな作品を、私に希望を見せてくれたキャラを台無しにした、お金しか目にない汚い大人たちを、私は許してない。

 

 こうして”転生”なんて形でその世界に来て、認められない運命を変えられる絶好のチャンスを掴むことができた。

 

 私は、変えたい!

 あの子が悉く不幸になるような、くそったれな運命(シナリオ)を!

 

 だから――!!

 

 

 刹那、蚊帳の外のように感じられたコックピット内の張り詰めた空気感が鮮明になった。

 

 ついこの間の感覚と似たようなそれを認知する前に、私は声を張り上げていた。

 

「――この身体、いい加減貸せぇぇっ!!!!」

 

 喉に響く痺れるような感覚、反響する声が鼓膜を揺るがす感覚、目を貫くモニター越しの鮮やかな閃光。

 

 その全てが鮮明に感じられた。

 

 私は張り詰める空気の感触をようやく認知し、身体(シズ)を自由に操れるようになった実感を得る。

 

 私は操縦桿を拙い手つきで押し倒し、”オニキス”をその場から急速離脱させた。

 空を斬る〈スサノオ〉と〈バハムート〉は一瞬その動きを止める。

 

 メインモニターを埋め尽くすのは、〈ノーヴェ〉と斬り合う憧れの騎士(〈アストラル〉)の姿。

 私は”オニキス”でそこに突っ込み、高周波ブレードを叩きつける。

 

『大尉!?』

 

 困惑するルナに、私は興奮を抑え込みながら話しかける。

 

「……ルナ!!」

 

 多分、自然と笑みが漏れていたと思う。

 サブモニターに映り、目をまん丸とさせている彼が、それをどう思ったかは定かでは無いが。

 

 

 名前を呼べた。声が届いた――。

 こんなに、嬉しいことなんてない――。 

 

 

 ”オニキス”の近接防空システム(CIWS)を稼働させ、鉛玉の嵐を〈ノーヴェ〉に向けた。

 ルナはその意図を汲み取ったのか、ビームライフルを構えて、幾筋もの光条を八尾の怪人へと手向ける。

 

 堪らず飛び立った〈ノーヴェ〉。

 その尾を追うよう、〈アストラル〉と”オニキス”も飛翔する。

 

 〈バハムート〉と〈スサノオ〉の反応が近づいてくる。

 眼の前の獲物を()()のには、外野は邪魔でしかない。

 

 ――刹那、私達の機体を巨大な影が覆い尽くした。

 先程姿を消した”ヴァグ”。それが、二機の敵機を妨げるように咆哮を轟かせた。

 巨獣が大地へと落とす影は、一つから二つ、二つから三つへと徐々に増えていく。

 そうして現れた五体の”ヴァグ”が並ぶ様は、圧巻されるものがあった。

 

 〈アストラル〉も正真正銘の〈ダグラス〉であるという、明らかな証明だ。

 

 そして、”オニキス”のセンサーが複数の識別信号を捉えた。

 味方のもの――。救難信号にようやく応えてくれたようだ。

 

『あぁもう!! 何なのよあんたら!!』

 

 空を駆る〈ノーヴェ〉は、近接防空システム(CIWS)で弾丸の雨を降り注がせながら、同時にビームライフルを照射し、急接近するこちらの妨害を図った。

 

 しかし、幾ら〈ゲイズチェイサ〉といえど高度限界がある――という設定資料を聞いたことがある。

 このまま上昇し続ける訳にはいかないはずだ。

 

 私は襲い来るGの衝撃に狼狽えてはいたが、身体(シズ)のおかげで痛くも痒くもない。

 変えてみせるんだ、少しでも――。

 

 隻腕の”オニキス”と〈アストラル〉は、〈ノーヴェ〉を遥か上空にまで追い詰める。

 腹をくくったのか、〈ノーヴェ〉は八対のビームサーベル付きワイヤーを逆立たせ、臨戦態勢に入った。

 

「ルナ、それ貸して!」

 

 私はモニター越しにルナへ問いかけた。

 ルナは一瞬、私が何を言っているのか理解しかねたようだったが、私の顎先によって把握できたようだ。

 

 騎士により、一度光の刃の灯火が途絶え、二つへ分断される”シュヴェルトティガー”。

 ”オニキス”の手に渡ると、それは再び光刃の輝きを取り戻した。

 

 私はつい遊び心で、剣を頭上でくるくると弄び、その矛先を敵へ向けてから、勢いよく前のめりになりながら構えた。

 ――ずっと憧れた剣の持ち方。傘で何度もやった記憶がある。

 

 ”オニキス”と〈アストラル〉は、”シュヴェルトティガー”を手に八尾の怪人へと直行する。

 

 降りかかる光刃を跳ね除け、くるりと一回転しながらも、後退を続ける〈ノーヴェ〉との距離を着実に詰めた。

 〈アストラル〉が受け止めた尾を、私の”オニキス”が一刀両断。

 宙を舞う尾が地面へと堕ちぬうちに、私たちは機体を高速で駆った。

 

 応戦する〈ノーヴェ〉の動きには、確かな焦りが見えた。

 

 当然だ。彼ら地球連盟にとって、完成品の〈ダグラス〉は喉から手が出るほどにほしい代物。

 この敵パイロット――カンナとって、彼女らの任務は絶対に失敗できないものだ。

 ましてやその新型機を落とすだなんて、彼女の性格からして屈辱でしかないはずだ。

 

 だが、こっちの望みはそれを上回っている。

 

 私は救いたい人がいる。

 その子はがさつで横暴に見えるけれど、誰よりも優しくて、誰よりも他人のことを思いやれて、それでいて行動力のある――私の憧れの人なんだ。

 

 理不尽な世界のせいで、絶望の淵に沈む彼の運命を、私は変えたい。

 

 サブモニターに映るルナに目配せをする。

 

 ルナは不思議そうに一瞥した。

 きっと、私の顔から自然と笑みでも漏れていたんだろう。

 

 〈ノーヴェ〉が味方の元へ戻らんと急降下を開始した。

 

 〈アストラル〉と”オニキス”を駆り、それを執拗に追った。

 散開した八条のワイヤー。

 それぞれが独立するように稼働し、鮮やかな軌道を成して、私たちの接近を阻害する。

 

 〈ノーヴェ〉の弱点。作中では語られてなんていない。だが、ロボアニメ掲示板に張り付いていた私は、ある仮説を見つけたことがある。

 

 今や八本となったサーベル付きワイヤー。あれは九本全てが同時操作されているように見えて、実は一本一本の個別操作ではないか……という考察だ。

 

 〈ノーヴェ〉で唯一厄介なのは、あのサーベル付きワイヤーだ。距離をとっても、高機動ゆえに一瞬で詰められる。あれを無力化するために、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ルナ!! 一旦距離を取ってビームライフルで牽制して!!」

『えぇ!?』

 

 ルナは声をあげる。しかし、大尉様の命令とあれば致し方ない、といった具合で〈アストラル〉はすぐさま後退した。

 

 八八ミリビームライフルから放たれる光条が、急降下してゆく〈ノーヴェ〉を翻弄する。

〈ノーヴェ〉は〈アストラル〉を黙らせるべく、ビームライフルを乱射した。

 そこへ、”オニキス”の振るう斬撃も加わって、意思を持ったかのようなワイヤーらは、次第に勢いを欠いていった。

 

 ワイヤーを個別操作しかできない。それすなわち、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ライフルも撃ち、ワイヤーも稼働させるとなれば、いくらシズであれ困難だろう。

 

 尾のない九尾の狐など、ただの狐だ。

 

 雲を裂いて、大地が見えた頃。

 私は声を張り上げた。

 

「ルナ!! やるよ!!」

『……はいっ!!』

 

 〈アストラル〉はありったけのビームを放った後に、”シュヴェルトティガー”を構えて急降下を行った。

 

 くるり、と翻る”オニキス”。

 その動きに、相手はさぞ恐怖を覚えたことだろう。

 

 降り注ぐ落雷のような光が、暁の空を引き裂くように描かれる。

 

 

 刹那――二対の閃光が〈ノーヴェ〉の両腕と複数のワイヤーを捉えた。

 弧を描きながら舞い上がる斬り落とされたモノが、重力に引かれぬうちに方向転換し、”オニキス”と〈アストラル〉は斬撃を振るう。

 

 両脚と残りのワイヤーを欠損した〈ノーヴェ〉は稼働不能となり、そのツインアイの輝きを失った。

 

 ”オニキス”と〈アストラル〉が並び、役目を終えた剣を握ったまま、爆ぜる火焔を背に悠々と佇んだ。

 

 その瞬間、視界が揺らいで意識が外界へと引きずり込まれるような感覚が走った後、騒然とした空気が蚊帳の外のように思えるようになった。

 

 

『ルナ!! 平気か!?』

 

 無線に流れ込んでくるのは、別の青年の声。ルナの呼び方からして友人だろうか……?

 

 シズは荒く呼吸をしながら、状況を確認する。

 

 まただ――シズは虚無感が満ちる胸元を、ぎゅっと握りしめる。

 無意識のうちに、という表現は似合わない。意識はある。意識はあるのに、身体が言うことを聞かないような、妙な体験をした……気がする。

 

『〈スサノオ〉と〈バハムート〉は!?』

『……逃げられた。だが、〈ノーヴェ〉を落としたのはお手柄だな』

 

 友人に褒められると、ルナは微笑みを浮かべてからシズの方を見た。

 

『リク、大尉の機体をどうにかしてやってくれないか?』

『その赤い機体――バジーナ大尉ですか?』

 

 リクと呼ばれた友人が尋ねてくる。

 シズは状況の整理もつかぬまま、その声に応えてしまう。

 

「え……ええ。とにかく補給を受けたいの」

『生きてる工廠の座標を送ります。侵入した”ヴァグ”は掃討しましたが、お気をつけて』

 

 ぴこん、という電子音と共にサブモニターへマップが映し出された。

 モニターに映るルナは、シズが目をやると清々しい笑みで言う。

 

『大尉、ありがとうございました!』

「……え、えぇ。こちらこそ、助けてくれてありがとう。()()()()

 

 シズはそう言い残して、隻腕の”オニキス”を駆り補給を求めて蒼穹の空へと羽ばたいたのだった。

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