ダウナーTS干物少女はおっぱいが羨ましい   作:伝説の超TSスキー

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第一話「壁ドン」

 

 知っているだろうか。

 

 セーラー服に袖を通す時に、長い髪の毛は結構邪魔なのだということを。

 

「背丈はやや小柄。目つきは悪く、髪もボサボサ」

 

 知っているだろうか。

 

 爪先だけの丈のソックスは、パンストを履くときの蒸れ対策なのだと。

 

「不細工というほどではない。が、美人とも言い難い」

 

 TSするなら『美少女になる』のが最低保証。

 

 そんな戯言は、アタシ(・・・)には何の関係もなかった。

 

「何処にでもいる地味な女子高生」

 

 芦屋みちる。

 

 年齢は16歳、女子歴は2年目。

 

 元々は、文系メガネな真面目男子。

 

 色々あって、今はダウナー干物女子高生となっていた。

 

 

 2年前のあの日まで、アタシは確かに男であった。

 

 ただ突然に、横暴な超自然的存在の暴挙に巻き込まれ、女性の身体にされてしまったのだ。

 

 誰かに、話しかけられたのは覚えている。だが、どんな話をしたのかは覚えていない。

 

 ひたすらに一方的ではた迷惑な話をされた気がするが、悔しい事に思い出せないのだ。

 

 その直後、「俺」の身体は真っ白な光に包まれ、「アタシ」になってしまった。

 

 あの日、話しかけてきた人物は結局何者だったのか分からない。だけど、確かに人だった。

 

 俺は何者かによって、アタシにされてしまったのだ。

 

 

 不幸中の幸いは。アタシが女にされる瞬間を、超常的現象を、多くの人物が目撃していたことだ。

 

 それは双子の弟を含め、数名のグループで川遊びに行っていた最中だった。

 

 その場に居た全員が、アタシが突然に光に包まれ、女性にされてしまった瞬間を見ていた。

 

 だから弟も証言してくれたし、親にアタシが芦屋みちるだと信じてもらうことが出来た。

 

 戸籍の無い住所不定無職の未成年として、国家権力のお世話になる事態は避けられたのである。

 

 

 そんなアタシを待っていたのは、医療機関に引っ張りまわされての検査三昧の日々であった。

 

 DNA鑑定が行われた結果、両親とは血縁が確認された。

 

 だけど、アタシが芦屋みちる本人であるという証明はどうやっても出来なかった。

 

 未知の、突然に女性になる病気にかかってしまったのか。

 

 はたまた、別人のなりすましなのか。

 

 超常現象で女になったという言い訳を国家権力は信じてくれず、アタシが芦屋みちる本人なのかという議論がしばらく続けられ────

 

「この子はみちるだと思います。なのでそちらがどう判断されようと、私達が育てます」

 

 ありがたいことに父母がそう言ってガンと譲らなかったので、結局『性別の登録を変更』する形でアタシが芦屋みちるだという結論に落ち着いた。

 

 

 男から女に変化した少年、ということでアタシはちょっとしたニュースになった。

 

 騒ぎになりたくないので報道はやめてくれと頼み込んだが、翌日の新聞にはバッチリとアタシの写真が掲載されてしまった。

 

 好奇心というのは、時に大いに人を傷つける。

 

 アタシが女になってから2年間で、人間不信になるような出来事が山ほどあった。

 

 他人はアタシの事情なんかどうでも良くて、ただ面白い珍獣の正体を探りたがった。

 

 アタシも女になった直後は、男らしい口調で一人称も「俺」のままだった。

 

 しかしアタシが「俺」というたび、マスコミは嬉しそうにカメラを回し続けた。

 

 そんな世間の奇異の目が気持ち悪くて、俺いつしか「女の子(アタシ)」として振舞うようになった。

 

 

 そんないじらしい努力を続けた甲斐もあって、2年も経つ頃には世間はアタシへの興味を失くしていた。

 

 毎日ストーキングしていたマスコミは姿を消したが、その頃には男の時に仲が良かった連中とも遠縁になっていて。

 

 気付けば、クラスで孤立した目つきの悪い干物女が出来上がってしまった。

 

 そのまま中学は卒業し、引っ越しをして地元を去り。

 

 誰も知人のいない土地に引っ越して、遠くの高校へ逃げるように入学した。

 

 

「みっちるー」

 

 

 ああ、世知辛いことこの上ない。

 

 両親が気を効かせて、遠くの高校に入学させてもらったというのに。

 

 アタシは新しい学校も、寂しい毎日を送っていた。

 

 

 教師以外と話す機会はない。

 

 女子グループに割って入る度胸なんてないし、男子グループは既に地元民でコミュニティを形成し終わっている。

 

 話し相手になってくれるのは、アタシが女性になった経緯を知っている双子の弟だけであった。

 

 ヤツは毎日、放課後になるとアタシの机まで話に来るのだ。

 

「ハク、どうした」

「今日もぼっちしてたでしょ。何で昼休み、ボクのクラスに遊びに来ないのさ」

「行っても気を遣わせるだけだし」

 

 双子の弟ハクは、別のクラスに在籍していた。

 

 アタシの事情を受け入れて、地元の友人と別れ県外の高校についてきてくれたのだ。

 

 しかしアタシとは対照的に、弟はリア充であった。

 

 運動大好きスポーツマンで、陸上にバスケに野球と何でも一通り手を出している。

 

 今はサッカーにはまっているようで、毎日ボールを友達と言い張ってリフティングしていた。

 

「お前のグループ、全員サッカー部じゃないか。アタシは部外者だよ」

「じゃあ一緒にサッカーやろうよ~。みんなに紹介するよ?」

「アタシの運動神経は知ってるだろ……」

「マネージャーでもいいし」

 

 一方でアタシは男だった時代から、運動神経がうんちだった。

 

 体を動かすより本を読む方が好き。

 

 文系と体育会系は違う生物なのだ。

 

「みちるは、男が多い部活の方が気楽でしょ」

「そうだけど、何か違うんだよ……。こう、陰キャには入りづらいキラキラがあるんだよ」

「だけどさ、そうも一日中ぼっちしてたら寂しいことになるよ。孤独死が現実味を帯びてくるよ」

「言うな、そんなこと」

 

 弟のハクは、悪意なくアタシを心配している。

 

 アタシが女になった後はずっと気を遣ってくれて、送り迎えもしてくれた。

 

 そんな性格の良い弟ではあるのだ。

 

「でも人と付き合うのがだるい」

「終わってるなぁ」

「いーの。部活なんて」

 

 だけど、今のアタシには。

 

 その弟の押しつけがましい『好意』が、辟易するほどに面倒くさかった。

 

 

 高校生になったら部活に打ち込むもの。

 

 そんなことは一体誰が決めたのか。

 

 アタシの腕はか細い。腕力を使う競技には向かないだろう。

 

 アタシの足は遅い。走る競技は向かない筈だ。

 

 結論。運動部は無理である。

 

 

 文芸部、美術部、新聞部など文化系の部活ならまぁ入ってやってもいい。

 

 だが、入って何をしようというのか。

 

 アタシの名前は悪い意味で有名だ。ネットでは「性別詐称」だの「オカマ野郎」だの、聞くに堪えない罵詈雑言が広がっている。

 

 そもそもアタシは、人付き合いも苦手だ。部活に入ったとして、にこやかにメンバーと歓談できるほどのコミュ力はない。

 

 ネットでの悪名のせいで、コミュニティの空気を悪くするだけになる気がしてならない。

 

 

 人と話すのが苦手だ。

 

 コミュニケーションを取りたくない。

 

 ずっと自分の世界に籠っていたい。

 

 だって、世間の目と言うのはあんなにも無遠慮で厚かましくて、気持ちが悪いものなのだから。

 

 だから、アタシは……。

 

 

 

「でも、どこかのクラブには所属する決まりだよ。それだったらサッカー部に」

「うるさいな」

 

 弟のうざったい話をぶった斬り、アタシは帰り支度を始めた。

 

 この後、サッカー部の練習が始まる。アタシに構っている暇はないはずだ。

 

 今日も帰って自宅で遊ぼう。漫画に動画にゲーム、この世界には娯楽が溢れているのだ。

 

 ハクの心配も分かるが、アタシにキラキラした高校生活は無理だ。

 

 男の気持ちも女の気持ちも分からない。

 

 何もかも中途半端で生きていくのがダルい。

 

「幽霊部員でもいいからさ、サッカー部に名前を置いときなよ。変な部活にいれられるよ」 

「アタシの知ったことか」

 

 アタシは地味で平凡でコミュ障な、干物女になってしまったのだから。

 

 

 

 

「─────おい、そこの女」

「はい」

 

 ハクを撒いて、廊下に出たあと。

 

 アタシは誰にも見向きされないまま、下駄箱に向かって歩いた。

 

 宿題を終えた後、ゲームと動画に興じつつ、部活帰りの弟に飯を作ってやる。

 

 そういう、予定だった。

 

「ちょっとツラ貸せ」

「……いやです」

 

 だが、どんな世界にも物好きはいるらしい。

 

 下駄箱の陰でアタシは、見知らぬ男子生徒に絡まれてしまった。

 

 金髪で強面の、話したこともない先輩だ。

 

 ソイツはアタシの肩を掴み、逃げれぬように壁に押し付けた。

 

「……」

 

 これが壁ドンか。このシチュエーションにときめく女性は多いと聞くが、アタシにはその気持ちが分からない。

 

 ぶっちゃけ恐怖しか感じない。

 

「いいじゃねぇか、ちょっとくらい付き合えよ」

「貴方とは初対面の筈ですけど。他人に付き合う義理はありません」

「そう言うなって、俺の方はお前のことを知ってるんだ」

 

 金髪男は、よく見れば整った顔立ちをしている。

 

 俺様系イケメンとでもいうのだろうか。

 

 ……アタシが普通の感性を持つ女であれば、もう少しときめくのかもしれない。

 

「アタシを、知っている?」

「お前、芦屋みちるだろ? あの有名な」

 

 ああ、と。

 

 金髪男の言葉を聞いて、アタシの目が死んだのが分かった。

 

 腹立たしいことに、一部の報道機関が「芦屋みちる」というお名前を出してしまっていた。

 

 そのお陰でネット上では、まだ検索すれば随所にアタシの名前が残っている。

 

 「芦屋みちる」の名前を知っているということは、この男もアタシの記事を面白おかしく楽しんだ側の人間ということ。

 

 ─────こいつも、好奇まじりにアタシを嗤いに来た人間か。

 

「そのナリで元男とはねぇ。分かんねぇもんだな」

「……確かにアタシの名前は芦屋みちるですが。貴方には関係ないでしょ」

「有名人とちょっとお話したいだけだよ」

 

 金髪の男は嘗め回すように、アタシの体躯を凝視していた。

 

 あまりにも不躾で、不快な視線。

 

 吐き気がする。

 

「安心しろよ。誰にも言いふらすつもりはないって」

「……」

「その代わり、さ」

 

 ……これは脅しのつもりなのだろうか。

 

 言うことを聞かなければ系のアレなのだろうか。

 

 だとすれば、この男はアタシに何を要求するつもりだろう?

 

 残念なことにアタシは美少女ではない。そもそも元男だし、体目的とは考えにくい。

 

 ウチは裕福ではない。金銭目的だとしても、財布には二千円しか入っていない。

 

「大丈夫、お話を聞きたいだけさ」

「お話をと言われても。……制服での寄り道は校則で禁止されています」

「いやいや、学校内。ちょっと部室に来てよ」

「部室?」

 

 いろいろと身構えつつ、その男の出方を伺っていると。

 

 ヤツはにんまりと笑って、アタシにすぐ近くの部室棟を指さした。

 

「あそこ、オカルト研究部」

 

 

 

 

 

 

 

「……本当に申し訳ありません」

 

 この金髪君は、何とオカルト研究部だった。

 

 それは文化系部活の中でもかなりオタク指数が高い所である。

 

 何だこの金髪イケメンと思いつつ、秘密を握られているアタシは部室までついていったのだが。

 

「ウチの部員が、強引な勧誘を行ったそうで。心より、お詫び申し上げます」

「はあ」

 

 部室の中では、深層の令嬢かというフワフワした儚げな女生徒が本を読んでいて。

 

 アタシが連行された経緯を聞くと、プンプン怒って金髪君を正座させてしまった。

 

「だってよ、ソイツまだ部活に所属していないっぽくて」

「だとしても、人の弱みに付け込むようなことをしては駄目です」

「……別につけ込む気は」

「実際、芦屋さんは凄く嫌そうな顔で部室に入ってきたではありませんか」

 

 少女に説教された金髪男は、ぶーぶーと言いながらもおとなしく正座している。

 

 ……このご令嬢の方が、金髪男より立場が上のようだ。

 

「大変失礼いたしました、芦屋さん」

「い、いえ。ご丁寧に、どうも」

「改めて自己紹介を行います。ボクの名前は春鹿(はるか)大輔(だいすけ)です」

 

 その深窓の令嬢は、アタシに向かって屈託のない笑みを浮かべ。

 

「二年C組、オカルト研究部の部長です」

「ど、どうも」

 

 ……男の名前を名乗った。 

 

「あの、大輔さん?」

「何でしょうか」

 

 改めて、春鹿大輔先輩を凝視する。

 

 セーラー服にスカート姿で、胸はふくよかで髪はフワフワ。

 

 触れば手折れそうなほどに華奢で、どことなくいいにおいがする。

 

 美少女偏差値で言うとアタシが40程度で、彼は70を超えているだろう。

 

「……大変失礼ながら、男性ですか?」

「ああ、いえ。そこは少し、事情がありまして」

 

 アタシより美少女な大輔先輩は、少しはにかむように笑った後。

 

「貴方と似たような事情、と申し上げれば分かりやすいでしょうか」

「─────っ!」

 

 そんな、とんでもないことを言い放った。

 

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