防御力0の女の子が速攻で上から叩かれる話   作:中落ちカルビ

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夏の日の思い出

「……て」

 

林の中は思ったより涼しい。

乱立する木々が直射日光を遮ってくれるし、小川から飛び立った水飛沫が周りの気温を下げてくれるからだ。

とは言え、だ。この頭の上から降りかかる蝉の声の大洪水はどうにかならないものなのだろうか。

 

「…ってよ」

 

静かさや、岩に染み入る、なんて歌を松尾芭蕉が歌ったとこの間の授業でやっていた。なるほど、これほどまでの轟音ならば固体である岩に音が染み込んでしまうという不可思議な現象にもなっとくできる。

 

「まってよねぇちゃん!」

 

そんな益体のない思考をまわしながら私は後ろを振り返る。

先ほどから何度か私を呼び止めようとしていたのだろう。

後ろをとてとてとついてきていた弟の顔は不機嫌そうに歪んでいた。

 

何だ、仕方ががないだろう。聞こえなかったのだから。

文句なら私でなくミンミンミンミンと忙しなく泣き続けるセミたちに言って欲しい。

 

「何だ弟よ」

「何だじゃないよ!どこまで行くのさ!」

 

弟が不機嫌そうな顔をさらに歪め、セミの鳴き声にまけない大声を上げた。

そう言われてもな…。

 

「一応、川が途切れるまで行くつもりだ。自由研究の課題だからな」

「えええーーー!!!」

 

私達が小川を遡り、林の中を歩いている理由は別に大したことでもない。夏休みの自由研究だ。研究内容は身近な川の状態について。

 

「もう帰ろうよお」

「上流、下流と水をとったからな、せっかく源流もとれそうなのだし、とっておかねば片手落ちだろう」

 

川の水をいくつかの地点で採取しその汚れ具合をみてどの辺りから水が汚染されているかを調べてみようと思いたったのだ。

 

「むぅ、なら弟よ、お前だけ帰っても良いんだぞ」

 

私はそう言って今まで歩いてきた道を指さす。

そこそこ歩いたが別に一人で帰れない程遠くではない。

 

ただちょっと心配だから結局私もついて行くことになると思うが。

 

「えぇぇ!!ねえちゃんも帰ろうよ!」

「いやだから私はな」

 

振り返り、弟の方を見て一歩踏み出そうとした時だった。

 

足を置いた場所が悪かったのだろう。

 

「危ない!!!」

 

つるりと足が滑る。

まるでスローモーションだ。ゆっくりと私の体が傾き、そのままゆっくり、ゆっくり傾きは大きくなる。

 

(あぁ…小川の水で服が汚れてしまうな…)

 

そんなどうでも良いことを考えながら、私は上流特有の、水の流れで研磨されきっていない尖った石に頭をぶつけ

 

なかった。

 

「……っ!」

 

目を瞑り、身をすくめていた私は地面に叩きつけられる前に誰かに抱き止められた。

 

はて?

周りに大人などいただろうか。

ああいや、ちがう。ふわりと漂った私と同じシャンプーの匂い。この匂いはつまり弟だ。

 

「あぁ…よかった、ねぇちゃん」

 

ああでも、弟はこんなに大きかっただろうか。

わたしの体はすっぽりと弟に包まれてしまい、身動きが取れそうにない。

 

「……ねえちゃん大丈夫?」

 

弟が私の顔を覗き込む。

ダメだ、やめてくれ、見ないでくれ。

お願いだ、お願いだから。

 

 

 

 

 

今の私の顔を、見ないでくれ。

 

 

 

 

 

 

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