貴女へ捧げる、邪悪な聖歌 作:あんとわ・ねっとー
らぶれたー
――私には夢があります。
舞台は……ええ、そうですね。大聖堂が好ましいです、月光と星々に包まれた教会。ステンドグラスが淡く光を通すんです。
まるで祝福されたウエディングフォトの一枚、私と貴女の思い出を穢しましょう。煌びやかではなくとも神秘的で、神の腕に抱かれたようなノスタルジックに浸れる舞台。
崩れる貴女と、そんな貴女を下す私。私自身はどうにも異物なのですが……きっとそれはそれは高名な、絵画にも劣らない最高傑作となるのでしょう。
――私には夢があります。
お客様は要りませんが、然し大勢のギャラリーが貴女の
貴女の飾りとなるのであれば、私は尽力致しましょう。お強い方々や連邦捜査部の顧問、可能かは存じ上げませんがティーパーティもお誘いしたいですね。
恥ずかしくも紅潮する私とは一転、無垢な貴女は震えながら顔を青くして、私の言葉を否定するのでしょう。ええ、それで良いのです。貴女の肯定は私の悪性の否定、故に耐え難く美しく、私も歓びに喘ぐのでしょう。
――私には夢があります。
役者は私一人。被害者は貴女で、それを享受するのも私。ふふっ…欲張りですね、ですが貴女の唯一こそが私の本懐。
この身は誕生より穢れ、ですが隣人と同様に私は私を愛しています。ナルシズムではなく、生物の自己生存本能の一種であると認識しております。ですので、私は私の人生を費やして私の快楽に身を投じる所存です。
希望を信じる貴女、主に跪く貴女、無垢な貴女。
嗚呼…嗚呼、嗚呼!
――嗚呼……シスターマリー……マリーさん、伊落マリーさん。どうか、末永く宜しく御願いします♡貴女の永遠の傷、それが私なのです。
愛とは一方的なモノ。作為的に享受する無形の、空模様に等しい代物。故に私は自慰行為に浸りましょう。貴女という犠牲を経て貴女を得る。
壊れる貴女の世界で、私は貴女に言ってあげるんです。耳元で囁くのです――
――ぜーんぶ、貴女のせいで壊れたんですよ?
と……くひっ、ククク……嗚呼…嗚呼、嗚呼!なんと美しい!こんな理想を叶える為に、私は何人を犠牲にするのでしょうか!何度、泣きながらも私へ手を伸ばす貴女を否定するのでしょうか!!
ああ――待ち遠しい。
◆◆◆
トリニティ総合学園、大聖堂。
シスターフッドの本部でもある其処は所属生徒数に相応した広さ、施設が完備されている。生徒会であるティーパーティには属さぬ派閥として、もしくは前身の組織より受け継いだ在り方故か、シスターフッドは組織として独立している。
然しトリニティ大聖堂は一般の生徒にも解放されており、限られてはいるが利用可能な施設もある。
そんな大聖堂の一室、懺悔室には二人の生徒が互いに姿を仕切りで隠し、言葉のみで向かい合っていた。
「――シスター……私は懺悔しなければいけません」
「……え、ええ…聞きましょう」
前口上の如く、耳に馴染む語り始め。例え顔が隠れていようとも、少女は相手を察した。
然し懺悔室に一歩踏み入れれば彼女は『個』ではなく『シスター』なのだ。未熟だろうと、熟練だろうと、贖いを求める子羊には関係の無い話。
役目を仰せつかったのであれば、主の意志を身に宿す心持ちで挑むもまた道理。この場に存在するのは友人同士ではなく哀れな仔羊とシスターのみ、と少女は自身へ言い聞かせた。
だが少女の決意を無視する様に、相手もまた淡々とした声質で語り始める。
「――あれは記憶に新しく…昨晩、23時を過ぎた頃でしょうか……私は寮の一室にて日課の三点倒立2時間耐久チャレンジをしていたのですが、急に獣の唸り声が聞こえたのです。恐ろしいです…震えました……しかし私は私の、ひいてはトリニティの生徒の安全を守るという自己正義の精神があります」
「…………はい、続けてください」
「意を決して獣の居所を探った結果、端的に換言致しまして――その正体は私のお腹だったのです!見つけたからには策を講じ、対処する必要性がある……具体的には空いたお腹を満たす必要性がありました。ので、深夜にラーメン大食いに挑戦し、見事に勝ち誇った次第です。お腹八分目なので四杯で終わりましたが…えへへ、すごく美味しかったのでマリーさんもお誘いしなければと」
「…その…ユウさん、此処は懺悔室なのですが…」
「あ、では懺悔します。宿題を出してなくてロボ教員に怒られました、まことにごめんなさい」
「ユウさん!?」
「でも課されてもいない読書感想文を400字詰め原稿用紙30枚ほど、提出してしました。Mr.ニコライさんの『善悪の彼方』です。なので帳消しになっているかと」
「な、ならないかと……えっと、宿題は決められた物をちゃんとやりましょうね」
仕切りの先、顔の見えない友人は矢張り
だが無感情という訳でも無く、穏やかでありながら底の読めない語り部とは、斯くも判断が難しいと少女は内心で呟く。
共に並んで歩く分には楽しいのだが、懺悔室での会話ではない。一旦外へ出ようと誘う手前、またしても言葉が挟まれる。
「いえ、勘違いなさらないでください。宿題はちゃんとやりましたよ?」
「…では部屋に忘れて来たという事ですか?」
「いえいえ、ちゃんとカバンに入れて持って行きました。普通に忘れてきたカズサにも見せましたし、今だってカバンの中で眠ってます。つまり単に私が提出拒否しただけです」
「何でですか!?えっ…宿題もやって、教室まで持って行ってたんですよね?後は出すだけで――」
「マリーさん、シスター☆マリーさん」
「は、はいっ」
「宿題って字は『宿』と『題』で構成されてます。前は『宀』と『人』に『百』、後は『是』と『頁』から成り立ってますが――そんな事はどうでも良くて」
「どうでも良くて……っ!?」
「………はい、全てはどうでも良くて。取り敢えず今夜、ラーメン食べに行きましょう。広めずには居られないくらい美味しかったのです、是非是非行きましょう、絶対に行きましょう。ですが……あまりマリーさんを夜更かしさせると怒られるので、ちょい早めに22時に駅集合しましょう。ふふっ、奢りますよ♪」
基本的にトリニティ総合学園において、夜間外出への禁止令等はない。
学園内の施設に於いては例外だが、それこそ大聖堂や古書館の重要性を帯びる組織の活動拠点や一般の生徒へは知らされない統制された情報の隠し所などは当然ながら夜間の出入りは禁止されている。
だが自治区内外問わず、禁止令がない場所へは夜間であろうとも咎められる事はない。
無論ブラックマーケット等は
「えっと、その……夜間の出歩きは危険ですよ?それに深夜のラーメンは……か、カロリーが心配に…」
「大丈夫です、深夜は月と星の引力でカロリーの消費スピードが昼間に比べて早いんです。それに麺類と汁は口からスルスルと身体に流れますよね?つまり、食べ物の形態としては比較的カロリーが体へ吸収されずらいとミレニアムのとある友人が語っていました」
「そ、そうなんですか!?あまり気にした事はありませんでしたが……そうだったんですね、時間帯や食べ物の形が……道理でコンニャク麺はダイエット食品として有名だったんですね」
「それは普通に素材の………あ、いえいえ。何でもありませんよ。私も聞き齧った程度の知識ですけど、現に夜間食事に偏っている私は太ってません。つまり立証済みなんです。むしろダイエットみたいなモノですね、深夜ラーメンは」
「なんと、革命的なご意見でしょう…!」
「ふへへ……うん、ふへっ…♡」
「っ!?ゆ、ユウさん……?その、おかしな声が…」
三角の耳を揺らし、少女は彼女らしからぬ声に疑問符を唱える。聴いてはいけない何か、おぞましいモノを受け入れることを拒むように。
恐る恐ると問い掛けるが、仕切りの向こうに居るであろう友人は数秒の沈黙を経て再度口を開いた。
「……んー、なんか外の声が入ってきてるっぽいですね。水着で彷徨く変態な先輩や生徒の足を舐める妖怪みたいな大人もいますし、気を付けましょうね」
「…確かに、この懺悔室の壁はシスターヒナタが誤って罅を……あ、ですがちゃんと修繕はしていますのでご安心を!……その、後でもう一度点検しますね」
「道理で壁に板が……ええ、それが良いでしょうね」
「……ふふっ」
「ぷっ、あはは!」
ふう、と安堵の溜め息が互いに漏れ、矢張り互いに微笑んでしまった。これではシスターと迷える仔羊ではないのだが、マリーはこんな関係が嫌いではなかった。
友人――親友と言っても過言ではない彼女は、マリーの憧れだ。未熟な自分を恥じるばかりだったマリーを、外に連れ出して知らない事を沢山経験させてくれる親友。
こうして懺悔と形付けて食事へ誘うのもまた、彼女がマリーへ合わせてくれているのだとマリー自身は認識している。
いつか、自分も彼女のように他者を導き立派な人物へと至れるのだろうか。そんな事をボンヤリと考えながら、然し今夜の約束へと想いを馳せた。
◆◆◆
――伊落マリーが好きだ。
伊落マリーという『キャラクター』が大好きだ。彼女の声も、清楚なのに淫乱扱いされる所も、体育着姿のEXスキル発動時の演出も!
恋に恋していないのに、『恋』を慎ましやかな胸に抱える姿は純粋無垢なシスターです。愛らしいですね!まだ訪れぬ未来のシナリオ、サクラコ様の『覚悟』に赤面するマリーさんは当時の私を沼に引き込みました。ズルいですね!!
さて、さてさてさて!この世界に"在る"今の私はどんな存在なのか――そんなのはでどうでも良いのです。や、多少は気になりますけど……私が知りたいのはこれまでのマリーさんであり、これからのマリーさん。愛しのシスターエッグ。
彼女を歪ませ、深い深い絶望の果てに堕としたい!大好きで愛していて耐え難く私の心を揺さぶる彼女の
そして変貌させ、心に『私』を刻み込む!キャラクターに恋する者としては邪道でしょう………私も、私以外に彼女を穢す存在がいれば殺す。彼女の目が届かない場所で殺してやる。生徒なら兎も角、市民なら簡単ですからね。
きっと私ほど気持ち悪く、でも純粋に『伊落マリー』を愛している者は他にいませんね。ずっと……ずっと、ずっとずっとずっと!手の届かない画面の中、燻り増え続け溜まってきたこの感情は善意でも悪意でもない。言うなれば『愛』、心とは別な身体ばかりの乙女成分だけど、年相応の『恋』でも良い。
――私の世界には、私とマリーさん。ついでに其の他大勢の
だから私の『恋路』が何よりも優先される。自身の気持ちしか分からないんですから、自分の感情を優先してしまうのが道理ですね。
……そんな我儘な化け物が『
「はいはーい、異物は異物らしくガンバリましょーネ。好き勝手に荒らして、退場しよっと♡」
宜しく楽しく、自由にヤりましゃう。だって私は自由なんです。何にも縛られていません、オトモダチだって普通に捨てますし。
ぜーんぶ、マリーさんのせいなんだからね♡
やぶれたー