アウトサイダー   作:32.6

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2話 銀の鍵

 雄英高校一般入試当日──

 

 プロヒーロー養成のために編成された『ヒーロー科』は、倍率300を超えるほど人気が高い。

 そのため、電車やバスには学生がごった返し、高校に着いた頃にはもう少しだけ疲れてしまった。

 

「すこし寒いね、そうちゃん」

 

 彩葉は、冬服の学生服に落ち着いた色合いのマフラーを巻いてそう言った。

 僕も想定外の寒さに口元に手をやり、はぁーと息を吹きかける。日が出れば暖かくなるらしいが、いかんせん朝は寒い……

 

「そうだね。でも今日は実技試験。動いてれば、嫌でも熱くなるだろう」

「そうかー」

 

 彩葉は手を後ろで組み、僕の歩くペースに合わせていた。

 

「おいおい、あの2人。顔面偏差値高くね???」「うわー、あの女ん子と同じクラスになったらいいなー」「あの白い髪の子、チョーイケメンなんですけど!!」

 

 窓口に近づくと自然と人が多くなる。そのため学生たちの視線を集めた。

 しかし彩葉にとっては()()()()()()()で、そんなものお構いなしに僕へ水色の髪を揺らし口を開けた。

 

「でもさ、そうちゃんの経歴って雄英高校の先生……あの校長先生にも知られているんだよね? 前に面談? 受けた時は何の話をしてたの? 推薦枠じゃ無いもんね」

 

 人が集まった状態で、その話を普通しますか? お嬢様??? 

 そのように心で突っ込みを入れたが、素直に彩葉に質問に答えることにした。

 

「いや、最初は推薦で話が来ていたんだ。でも断った」

「へぇ初耳。どうして断っちゃたの?」

「そりゃあ勿論、彩葉と受けたかったから」

「……!? ……もう♡」

「グフェ!?!?」

 

 彩葉のじゃれ合いで放った人差し指は、見事僕の肋骨の隙間へとクリーンヒットした。

 僕のリアクションは周りの学生達を若干引かせ、痛みと羞恥心に耐えながら顔を上げた。

 

「ごめんごめん! ちょっと強すぎたかも」

「いいんだ。それともう一つ理由があって──」

 

 僕は先の面談──雄英高校の校長である根津校長との話を思い出す。

 根津校長はその昔、人間から実験動物のような扱いをされており、その不遇や境遇は僕に連なるようなものだった。

 似たもの同士というわけにはいかないが、お互いの好きな本や偉人や思想に意気投合し、それからは本を紹介しあう友達となった。

 そんな彼は、推薦枠を断った僕にこう言った。

 

『一般の実技試験にはお邪魔虫が出るんだけどね。ちょっとだけ君仕様に整えておいたんだ。ぜひともソレを爽快に撃破してくれたまえよ!!』

 

「僕のお友達からのリクエストも兼ねているんだ」

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

『ハイ、スタート』

 

 ボイスヒーロー、プレゼント・マイクの前触れもない一言によって実技試験は幕を開けた。

 

 会場中に響き渡る声を耳にし、七瀬 彩葉は深いため息を漏らした。

 その理由は単純明快。

 

 愛しの五十鈴 宗一と別の試験会場となったからだ。

 

 本当は彼に、自身の活躍を見て褒めて欲しかったが、会場が別となってしまっては仕様がない。

 彩葉は『個性』を使用し飛躍した。そして猛スピードで試験会場である市街地の中央へと突き進んだ。

 地に足を付けるなり複数の仮想(ヴィラン)が彩葉を目掛けて群がった。

 

『標的補足!! ブッ殺ス!!!!』

「3Pが3機。2Pが8、1Pが……。ざっと30Pはあるわね」

 

 見渡し、冷静に言った彩葉は両手を前に差し出した。

 

「みんな、消えて」

 

 次の瞬間、彩葉の両の掌からとてつもない程の衝撃波が発生した。

 強力な衝撃波は仮想敵を悉く粉砕し、その後方にある信号機や道路、建物の一部を破壊した。

 

 七瀬 彩葉の個性は『拒絶』

 対象への好感度が低ければ低い程、高エネルギーの波動を放つことができる。

「無関心」は×1.0倍、「ちょっと嫌い」は×1.5倍、「普通に嫌い」は×2.0倍……

 最大出力5倍の衝撃波を放てるが、その莫大な威力と自身の心境も加味しコントロールが困難になるというデメリットもある。

「無関心状態」の1.0倍ですら仮想敵を行動不能にできるほどの威力をもつが、逆に好感度が高い対象への補正は、×0.7倍、×0.5倍、×0.3倍、×0倍と弱くなる。

 条件を満たせば、オールマイトの火力と肩を並べる事ができる強力な個性。しかしまた同時に、とても癖のある個性には違いない。

 

「はぁ、そうちゃんと一緒に試験を受けたかったなぁ……」

 

 彩葉のメラメラと湧き上がっていた闘争心が遂に消沈した。

 こうなってしまった以上、仮想敵への感情は「無関心」となり、先ほどと同じような衝撃波を打つことが出来なくなってしまった。

 

「ん……。もう30Pもとれたし、後はゆっくりポイントを盛って……ッて!?」

 

 そんな彩葉を襲ったのは鈍重な地響きであった。

 その発生源がこの試験エリアではない事を理解した彩葉は両手を組み、目を輝かせながら言った。

 

「そうちゃんの“個性”だ!!」

 

 その地響きが彩葉に再度、闘争心という炎を灯した。

 

「そうだ、そうだよ、そうちゃんは自分のトラウマと向き合って頑張ってるんだよ。……そうちゃんを此処まで理解してるのは私だけ。そうちゃんの苦しみを此処まで理解してるのは私だけ!! ……だから私はそうちゃんの隣に居なきゃダメなの。ずっと隣に、ずっと、ずぅーと隣に居るのは私。そうちゃんを守るのは……私の役目」

 

 彩葉は昔を思い出した。

 研究員だった姉の葬式の日。黒い服を着た大人たちが白い髪の天使を連れてきていた事を。

 

『彩葉ちゃん、この子を守ってくれるかな?』

 

 それ以来、彩葉は天使の“お姉ちゃん”となった。

 悪夢で眠れぬ少年を抱き、目を輝かせヒーローを語る彼に賛同し、天使が細々と語った悲惨な過去に同情した。

 

「そうちゃんの敵は私の敵。そうちゃんの障壁は私の障壁。お姉ちゃん、絶対に負けないからね」

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

「うわっ……!? なんか悪寒が……」

「ご、ごめんなさい!! 多分、私の“個性”です……!!」

「いやいや、大丈夫!! ……この悪寒の元凶は彩葉だな」

 

 背中で涙を零す少女を片目に、僕は個性を使い空を駆けていた。

 50Pを取得した僕は、エリア内の負傷者の回収に移行した。仮想敵との闘いは暇つぶし程度にはなったが、僕への課題はそれでは無からだ。

 つまり、暇を持て余した僕はヒーローらしく救助(レスキュー)活動に勤しんでいた。

 

「よし、初期位置まで来たぞ。……その足、はやく治ると良いな」

「ごめんなさい……。応急処置から何まで……」

 

 ふわり、と地に足を付けた僕は駐在する職員へ少女を引き渡した。

 実技試験。その残り時間が6分を切り始めたが、根津校長が言う『お邪魔虫』はまだ現れなかった。

 

「お、ヒーローの凱旋だ!!」「今度は女の子を助けて来たぜ!!」「ウヒョー!! イケメンはやることが違ぇや!!」「ガンバレー男女(おとこおんな)!!!」

「ッて……うるさいな!! この負傷者どもが!!!」

「いいじゃねーかよ!!」「そうだそうだ! 結果こそ見えているが、俺たちは同じ受験生だぞ!!」「ヤジぐらい飛ばさせろ!!」「君の罵声……とても身に染みる……」

「う、う……!! うるさいぞ!! 負傷者は負傷者らしく、そこで寝てろぉぉぉお!!」

「声が裏返ってるじゃねーかヒーロー!!」「ブファッ!! 赤面してるぞ!!!!」「KAWAII!!」「もっと俺に……俺に罵声をくれ!!!」「さっきから『うるさい』しか言ってねーぞヒーロー!! もっとボキャブラリー増やせや!!!」

「うるさい!!」

 

 一体、何なんだコイツらは!?!?!? どうしてこんなにも元気なんだ!?!?!? 

 ……。眼前にいる十名は皆、僕が救出した学生たちだ。頭に包帯を巻いている奴もいるし、腕に包帯を巻いている奴もいる。

 多分コイツらはきっと『痛い』だろうし、雄英合格も遠のいて『苦しい』ハズだ……

 

 その時であった。

「残り時間5分」とプレゼント・マイクの声と同時に、僕らの後方から建物が瓦解する音が響いた。

 根津校長が言う『お邪魔虫』の登場だ。

 

「行ってこいヒーロー!!!」

 

 そう一際大きく口を開いたのは、僕が一番最初に助けた大柄の男だった。大男に続くように周りの学生たちもエールを送った。

 

「……」

 

 とてもうれしかった。

 僕の人生。ここまでに人に期待され、応援されたことは初めてだったから。

 だからこそ、僕はそれに対し胸を張って堂々と応えた。

 

「おう!! 任せとけ!!」

 

 笑顔でそう返し、僕は空へ向かった。

 目標は0ポイントの『お邪魔虫』。

 あぁ、校長の言う通り“爽快”に倒してやるよ!!! 

 

 

 ◇◇

 

 

 目的地に着いた僕は目を疑った。

 巨大で重厚な仮想敵である『お邪魔虫』に向かって、一人の少年が立ち向かったからだ。

 

 大きく飛躍する少年の下、そこには一人の少女が倒れていた。

 その少年は少女を救わんとして行動したのだ。

 そして──

 

 SMAASH(スマッシュ)!!!! 

 

 少年から繰り出さられた一撃は凄まじく、()()()の仮想敵の分厚い装甲を破壊するほどの威力を放った。

 

「うわ……スゲェ」

 

 僕はその様を見て、思わず感嘆の声を漏らした。

 だが仮想敵は倒れず、ギギギギギ……と歪な音を鳴らしながら、()()()()()()()()()に向かって追撃しようとしていた。

 

「って!? 君、もしかして……その後について全く考えてなかったな!?」

 

 落下する少年を抱く様にキャッチし、そのまま降下した。

 そして地面に横たわる少女の横に寝かせ、僕も“その少年”のように大きく跳躍した。

 

「思わず真似しちゃいたくなるほど……カッコいいじゃないか!!!!」

 

 僕の目の前に突如として出現した“錠”。そして右手には“銀の鍵”。

 僕自身、この現象は理解していないが『ある一定以上のエネルギーを変換するときに現れる錠前』と解釈している。

 すかさず“銀の鍵”を“錠”へ入れ、開錠する。するとキラキラと錠前は光の粒子と化し、“個性”の制限が無くなった事を感覚として理解した。

 

 右手の拳を強く握りしめ、仮想敵が溶解するほどのエネルギーを籠めた。

 

「なぁ、お前はさ」

 

 エネルギーが凝縮し、今解き放たんとする右手からはキラキラと眩い光があふれ出ていた。

 

()()()()()()()()()?」

 

 と、昨晩夜通しで考えたキメ言葉を吐き、僕は拳を振るった。

 膨大なエネルギーに当てられた仮想敵は瞬時に溶解し、人が居ない後方へと赤く輝く液体を撒き散らし消えていった。

 今頃あの校長は『YEAH(イヤー)!!』と歓喜に身をゆだねているのだろうか。

 

『終了ー!!!!』

 

 丁度このタイミングで試験終了のコングが鳴った。

 地へと着地した僕は、ボサボサ髪の少年の方に目を向けた。

 痛みで失神しているのかピクリとも動かない。

 近寄り、自身ができる範囲の応急処置をしつつ、声届かぬ彼に口を開けた。

 

「まさか君が……オールマイトの継承者君かい?」

 

 僕の質問は勿論、返ってくることはなかった。

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

 試験が終わり1週間経った──

 

 早朝。日課であるポスト確認に向かうと、雄英高校からの通知が2通投函されていた。

 

「彩葉、雄英高校から届いたよー」

「本当? 見る見る!!」

 

 朝は低血圧気味で色々と辛い……

 しかし彩葉は、いつもと変わらぬハイテンション。正直お前が羨ましいよ……

 

 せーの、で開けた封筒からは『合格』の証書と投影機が出てきた。

 投影機の内容は彩葉と大して変わらず、オールマイトが入学を祝福してくれる映像であった。

 

 喜ばしい事に僕らは同じクラスの1-Aとなり、一般入試枠20名+推薦枠2名の計22名のクラスの一員となった。

 死ぬほど喜ぶ彩葉を横目に僕は、あの時の少年を思い浮かべる。

 

 ──SMAASH(スマッシュ)!!!! 

 

 あぁ、あの一撃はとてもカッコよかったな、と思いつつ、中学最後の時をゆっくりゆっくり消化させた。

 

 

 




ここまで読んでいただきありがとうございます。

宗一、彩葉ともに“個性”が書けましたので、改めてキャラクター紹介を挟みたいと思います。

◇◇

五十鈴 宗一 (男)
・白髪、青眼。中性的な顔付きと声。よく間違えられる。
・研究所内での銘は『V-1001』
・個性は『エネルギー変換』。熱、衝撃、太陽光や地球の自転まで、ありとあらゆるエネルギーを使用者が望むエネルギーに変換できる。それを応用して空を浮かぶ事も可能。
・一定以上のエネルギーを放出する際、“錠”と“銀の鍵”が出現する。それらで開錠することによって、個性の上限を開放できる。錠も鍵も何故有るのかは不明。
・オールマイトとは8年由来の付き合い。それ故に『カッコいいヒーロー』を目指すようになった。
・名前はオールマイトが名付けてくれた。


七瀬 彩葉 (女)
・水色のショートボブ。くるりとした眼が特徴。
・亡き姉は研究員。名は彩佳。年が離れている。
・遠い親戚に波動ねじれが居る。お互い面識はあり、姉妹のように仲がいい。
・個性は『拒絶』。対象への好感度が低ければ低い程、高エネルギーの波動を放つことができる。なお、宗一への攻撃は0倍となる。
・今は父が借りたマンションで宗一と暮らしている。父も研究者で、住み込みで働いている。社畜。

死枯木 桐夜 (男)
・白髪、青眼。中性的な顔付きと声。
・研究所内での銘は『V-1000』
・宗一の事を「温室育ち」と卑下し、己の道を歩み始めた。
・名付け親は顔のない男。
・弔とは兄弟の関係。


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