***
ふわふわと浮かぶ大きな亀の背に五人で乗っている。
「レッツゴー!」
そう声を放つロージャの指差しに合わせて亀が空を泳ぎ、断絶した空間へと乗り込んだ。
ゆっくりとした進みではあるが、着実に向こう岸へと近づいている。
しばらくしてちょうど真ん中あたりを越えたあたりで、謎の声が聞こえてきた。
『どっち?』
今いる面子の声とは明らかに違う、どこから聞こえているのかも分からない声。
周りを見渡しても真っ暗な空間には何も見当りはしない。
不気味だったのでスルーしていると再度問いかけられた。
『どっちに行けばいいの?』
誰かに答えさせるべきだろうか。
→せっかく問われているのだから答えてあげよう。
こんな怪しい声に返事をする必要はない。
誰にさせてみようかな。
「私ややる?」*1
イサンに任せることにした。
イサンは何と答えるかしばらく考えてから口を開いた。
「真っ直ぐなり」*2
『……うん、わかった』
そのシンプルな答えで満足したのかその後に声が聞こえることはなかった。
代わりに黄色い花びらがたくさん降ってきた。
イサンの頭に飾られたその花は、イサンを明るくさせたように感じた。
E.G.Oギフト『レンギョウの花びら』を獲得!
『レンギョウの花びら』:ターン終了時、味方全員の沈潜回数が1減少する。
***
「イサンたら可愛いね~」
花びらが頭に掛かったイサンを見てロージャがからかい半分褒め半分で笑った。
「恥づかしき心地あれど、悪くなき気分なり」
「いったい何の花なんでしょうか?」
「おそらくは
イサンが頭の花を手のひらに乗せてみんなに見せる。
細長い黄色の花びらが特徴的な見た目をしている。
「壇香梅と同じころに咲く花に、故郷明く照らしし思ひ出あり。確か花言の葉は……希望」
その言葉に上を見上げる。花びらはもう降ってきてはいない。
希望の花。
ねじれの主がその意味を知っているかは定かでは無いが、知っていて尚選んだ花だとするならば、物悲しさがある。全てを投げ捨ててでも前を向こうとするその心に。
そう感じていると、横から小突かれた。
良秀だ。
指先の煙草から煙をくゆらせて対岸を見据えている。
『どうかした?』
「……扉を見ろ」
良秀の言うがままその視線の先を見やると、対岸の通路の突き当たりにあった扉がゆっくりと開き出した。
あの先がこの迷路の終着地であり、そして目的地なのは明白だった。
ねじれの過去らしき閉じ籠ったという話から察するにあれがそうなのだろう。奥には心象の主がいるに違いない。
だが扉の中は真っ暗で、外側からは中の様子を伺うことは難しそうだった。待ち伏せされている可能性もある。
とはいえここまで怖気づく理由もないので、なんとか渡り切ってくれた亀から降りて軽く体をほぐしておく。
「はーい、ありがとねー亀ちゃん。元気にしてなよ〜」
「キュウン」
ロージャはすっかり亀と仲良くなったらしく懐から取り出したおやつで餌をやっていた。
うーん、今いち緊張感がない。
「おそらくはこの先に敵あり。地図を見るともここより外に辿り着くことはなささうなり。いそぎや万全なる?」*4
「はい、僕は大丈夫です」
「私もだいじょーぶ!」
「さ・行」
『解読する前に行動されると焦るから待って。さっさと行くぞであってる?』
私の問いかけに良秀はにやと口角を上げて、その答えを出すかの様に暗闇へと足を進めた。
追いかけて入るも、扉の奥からは特に反応はなかった。待ち伏せはされていないようだ。
『暗いね。明かりを付ける方法とかないかな。こんな中で戦うのは厳しそうだし』
「ほらよ」
良秀がライターで幽かに照らすと、テーブルやソファ等が目に入り、どうやら今いるのは誰かの部屋らしき事が分かった。
「……部屋、ですかね?」
『スイッチとかあるかな、壁際どう?』
「……ここなり」*5
イサンの声と共に明かりがつき、部屋の全貌が明らかとなった。
部屋にはテーブルやソファだけでなく、テレビや何かの機械、高そうな絵画などの美術品等が配置されていて、生活をしている様子が脳裏に浮かぶような環境だった。その異常な広さと辺りに散らばった水槽以外は。
「さほどついではあらねど、知識として知れり。巣内の高級住宅の一種にかかる室ありと。……されど、ここまで広しまじ。これも彼の名残か?」*6
『天井も5mか6mか、こんなに高い必要はないよね。こんなに高い理由を考えるなら……』
強いて言うなら。さっき乗せてもらった大亀が快適に動けるように、だろうか。
「水槽は空ですけど、これで亀を飼っていたんでしょうか」
『かもしれない。倒した子亀達はこれの中にいたんだろうな。ロージャはどう思う?』
振り向いて声をかけると、思わず呆気に取られた。
それはロージャがのんきに良秀と鑑賞会を始めていたから――ではない。その二人の奥に、明らかにおかしいものがあったからだ。
「ふぅん? いろいろ高価そうなのがいっぱいあるわね? この絵画とか、気味の悪い亀みたいだけどいい値段するのかしら」
「見るからに愚鈍な脳無しが値付けそうな紙っ切れだな。美術のなんたるかを分かってねえ」
「そういえば、良秀の言う芸術もどんなのか知らないのよね~。でも見たいかって言われると、ちょっと怖くて遠慮するかも」
「ハッ。理解できると判断したら見せてやろう。精々
明らかにそんな事をしている場合ではないので軽く
『……心象の中の物に興味を示している場合じゃないよ二人とも。あっちを見て』
「んー? 何が……わぁっ!?」
部屋の隅。飾られた絵画の奥。模様が描かれたやたらと大きい壁――いや、一本道の迷路が描かれた巨大な甲羅がそこに佇んでいた。
迷路の中心たるこの場に、それに対応するように甲羅の中心には赤い点が輝いていた。
「あぁ……どこにも……行けないんだ……」
ロージャの驚いて出した大きめの声に反応したのか、甲羅の中からくぐもった声が響いてきた。
「どれだけ頑張っても……進めやしないんだ……だから――」
壁に平行に立っていた甲羅から手足と首が伸び、壁を押して器用に尻尾を使って回転してこちらに倒れ込んで――
「亀のように。その甲羅で押し寄せる害から身を守るんだ」
『全員ッ、退避ー!』
「わああああ!」
家具も何もかもを纏めて押しつぶそうと倒れてくる奴を見て、慌てて逃げることを命じる。
その数舜後には床にズシンと重たい音と室内に揺れが響き渡り、その場にあった物の破片が辺りへと散らばった。
これをもろに食らって居た場合にはすぐさま復活させることは出来なかっただろう。復活した所で潰された状態には変わりないだろうから。
そうして現れたねじれ亀もやはり歪な姿。右腕が二本。左腕が三本。足は左足が一本だけ。そして甲羅には迷路の模様と、黒い片羽と鋭い棘。そして全体的に体液で湿っていてあまり触れたいとは思えない見た目だ。
今からこれと戦わないといけないと思うと億劫だが、実際に戦うのは私ではなく囚人達なのでそれを口にするのはやめておく。
「ありつる大亀よりも一回り大きなり。甲羅には羽も棘も付けり手足の数も多し。一筋縄にはいかなささうなる」*7
「手足が無駄に多いと斬り甲斐がありそうだな。もっと美しい芸術品に仕上げてやろう」
結構危なかった割に良秀は楽しそうに口角を上げている。いつも通りだ。
『やる気があって何よりだよ。で、ロージャは無事?』
「結構危ない距離でしたが、直撃はしてないと思います。精々かすったぐらいかと」
ねじれ亀の倒れ込みに一番近かったロージャを気に掛けると、シンクレアに肩を貸してもらってうなだれていた。あまり気分が良さそうには見えないが……。
「あー、うん、大丈夫。はー……今日はたっくさん歩いたりいっぱい壁壊したりで、とーっても疲れたけど――」
一度言葉を切ってねじれに向き合い、ロージャはしっかりと斧を構え直した。
「この子を倒せば終わりって思うと、気力が湧いてくるよね!」
『その意気だ! よし、まずはいつも通り様子見で、相手の攻撃を防ぎながら対処法を考えていくよ!』
ロージャの様子は気にかかるが、一旦は置いておくことにする。あの倒れ込みに何かしらの効果があったと考えるのが一番妥当だろう。威力も当然あるだろうから、食らわないことを重視していきたい。
「眼光が私に向けられたり。狙はれたるやもしれぬ、補助を頼む」*8
『シンクレア、ロージャ、腕の攻撃を止めてあげて!』
大きくひっかくような爪の一撃は、腕が複数ある分一度弾いただけでは止まらない。二人がかりでようやくといったところだった。
「くっ……!?」
腕に
イサンはその動きを見切らんとナイフを片手に構えて睨んでいたが、しかし一瞬だけぼうと空を見てナイフを奴の頬に突き刺した。
当然防御手段であるナイフを使ってしまえば無防備も同然で、その首筋に口が迫っていく。
『イサン!!!』
「……ッ! つああっ!」
歯が閉じる寸前に意識が戻ったのか、身をよじった事で首を嚙まれなくて済んだが、代わりに肩をえぐられることとなった。
だがねじれ亀の攻撃はまだ終わっていない。甲羅から鋭い棘が二本三本と射出され、怯んだイサンに向かって追撃が降りかかる。
『イサン! まだだ、まだ避けるんだ! 良秀!』
「ぬ、おおおお……!」
ダメージと衝撃で足がもつれるイサンに棘が突き刺さらんとするその最中、それを叩き落とす斬撃が割り込んだ。
「フン。さっさと立て」
「すまぬ助かりき。かたじけなし!」*9
良秀のおかげでなんとか助かったものの、イサンの傷自体は浅くない。一旦距離を取った方がいいだろう。
『シンクレア、ロージャ、一旦距離を取るよ。飛んでくる棘に気を付けながら下がってきて』
「了解!」
二人は逃げつつもねじれ亀を警戒して背を完全に向けはしなかったが、亀は突き刺されたナイフを気にしてか、前には出てこなかったし、棘の射出もなかった。怯えているのか?
だがそれよりイサンだ。
『さっきのはなんだったの? 急に呆けたように見えたけど』
「……相対せるに心が甲羅に吸ひ込まれき。かくて心が少し浮きて、おどろかば歯が眼前に迫れり」*10
「さっき乗せてもらった大亀と戦った時みたいな感じですか?」
「それに近けれど、よりこはき名残なりき」*11
一個前の大亀の時も、確かにみんながやけに攻撃を食らっていた印象があった。その時は意識が飛んだりしているわけではなかったようだが、あれの主と考えるとその分強力な効果なのは間違いないだろう。
『条件が分からないな……。』
「睨まれしにはいま狙ひきたりもこそ。奴の眼よく見るべからむ」*12
「分かった。じゃあ睨まれた人は一旦下がり、他の三人で攻撃の対処を。そして睨まれた人は手が空いている分、隙を見て叩けるときに少しずつダメージを重ねよう」
私の判断にみんなが頷いた。
『他に何か気になったことはある?』
「後は……粘液が体に沁み込みて心地重くなりきべく感ず。先ほど降り来し花びらが粘液吸ふべくもあれど、攻めばかりならで粘液にも憂ふべかりもこそ」*13
そういってイサンは肩口からべっとり垂れ出る粘液に花びらを浸ける。すると花びらの周囲の粘液がすうと花びらに吸われるように消えていった。
「あー、これのせいかしらさっきの。倒れ込んできた後なーんかだるくなっちゃったのよね」
その様子を見たロージャが、さっき被ったであろう粘液をコートからぴぴっと指を振り切って飛ばした。
「めんっ……どくさい敵ねえ。一人は攻撃を受けられなくて、周りで受け止めたら受け止めたで粘液飛ばしてきて」
「こんなつまらん陰気臭い所にいるだけはある。そら、きったねえ汁出して隅っこに居座っていやがるぜ」
相談が終わり亀の方へ向いてみれば、部屋の角に固まったように居座り、首と手足は完全に殻の中へ潜り込み、こちらを睨む眼光が部屋の明かりに反射してギラめいていた。
『今睨まれてるのは誰?』
「俺だろうな。棘を弾かれたのが余程
『じゃあ良秀以外は防ぐ準備を。明らかに――あれはやばい』
様子を伺っていると徐々にどろどろとした粘液が甲羅の上に積もって塊となり、鋭い針として甲羅にいくつも聳え立つ。そして針が甲羅を埋め尽くそうかというあたりからその身体が回転していき、羽を利用して部屋中を跳ね回り始めた。
『シンクレア、ロージャ! E.G.O用意!』
目の前にはミサイルのようにこちらに飛んでくる分離した鋭く青黒い針と、いつぶつかってもおかしくない反射で勢いを増した亀。それに対応するための私の言葉と共に、パリンというようなガラスが割れるような音が消えて二人の姿が切り替わる。
「僕の手で切り捨てることが出来れば……」
シンクレアが手にした大きな大きな、持ち主であるシンクレアよりも巨大なハルバードのような木の武器は、その一振りで襲い掛かる針を全て叩き落し、そしていよいよ突っ込んできた亀にも叩き込む。だが回転した勢いの影響か叩き落しきることは出来ず、未だ恐ろしき圧力でぶつかってくる。
「ダメです止めきれません!」
シンクレアの嘆くような叫びにすかさずロージャが割って入り、その手に握った氷の斧を振りかぶった。そして――。
「全てを払い戻すことは――あっ」
あらゆるものを凍らせて無慈悲に砕くかのような冷徹な斧が、ロージャの手からすべってあらぬ方向に飛んでいき、当然止まるわけもない回転する甲羅が私たちに衝撃を与えた。
「きゃああああ!!!」
「チッ、どけ時計頭ッ!」
良秀が私を蹴り飛ばし、それから亀に4人が諸共吹き飛ばされてしまった。
良秀、シンクレアが壁際で倒れ込んでいる。生きてはいるようだが、直ぐには復帰できそうにない。
「いったぁい……! みんなごめん、手が滑っちゃった……」
「さにあらじ。かの粘液滑らせけり、せむかたなし」*14
『そうだね。怪我人だからってイサンを加えなかった私の判断ミスもある。なんとか復帰まで耐えよう』
まだ動けそうなロージャとイサンも、決してダメージが無かったわけではない。倒れた二人と違って装備に衝撃への耐性があった、という相性が良かっただけだ。至る所から血がしたたってもいるし、更におっ被った粘液が体を蝕んでいるようで、酸のようにじうじうと焼けるような音が聞こえてくる。
耐えるというにも既に
亀の目はシンクレアに向いている。
『イサンは狐雨の傘で保護を。ロージャは審判で治療を』
「了解!」
雨が降る。
大きな大きなどしゃぶりが全てをかき消すかのように天から降り注ぐ。
しかし傘は外の恐ろしさからその身を守ってくれるのだ。
「この染み込まん雨に、傘の漏れぬやと思う」
数多の槍のように亀を貫かんとする雨が奴の体液を押し流す。傷を広げる。甲羅ごと押しつぶす。
「アアアアッ!!! なんでなんでなんでっ! 前が、前が見えないっ!」
その痛みに嘆くかのように吠える大亀。暴れるように四肢を振り回しながら突撃してくる奴を、叩き伏せるようしてにロージャが飛びかかる。
「記録に従い…あなたを必ず執行いたします」
エメラルド色の斧が首を狙って振り下ろされ、ぶつかると同時に放たれる眩い光が囚人たちを覆って傷を癒していく。
倒れていた良秀、シンクレアの両名共がその効果によって立ち上がり、止まり切らない大亀の攻撃に傘をうまく使ってダメージを最小限に留めた。
「助かりました!」
「フン……どうやら一人ずつ落とす気らしいな。ねちっこく俺を見ていやがる」
亀は目を瞬かせながらも良秀を睨んでいる。
しかしスタミナの問題なのかなんなのか、さっきやってきた甲羅で回転突撃のような大技はしないようだった。
ゆっくりとにじり寄って腕を振りかぶろうとしている。
「いいぜ。そっ首叩き落としてやる」
『ちょっ、良秀一人で突っ込まない──もー! 三人共カバー!』
それに対抗するように良秀が飛び出したので慌てて三人に助けるよう指示をする。
それぞれが、未だ飛ばしてくる陰鬱な棘を、鋭く尖った牙による噛みつきを、なんとか防ごうと果敢に前へと躍り出る。
「くっ、止めきれぬ……!」
しかし筋力不足かイサンではその強靭な顎による噛みつきを抑えきれずに良秀へと首が向かい──
「クハ! ああそうだ、見苦しく抵抗するより、お互いで傷つけ合う方がよっぽど美しい!」
楽しそうに口角を鋭く上げた良秀が、その体に牙を打ち込まれながら、重苦しさがあった眼球に刀を突き込む。
ぞぶりと深く沈む刀。
その眼球の痛みに耐えかねてか、あるいは痛みを感じていないかのように笑って抉る良秀に怯えてか、亀は口を大きく開いて叫びながら噛み付くのをやめ、逃げるように羽を広げて空へと浮いた。
『良秀、無事!?」
「楽・所・邪・時!」
「楽しくなってきた所だ邪魔するな時計頭だなんて、そんな事言ってる場合じゃないですよ!」
「うる・さい。あれもじきに沈む。どうせ治るんならこのまま楽しませろ」
傷をものともせずに良秀は中へと浮かぶ亀を見やった。
亀は怯えたように残ったもう片方の眼球でこちらを睨んでいる。
「おかしいだろおおお怖くないのか痛くないのかアアアア!!!」
なりふり構わない事を決めたのか、またもや奴は甲羅に閉じこもって回転の加速を始めようとしている。
「ダンテ! さっき叩いて分かったんだけど、もうあの甲羅壊れかけだよ。ヒビが結構入ってたのよね」
『じゃあ確かに良秀の言う通りもう少しで倒せそうだね。でも、まずはあれを何とかしないと……』
大技に対処するために部屋の様子を伺っていると良秀がいい事を思いついた任せろと前に出てくる。
「飛んでんのがだりいんだ。羽を潰してやろう」
***
片羽だというのにこのねじれた亀は自由にパタパタと羽ばたいている。
この広いとはいえそれでも限界のある屋内を、それが世界の全てであるかのように我が物顔で自在に飛んでいる。
外の世界には目をそらして。
その羽をもぎ取ってしまえば、否が応でも外へ目を向けることになるんじゃないだろうか。
「僕は……僕は頑張ったんだ……なのに周りは……世界は……!」
罠をしかけるべきだ
→あえて挑発してみよう
「俺がやってやってもいい」
良秀は一歩退いたかと思うと、懐から小刀を大きく上に放り投げ、そして亀を煽り始めた。
「退屈だな? 閉じ籠って何も見ない奴を相手にするのは。どうせなら自分の道を貫いてる奴とやり合いたいもんだ」
「……うわああああ!!!」
亀はいきり立って良秀に回転しながら突撃してくるが、しかしそれが良秀に当たることはなかった。
良秀に到達するかというその時、亀に向かって上からシャンデリアと小刀が落下してきて、羽と甲羅に大きな衝撃を与えた。
「ふっ。ざ・み」
羽部位と甲羅部位が混乱状態になった!
***
「ああああああ!!!!!」
シャンデリアに羽が絡まり、甲羅の模様も隠されて見えなくなった上、その重さに亀は身動きが取れなくなった。
もがいてはいるがすぐに抜け出せそうにはない。
『ナイス良秀! みんな、今のうちに畳み掛けて! 羽と甲羅を重点的に壊してやろう!』
「了解!」
良秀の大刀が羽を切り裂く。
シンクレアのハルバードが羽の根元を切り取る。
ロージャの大斧が甲羅を叩き割る。
イサンのナイフがヒビの内側を抉っていく。
四人の猛攻撃に耐えきれなくなったそれらが体から分離し、崩壊していく。
そうしてシャンデリアに絡まなくなった亀は暴れる内にひっくり返り、泣き叫び始めた。
「うわあああ! 僕は! 先に進みたいだけなのに!!! どうして!!!」
「無・笑。少しは美しくなったんじゃないか?」
血と体液、そして羽と甲羅の破片でぐちゃぐちゃに彩られた亀を、良秀はさも楽しそうに見つめている。
そしてつかつかと近寄っていき居合いの構えを取る。
「賢さだの期待だの下らない。そ・お・芸・貫」
一閃。
そして。「僕は……僕は……」という声を最後に亀は動かなくなり、太陽が差し込むかのように心象風景が光に包まれて視界が白一面に埋まった。