ダウナーTS干物少女はおっぱいが羨ましい   作:伝説の超TSスキー

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第二話「君の名は」

 

 とりあえず、春鹿(はるか)大輔(だいすけ)と名乗ったフワフワ美少女から話を聞くと。

 

「……入れ替わり?」

「ええ。僕と彼女は、超常的な存在に意識を入れ換えられたのです」

 

 彼女はアタシと違って、後天的に女性化した訳ではなく。

 

 先ほどアタシに絡んできた『金髪男』と入れ替わり、女性になってしまったというのだ。

 

 聞けば二年前、二人は海に行った時に大きな渦に巻き込まれ、溺れてしまった。

 

 そして助かった時には、二人の自我は入れ替わっていたそうだ。

 

「そこの金髪の男、『彼女』は深水(しみず)静香(しずか)と申しまして、僕の幼馴染なのです」

「ういっすー!」

「こんな話、誰も信じてくれなくてですね。入れ替わりごっこをしてからかってるんだろうと言われました」

「……そりゃあ、そうなるな」

 

 しかし事情を説明しても、彼らの親ですら入れ替わりを信じてくれなかった。

 

 『深水静香』が札付きのいたずらっ子だったのも原因だろう。

 

 春鹿大輔を巻き込んで、入れ替わったふりをして騙そうとしているのだと思われた。

 

「僕たちが入れ替わって、もう2年経ちました。未だに、元に戻る気配はありません」

「俺はこのままで良いけどなー! 大輔の身体、たーのしいし!」

「……僕の身体なんだから、髪とか染めないで欲しいんだけどなぁ」

 

 つまり元々、この金髪男はおとなしい性格の少年で。

 

 逆に目の前のフワフワ美少女が、ヤンキーな性格だったそうだ。

 

「二年間も性格入れ変わって、まだ親は信じてくれてないのですか?」

「入れ替わりごっこがきっかけで、性格が変わったって思われているんです」

「ウチの親はうるさくてよー、やれ慎ましく振舞えとかおしとやかにしろとか! 反吐が出るぜ」

「逆に僕の親は、もっと活発になってほしかったみたいでして……」

 

 なるほど。中身が入れ替わった結果、互いの親の理想の子供になっちゃったわけか。

 

 ……何とも難儀な話である。

 

「僕たちみたいなケースは他には存在しないのか、手を尽くして色々と調べまわっていく中で貴女────芦屋みちるのことを知りました」

「……一時ニュースになってたからな」

「それで、貴女がウチに入学していると知って、昨日大喜びしたんです。僕たちの話を信じてくれるんじゃないかと」

「そうそう、珍しく大興奮してたなお前!」

 

 春鹿先輩はそういうと、申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「多分静香が貴女を拉致したのは、僕がみちるさんの話を振ったからでしょう」

「そんな面白い奴が居るなら、オカ研に誘えば良いじゃんねぇ!」

「……彼女は少々、短絡的なところがありまして。深くお詫び申し上げます」

「苦労してるんですね」

 

 春鹿先輩はアタシに謝った後、眉をへの字に曲げて静香(ヤンキー)を眺めていた。

 

 ……なるほど、この二人の関係は大体わかったな。

 

「僕は今、元の身体に戻るための方法を探っています。そのためにオカルト研究部を設立しました」

「この世の理屈では話が通じないような超常現象に対する研究。お前も興味あるんじゃねぇの」

「……あー、まぁ」

 

 なるほど、確かにそれは興味がある。アタシだって、元の身体に戻れたらと夢想しなかった日はない。

 

 全てを諦めたアタシと違い、春鹿先輩は抗っているのだ。

 

 理外の超常現象に対し、まっとうに立ち向かおうとしている。

 

「それで、何か分かったんですか? 先輩方を入れ替えたという、超常現象について」

「あー、そうですね」

 

 とは言え、あれは人間の理解を越える力だ。

 

 普通に考えて、高校生二人が研究した所で何も得られるとは思わない。

 

 だが、アタシの問いを聞くと春鹿先輩は嬉しそうに、

 

「では芦屋さん。よろしければ、僕の研究成果の一端をご覧になりますか」

「研究成果?」

「ええ。きっと、驚いてくれると思いますよ」

 

 そう、悪戯っぽく笑った。

 

 

 

 

 

 

「魔法陣?」

 

 そのあと春鹿先輩は、アタシを部室の奥へと案内した。

 

 その床にはオカ研らしい、『魔法陣』が描かれた黒布が敷かれていた。

 

「今のところ、成功したのはこの儀式だけなんですけど」

「……おぉ」

 

 なるほど、これは確かにオカルト研究部っぽい。

 

 だけど、そこはかとない胡散臭さも感じる。 

 

「親戚に西洋魔術の土着文化研究をしている人がいて、その人に資料を貰ったのです」

「西洋魔術?」

「まぁ、殆どの魔術は嘘っぱち、デマだったんですけど」

 

 先輩はその魔法陣の上に、手鏡を立てかけた。

 

 その後、六つある蝋燭の一つ一つに火を灯していく。

 

 そして六つの火が灯った瞬間、魔法陣が微かに光り、波打った気がした。

 

「コレだけは本物だったんですよ」

 

 そして春鹿先輩は屈み、魔法陣に手を置いた。

 

 なんとなく分かる。これは、本物だ。

 

 アタシが以前に経験した、理外の現象────オカルトと呼ぶほかない『超常現象』。

 

 ────本物の魔術儀式だ。

 

It is a mirror reflecting the truth.(かがみよ、かがみ/) The eye of the gods, the bell of the forest.(しんじつのすがたをうつせ)

 

 詠唱が始まった。

 

 春鹿部長の透き通るようなか細い声が、オカ研の部室に木霊した。

 

「……っ!」

「おおー、これこれ♪」

 

 アタシのセーラー服が靡き、スカーフが揺らぎ、髪がそり立つ。

 

 金髪男の楽し気な声と、少女の呪文詠唱だけが、部屋に響いた。

 

Distorted souls, to the truth.(たましいをはだかにせよ)

 

 やがて、世界が白黒に変化した。

 

 部室が黒い霧に覆われ真っ暗になり、鏡の周囲だけが光に照らされていた。

 

 そんな真っ暗な世界の中で動くのは、アタシと、金髪男と、春鹿先輩だけだった。

 

「嘘ぉ」

「な? 大輔はすげぇだろ芦屋みちる」

 

 アタシは絶句して、その場に立ち尽くした。

 

 魔法なんてありえない。魔術なんてありえない。

 

「大輔は独力で、この世界の裏の(ことわり)の裾を掴みやがったんだ」

 

 アタシを女に変えた超常現象は、遠い世界の謎の力で。

 

 どうやっても知ることのできない、関係のない世界だと思っていたのに。

 

 春鹿大輔────目の前の『長髪の美少女になった男』は、既にその奇跡を手中に収めていた。

 

 

「……どうですか、芦屋さん」

 

 

 詠唱を終えた部長は、ぜえぜえと息が荒く、餅のように白い頬を上気させていた。

 

 どことなく、色っぽいと感じてしまった。

 

「どう、とは」

「鏡をご覧ください」

「かがみ?」

 

 アタシは部長に促されるまま、魔法陣の真ん中に置かれた鏡を覗き込んだ。

 

 そこに映っていたのは、アタシであってアタシではなかった。

 

 

「……え」

 

 

 鏡の中には眼鏡をかけた、地味な少年がいた。

 

 アタシと向かい合って、驚いた顔をしているのは────女になる前の『俺』の姿だった。

 

「『真実の鏡』という魔術です。この鏡は、映された者を真実の姿に変えます」

「……」

 

 先輩二人が、アタシのとなりに座った。

 

 鏡に映っているのは、黒髪の優しそうな少年と、金髪のギャルだ。

 

「おもしれーだろコレ。『入れ替わる前の俺達』の姿が映ってるんだ」

「そして、今。鏡に映っている男の人が、本当の君なんですね」

「……あ、ああ」

 

 アタシは鏡に映った、『本来の自分』の姿に手を伸ばした。

 

 ああ、これが『俺』だ。

 

 アタシじゃない、本来の自分。

 

 超常現象に巻き込まれさえしなければ、今もきっとこの姿で元気に学校に通っていたはず。

 

「どうでした? 参考になりましたか」

 

 春鹿先輩がそういうと、次の瞬間に暗闇は霧散していた。

 

 そして何の変哲もない魔法陣と、何処にでもある手鏡が部室に転がっていた。

 

「ふぅ、すみません。少し疲れたので、座らせていただきますね」

「あ、はい」

「魔術の行使はとても疲れるんですよ。……ああ、頭が痛い」

 

 春鹿先輩は眉間を狭めて、顔を青くして椅子に座った。

 

 ……結構、無理をしていたらしい。

 

「僕が見付けた本物の魔術はこれだけです」

「すごい、すごいです。これを見せたらご両親も、入れ替わりを信じてくれるのでは」

「……残念ながら、この真実の鏡は『姿を偽っている者』しか見れないみたいなんです……。普通の人が呪文を詠唱しても、ただの鏡にしかなりません」

 

 先輩はそう言って、寂しそうに俯いた。

 

「逆に言えば。この鏡を覗き込めたなら、芦屋さんの話も事実だったということ」

「……!」

「芦谷さん。良ければ僕たちと一緒に、元の姿に戻る方法を探求してみませんか」

 

 その言葉を聞いて、アタシの心は大いに揺れた。

 

 超常の力を研究し、行使することは不可能ではなかった。

 

 現に今、春鹿大輔はアタシの前で超常現象を行使して見せた。

 

「……お願いしたい。私からも、お願いしたいです」

「そう」

「アタシはもう、こんな中途半端な状態でいたくない」

 

 だとすれば、アタシも足掻きたい。

 

 こんな理不尽で非合理な現象によって、普通の青春を奪われたくない。

 

「アタシは普通の人間になりたい! ……です」

「そう」

 

 そんな私の叫びを聞いて、春鹿先輩は目を細めた後。

 

「僕も同じ気持ちですよ」

 

 そう、微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

「オカルト研究部、新入部員ゲット!」

 

 アタシはその場で入部届を書いて、その足で職員室に提出した。

 

 オカルト研究部、春鹿部長の研究は少なくとも本物だ。

 

 『真実の鏡』により映し出された、数年ぶりの男だった時の自分の姿。

 

 あれはトリックなどではない、間違いなく超常現象だ。

 

「僕たちの主な活動は、古今東西のオカルト知識を集め、実行できそうな儀式を行うこと」

「はい」

「芦屋さんにも、素材集めなど手伝ってもらうことになります」

 

 だいたい月に1回ペースで、何かしらの魔術儀式を行っているらしい。

 

 その儀式が本物かデマか、一つ一つ手探りで探しているのだそうだ。

 

「次はどんな儀式をやる予定ですか」

「んー、今は何をしようか決まっていないんですよね」

「お互いの体を入れ替える儀式、とかないんですか」

「入れ替わり系の儀式は各地に伝わっているのだけれど、素材の関係でなかなか実行できないモノもあって」

 

 春鹿部長はそう言うと、エヘヘと遠慮がちに笑って資料を見せてくれた。

 

「ほら、その。処女の骨盤とか凄いのがいっぱいで」

「うーわ」

「一朝一夕では用意できない素材だらけなのです」

 

 その資料に書かれていた素材には、調達が難しいものが多かった。

 

 人間の遺体が必要だったり、オオカミの生き胆だの蛇の目玉だのゲテモノだらけだ。

 

 一角獣の髭など、神話生物系などはほぼ調達できないだろう。

 

「だから今は、出来そうなのからやっていってます」

「出来そうなの?」

「……簡単に手に入る素材で儀式を行ってみるんですよ」

 

 なので春鹿部長は今、「儀式が乗っている文献の信用度」を調べているらしい。

 

 他の簡単な儀式を行うことで、その本が偽物か本物かを確かめようとしているのだ。

 

「この『真実の鏡』が記載されていた資料は、1874年に書かれたエルミエールの著書『近代魔術史実録』です。だけど、この本に『魂を入れ換える儀式』は載っていませんでした」

「ふむ」

「この『近代魔術史実録』は本物の魔術書なのでしょう。……それだけに、残念です」

 

 オオカミの生き胆も、蛇の目玉も、ペットショップで大金を支払えば手に入らなくはない。

 

 ただし、相応の金額と手間暇がかかってしまう。

 

 そこまでやって『この魔術書は偽物でした』と肩透かしを食らうよりかは、先に簡単な儀式を行って本物か試す方が良いという考えだろう。

 

「僕の手持ちの資料で、『魂を入れ換える儀式』が載っている文献は三つありました」

「三つですか」

「その三冊に載っている、なるべく簡単な儀式を行って試している状況です」

 

 なので、集めるなら信用できる文献の儀式素材を集めようという話だ。

 

 そのためオカルト研究部では、それぞれに乗っている儀式で簡単なものを執り行っているという。

 

「面白そうですね。次はいつ、どんな儀式をやるんです?」

「一応、今年の夏休みに行う予定です。素材はある程度集め終わっていますので」

 

 春鹿部長はそう言って、アタシに一枚の紙を手渡した。

 

 そこには「オカ研 合宿のしおり」という題で、日時や費用が記されていた。

 

「せっかくなので芦屋さんにも参加しませんか。この夏にやる予定の、【土人形(ゴーレム)の儀式】に」

土人形(ゴーレム)?」

「ええ。それは十六世紀に編み出された、土くれを操り人形へと変える魔術」

 

 必要なのは赤土の粘土、没食子インク、甲虫の蛹。

 

 祈祷と断食を行ったあと、粘土を混ぜ合わせ人型を作り、その核に【emeth(真理)】と刻み込む儀式。

 

「ヘンリー・Dの記した十七世紀の魔術指南書『魂を操りし紐(ソウルテイカー)』に記された────土に命を吹き込む禁忌とされる儀式」

 

 春鹿先輩は、自らの潤った唇を人差し指で撫でて。

 

「我々はこの夏、正規の手順に則った、本物の『土人形合成(ゴーレムメイカー)』を行う予定なのです」

 

 そう言って、悪戯っぽく笑った。

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