アウトサイダー   作:32.6

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趣味の赴くままに爆走します。よろしくお願いします。



1話 プロローグ

 ──アーカム大爆発から8年。

 

 机に伸びた左腕、その上腕にあるゴム紐が血流を止め、その先には大小の青白い血管が、白く細い腕に浮き上がっていた。

 

「では消毒後、採血をはじめますね」

 

 嗅き飽きたアルコールの香り。

 感じ飽きた注射針の痛み。

 見飽きた自身の真っ赤な血液。

 

 採血管の中に溜まっていく血を見下ろし、僕は一つ深いため息を吐いた。

 その血の色が青や緑、白色ならばどれだけ気が楽になっていたか。

『血』だけではない。僕の見た目も同様だ。

 

 いっそ自分が化物に成り下がっていれば、どれだけこの気持ちも晴れやかになるのだろう、と何度も何度も空想した。

 

「終わりましたよー。片方の親指で絆創膏の所を軽く圧迫してくださいねー。また番号でお呼びしますので、待合室でお待ちくださいねー」

 

 そんな軽やかな看護婦さんへ「ありがとうございます」と、頭を下げ踵を返した。

 ドアハンドルに肘を引っかけ戸を開く。

 そこに──

 

「そおちゃん」

 

 呼ばれ顔を向けると、水色の髪。ふわりとしたショートボブの少女がロービーチェアに腰かけ、手を小さく振っていた。

 僕は誰も居ない椅子の群れを行き、彼女の横に座り口を開けた。

 

「今日の検査、何も異常が無ければ……病院で検査しなくてもいいんだと。……なにも無ければいいんだが」

「異常もなにも……。『毎日』、私の『美味しい』手料理を食べてるから大丈夫よ!」

「……。『美味しい』はともかく『毎日』ではないだろう?」

「レンジでチンして手伝ってるじゃん!?」

「それは料理に入るのだろうか……」

 

 僕の一言が気に入らなかったのか水色髪の子──七瀬 彩葉(いろは)は、ぷくーと頬を膨らませた。

 その頬の空気を潰す様に人差し指を沈まさせ、プニプニと弾力を味わった後に提案した。

 

「今日のデザートにケーキは如何かな、お嬢ちゃん」

「いいね、ケーキ!! そうかぁ、そうだもんね。今日を乗り切れば『記念日』になるもんね!」

「あぁ。お店で買っても良いけど……彩葉と作った方が楽しいからね」

 

 彩葉は目を輝かせて「じゃあさ」と言葉を足そうとした瞬間だった。

 ロービーの天井から下げられたテレビから『あるニュース』が流れ始めた。

 

 それは今から8年前にアメリカと日本を同時に襲った隕石の空中爆破の一件だった。

 幸いにも日本へ落ちた隕石は剥離した1部ともあり規模は小さく死人は居なかったが、アメリカでは一つの町を丸々飲み込んだ大災害となった。

 元をたどれば一つの隕石。それゆえ人々は、20世紀初頭に起きたツングースカ大爆発をなぞり、大災害が起きたアメリカの町の名を銘にした。

 

『アーカム大爆発』

 

 しかしソレは表の顔。隕石の空中爆破なんてものは真っ赤の嘘だ。

 裏の顔は研究所での大爆発。ソレは、神ですら「自業自得」だと笑い涙する愚かなモノだ。

 

「そおちゃん……大丈夫……?」

「──あ? あぁ……。すこしだけ、眩暈が……。ごめん……頼りなくて」

 

 冷たく、微かに震え始めた僕の両の手を彩葉は温かく覆ってくれた。

 

 あぁ、いっそ自分が化物に成り下がっていれば、どれだけこの気持ちも晴れやかになるのだろう!!!! 

 

 しかし僕は人間と同じ『見た目』で、同じ『血の色』をしている。

 ただし一点だけ。

 一点だけ僕は違うのだ。

 

「なぁ彩葉……。こんな僕でも……()()()()()()()()()()だとしても、ヒーローを目指して良いのかな……」

 

 結局、僕に声が掛かったのは彩葉では無く、看護婦さんからの番号で、奇しくもソレは、研究所に居た時と同じ数字であった。

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

 V-1001

 

 それは研究所での僕の名前だった。Vのハッキリとした由来は知らない。

 けれど、Victory(ヴィクトリー)が要因の一つ、と言う事は研究所内にいた仲の良い先生からそう聞いた。

 1001なのは、僕は1000の複製だから。実に簡単な話だ。

 

 今から30年ほど前の話、世界中のお偉い方々は集い、イカれた研究者と共に協議したそうだ。

 この地球に住まう人類の、()()()()()エネルギー問題解消を──

 

 勿論、偉い方々はその話を白紙にしたそうだ。しかし皆、裏でコソコソと動き始めた。

『個性』という無限の可能性を秘めた神秘。その神秘を解き暴き、我が物にしようと血眼となったのだ。

 

 何時しか各国は裏で手を取り合い、研究を進めた。

『個性』は代を追うごとに複雑化し強大なモノとなる事を知っていた研究者たちは、社会から取り残された孤児を使った。

 身寄りの無い子だ。いくら消えたとて、別に誰も困らんだろう、と。

 

 しかし、どの研究所でも奇跡は起きなかった。

 その全てが失敗作として幕を閉じた。

 

 各国の研究所が一つ、また一つと数を減らす中、日本の研究所で一人の赤子が注目された。

 間髪入れずその赤子は複製され、オリジナルは『V-1000』、クローンには『V-1001』の銘を身体に焼き付けられた。

 

 その赤子の個性は『エネルギー変換』。

 熱、衝撃、太陽光や地球の自転まで。ありとあらゆるエネルギーを使用者が望むエネルギーに変換できるもの。

 つまり、地球という大質量の『運動エネルギー』を、人々が余り尽くせる程の『電気エネルギー』に変換する事が出来る。

 

 V-1000(オリジナル)は個性の解明と複製の為にアメリカへ。

 そしてV-1001(クローン)は、個性利用の為に日本に留まった。

 

 以上の話は公安から聞かされた話だ。

 何処までが本当で、何処までが嘘なのかは分からない。

 しかしこれからの話は正真正銘、僕が体験したものだ。

 

 ◇◇

 

 空の青さを知らず僕は5歳となった。

 一日に8時間の個性制御の訓練と、8時間の個性制御の座学を受けた。

 

 僕の個性は複雑を極め、変換するエネルギーを正しく理解しなければ暴走する。

 それと「どれ程のエネルギー量が人類社会において正常か」を知らなければならなかった。

 

 仮に個性で1億ボルトを放出したとしても、それを利用するのは現実的ではないからだ。その膨大なエネルギーを受け取る施設が()()()()になってしまう。

 そのため僕は、決められた電気エネルギーを数時間に渡って放出するような訓練を受けた。それは電気のみならず、光や音、熱や運動エネルギーも同様に。

 

 時に大怪我を負った事もあった。

 しかし研究所の人々は僕に嘯いたのだ。

 

 ──もし、キミが個性を完璧に使いこなせるようになれば……オールマイトすら越えれるヒーローに成れる

 

 当時の僕にとって、その言葉は魔法の言葉だった。

 ある研究者が内緒で見せてくれた外の世界の映像。その映像には一人のカッコいいヒーローが映っていた。

 それが功を奏したのか、僕は辛い訓練も、眠たくなる程の座学も頑張れた。頑張れてしまった。

 

 

 そして6歳頃、僕は自身の個性をコントロールできるようになった。

 個性を使用する時の感覚と、昔々の偉人たちが解き明かした法則の数々が脳内で結びついたのだ。

 頭の中で数字が躍る感触は、今なお記憶に新しい。それほどに僕は……嬉しかった。

 

 これで僕もオールマイトになれるんだ!!! と──

 

 

 そして時が経ち──この日、V-1000(オリジナル)は世界に牙を向けた。

 

 

 アメリカのニューイングランド地方に属する町。その地下にある研究施設。そこから異常の量のエネルギーが放出された。その膨大な熱は発生地を蒸発させつつ、半径30キロを一瞬で炭と化した。

 アーカムと言う名の町が消失してから5分後、この研究施設に熱と爆音と爆風が襲い、1本の穴が開いた。

 僕は『個性』のお陰で無傷で終わったが、研究所の中に居た人間はこの一撃で全滅した。

 

 そして、初めて仰いだ灰色の空から一人の少年が落ちて来た。

 地面にペタりと器用に着地し、顔を僕の方に上げた。ソイツは僕と同じ顔で、同じ背格好で、同じ白色の髪をして、同じ青の眼をしていた。

 それで直感的に気づいた。ソイツは僕なのだと。

 

 そしてソイツは言った。

 

「ふーん。俺とは違って『温室』で育てられたってワケね」

 

 次にソイツは──

 

「なぁ、俺の()()()。ここから出て、俺たちを『こう』した連中共をさ! 全員、ぶっ殺して回ろうぜ!!!」

 

 

 その先は記憶がほとんど無い。

 ただ泣いて「僕はオールマイトのようなヒーローになりたい」と連呼していたような気がする。

 

 そして気が付いた頃にはアイツは居らず、怖い顔の大人たちと本物のオールマイトが居た。

 難しい話は一切分からなかったが、僕はかつて研究所で親しくしてくれた七瀬 彩佳(あやか)の家に迎い入れる事が決まった。

 同時にオールマイトから『五十鈴(いすず) 宗一(そういち)』という名を貰って。

 

 そして僕が10迎える時、クリーンで、膨大な電力を発電出来る機構が発明され、世界のシェアはそれに打って変わった。

 

 ……。

 

 そう。そのお陰で、僕等は完全に要らないモノと化してしまった。

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

 僕の身体は人工物。その為、何らかの異常があるかもしれない、と3か月に1回のペースで病院での診断を受けていた。

 しかし今日一日かけて行った検査では、何も異常は見られなかった。

 

「よかったー!! これで定期診断は終わり!! これでいっぱい、美味しいモノが食べられるね」

 

 夕日に照らされた彩葉は、安堵の顔を浮かべながらそう言った。

 

「確かにそうだね。変に気を使って糖類や油分を制限してきたからなー」

「じゃあさ、帰りに喫茶店に寄って行こ? パフェ食べたい!!」

「今日作るケーキは……」

「それも食べる!!」

「……」

 

 デザートは別腹とはこの事だろうか??? 

 だが、その提案もいいかもしれない。今日まで散々、彩葉には迷惑をかけてくてしまっていたのだから。

 

「よし! じゃあ今日は食べまくろう!! 駅前の所はどうかな?」

「おー、以心伝心とはこのことか」

「いや怖い怖い。急なホラー要素はやめてくれ。……それで、そこでいいんだね?」

「うん、前から行きたかったの。あっ……グループチャットにオールマイトからメッセージが届いたよ!!」

「マジで? 僕も見る」

 

 大急ぎでポケットからスマホを取り出すと、今回の診断結果への返答が来ていた。

 長ったらしい文章であったが、彼の熱意と真摯な心がひしひしと伝わってくるようなものだった。

 

「ねぇ、そうちゃん! 最後に『2人の授業を受け持つこと。大変楽しみに待ってるぞ!!』だって!!」

「そうだな。これじゃあ合格するしかないよな、雄英高校に」

 

 僕らは明るい未来を語りながら喫茶店へと足を進めた。

 そして、この時、この瞬間だけは忘れることにした。

 

 僕のオリジナルの事を──

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

 薄暗い部屋の中。

 ベッドに腰かけスマホを顔の前にし、何者かと電話する少年がいた。

 

 先ほどまでシャワーを浴びてため上裸姿で、白い髪からはポツポツと水が滴り落ちていた。

 眼は透き通るような青色。その整った顔は中性的で、メイクを施せば誰もが美少女と断言できるほどの素材だ。

 

「で、何かな? 俺は少し忙しいんだけども……」

『まぁいいじゃないか。今日は君にとって記念日だからね。そのお祝いを、と──』

「お祝い? ……いいねぇ!! また情報を俺にくれるのか!?」

『あぁそうだとも。君は可愛い可愛い()()なのだから。今、位置情報を送ったよ』

「おおっ、来た来た。えー、どれどれ……。はぁーん、そんな山奥にまだ隠していたのか」

 

 情報を手にした少年は嬉々として、通話の主に感謝を述べた。

 

『それで……弔とは最近どうなんだ?』

「たまにゲームして遊んでるよ。だけどゲームにならないんだ。……味方への暴言でチームワークもクソも無ぇ」

『ははは、そうか。ま、引き続き弔の子守りも頼むよ』

 

 その後、少年──死枯木 桐夜(とうや)は夜空を駆けた。

 自身の復讐を果たすために。

 自身の夢を叶えるために。

 

「お前たちが棄てたモノは、ついに腐臭を放ち…ここまでやってきたぞ!!!」

 

 彼の服の隙間。そこから見える左胸部には未だ痛々しく『V-1000』の焼き印が、彼を永遠に蝕んでいた。

 

 

 





ここまで読んでいただきありがとうございます。
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蛇足

書き終わって気づきましたが、主人公sの個性がアクセラレートに似てない?と……
ま、まぁベクトル操作とエネルギー変換は全然違うのでセ、セーフ???

次回、このスペースを使って人物紹介をしたいと思っています。
よろしくお願いします。
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