ダウナーTS干物少女はおっぱいが羨ましい 作:伝説の超TSスキー
────夜。
ハクの部屋が暗くなり、フガフガというイビキが聴こえてくる時間帯。
『悪霊退散☆陰陽ちゃんねるー!!』
「……」
アタシの部屋のパソコンには、暑苦しい陰陽師コスプレをした男が映っていた。
『はぁい、ということでー! 今日はちょっと式神君と一緒に、ムカつくやつに呪いを振り撒いて行こうと思うよ!』
「おー」
『用意しますは友禅紙、これにちょっと髪の毛を糊付けして……』
「なるほど」
動画の男は自信満々に、紙を人型に切って顔を描く。
『それじゃー儀式タイム行ってみよう!
そして歌いながら謎の舞踊を始め、呪文の詠唱を始めた。
先輩の話を聞いてオカルトに興味を持ったアタシは、ネットでいろいろ調べてみることにした。
この令和の時代は高度情報化社会、大抵の情報は手に入るのだ。
とりあえず、アタシは東洋魔術を調べることにした。
『ゴーレム』や『真実の鏡』は、西洋魔術に分類される儀式である。
そちらは部長が詳しそうなので、調べる内容は分けた方が良い。
そもそも日本人には、やはり東洋魔術は相性がいいはずだ。
「……日本なら神道、陰陽道がそれっぽいかな。中国なら仙道、奇門遁甲あたり。インドのヨーガも一応は東洋魔術か」
調べてみると東洋にも、魔術に類するオカルトは数多く存在していた。
八百万神や陰陽五行思想など、歴史のある魔術はたくさんあった。
「やっぱ具体的な儀式の内容や手順は、なかなか解説してないなぁ」
ただし、調べられるのは『どんな思想で』『どんな地域で』『どんな年代で』という情報ばかり。
具体的な魔術の目的、手順などが解説されているサイトは少なかった。
案外、動画サイトで解説とかされてないか調べてみたのだが……。
「む、結構参考になりそうなチャンネルが多い」
意外と、オカルト系の動画チャンネルはたくさん見つかった。
しかも、実際に儀式を実践している動画も散見された。
配信者が藁人形に釘を打って、相方を呪っている動画などは再生数が多かった。
「どの解説動画も胡散臭いなぁ。実際にやってみて何も起きてないところまで動画化されてるのも多いし」
しかし、その動画の殆どが嘘くさいものだった。
……オカルトなど、彼らにとっては娯楽でしかないのだ。
真偽はどうでも良くて、『見ていて面白いかどうか』を重視している。
「やっぱりそう簡単に、魔術なんて調べられないよな」
人間の手で意図的に、超常現象を引き起こせる魔術。
アタシが女にされてしまった、あの現象の解明。
……そんな情報が、簡単に見つかるとは思っていない。
「もう、寝るか。また明日、調べよう」
ネットが駄目なら、図書館などで調べてみてもいいだろう。
……二年間ずっとアタシを苦しめ続けた、この超常現象に対する『リベンジ』の機会なのだ。
「アタシは、男に戻ってやる」
どんな苦行でも、乗り越える覚悟だった。
次の日の、朝。
寝ぼけ眼のハクが、ボリボリと頭を搔いて起きてきた。
「起きたかハク。飯出来てるぞ」
「みちるー、おはよう……」
アタシはハクの食卓に、ベーコンエッグにキャベツを添えて、わかめの味噌汁とご飯をよそった。
ゴキゲンな朝食だ。
「アタシは先に出るから、ちゃんと皿洗いしとけよハク」
「え、一緒に行かないの」
「ちょっとオカ研の部室で本読もうかと思ってなー」
アタシはハクの食事を作った後、手早く制服に着替えた。
まだまだ、調べるべきことがたくさんある。
オカルト研究部の力を借りて、失った二年間を取り戻すんだ。
「僕も行く、ちょっと待ってよ」
「別についてこなくていい、お前はゆっくり来い」
「一人で学校行くのは危ないよ」
「危なくねーよ」
ハクはむしゃむしゃと朝飯にがっつく。
何をそんなに心配しているんだ。
「みちるは危なっかしいんだよ。絶対についてくから、待っててね」
「別にいいってば、もう高校生だぞアタシたちは」
「あ、待てぇ!」
アタシは飯をのどに詰まらせそうなハクを置いて、玄関へ向かった。
今からヤツの飯と着替えを待っていたら、どれだけ時間がかかるか分からない。
「ついてきたけりゃ、明日は早起きするんだな」
アタシはそう言うと、学生カバンを背負って外に出た。
朝の日差しは気持ちがいい。
通学路に殆ど人がいないのも良い。
早起きは三文の得というが、なかなか確かに得をした気分になる。
「お邪魔しまーす」
「芦屋か、どうした」
朝一番、学校に着くと生徒は殆どいなかった。
グラウンドに、数名ほど走っている奴がいるだけだ。
「部室のカギを借りに来ました」
「そうか、なら台帳に記入しな」
うちの学校は、朝練が認められていた。
なので職員室に行けば、部室のカギが借りられるのだ。
「活動内容は?」
「読書です」
「おっけー。ちゃんと始業までに返しに来いよ」
当番の先生声をかけたあと、アタシはキーボックスを開けた。
そしてオカ研の部室のカギを探したが……。
「ん、あれ? ありませんね」
「そんなはずはないが」
オカルト研究部のカギは、空になっていた。
昨日、部長が返却し忘れたのだろうか。
「あ、もしかしてお前、オカ研か」
「へ? はい、そうです」
「オカ研なら、もう鍵を持っていってるぞ」
「え?」
そう言うと、先生は大きな欠伸をして、貸出表を指さした。
「十分前に、涼加瀬が持ってった」
「お、おはよう」
「……ん、おはよ」
部室に向かうと、中で
「朝、早いんだな。もしかして毎朝、部室に来てたのか」
「ここは、静かだから」
少年はサラリとした髪を撫でながら、朝日に照らされて静かに本を読んでいた。
……彼の顔がとても可愛らしいからか、絵になると思った。
「アタシもここで、本を読んでいいか」
「構わない。……オカルト研究部の部員なら、当然の権利」
アタシは涼加瀬に許可を得て、少し離れた場所にカバンを置いた。
そして何を読もうかと、部室の本棚を物色し始めた。
「……」
沈黙が、場を支配する。
アタシは快活な性格ではないし、彼もまた静かな性質だ。
部室の言う狭い空間に二人の男女が揃って、会話がないのは少し息苦しかった。
「……」
だけど、話しかけるのも迷惑な気がする。
きっと彼は、毎朝ここに来て本を読んでいるのだろう。
おそらく静かに読書したいはずだ。
アタシもなるべく静かに、本を読むことにしよう。
「……」
とりあえず古い東洋魔術系の本があったので、机に持っていく。
中国で記された『アジア呪術大全』の、和訳版らしい。
分厚いハードカバーで、ページはところどころ日に焼け褪せた黄色くなっている。
「……あ、あのっ」
難しそうな本だが、頑張って読んでみよう。
そう思って、本を開いた瞬間。
「涼加瀬?」
「その、本は。やめた方が、いい」
ちょっと気まずそうな顔で、涼加瀬が話しかけてきた。
「アジア呪術大全は、和訳した人がとんだインチキ」
「インチキ?」
「知らない単語を雑に置き換えてる。ソレを読むなら、原典を中国語で読んだ方が良い」
彼はオカルト本の話になると、とても饒舌になった。
「『火狐の衣』を『小狐の毛皮』と訳したり、原典だと描かれていた魔法陣をページの都合で削ったり。和訳版は、ほぼ別の内容になってる」
「そりゃよくないな」
「原典は高いし、借りるにも中国の図書館に行かなきゃいけない。現状、その本の解読は保留中」
「へー」
この難しそうな本は、役に立たなさそうらしい。
教えてくれてよかった、とんだ無駄な時間を使う所だった。
「じゃあ涼加瀬、おすすめの本はあるか? 読んどいて損はない、的な」
「え? うんと、ちょっと待って」
そのまま涼加瀬にお勧めの本を聞くと、少し逡巡したあと、
「これと、これと、これかな。……個人的には、この本もお勧めで……」
「おお」
何やらそれっぽい本が、沢山机の上に積まれた。
「コレには魔術書の真贋を見分けるコツが記される。だからその本の著者は、本物の魔術に触れていた人だと思う」
「なるほどな」
「こっちの本は恐らく、結界術に関してはどの本より詳しくて……」
涼加瀬はそのまま、アタシに用意してくれた本の内容を解説してくれた。
彼は昨日の無表情な顔ではなく、どこか嬉しそうな顔をしていた。
「詳しいな、涼加瀬。お前はこの辺、全部読んでいるのか」
「うん。好きだから」
なるほど、コイツは本当にオカルトが好きなのだ。
だから、こんなに足しげく部室に通っているのだ。
「涼加瀬、お前さ。アタシの噂は知ってるか?」
「芦屋さんの? ……その、二年前の話?」
「そう。女にされたってヤツ」
……コイツは、きっとアタシの話を信じてくれる。
嘘をついているんだろうとか、オカマ野郎だとか、そんな奇異の目で見てこない。
「お前は、本当だと思うか?」
「うん。だって貴女、魂の波長が男のまま」
「は? 魂の波長?」
そう思って、意を決しアタシの話題に踏み込んでみると。
涼加瀬は大真面目な顔で、そんなことを言い出した。
「魂の波長って、何だ?」
「そのままの意味。オーラとかそういうの」
「へ、へえ。オーラが見えるのか、お前」
「……信じてくれない?」
涼加瀬はそうか、オーラとか見えるタイプか。
……いや、偏見はよくない。アタシだって、オカルトを信じてもらえなくてすごく嫌な思いをしたのだ。
きっと、涼加瀬は本当にオーラが見えるんだ。魂の波長は、ちゃんと存在するのだ。
「い、いや! 信じる、アタシは信じるぞ」
「……」
「オカルトはこの世に存在するんだ、だからそういうのが見えても不思議じゃない。アタシは、そう、お前を信じる!」
アタシは自信満々に、そう言い切って涼加瀬の手を握った。
魂の波長だとか、オーラだとか、胡散臭いことこの上ない。
「貴女は、オーラがあるって信じてくれるの?」
「もちろんだ。ああ、アタシも魂の波長とか見てみたいもんだ!」
きっとコイツは今まで、信じてもらえなくて苦労をしてきたはずだ。
アタシには、その苦しみが良くわかる。
「……ゴメン、冗談」
「へ?」
「その、芦屋さん真面目っぽいから。ちょっとからかってみたく、なって」
「……」
「痛たたたたた!! やめて、芦屋さんごめんって!」
「うるせぇ調子乗んな」
よくも、まぁ初対面で人をからかってくれやがって。
ちょっと顔が良いから調子に乗ってやがるなコイツ。
大真面目な顔で乗ったアタシが、馬鹿みたいじゃないか。
「ど、同級生に、こういう話が出来るの初めてで! う、嬉しくなって」
「そうかそうか! アタシもぼっちだ、その気持ちはよく分かるぞ涼加瀬ェ!」
「じゃ、じゃあちょっと手を緩めて」
「だめ」
アタシは涼加瀬の腕を取り、アームロックを仕掛けた。
この野郎、寡黙な文学少年の皮をかぶりやがって。
とんだお調子者だ。
「あ、そうだ。胸、よく見たら胸が手にあたってるよ芦谷さん!」
「だいぶ前から当たってたよ。なんで今気づいた」
「あ、いや。その」
アタシの胸に触れていることを指摘し、難を逃れようとする涼加瀬。
そんなもん、アームロック決めた瞬間から当たっとったわ。
「痛たたたたた!」
「胸に脂肪分が少なくて悪かったなぁ」
「そ、そんなこと、言ってな……」
制裁とイジりを込めて、アタシはそのまま関節を決め続けた。
思ったより、気兼ねせずコイツとは付き合えそうだ。
「……ず、ずいぶんと仲良くなりましたね?」
「あ、春鹿部長」
ちょうど、そんな感じにじゃれ合っていたら部長がやってきた。
この人も、朝に部室に来るらしい。
「仲が良いのはいいですけど、部室内で暴れるのは、その、あんまり」
「ごめんなさい」
ちょっと調子に乗り過ぎたので、アタシは素直に謝った。
一方で、涼加瀬はというと……。
「鈴君、大丈夫ですか?」
「い、いえっ」
顔を真っ赤にして、その場で立ち尽くしていた。
首は極めていないはずだが、息苦しかったのだろうか。