Limbus斬撃組がねじれ依頼を完了する話   作:鈍田敬

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***

 

 

 中央部へと進んでいると、不思議なオブジェを見つけた。

 2m程度の大きな亀のトーテムポールだ。

 

 段ごとの亀はあちらこちらへ向いているし、相変わらず四肢や付属品がむちゃくちゃに付いていて余り関わらない方がいい予感もした。

 

 誰かに何かさせてみようか。誰にさせてみよう。

 

「わたし? まあいいけど」

 

 ロージャに何かをやらせてみることにした。

 

 ロージャはトーテムポールの正面らしき部分に向き合い、少し悩んだかと思うと亀達に触り始めた。

 

「やっぱり向きは揃ってた方が気持ちいいよね」

 

 強引に首を引っ張ったりして各段の向きを強制的に揃えさせると、最下段から順に亀が鳴き始めた。

 

「グェエ」

「キュオ」

「グギュグ」

 

 最上段まで鳴いて静まったかと思うと、最上段の亀の口から何かが落ちてきた。

 それは半ばでぽっきりと折れた道しるべの先っぽだった。

 

 彼らなりのお礼だと判断して持っていくことにした。

 

 E.G.Oギフト『折れた道しるべ』を獲得!

 

『折れた道しるべ』:一方攻撃を的中させた時、次ターン開始時にダメージ量1を得る。それが嫉妬属性のスキルだった場合、更にダメージ量2を得る。この効果は集中戦闘時のみ発動する。

 

 

***

 

 

「いつも思うんだけど、ダンテってよく変な贈り物もらっていくよね。気持ち悪くないの?」

『いやなんか、お礼だと思うと捨てられなくて』

「ぼこぼこにして落とした奴ももらってない?」

『まあそれは戦利品ということで』

「ものは言ひやうなり」*1

 

 イサンの鋭い突っ込みを右から左に流す。そうやって会話しながらふらふらと、壁を壊したり亀を壊したりして進んでいく。

 

 周りの雰囲気は壊した壁を進んでいくと時々変わっていき、今は真っ白の壁に囲まれた空間になっていた。いつの間にやら空さえ見えない屋内だ。最初から本当の空があったわけではないが、少し息苦しさを感じる。

 

 そんな中を亀を倒しながら進んでいると最悪の事件が起きた。

 

 近道をしようと壁を壊してみると、道そして壁が途切れていたのだ。それも1mや2m程ではない。対岸まで10mはあろうかという断絶で、どうにも渡れそうにはなかった。

 対岸には壁が甲羅地図の通りに筒状に(そび)えており、一箇所だけ入り口の通路がある、といった様相だった。

 

 途絶えた道から辺りを覗いてみると、断絶した空間の上下には真っ暗な闇が広がっていて、遠くには別の道の物らしき壁が見えたりしている。ここに落ちたらどうなるのか。調べる気にもならない。

 肝心の中央部への通路は、目に見える限りでは断絶しているようだった。

 

「チッ……面倒な」

『うーん、ちょっと遠すぎるかな。当たり前だけどジャンプ程度じゃ届かないし、E.G.Oでもなんとか出来なさそうだ』

「腸ってのは6mぐらいはある。そこの三人のを繋ぎ合わせれば届くかもな」

『届かせてどうするのさ……』

 

 やる気があるのはいいが、その方針が物騒すぎる。というかそれで行けたとしても私と良秀だけではないか。

 チラと三人を見れば両手を振って全力で否定していた。そらそうだ。

 

 甲羅地図を見ると、地図上では道が存在することになっており、イレギュラーなのかもしれなかった。亀は飛べるからいいだろうが、歩いている自分たちにとっては最悪の事態だ。

 

「とりあえず壁をいろいろ壊してみる?」

『まあそうしてみようか』

 

 断絶地帯を中心にして、一周するように壁を壊して繋がっている道が無いか確認していく。

 

 がしゃーん。どごーん。ずがーん。

 

 轟音と共に振り回すE.G.Oが全てを壊していく。

 しかし壊せども壊せども繋がっている道はなかった。

 それは、随時襲ってくる亀を倒しながら一周して元の場所に戻るまで続いたのだった。

 

「はぁ、はぁ……。ダンテさん、さすがに疲れました。休憩しませんか?」

 

 シンクレアが限界だとばかりに膝に手をついて項垂れ、顔だけこちらに向けて提案してきた。

 当然疲れているのはシンクレアだけでは無い。ロージャもイサンも、良秀も困憊なのが見て取れる。

 E.G.Oの発動はかなり精神に来ると聞く。交代で担当していたとはいえ、それなりに長い一周はつらかったことだろう。

 

『うんそうしよう。結局繋がってなかったから進めないし』

 

 その言葉に各々は自由に座って寛ぎ始めた。

 

「あー、のど乾いちゃったな」

「あの氷の奴とか溶かせば水になったりしませんか?」

「無理無理。あんなの飲んだらおなか壊しちゃうよ」

「あな口惜しや」*2

「腕でも斬り落としてやろうか。血で喉を潤せるだろう」

「23区じゃないんだから、血なんて飲まないよ」

「残・念」

 

 彼らはさておき、頭脳担当として頑張ってみる。戦えないから消去法でそうならざるを得ないのが悲しいのだが、頭脳担当としては戦闘要員でもあるイサンの方がよっぽど頼りになるのが、その悲しさを助長させる。

 嘆いていても仕方がない。とりあえず空けた穴を覗いてみよう。

 

 断絶地帯は相変わらず真っ暗で、中央部まで届きそうに広さ。

 

 あっち側にはまっすぐの通路がひとつに、その突き当たりに扉がひとつ。それ以外は円状に壁が張り出している。甲羅地図によると扉の奥が終着地点らしい。

 

 まるで全てを拒絶しているかのようだ。この迷路、そしてこの断絶。両方共がここの主だと思われるねじれか何かの心を表しているのだろうか。

 

 どこにも行くことが出来ず、分かれ道すらないなんて、あまりにも寂しい。

 

 そう思った時、視界が光に染まった。

 

 

***

 

『父さん、僕は絶対に翼に就職するんだ!』

『そうかそうか。じゃあ頑張って勉強しないとな』

『うん!』

 

 僕も僕の周囲もみんな、裕福な巣の暮らしを送っていた。

 翼で働いている人もいっぱい知っていたし、友人も推薦を受けたりしていたから自分もいけるんだと信じていた。

 

 だけどそんなことはなかった。

 

『なんで……なんで受からないんだろう』

 

 僕が落ちたと嘆くたびに、友人達は翼や翼の関連会社に就職をしていった。

 僕が頑張ると気合を入れるたびに、友人たちは膨大な給料で僕を応援をしてくれた。

 

 次第にみじめになった。

 

 どこに向かって勉強しているのかわからなくなった。

 

 ちゃんと進めているのかわからなくなった。

 

 だから。

 

 何もわからなくなった僕は周囲の人たちから逃げて部屋に閉じこもって勉強することにした。

 

 何にも邪魔されなければ。

 何にも誘惑されなければ。

 

 きっとまっすぐ進めば。

 

 夢に辿りつけると思ったから。

 

 

*** 

 

 

 視界が元に戻ると、断絶した空間が変わらず目の前にあった。

 

『……あれがここのねじれの過去なのかな』

 

 共感してしまったからなのか、誰かの過去の情景が映された。自分だけが取り残されて永遠に辿りつけなくなった、そんな過去だった。

 

 残念だったのは彼の周囲には悪い人はいなさそうだったことだ。彼の為に何かをしてあげる友人や応援してくれる家族が居ることは、人によっては羨ましく感じることもある程価値のある物といえるだろう。だがそれもそう認識できる者が持ってこそだ。

 彼にとってはある意味では裏切りのような感情を抱いてしまったことが不幸だった。

 

 息を吸い込んで、ゆっくりを吐き出す。実際には口がないからそんなことは出来ないが、気分だけでも落ち着かせる。

 

 周囲の人間をしっかりと認識する。それは今の自分にとっても大事なことだった。何より過去の自分を把握するためにも。

 

 そんな風に思い(ふけ)っていると、叫ぶように呼ぶ声が聞こえた。

 

「ダンテ! 無事!?」

『えっ、あ、うん! どうかしたの!?』

「どうしたもこうしたもないよ! なんかのシーン見終わったと思ったら、急にでっかい亀が襲ってきたの!」

『でっかい亀!?』

 

 慌ててロージャについていくと、いつも通りの小さい亀を叩き伏せながら、全長5mはありそうな飛んでる大亀を捌く三人の姿が見えた。

 だが全員傷だらけで、何故だか大亀の攻撃を無駄に受けているようだった。

 

「ロージャ君、叩き伏せたまへ!」

「うん、まっかせて!」

 

 そう言ってロージャが突っ込んでいき、もう少し安定した戦闘へと戦況が変わる。

 だがどうしても大亀の攻撃を全て捌くことは出来ないようで、傷が徐々に増えていく。

 噛み付きを受けようとした刃は何故か首もとへと吸い込まれ、引っ掻く爪を受け流そうとした刃も甲羅へと吸い込まれる。そのせいで普段よりも傷を作らされているようだった。

 とはいえそれも小さな亀が減ってしまえばなんてことはなかった。傷を負っているのは大亀も同じで大きく怯み始めていた。

 子亀の最後の一匹をシンクレアが叩き割り、余裕が出来た良秀がそんな怯んでいる大亀に一撃を加えようと前へと出る。

 

 そんな様子を見ながらふと思った。

 あれ、乗れないだろうか。

 

『良秀! それ、殺さないようにできる!?』

「理・言!」

『後で言うから! とにかく多分大事になるんだ!』

 

 良秀はチッと舌打ちして、デカ亀の手足を切り裂き、引っ掻きのために動かすのも難しいような傷をつけた。

 亀は大きく怯んで地面へとひっくり返ったかと思うと、甲羅の中に手足と頭を引っ込めて閉じこもる。

 

「ここから殺すのは億劫だ。本当に意味があるんだろうな」

「あ、うん。一応……」

 

 こいつらは飛んで移動していて、断絶地帯も多分越えることが出来るんじゃないだろうか。じゃあ、このデカいのに乗ることが出来たらもしかしたら、自分たちもあそこを越えられるかもしれない。

 

 そういった事を伝えてみると、シンクレアとロージャは感心したようにテンションが上がった。

 

「私乗りたい乗りたい!」

「何とかなりそうで良かったです」

 

 そんな二人の一方でイサンと良秀は(いぶか)しんでいた。

 

「どうやって言う事を聞かせるつもりだ?」

「所詮こそ生類なれ。乗れる半ばに暴ればいかなるつもりですか」*3

 

 その通りではあった。だけど、これ以外に特に思いつくものもないのもまた事実だ。

 

『二人の懸念も分かるけど、今は他に手もないしやれるだけやってみようよ』

 

 そう言ってみると、渋々というように二人は受け入れたようだった。

 

 話が終わったので今度は自分が悶える時間だ。顔面の針を戻して全身が刻まれるような鋭い痛みに耐えると、みんなの体の傷が綺麗さっぱりと消えてなくなる。みんなお疲れ様でした。

 

「で、どうするの? 裏返って殻にこもっちゃってるけどとりあえずひっくり返す?」

『まあそうだね。ロージャとシンクレアでひっくり返せる?』

「えーと、んんっ……もう一人欲しいですね」

 

もう一人、と余った二人を見るが、イサンはそこまで筋肉に期待できそうになく、良秀はそもそもやる気がなさそうだった。仕方なしに自分で手伝うことにする。

 三人でせーのとタイミングを合わせて持ち上げると徐々に甲羅の端が持ち上がり、頂点まで達した後は自重で正しい向きへとひっくり返った。

 ずしんと地面を揺らしたそれは、しかし何にも動じないかのように甲羅の中から出てこようとはしない。体力回復に努めているのだろうか。

 

『ふぅ、見た目通り重たいね』

「大きい以外は小さい亀と一緒みたいね」

 

 ロージャの言うとおり、甲羅には地図と現在地を示すらしい赤い点が同じように描かれていた。そして容姿がめちゃくちゃなのもそのままだ。翼が三つなんてどうやってバランスを取っているんだ。というかそもそも羽ばたかずに浮いているのも意味が分からない。付いているだけじゃないか。

 

『とにかく、彼……彼女? には手伝ってもらわなきゃならない。だから、そう。敵意がない事を示そう!』

 

 そう言ってみると今度は全員が(いぶか)しんだ目で見てきた。

 

「ちょっと曖昧過ぎない? 話が通じるとも思えないのに」

『いや、でもだよ。チキンはヒースクリフを乗っ取って仲間と会話してたりしてたでしょ? じゃあ会話能力自体は眷属にもあるってことで、この子の主であろうねじれも元は普通の人間だっていうなら普通の会話が出来るはずだよね。っていう寸法』

「ふうむ。多少は筋通れり」*4

 

 しかし自分の論で少しは納得してくれたようで少し前向きそうな表情に変わった。良秀以外は。

 

***

 

 大亀は閉じこもっている。

 

 誰に任せようか。

 

 優しさや思いやりと言えば……。

 

『シンクレア、行くんだ!』 

 

「えっと、僕は何をすれば」

 

『なんかこういい感じにお願い』

 

「具体的な命令が欲しいです……」

 

 不安そうなシンクレアがおずおずと同じように甲羅を撫で始めた。

 

「お、おっきい体ですよね。頑張ってきたんだなって思って尊敬します。僕は体が小さいので特にそう思います」

 

 優しい手のひらが効いたのか、甲羅が若干震え、そして止まったかと思うと鳴き声が聞こえた。

 

「……キュオン」

 

 大亀は恐る恐るというように首をゆっくりと出し、その目から涙を一滴落とした。

 

 涙は頬を伝って顔から落ちると、コロンと床に転がって結晶となった。

 

 E.G.Oギフト『不安の結晶』を獲得!

 

 『不安の結晶』:一方攻撃の対象になっている時、戦闘開始時に3のバリアを得る。

 

***

 

「あれ、何か落ちましたね」

 

 シンクレアが結晶を拾い上げて私に見せてきた。貰っておこう。お守り代わりにはなるかもしれない。

 そして改めてシンクレアは素直で問題も少なく、安心のできる囚人だと実感した。我ながらあんな無茶な指示でも遂行するのだからこれほどありがたいこともあるまい。ちょっと罪悪感が湧くぐらいだ。

 

 そんな風に思いながらチラとロージャを見る。

 めちゃくちゃよそ見をしていた。

 一番チビだと言う人はあなたですよロージャさん。どこを見ているんですか。

 

 まったく、君にも仕事を与えるしかないようだな!

 

『というわけで、ロージャも良い感じに優しくしてあげたりするんだ!』

「はいはーい。了解しました~」

 

 命令をするとロージャは大亀の隣に座りこみ、優しく甲羅を撫で始めた。

 

「ごめんね亀ちゃん、痛かったでしょ。自分の身を守りたかっただけであなた達を殺したかったわけじゃないの」

 

 ロージャがそう柔らかく接してみると、首はさらに外へと伸びだし、まるで懐いたかのようにロージャの足にこすりつけ始めた。

 

 この調子ならさっきの発想も問題なく行けるかもしれない。仕上げに彼にも宥めさせるとしよう。

 

『そしてイサンだ』

「我にもつぶさなる指示やなしなる?」*5

『うん』

「さ思へり」*6

 

 三番手イサンがしゃがみ、徐々に出てきた顔と目を合わせて柔らかい笑顔で話しかける。

 

「この迷路に迷はずといふ事は、さながら把握すればいふ事にめでたしと思ふ。思考才やちゑ高からむと見受けらるれど、いつか我と討論せぬや?」*7

「キュウェ……」

 

 その顔は未だ怯えながらもひっこめることをやめ、手足とともにどっしりと体を落ち着かせた。

 様子を伺うように我々5人を順に下から見つめている。

 ロージャ、シンクレア、イサンと来て私を眺め、そして今だ何も言っていない良秀に顔を向けた。

 

 それと同時に私たちも顔を良秀に向けて何を言うのかを期待すると、いよいよ良秀が口を開いた。

 

「さっさと飛べ」

 

 大亀がびっくりしたように顔を引っ込ませる。

 明らかに失敗した状況を見てロージャとシンクレアが慌てて大亀を(なだ)めにかかり、撫でたりしてあげながら良秀に顔を向けて苦言を(てい)した。

 

「ちょっと良秀~それはないんじゃない?」

「怯えてまた引っ込んじゃいましたよ」

 

 二人に突っ込まれてか、大亀の様子を見てか、珍しく良秀はバツが悪そうにしている。

 そんな二人と良秀の間を取り持とうとイサンが仲裁をしようと努力していた。

 

「ふ、二人とも落ち着きて。良秀君は口の滑りしばかりなるぞ。なるぞかし?」*8

「俺・向。やらせる方が悪い」

『確かに向いてないと思ったから、私は何も言ってなかったのに』

「あぁ……」

 

 そう言うと良秀はキッとこちらを睨んできた。怖いって。イサンもせっかく庇おうとしたのに弾き返されて、どうしようか分からなくなっている。可愛そうに。

 

 そうしてやいやいと相談しながら再度(なだ)めすかして幾分か。

 

 苦労した甲斐あってかようやく落ち着いたらしい大亀が不安そうな顔を再び出してのそりと動き出す。

 

「キュオオン……」

 

 手足を出した姿を改めて見るとやはりデカい。面積だけなら5人全員で座っても余裕がありそうだった。だが傷だけは如何ともしがたい。特に良秀が最後に付けた腕の傷は大きく、動かす時も鈍そうな反応を見せている。

 であればここは治療が望ましいだろうと思った。こちらが付けた傷なのだ、治してやるのが筋だろう。

 シンクレアを手招きして『一生シチュー』の発動をお願いする。

 

 幻想体の心象を投影するかのように辺りの風景が一変し、ぐつぐつ煮込んだシチューをぶちまけたような茶色が辺り一面に広がる。

それとともにシンクレアの制服と武器が切り替わっていって、お腹が空きそうな匂いを放つ杖のような物がシンクレアの手元へと現れた。

 

これがきゅ、究極の……!

 

 何かの顔のような形をした杖の先端から、シンクレアの声とともに茶色いシチューがぶちまけられて大亀へと纏わりつく。それは次第に体を癒していき、大亀がそれを舐めとった後、腕部にあった傷は綺麗さっぱりと無くなっていた。

 

「戦闘中も思うんだけど、いい匂いだからお腹すいちゃうよね」

『だからって時々舐めて火傷するのはやめてほしいけどね。ドンキホーテとか』

 

 あぎゃー! と大きな声で叫ぶ彼女を思い出す。いくらシンクレアが安定してる時に出したシチューとはいえ、侵食されてしまった時のシチューは激熱なのだから、舐めるにしてもせめて警戒してほしい物だ。そもそも自分の一生シチューで懲りているだろうに。

 それはそれとして、無事に大亀の傷は消え去ったことで大亀が緩慢に動き出す。戦闘時とは裏腹に亀らしいのんびりとした動作だ。安心していると考えてもいいのだろうか。ちなみに良秀にはまだ怯えているようで顔を向ける様子はない。まあそりゃそう。

 

「ねえ亀ちゃん、背中に乗ってもいい?」

「キュオン」

 

 亀語は一切分からないが、怒っている様子ではないようだった。ロージャもそう判断したようでサッと飛び乗って甲羅に立ち、一番乗りのポーズを掲げる。元々長身なロージャが体高の高い大亀の上で立って指を点に向けて突き刺せば、それはもうずいぶんな貫録があった。

 

「いっちばーん! さ、行くよーみんなも乗って乗って」

「なんだか調教師みたいですね」

 

 その様子を見たシンクレアが笑ってそんなことを呟いた。それを聞いた私はついと良秀を一瞥してしまう。手のかかる生き物とはいたるところにいるものなのだ。誰とは言わないが。

 

『ウチの厄介な猛獣たちも調教してくれないかな』

「流石に厳しいと思いますよ……」

 

 シンクレアもそれは無理だと思うらしい。まあそうだね。

 二人で頷き合った。良秀の睨みを知らないふりをしながら。

 

「誰・獣。獣に芸術を解する脳なぞ無いのだから、俺が人間なのは明白だろう」

 

 後ろから飛んでくる声も聞こえないふりをしておいた。

 

*1
ものは言いようだね

*2
ああ残念だ

*3
所詮は動物だ。乗っている間に暴れたらどうするつもりなんだ

*4
ふうむ、多少は筋が通っている

*5
私にも具体的な指示はなしですか?

*6
そうだと思いました

*7
この迷路に迷わないという事は、全て把握しているという事で素晴らしいと思う。思考能力や知能が高いんだろうと見受けられるが、いつか私と討論しませんか?

*8
ふ、二人とも落ち着いて。良秀君は口が滑っただけなんだよ。だよね?

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