ダウナーTS干物少女はおっぱいが羨ましい 作:伝説の超TSスキー
「酷い悪戯もあったものだ」
若い警察官が、鴉の骸を見て顔をしかめた。
「親御さんには連絡したよね? もう遅いから送っていきますよ」
「ありがとうございます」
磔にされた鴉の骸を見つけた後、アタシは警察と神社の管理者さんに連絡した。
……鳥居に釘を打っている時点で器物破損だし、野鳥を傷つけるのも法律違反だった筈だ。
通報したらすぐにお巡りさんが駆けつけてきて、アタシにあれこれと事情を聞きながら、パシャパシャと写真を撮っていた。
「その鴉、どうするんですか」
「管理者さんが掃除すると思うよ」
そのまま10分ほど事情聴取を受けた後、アタシは解放された。
警察はこういう場合、犯人捜査はしてくれるけど掃除を手伝ったりはしないらしい。
事情聴取を終えた警察は、鴉の磔をそのままにして立ち去ろうとした。
「お母さん、迎えに来てくれそう?」
「すみません。……ウチは共働きで、両親とも帰ってくるのが遅く」
「じゃ、パトカーで家まで送るよ。乗って」
「はい」
鴉は害鳥だ。少なくとも、人間にとって友好的な鳥類ではない。
しかしその様は、あまりにも哀れに感じた。
「……少しだけ、手を合わせていきます」
「そうかい」
アタシはその鴉の前で手を合わせ、その冥福を祈った。
いかに害になる存在とは言え、面白半分で奪われていい命などない。
「せめてその死後は、安らかであらんことを」
アタシは小さく、そう呟いた。
「と、言うことがあったんだ」
「ふぅん」
翌日。
朝一番に部室に行くと、
「それで、何だか元気がないんだね」
「ああ、昨日から気分が最悪だ。グロいもん見せられて辟易としてるわけ」
昨晩は、鴉の死骸の夢を見た。
腸が垂れている鴉の磔は、かなりショッキングな光景だ。
数日は魘されるかもしれん。
「あのさ、涼加瀬。鴉を磔にする儀式とか、あったりするのか?」
「動物を生贄に捧げる儀式は、世界のどこにでもある」
「そっか」
気分が悪い理由は、それだけじゃない。
磔にされた鴉を見て、アタシは『誰かが儀式を行った』可能性を考えたのだ。
もちろん、愉快犯が悪戯で磔にしただけかもしれない。
だけどわざわざ『神社の鳥居』に釘を以て鴉を磔にするという行為に、オカルト的な意味がありそうだと感じだ。
「そうしてそんな事を聞くの」
「もしかしたら他校の、どっかのオカルト研究部がやらかしたんじゃないかと」
「……ありえなくはない」
もしそうだとしたら、ますます超常現象に対する世間の風が冷たくなる。
オカルト的な現象に苦しめられている身とすれば、そういう偏見の種になりそうな行為はやめて欲しい。
「その、芦谷さん。オカルト界隈において、鴉がどういう扱いをされているか知ってる?」
「え? そりゃあ……」
涼加瀬はそう言うと、机に突っ伏したアタシをジッと見つめていた。
「不気味、とか?」
「そう、不吉の象徴。ゴミや死肉を貪って繁栄する鴉は、昔から人間に忌み嫌われていた」
「そっかぁ。まぁ鴉だもんな」
涼加瀬によると、鴉は中国では不吉な鳥と扱われているらしい。
鴉が近づいてくる人間は死期が近いとか、色々な迷信があるそうだ。
「なので、鴉の死体はむしろ『縁起が良い』とされることも多いんだ」
「そうなの?」
「ああ。だから、気にすることはない」
涼加瀬はそう言ったきり、黙り込んだ。
ぶっきらぼうな言い方だが、元気づけてくれようとしたのかもしれない。
「なあ涼加瀬」
「なに?」
いくら縁起が良いとしても、鴉の死骸なんぞみたくはない。
ただ、ここは涼加瀬のフォローに乗っておこう。
「サンキューな」
「ん」
面と向かって礼を言うと、涼加瀬は照れたように顔を背けた。
その日の授業は、あまり身が入らなかった。
まだ、あのおぞましい光景を見たショックが残っていたのだろう。
三時間目に受けた英単語テストは、さんざんな出来だった。
「芦屋さん、今日は部活の日だけど……顔色悪いですね?」
「昨日、少し嫌なことがありまして」
「あまり、無理しなくていいですよ。体調が悪い日は、遠慮なく休んでください」
放課後、アタシは部室に行こうとしたところを春鹿先輩に止められた。
曰く、酷い顔色をしていたらしい。
「昨日、
「……鴉が、ですか」
「アタシでも何でこんなに、気に病んでいるのか」
鴉は確かに迷惑な鳥である。
だけど、あそこまで悪意をぶつけられる謂れはないはずだ。
おもちゃのように命を弄ばれた鴉に、アタシは言いようのない不快感を覚えていた。
「優しいんですね、芦谷さんは」
「優しい、ですかね」
「道端で鴉が死んでいても、気にしない人が大半ですから」
そんなアタシを、春鹿先輩は優しく抱きしめてくれた。
良い柔軟剤を使っているのか、春鹿先輩の体躯はおひさまクッションのようにフワフワだった。
「人間は嫌なものを見ると、心に傷を負うのです。芦谷さんは優しすぎるから、他の人より傷ついてしまっただけ」
「春鹿、先輩」
「今日はゆっくり、甘いものでも食べて休んでください。それで、リフレッシュしましょう」
そう優しく、アタシを諭した。
「貴女が気にすることはありません。貴女は間違ったことをしていません」
……元男とは思えない包容力だ。なんだこの母性は。
鴉なんかに気を病んでいたアタシが馬鹿みたい、という気持ちになっていく。
「ちょっとは元気が出ましたか」
「はい、ありがとうございます」
気付けば、アタシの心を覆っていた鬱屈の殆どが晴れてしまっていた。
本当に癒されるな、この人と話をするのは。
この人と仲良くなりたいがため、たくさんの男がオカルト研究部に名前を貸した理由が分かる。
「じゃあ、僕はこれで。芦谷さん、今日は休んでね」
「は、はい」
アタシは春鹿先輩と、手を振って別れた。
うん、何だかもう気分がすっきりしている。
きっと明日には、いつも通り吹っ切れるだろう。
「お、何だ帰るのかみちるちゃん」
「すみません
「なんだ、大丈夫かオイ」
そんな嬉しいイベントがあった後。
部室棟の廊下で、アタシは金髪先輩とすれ違った。
「この時期の風邪はしつけーからな、部屋を温かくしてグッスリ寝ろよ」
「あざます」
深水はそういうとニカっと笑った。
女癖さえまともなら良い人なのだな、このチャラ男も。
「ん?」
「どした、みちるちゃん」
彼に礼を言って、礼を言って立ち去ろうとしたら。
「そういう深水先輩、怪我してないです?」
「あ、頬のコレ?」
アタシは深水の頬に、大きな痣があるコトに気が付いた。
……明らかに拳大の殴られたような痣だ。
「冷やした方が良いですよ。湿布上げましょうか」
「良いよ、こんくらいほっときゃ治る。てか何で湿布持ち歩いてんの」
「弟のハクがよく怪我するんで」
アタシは鞄から湿布を取り出したが、深水は両手を振って何でもないと言った。
……どうして彼が、顔なんか殴られたのだろう。
悪いことでもしたのだろうか。
「アレだよ。春鹿を独り占めしてるとな、やっかみを買うんだよ」
「……まさか同級生に?」
「イヤ、先輩。油断して一発貰っちまった」
深水はそう言うと、忌々し気に三年の教室を睨んだ。
……なるほど、春鹿先輩を取り合って喧嘩をしたらしい。
彼女/彼を独り占めしているとあれば嫉妬されるのもやむなしか。
「暴行事件じゃないッスか。先生に報告は」
「いいの、いいの」
「良くないです、怪我してるんですよ先輩」
「お相手さんは多分骨折れてるし。……表沙汰にされると、その、俺の方が立場が悪くなるっていうか」
……。
「何やってんすか」
「喧嘩売ってきたのは向こうだし。半殺しにしたって、文句言われる筋合いはねえ」
「恨み買いますよ」
「どんとこいだ」
どうやら深水は、喧嘩した相手をボコボコの半殺しにしてしまったらしい。
本当にこの男は、短絡的というか後先を考えないというか。
元の身体に戻った時、人間関係で苦労するのは春鹿先輩なんだぞ。
「心配して損した、帰ります」
「おう、気を付けてな」
アタシは呆れてため息を吐き、深水と手を振って別れた。
どうしてこう、男は喧嘩っ早いのだろうか。
アタシも男だったけど、よくわからない。
そんなこんなで、いつも通りの一日が終わった。
少し嫌なことはあったけど、その代わりにいいこともあった。
正直、オカルト研究部に入って良かったと思う。
今までの代わり映えのしない日々が、彩り鮮やかな楽しい学生生活に変貌した気がする。
春鹿先輩は優しいし、深水先輩はチャラいけど面白い人だ。
同級生の涼加瀬は物静かだが、意外と悪戯っぽいし付き合いやすい。
アタシは存外に、オカルト研究部を気に入っていた。
「ん? メッセが来てる」
帰り道。
鴉が死んでいた神社の通りに差し掛かった頃、アタシは一件のメッセージを受け取った。
春鹿先輩からだ。
『芦屋さんへ。知らなければ、それで構いませんが』
アタシは少しドキドキしながら、そのメッセージを開いた。
家族以外から個人メッセージを貰うなど、初めてのことかもしれない。
ぼっち気質のアタシは、春鹿先輩からのメッセージを受け取ったことに浮かれていた。
その内容を、読むまでは。
『静香がいつまで経っても部室に来ないし、連絡も通じないのです。どこかで見ませんでしたか』
────深水静香が、部活に顔を出していない。
それは、ヘンだ。
『いつものようにナンパしているなら、良いのですが』
アタシが深水とすれ違ったのは、部室棟の廊下だ。
となればあの男は、部活に顔を出そうとしていた筈である。
『なんだか、妙に胸騒ぎがするんです────』
アタシはすぐ、部長に返事を返した。
深水先輩は、部室に顔を出そうとしていた筈だと。
「……」
今日、彼は顔に大きな痣が出来ていた。
恐らくソレは、喧嘩が原因だ。
つまり深水は誰かに『報復』された可能性はある。
だが、どうやってそれを確かめる?
深水はナンパが趣味の男だ。
部室に顔を出す直前、気が変わってスマホの電源を切り、ナンパに繰り出した可能性もなくはない。
だけど、そんなことがあるだろうか。
あの春鹿先輩が大好きな深水静香が、彼女/彼と会える機会を放棄してまでナンパに繰り出すだろうか。
『ご協力ありがとうございます、芦谷さん。僕は学校内を探してみます』
アタシにも、嫌な予感がした。
放っておいたら取り返しがつかなくなるような、『第六感』とでもいう感覚が。
「……警察、は」
警察に連絡をするべきか。
だが、何て通報すればいい?
学校の部活に来ていない奴がいるんです、なんて話で動いてくれるだろうか。
まだ下校時刻の真っただ中。家に深水が帰り着いていなかったとしても、行方不明と断ずるには早すぎる。
……。
神社の、鳥居をくぐる。
深水のことなど、放っておく。それが、社会的に正しい筈だ。
まだ彼が行方不明になった証拠などない。もう少しすればあっさり、家に帰ってくるかもしれない。
だけど、そうじゃなかったら。アタシの嫌な予感が当たり、どこかで誰かから報復を受けているのだとすれば。
鳥居の裏を見ると、鴉の遺骸は片付けられていた。
拭き残った血痕と、打たれた釘の痕跡だけが残っていた。
アタシは鳥居を進み、神社の本堂を参拝した。
何の意味もないかもしれない、だけど何かをやった気になっておきたい。
だからお参りをして、先輩の無事を祈ったのだ。
もし明日、彼がひどい目に合っていたとしても、自分の心に言い訳が出来るように。
『学校内に、深水はいなさそうです。……芦屋さん、どこかで彼を見かけたらご一報いただけませんか』
お参りを終えたころ、春鹿先輩から続いてメッセージが来ていた。
春鹿先輩は、深水を心配して学校を駆けまわっているらしい。
友人も総動員して、彼の行方を追っているのだそうだ。
『分かりました、帰り道でどこかにいないか探してみます』
『お願いします』
アタシも探し回るべきだろうか。でも、仮に深水がリンチされている現場を見つけたとしてどうする。
アタシの小柄な体躯で割って入れるはずがない。場合によっては巻き込まれ、アタシまで酷い目に合うかもしれない。
警察に通報して、その場を離れるのが関の山。
アタシは無力だ。何も出来ない。
だから仕方ない。きっと大丈夫、深水はナンパしているだけだ。
そう考えて、アタシは家に帰ることにした。
嫌な予感はするけれど、アタシに出来ることは何もないのだから。
街は、広い。
もし深水が、どこかの誰かに拉致されて暴行を受けているとして、どうやって探し出すのか。
アタシの足では、一日中駆け回ったとしてもそんな多くの場所を探せやしない。
この町の人気のない場所を広く、まんべんなく探すなんて人間には不可能。
『空でも飛べないと』無理だ。
「……式神」
ス、と。アタシは深水に勝ってもらった陰陽術の一行を思い出した。
陰陽道には、遠見の術がある。
それは式神を飛ばし、視界を共有し、遠くを偵察することの出来る技法。
「……和紙なんて持ち歩いてない、けど」
最初は、駄目もとでやってみるかという気持ちだった。
何もしないより、何かした方が自分の心に言い訳が出来る。
だけど、実際に深水のために危険を冒して探し回る程の度胸はない。
そんな弱いアタシは、オカルト儀式をすることを選んだだけ。
────神社の境内という、神秘の本拠地のような場所で。
「う?」
オカルトの儀式の素材は、意味不明なものを集めたように見せて、ちゃんと理由がある。
それはありもしないデマカセ儀式を、馬鹿みたいな素材を提示することで『実行不能』と誤魔化すためであったり。
当時、単に『ソレ』が最も手に入りやすかったからというだけであったり。
「あ、これ、って」
アタシは昨晩、式神術というモノを浅くなぞった。
式神は『低級神』を紙に憑依させる魔術である、と書かれていたのに。
アタシは昨日、和紙しか用意していなかったのだから。
そして今。目の前にいるモノこそが、儀式にかけていたのだと直感的に気が付いた。
「そうか。……そうか」
アタシは、その場で釘を打ち据えられた鳥居に一礼した。
……正確には、そこにいるであろう『ソレ』に頭を下げた。
「頼む、お願い」
温かい。気付けば、その鳥居は不思議な光と熱を帯びていた。
オカルトが、不条理が、この現実世界に顕現した気がした。
懐かしい感覚。恐ろしい感覚。
この世ならざるモノの領域と、現実世界が交差している。
ふわふわ、とした白いプラズマ。形がないが心はある、不思議なエネルギー。
その光が、きっとこの『陰陽』に重要なのだとアタシは直感的に思った。
「……なあ。お前に、お願いがあるんだ」
陰陽道では『詠唱』が使われた。
当時は急急如律令など、漢語が用いられたらしい。
だけど、アタシは漢語なんて分からないし、『そんなものを使う必要はない』。
陰陽術大全の本にはいろいろと書いてあったが、そんなものは大樹の枝葉にすぎない。
「なんでも代償は支払うからさ」
式神は和紙で作られたものが多かったという。
ただそれは、当時は和紙しかなかったから。
どちらも、当時使われていた言語や素材を式神術に利用していただけ。
和紙でなければ式神を作れない道理も、漢語でなければ詠唱にならない道理もない。
「どうか力を、貸してくれないか」
アタシはそう言って。
ノートの切れ端を鳥型に
陰陽術は、案外に適当な魔術体系らしい。
厳格な儀式や、手順通りの祭事は重要ではない。
大事なのは作法ではなく、了承だった。
式神の中に入る『存在』が仕事を了承してくれさえすれば、儀式なんて行わずとも言うことを聞いてくれるのだ。
「ああ、なるほど。髪の毛で紙を縛るのはアタシとの
陰陽術大全に書いてあった儀式を思い出しながら、アタシは色々と得心が言った。
どうやら式神と意識を共有するには、術者が紙に触れている必要があるらしい。
しかし『髪の毛』を括りつけることで、式神を遠隔操作可能にしたのだ。
アタシの髪の毛という経路を使い、遠隔で意識を共有する。
陰陽術大全に書いてあった『型紙を髪の毛で縛る』行為には、そんな意味があったのだ。
「式神術『鴉』」
風に吹かれても外れぬよう、アタシはしっかりと紙に髪を『テープで貼り付けた』。
いちいち括りつけずとも、現代には便利なものがたくさんある。
「────お願い」
鳥の型紙を、はらりと手放した。
何かに導かれるように。
何かに誘導されているかのように。
アタシはやったこともない式神術を、正しい手順で遂行して見せた。
カァー、と
その紙は黒い羽根を舞い散らせ、バサりとアタシの肩に乗った。
それは
この世の常識では測れない、非現実的な現象。
「深水先輩を、探してほしい」
「カァ、カァ」
本当にこんなことが起きるのか、という動揺はあった。
だけどそれと同じくらい、『そりゃうまく行くよな』という納得も感じた。
「ありがとう」
アタシの言葉に反応し、やがて