ダウナーTS干物少女はおっぱいが羨ましい   作:伝説の超TSスキー

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第六話「カラス」

 

 深水(しみず)静香(しずか)に連れられて向かったのは、駅の通りの裏にある怪しい喫茶店だった。

 

「よっすー」

「おや、いらっしゃい。静香に芦谷さんか、珍しい組み合わせですね」

「後輩誘ってメシに来てやったぞ。もてなせ」

 

 春鹿先輩のバイトしているというその喫茶店は、いわゆるコンセプト・カフェだった。

 

 西洋魔女をコンセプトにしいているらしく、喫茶『魔女の洋館』は白雪姫に出てきそうな見た目をしていた。

 

 古い鉄格子を潜り木製扉を潜ると、黒い帽子に魔女っぽい衣装を着た春鹿先輩が出迎えてくれた。

 

「よく来るね静香、お小遣い大丈夫なの?」

「バイトすれば余裕、余裕」

 

 深水先輩は頭を掻きながら、ヘラリと笑った。

 

 常連になっているのか、この男。

 

「芦屋さんもいらっしゃい。わざわざ来てくれてありがとうね」

「え、ええ。まぁ、誘われたので」

「ふぅん」

 

 コンカフェといえば男性向けのイメージが強いが、この店にはどちらかといえば女性客が多かった。

 

 ゴシックロリータな衣装を着たご婦人が多く、そういうタイプに人気の店のようだ。

 

 日常から離れ、少しダークな西洋ファンタジーの世界観を味わいに来ているのだろう。

 

 はっきり言って、金髪チャラ男の深水静香は浮いていた。

 

「……確認だけど、静香。芦谷さんをナンパしてないだろうね」

「し、してないって。ちょっと飯でもって誘っただけ」

 

 春鹿先輩はジトっとした目で、深水を睨んだ。

 

 ちょっとだけ、怒気をはらんだ表情だった。

 

「本当に? 強引に迫ったりしていない?」

「そんなに俺のことを信用してねーのかよ」

「さっきクラスの娘から、君にしつこく声かけられてウザかったとメッセージが来たからね」

「うぐっ!」

「芦屋さん、迷惑なら断っていいよ。後で僕がキッチリ制裁しておくからさ」

 

 ……そう説教する春鹿先輩の顔は、嫉妬しているというより呆れていた。

 

 出来の悪い幼馴染を、たしなめるような表情だ。

 

「あ、あのー。春鹿先輩」

「どうしたの、芦屋さん」

「決して、迷惑なんかではないですよ」

 

 深水静香の行動は、見事に空回っていた。

 

 そりゃあそうだ、好きな子に虫を投げつける小学生男子のごときムーヴだからな。

 

 ……放っておいても良いが、メシを奢ってもらう以上は義理を果たしておくべきだろう。

 

「実はアタシ、昨日からオカルトの資料を探してたんですが、結構なお値段がかかることを知りまして」

「そうなんですよね。学生には少し辛いお値段ばっかりなんです」

「それでアタシもバイトをしようか悩んでいまして。……それを相談したら深水先輩が、春鹿先輩のバイト先に連れて行ってやると誘ってくれたんです」

「!」

 

 アタシは強引なナンパがあったことを伏せ、深水が頼れる先輩ムーヴをしているのだと話した。

 

 春鹿先輩のバイト先に興味があったことは、事実だし。

 

「そうだったんですか」

「そ、そうだよ。いつも迷惑なことばっかしてるわけじゃないんだからな」

「すごい、見直したよ静香。君は後輩が出来れば面倒を見るんだね」

 

 それを聞いた春鹿先輩は、とても嬉しそうな笑顔になった。

 

 まさに満面の笑み、というやつだ。

 

「そうか、まさかあの静香が……。いや、今は何も言いません。僕は君が、ちゃんと真面目な人になってくれると信じてました」

「お、おう」

「ナンパされた娘に関しては、僕の方からとりなしておきますね。心配しなくていいですよ」

 

 春鹿先輩は上機嫌になり、深水の肩をバンバンと叩いた。

 

 そしてアタシたちを席に案内する間も、ずっとニコニコしていた。

 

「今日はキノコのソテーがお勧めですよ。仕入れたばかりで新鮮なのです」

「そうなんですか」

 

 黒いローブのシックな魔女が満面の笑みを浮かべている姿は、どこかアンマッチだった。

 

「芦谷さんはこのバイトに興味あるんですね? 僕で良ければ、いつでも店長に紹介しますよ」

「あ、ありがとうございます」

「とりあえず今日は店の雰囲気を見てみてください。ゆっくり楽しんでね」

 

 春鹿先輩は伝票を握りながら、瞳を輝かせてそう告げた。

 

 そんな春鹿を見て、深水は居心地が悪そうにキョロキョロしていた。

 

「じゃ、じゃあアタシはキノコのソテーを」

「俺は、その、山盛り羊肉パスタで」

「承りました。では、少々お時間を頂きますのでお待ちください」

 

 注文を取った後、彼/彼女はルンルンした足取りで厨房へと入っていった。

 

 そしてカップル席に案内されたアタシと深水が、ポツンと木製の円形テーブルに残された。

 

「……その」

「嫉妬させるより、こっちの方がずっと良いのでは」

「す、すまん。その通りだ」

 

 春鹿先輩は、アタシと深水が二人並んで座っている絵を見て一切嫉妬していなかった。

 

 むしろ、深水が真人間になったことを死ぬほど喜んでいた。

 

 ……この金髪先輩、今まで相当アホなアプローチをしていたのだろうな。

 

「さて先輩、もう一回聞きます。何円までなら、奢ってくれますか?」

「ご、五千円まで出す」

「あざッス」

 

 アタシがすまし顔でそう尋ねると、深水は苦渋に満ちた顔で答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰り道、アタシは駅裏の商店街にある本屋で、ハードカバーの良い感じの本を金髪に奢らせた。

 

 『陰陽術大全』なるちょっと怪しくも面白そうな本だ。

 

 立ち読みした感じ、古臭い挿絵付きで陰陽術の儀式や祭事についてまとめられていた。

 

 オカルト研究部の活動内容には、よくマッチしている。

 

「母さん、ウチに和紙とかある?」

「和紙の便箋ならあるけど、何に使うの」

「陰陽術」

 

 その中でも『式神術』は、和紙さえあればすぐ実行できる簡単なものだった。

 

 人型に和紙を切り、自分の髪の毛を巻き付けて『低級神』を憑依させ操るというもの。

 

 かつて安倍晴明が好んで使っていた技法らしい。

 

「急急如律令!!」

「……みちる何やってんの」

 

 和紙は高いので、使わせてもらえたのは1枚だけだった。

 

 その一枚を失敗しないよう、本に書いてあった通りに丁寧に儀式を実行した。

 

 上手くできれば神様が憑依して式神となり、アタシの意のままに動かせる……らしい。

 

「悪霊退散! どーまんせーまん!」

「……」

 

 和紙はピクリとも動かなかった。

 

 ハクが何とも言えない眼でアタシを見つめていた。

 

「それ、楽しい?」

「……」

 

 その後も色々と呪文を試してみたが、和紙がピクリとも動くことはなかった。

 

 アタシも街中の本屋で、本物の『魔術書』が手に入るとは思っていなかったが……。

 

 やはり、この『陰陽術大全』はインチキらしい。

 

「すまん、金髪先輩。どうやら貴方の五千円、無駄になったみたいッス」

「そんなのより僕と遊ぼうよ、みちるー!」

 

 ハクが構って欲しそうにし始めので、アタシはそこで儀式を打ち切った。

 

 哀れアタシが丹精込めて作った式神は、紙相撲のコマとしてハクの玩具に使われたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「という訳で、『陰陽術大全』を部室に寄付します」

「お前さぁ……」

 

 とは言え、せっかく買った本を活用しないのは勿体ない。

 

 アタシは陰陽術大全を部室にもっていき、本棚へ置いておいた。

 

「え、じゃあその本もう使わねぇの?」

「いえ。今後の部活で実践していくつもりッス」

「頑張ってくれよ、高かったんだから」

 

 この本が偽物っぽいという話を、出資者の深水はゲンナリした顔で聞いていた。

 

 すみません、ですがオカルトの発展には犠牲が付き物です。

 

「陰陽術ってそんなに高い素材が必要なくて、だいたいは和紙があればできます。なのでちょくちょく、試していきます」

「そうか、春鹿もよろこぶだろ」

 

 実際、その行為にどれだけの意味があるかは分からない。

 

 だけど本物のオカルトがこの世に存在する以上、小さな可能性を一つ一つ潰していかなければならない。

 

 本に書かれている全てがインチキではなく、『一部だけは本物』の可能性があるのだから。

 

「ちなみに、その陰陽術の本が本物だったら何が出来んの?」

「もしアタシや先輩方の超常現象が『妖魔の類』の仕業であるなら、陰陽術で解呪できるっぽいです」

「あーなるほどね」

 

 そしてこの『陰陽術大全』には、面白い記載があった。

 

 妖怪の仕掛けた悪戯や呪術の類を、解く儀式があるというのだ。

 

 アタシはその技法が記されたページを、深水に開いて見せた。

 

 この儀式が本物なら、アタシは男に戻れるのである。

 

「……その儀式、安倍晴明の護符が必要って書いてるけど」

「調べたら、安倍晴明の札を祭ってる神社はあるらしいです。その神社に出向いてお借りできれば或いは」

「敷居高っけぇなオイ」

 

 解呪の儀式にはなんとあの有名な『安倍晴明の護符』が必要と書かれていた。

 

 安倍晴明とは平安時代に実在していた『史上最強の陰陽師』であり、さまざまなメディアで取り上げられている有名人である。

 

 そしてなんと、『安倍晴明の護符』は現代まで残存しているらしい。

 

 平安時代から続く神社の本尊のその奥に、代々継承され続けているのだとか。

 

 ……その護符が本物かは、ちょっと怪しい気もするけど。

 

「いち女子高生が出向いて、ホイホイ貸してくれんのか?」

「難しいかもしれませんけど……。わずかでも可能性があるなら」

 

 普通であれば、そんな貴重なモノを借りることなどできないだろう。

 

 だが……『アタシ』が悪い意味で有名であることを利用すれば、可能性はある。

 

 つまり『妖魔の類によって性別を変えられた』と陰陽術の本山であるその神社に相談し、解呪を依頼するのだ。

 

 その流れで、安倍晴明の護符を使わせてほしいと頼むことはできなくはない。

 

 そしてこの件が『マスメディア』に取り上げられれば、神社側にも大きな宣伝効果があるだろう。

 

「無理だと思うけどなぁ」

「アタシもそう思います。そもそもこの本、偽物っぽいですし。他を幾つか試して、当たりがないなら諦めますよ」

 

 無論、そんな大掛かりな事をするのはこの本の信ぴょう性を確かめてからだ。

 

 そこまでやってハズレなんてことになったら、またアタシがネットのおもちゃにされてしまう。

 

 なので暫くは、簡単な儀式をこなしていくつもりである。

 

「……安倍晴明かぁ」

「流石の深水先輩でも、名前は知っていますか」

「まぁな。春鹿は昔からオカルト好きだったし、聞いたことはあったよ」

 

 アタシは金髪と話をしながら、本を広げて実行できそうな儀式をピックアップしていった。

 

 占い系は実行しやすいものが多いが、当たっているのか分かりにくい。

 

 ある程度は、即物的な超常現象を試していきたい。

 

「……にしても陰陽術、ねぇ。みちるちゃん、お前がわざわざソレを試そうとしているのって、そういうコト(・・・・・・)?」

「どういう意味ですか」

 

 深水は意味深な顔で、アタシによくわからない質問をした。

 

 そういうことって、どういうことだ。

 

「いや、だから。漢字は違うけど、その芦屋(あしや)って苗字でもしかしてって思ってさ」

「アタシの苗字がどうかしたんですか」

「あれ、あんまり関係ない奴?」

「?」

 

 深水はアタシの苗字を気にしているらしい。

 

 ……別に何処にでもある苗字だとは思うけど。

 

「……みちるちゃん、安倍晴明のライバルってご存じ?」

「あー」

 

 そこまで言われて、ようやく深水の言っている意味が分かった。

 

 そうか、蘆屋道満と苗字の読みが同じだって話か。

 

 つまりワンチャン、アタシがその末裔なんじゃないかということを聞いているのかも。

 

「ウチのご先祖は印刷屋です」

「はい」

 

 残念なことに、ウチの家系は至って普通です。

 

 神社とかそういうのに縁はございません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の帰り、アタシはデパートに行き、小遣いをはたいて和紙を買った。

 

 前回は便箋に加工されていた紙だったが、今度は純粋な和紙だ。

 

 この方が、成功率は高いかもしれない。

 

 ……変な感覚かもしれないが、オカルト儀式に打ち込むのは意外に楽しかった。

 

 内心でどこか『どうせ嘘っぱち』だと思いつつも、もしかしたらという期待感があり。

 

 儀式を失敗したとしても、『一つやることを潰せた』という達成感があった。

 

 今まで漫然と過ごしてきた日々よりは、ずっと充実していた。

 

「……」

 

 デパートの出口は、スクランブル交差点に面していた。

 

 スーツ姿の人がスマホを片手に慌ただしく行きかう、現在の象徴ともいえる風景だ。

 

 しかし喧騒はその通りのみで、二つほど路地を抜けたら人の数はぐっと減った。

 

 アタシは、ひび割れたコンクリで舗装されたスクールゾーンを歩き続けた。

 

「今日は、早く帰れそう」

 

 ハクはサッカーの練習で遅くなるだろう。

 

 メシを用意してやったあとは、たっぷりオカルトに時間が使える筈だ。

 

 この和紙だけで実行できる式術を、片っ端から試してやろう。

 

 上手く行かなかったとしても、ちょっとは楽しいはずだ。

 

「あ、神社」

 

 ふと、通学路にある鳥居の前で立ち止まった。

 

 意識したことはなかったが、小さな神社は都心の各所にあるのだ。

 

 アタシが目にとめたのは、そんな何処にでもある小さな神社の一つだった。

 

 ……それは工業的には何の意味もない、『オカルト』の権化ともいえる施設。

 

「せっかくだし、お参りしていくか」

 

 今夜の陰陽術の儀式の景気づけに、アタシはお参りしていくことにした。

 

 陰陽術と神社は、なんか分野が近そうだ。

 

 神道と陰陽術って別物な気がしなくもないが、安倍晴明を祭っている神社もあるし。

 

「おお、賽銭箱だけは新しい」

 

 鳥居をくぐると古びた石の階段があり、少し登れば広場と本堂があった。

 

 朱く旧い御本堂の前には、賽銭箱と鈴がポツンと置いてあった。

 

「……」

 

 アタシは財布から五円玉を取り出して、カタンと投げ入れたあと。

 

 二礼二拍手一礼に則って、丁寧に参拝した。

 

 ────どうかこの呪いを解く術をお示しください。

 

「こんなもんか」

 

 この参拝に、どれほどの効果はあるかは分からない。

 

 でもアタシの気休めという効果はあったと思う。

 

 何せ、なんとなく儀式が成功しそうな気がしてきたからだ。

 

 

 そして石で舗装された神社の道を、カツカツ歩いて帰る。

 

 人気がない神社なのか、アタシ意外に参拝客は見当たらなかった。

 

 すでに空は少しずつ朱く染まり始めていた。

 

 これ以上遅い時間になると、一人で歩くのは危ない。

 

 さっさと家に帰って、メシの準備をしよう。

 

 そう思って、アタシは足早に鳥居をくぐろうとした。

 

 

「……え?」

 

 ────そこに、死があった。

 

 頭蓋は潰され、眼球は朽ちて。

 

 黒い羽根が、ドス黒い血痕に塗れて、べっとりとこびりついていて。

 

(からす)が、死んでいる────」

 

 内臓は破裂し、腐臭を放ちながら地面に散乱していた。

 

 腹の肉であろう部位には、ブンブンと不快な音を出して蠅がたかっていた。

 

 左翼は折れて白い肉が露出しており、右翼は磔のように広げられて鳥居に打ち付け(・・・・)られて(・・・)いた。

 

「……」

 

 これは、事故ではない。

 

 鴉がうっかり鳥居にぶつかって、絶命したなんて状況じゃない。

 

 その鴉は明確に、誰かに『殺されていた』。

 

 だってその鴉は、頭と腹と右翼を『釘』で打ち付けられていたのだから。

 

「……ひ、ぃ」

 

 

 そのあまりの惨状に硬直してしていたら、いきなり商店街に放送が鳴り響いた。

 

 午後五時を知らせる、公共放送だ。

 

 その放送はのんきな声で、寂しげな歌声を町全体に響かせた。

 

 

 

 ────(からす)鳴/啼()くから、帰りましょ─────

 

 

 

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