ダウナーTS干物少女はおっぱいが羨ましい   作:伝説の超TSスキー

3 / 8
第三話「アッパー」

 

 そのあと春鹿先輩は、このオカルト研究部というクラブについて詳しく教えてくれた。

 

「じゃあ、新入部員の芦屋さんに改めて活動内容を紹介しますね」

「お願いします」

 

 オカルト研究部は同好会などではなく、れっきと学校に認められた文化系クラブだそうだ。

 

 実は十人以上の部員がいるらしいが、殆どが幽霊部員らしい。

 

「去年、僕が作った部活なんです。同級生にお願いして、名前を貸してもらって」

「春鹿は男にモテるからねぇ。面白いくらい男が名前貸してくれたよ」

「あはは、は」

 

 春鹿先輩は優しそうで、ふわふわした美少女だ。

 

 確かに、この人に「部活を作りたいので名前貸してくれませんか?」と頼まれたら、思春期男子が二つ返事で頷くのも分かる。

 

「最初のうちは、ちゃんと部室にも顔出してくれていたんですよ?」

「ただみんな来なくなって、殆ど幽霊部員になっちゃった。……というかまあ、俺が追っ払ったんだけど」

 

 金髪男の深水先輩は、ニンマリと悪い笑顔を浮かべ、

 

「春鹿を指さして『その女の身体は俺のモンだ。触るんじゃねぇ』とクラスで宣言してやった」

「なんてことを」

 

 去年に行われた、非人道的な蛮行を教えてくれた。

 

「やめて欲しかったなぁ……、本当に」

「でもまぁ、冷やかしが減ったじゃん」

「冷やかしでも良いから、部員は多い方が良いですよぅ」

 

 春鹿先輩は思い出してしまったのか、顔を真っ赤にして俯いている。

 

「てか、嘘は言ってねぇし」

「そうなんですよね……。一片の曇りなく、この体は彼女のものなので否定できなくて。……押し黙ってしまい、みんなに完全に誤解されてしまいました」

「春鹿をデートに誘いたいバカ男ばっかりだったしな。いい気味だ、ガハハ」

 

 そんな事になれば、まぁナンパ男はいなくまるわな。

 

 深水先輩なりに、春鹿先輩を守ろうとしたのかもしれない。

 

「そろそろ一回ヤらせてくれよ。俺の身体なんだしいいだろ」

「……君が使っているのは僕の身体だからだめ」

「チェー、けち」

 

 それか、深水先輩自体が悪質なナンパ男なのか。

 

「あ、そうそう芦屋。俺と春鹿の名前を呼ぶときは気を付けろよ」

「気を付ける、ですか」

「対外的には春鹿が『深水静香』で、俺が『春鹿大輔』だから」

「ああ、そっか。了解です」

「俺のことは気安く『大輔先輩』とでも呼んでくれ☆」

 

 深水先輩はきゅぴーんと、決めポーズを取った。

 

 春鹿先輩はそれを見て、苦笑している。

 

 自分の身体で変なポーズをされるって、どんな気分なのだろう。

 

「僕は(しず)ちゃんって呼ばれています。静ちゃん先輩と呼んでくれたら嬉しいです」

「某国民的アニメのヒロインみたいですね」

「そのくせ、覗いたら怒るんだぜ。この間なんか風呂場から変な声が聴こえたと思ったら……」

「んんっ!」

 

 ────鈍い音が響く。

 

 直後、金髪の顎が揺れて床に沈んだ。

 

 そして壮絶な笑顔で、アッパーカットの残心を取る深窓の令嬢がそこにいた。

 

「クラブ活動は週に二回。月曜日と木曜日に集まって成果を報告します」

「……はあ」

「報告はどんな資料を見つけただとか、どんな素材を手に入れたとかそんなのですね。土人形以外でも、出来そうな儀式があれば積極的に執り行っていく予定ですよ」

 

 春鹿先輩はそのまま流れをぶった切って、部活の説明に戻った。

 

 お風呂場の変な声には、あまり触れられたくないらしい。

 

「話は以上です、何か質問はありますか」

「えー、と。特に思いつかないです」

「じゃあ、また困ったことがあったら聞いてくださいね」

 

 まだ耳が赤い春鹿先輩が、アタシを見てニコニコしている。

 

 その背後では『大輔先輩』が白目を剥いて痙攣していた。

 

「それは大丈夫なのですか」

「ああ、これは僕の身体なので気にしなくていいですよ」

「う、うっす」

 

 ……この人には逆らわないようにしよう、と思った。

 

「とりあえず今日は、顔合わせと……。興味があれば、活動日誌とか見てみますか」

「活動日誌ですか」

「ええ、今までどんな儀式をして、どんな結果になったか────」

 

 春鹿先輩はそう言い、部室の棚からノートを取り出した。

 

 棚には青や赤色の、さまざまな色合いの旧いノートが数冊並んでいる。

 

「この儀式なんか、結構大掛かりだったんですよ」

 

 そういって部長が開いたノートには、何やら複雑な魔法陣が描かれていた。

 

 アタシも、そのノートを覗き込もうとすると……。

 

「……お?」

 

 トントン、と部室のドアを叩く音がした。

 

 

 

 

「……失礼します」

 

 そして部室に、小柄な生徒が入ってきていた。

 

 ピカピカの男子制服を着た、小柄で童顔の少年だ。

 

「ああ、スズ君か。いらっしゃい」

「ん……誰、ですか」

「ああ! この人は芦屋さんといって、今入部してくれた一年生です」

「そう……」

 

 彼はしげしげと数秒ほど不審そうにアタシを見つめたあと、部室の端っこの席に座った。

 

 春鹿先輩の態度を見るに、彼も部員っぽいな。

 

「紹介します。彼は芦屋さんと同じ1年生、涼加瀬さんです。オカルト好きだそうで入部してくれました」

「なるほど」

「僕たちの事情も話しています」

「……とても、興味深いと思った」

 

 スズ君と呼ばれた男子生徒は、紹介に合わせペコリとアタシに頭を下げた。

 

 釣られてアタシも、会釈を返した。

 

「スズ君、芦屋さん。初対面なら、ご挨拶してはどうでしょうか」

「は、はい。初めまして、かな。アタシは芦屋、みちると言います」

「……涼加瀬(すずかぜ)(すず)です」

 

 アタシの自己紹介に、スズ君はちょっと気まずそうに目を逸らした。

 

「たしか芦屋ハク君の双子の姉、だっけ」

「ああ、そうそう。ハクはアタシの弟」

 

 どうやら彼は、ハクのことを知っているらしい。

 

 同じクラスなのだろうか。

 

「……あまり、似てないね」

「あ、ああ。正反対だと、よく言われる」

「私も、そう思う」

 

 無表情だが、よく見るとなかなかに中性的で可愛い顔をしている。

 

 女装させたら、美少女偏差値はアタシより高くなるかもしれない。

 

「……これから、よろしく」

「お、おう」

 

 自己紹介をして、義理を果たしたとでも思ったのだろうか。

 

 彼が喋ったのはそれっきりで、そのまま黙り込んで読書をし始めた。

 

 どうやらあまり、社交的な性格ではないようだ。

 

「じゃあ紹介も終わったし、活動日誌を見せてあげるね」

「どうも、よろしくお願いします」

 

 こっちに目もくれなくなったスズ君を置いて、アタシは部長の隣に座った。

 

 そして今までどんな儀式があったのかという怪しい資料を、部長の解説付きで教えてもらった。

 

 

 

 

 

 

 

「芦屋さんはそのまま帰って良いよ。部室の鍵と、バカの処理は僕がやっておくから」

 

 ウチの学校の部活は、18時まで終わる。

 

 下校時刻までオカルト話を聞かせて貰った後、アタシは春鹿部長と部室で別れ、帰路に就いた。

 

「え、みちる? こんな時間まで何やってんの」

「おお、ハクか」

 

 帰り道、その下駄箱でアタシは汗臭い男子集団に囲まれた。

 

 その中には一人、見知った顔がいた。

 

「おー、これが噂のハクのねーちゃん?」

「おっす、よろしくー」

 

 双子の弟、芦屋ハクだ。

 

 その弟の周囲には、金髪の猿どもが並んで歩いていた。

 

「なんか似てねぇな! あははは」

「いや、目つき怖っ!」

 

 見た感じ、ハクはサッカー部の帰りらしい。

 

 ハクの顔に泥が付いていたので、アタシは黙ってハンカチで拭いてやった。

 

「みちる、答えてよ。こんな時間まで何やってたの」

「アタシも、部活入っただけ」

「え!? 何部?」

「オカルト研究部……」

「そんなー! サッカー部は?」

 

 オカ研に入ったと告げると、ハクはショックを受けた顔をした。

 

 そんなにサッカー部に入ってほしかったのだろうか。

 

「ハク! お前のねーちゃん、女子マネやってくれるって話じゃなかったのかよ」

「そのはずだったのに」

「アタシはそんなこと了承してない」

「みちるを全国に連れていきたかったのに……」

 

 アタシなんかを全国に連れていかれても困る。

 

 彼女をつくって連れていってくれ。

 

 アタシ、サッカー興味ないし。

 

「オカ研ってアレでしょ、確か残念な美人がいるとこでしょ」

「あー! 静ちゃんいるんだっけ」

 

 部員の一人(おそらく二年の人?)が、オカルト研究部と聞いて思い出したようにそう言った。

 

 ……静ちゃん先輩、同級生からそんな扱いなのか。

 

「残念な美人って?」

「すごく可愛いのに、ヤンキーに調教されてる娘がいるらしい」

「何それ可哀想」

 

 大体あってる。

 

「みちる! 何でそんな変な部活に入ったの!」

「あー、静ちゃん先輩はすごくいい人だったぞ? 物腰柔らかいし、可愛らしいし」

「そうなんだよな、本当に静ちゃん可愛いんだよなぁ」

「もったいない」

 

 部長が残念扱いされているのは、金髪に『俺の身体(モノ)』宣言されてしまったかららしい。

 

 可哀そうだが、そのお陰で人避けになっていそうだ。

 

 放っておいたら無限にモテそうだからな、あの人。

 

「みちるまでヤンキーに絡まれたらどうするの」

「まぁもう絡まれたんだけど」

「え! それでどうしたの」

「静ちゃん先輩にブン殴られて失神してたよ」

「想像の斜め上!」

 

 あの時の部長の動きは、マジで見えなかった。

 

 世界を狙えそうなアッパーカットだった。

 

「どうしてそんなことに」

「つまりアレでしょ。ヤンキー君がみちるちゃん口説いてるを見て、静ちゃんが嫉妬したと」

「あー。ヤンキーと静ちゃんバカップル説は本当だったのか」

「あ、いや」

 

 アタシが変なことを言ったせいで、部長と金髪が付き合っていることになりかけていた。

 

 否定しようと思ったけど……。

 

「……どうしたの、みちるちゃん」

「あーいえ。そうです、そんな感じです」

 

 事情を弁明しようとすると、春鹿部長が風呂場で変な声を出していた件に言及せねばならない。

 

 そっとしておこう。

 

「まぁそんな訳だから」

「あ、みちる! ちょっと、どこいくの」

「お前は友達とゆっくり帰ってこい。アタシは先に帰って、メシの準備しておくからさ」

 

 これ以上変な話になる前に、アタシは逃げ出すことにした。

 

 触らぬ神に祟りなしだ。

 

「え、一緒に帰ろうよ」

「じゃあ、さよなら」

「みちるー!!」

 

 それに、見知らぬ人に囲まれて帰れるほど、アタシのコミュ力は高くない。

 

 おそらく途中から無言になって、気まずくなる。

 

「最近みちるに避けられてるなぁ」

「元気出せハクやん」

 

 アタシは弟の伸ばした手を振りきり、自宅へ早歩きで帰った。

 

 ハクには悪いが、アタシは一人が良い。

 

 別にアタシが、社会不適合というワケではない。

 

 ただ、一人でいる方が落ち着くというだけの個性の範疇。

 

「というかハクとみちるちゃん、十分仲良いと思うぞ」

「え、本当に」

「うち、姉ちゃんとマジで口効かんし。飯作ってくれるとかむしろ愛されてるだろ」

「そうかな? そうかも?」

「溺愛されてるだろ」

 

 ……いや、料理が趣味なだけだけど。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。