TS転生したので理想のチョロインロールやってみる   作:まよねえず

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チョロインロールやってみる

「ユイっ!頼む!」

「はい、分かりました!障壁(ウォール)!」

 

 この場に響いた彼の掛け声に呼応する少女の声。

 少女が魔法を唱えると、辺り一面を囲う障壁が出てきた。光を僅かながらも発していて、どこか神聖な雰囲気を感じることができる。

 この二人に相対する敵が攻撃を仕掛けるも、この障壁の前には効果がなかった。

 カンッと放たれた矢が当たる音を聞いて、相手も弓は効かないのかと察し近くに詰め寄る。

 

 が、そこにあったのは黄金に輝く剣──彼の剣であった。

 かなりの速度で詰め寄ってきた敵はその勢いを殺すことも出来なく、脳天からその先を貫かれた。

 

「やりましたね、ハヤト!」

「ああ、ありがとうなユイ」

「いや、この敵を倒せたのはハヤトのおかげですよ」

「……そ、そう?」

「はいっ!」

 

 辺りを見回し脅威はもういないと分かると障壁を解除し、少女は彼の方へと歩を進めた。

 彼のすぐそばまで少女は寄ると、優しくはにかんだその顔を彼に向けながら彼を褒める。

 

 ハヤトと呼ばれた彼もまた褒められ慣れていないのか、少し顔を照れさせてながらもその表情はどこか嬉しそうに思える。

 

 ハヤトはいつの間にか俯いていた顔をあげ、日々の感謝を少女──ユイに伝えようとした。

 空が茜色に染まる。日が落ち始めている。

 

 向かい合う、ハヤトとユイ。目をしっかりと合わせて真剣なその思いを伝える。

 

「その……ユイ」

「……はい」

「僕にとってユイは大切な人だ。何も分からない僕にこの世界の事を教えてくれて、少しポンコツなところがあるけど僕の旅についてきてくれて、嬉しいと思ってる」

「……褒めてます?それ」

「ああ、勿論だ。僕にはユイが必要なんだ」

「ふぇっ……?そそそそ、それって……そういうこと、ですよね」

「そうだ。僕はユイとずっと一緒に居たいと思っている」

「っ?!」

 

 顔を赤くさせ、慌てふためくユイ。今この二人を誰かが見たのなら、二人が恋人同士だとしか思えないだろう。

 

 ユイはどこか期待している顔をして、ハヤトはまるで真剣に何かを訴えようとしている。

 

 そうして、ハヤトは言葉を続ける。

 

 

「──この身寄りもない僕と居てくれるユイは、僕にとっての家族なんだよ」

「……」

「……どうした?」

「ばかばかばかばかっ……」

「えっ?何言ってくれないと分からないよ」

「自分で考えてください!」

 

 ユイはそう言って顔をぷいっと横に向ける。その顔には先ほどまでの期待はなかった。相変わらず顔は赤いままだったが。

 一方何故いきなりユイがこうなったのか理解していないハヤトは、何をどうしたら良いのか分からずその場でただ立っていた。

 

 そんな時、ハヤトの頭に天啓が降りてきた。

 

 ハヤトは少し離れてしまったユイの方へと歩いていくとその体で、ユイの事を抱きしめた。

 完全なゼロ距離、お互いの体は密着しあっている。

 

 

「ごめん、言葉足らずだった」

「……っ」

「──僕はユイが好きだ」

「えっ……。…………。……どういう意味でですか?」

「さっきは伝えられなかったけど、僕はこれぐらいユイを好きだ。大切な家族としてきちんと好きっていうのを伝えられてなかった」

「もう……」

「?」

 

 ユイの表情はどこか呆れているようだった。

 でもまた、その顔をハヤトに向けると度々俯きながらもその口を開いた。

 

「私もハヤトが好きです」

「……」

 

 ──ハヤトにとってそんな彼女はとても魅力的に映り、謎の胸の高鳴りを抑えることは出来なかった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 俺にとって剣と魔法の世界というのは夢だった。でも残念ながら日本に住んでおり、魔法は勿論刀や剣といったものすら触れたことがなかった。

 当然と言えば当然だ。銃刀法違反で捕まってしまうし、魔法などはファンタジーのもので、いわば妄想によって作られたものだ。現実にはあるはずがなかった。

 

 突然だけれど、俺は三十歳の誕生日にトラックに轢かれて死んでしまった。なんというか内臓がいろいろ見れてグロかった。

 いままで守ってきた貞操、やっと魔法使いになれたというのにすべて水の泡になった。

 

 かといって、悪いことばかりではない。俺はこの剣と魔法の世界に転生することができたのだ。

 チート能力などはもらえなかったが、転生しただけいいだろう。これ以上何かを求めるのはだめだ。

 

 家は平民の家だった。でも不自由な暮らしはなく、毎日を健康に過ごせたいたと思う。

 

 と、まあ生まれたことに関して文句は一つしかない。

 

 俺が女になっていたということだ。いわゆるTSだ。

 TSモノの小説をよく読んでいた俺は恐怖に襲われた。

 怖い、メス堕ち怖い。notメス堕ち俺の意識は男だ。

 

 文句を言った理由はもう一つあった。

 女としての生活に慣れた頃……十四歳くらいの頃に親が結婚相手を連れてきた。

 

 見た目二十代後半で若くイケメンだったと思う。

 でも男だった。心は男なので男との結婚はノーセンキューということで俺は見事に家出を果たしたのである。

 自分から見ても超かわいい俺と結婚ができると思うなよ。

 

 親には迷惑をかけてしまったが俺に後悔はない。そもそも俺は親にですらいつでも女の子の仮面を張り付けて過ごしてきた最悪な奴だ。今更何かあっても関係ない。

 

 まあそんなかんやで始まったピチピチ十四歳の家出旅だったが、案外どうにかなった。

 この世界では一人一人にスキルというものがあったのだ。俺の場合は障壁というスキルだった。

 

 攻撃は出来ないが自分の身を守りながら逃げることで身の危険はあったものの生活をすることは出来ていた。

 

 そして旅立ちから数か月、俺が十五歳になった頃運命の出会いを果たすことになる。

 会話をしなくていいという自分の天職のような清掃員という職業に就き、金を稼いでいた時に俺はそいつを見つけた。

 

 

 高校の制服のような服。 

 

 珍しく見る黒髪。

 

 久しぶりに見る日本人の顔立ち。

 

 圧倒的に平凡で取り柄が無さそうな雰囲気の男。

 

 俺は確信した。

 

(こいつ絶対なんかの物語の主人公だろ……)

 

 前世でさんざん読み漁っていたラノベではいつも平凡な奴が主人公になっていた。平凡な奴が転生とか転移とかしてチート能力をもらって無双。

 お決まりのテンプレートというやつだ。

 

 そう分かってからは、俺の頭の中にある一つの考えができた。

 そして実行するべきかを心の悪魔と天使と戦っていた。

 

天使『だ、だめだよそんなこと』

悪魔『いいじゃねえか……お前も楽しみたいんだろ?』

てん『……チョロインのロールプレイなんて、やっちゃいけない!』

あく『へっへっへ。オレたちからしたらダメかもしれないが、相手はいい気持ちになれるんだぞ?』

て『それでもだめです!人を騙すなんてっ!』

あ『まあそれはオレたちが決めることじゃねえけどよ』

 

 こんな風にそれぞれ戦っていた。

 

 チョロインのロールプレイ。それが頭に浮かんだ考えだった。

 俺は死んでなぜか女になっているのに、あの制服姿の男は生きたままこちらに来ている。

 

 明らかな差別というものだろう。

 

 そこでチョロインロールプレイを思いついた。

 

 まるで自分に気があるように思えるチョロインを演じることで、相手が告白してきたときに俺の事をすべてネタ晴らしする。

 相手の絶望する表情が簡単に想像できた。

 

 俺は人の中でも屑に該当する人間だ。

 前世の弟からお菓子を巻き上げたり友達にじゃんけんを後出しで勝ってきた。

 

 そんな俺は嘘も得意なので、最高のタイミングでネタ晴らしすることで自分を気持ちよくさせようと思った。

 

 依然として悪魔と天使が戦っていたが、俺は自分を優先させるために判断した。

 

(よし、やるか)

 

 

 そこからの行動は早かった。

 

 目の前の主人公っぽい奴が道の角を渡ろうとしたときに、あえて走って頭からぶつかった。

 

 きゃっ、なんていうヒロインが出しそうな声を出しながらぶつかって倒れた。我ながらよくやったと思う。

 

 男と女では肉体にも差があるのか、俺が相手にぶつかっても相手の体はびくともしなかった。

 いや、相手も少しはふらついていた。

 

 そのまま俺は転んでしまっていた。

 その直後に何かに潰されるような感覚があった。ヒロインが発しちゃいけない声を発していたかもしれないが不可抗力だ。

 

 そして、なぜか自分の胸をふにふにと触られている感覚があった。

 

 目を向けてみると、俺の胸に置かれている手。その手を辿ると、目を瞑っていて何がどうだか分からないような表情をしている男の顔。

 

 俺は絶望した。

 

(ラッキースケベ体質とかラノベまんまかよ。ふざけんな)

 

 自分からチョロインになろうと思ったはいいものの、相手はこれからも俺にラッキースケベを起こすのかと考えたら、これからの生活を思い浮かべるのが嫌になった。 

 もしかしなくとも俺が裸になっているところを見られるのを容易に想像できた。

 

『へっあっえ?!ごっごめん!』

 

 そういいながらも揉んでいたことは未だ根に残っている。

 

 その男は自分をハヤトと名乗った。ニホンという国から来て世界に蔓延る組織【ディストピア教団】を滅ぼして来いと女神から頼まれたらしい。

 

 ディストピア教団はいわゆる悪の組織と呼ばれるものらしい。人類の敵、魔物を使役し裏から世界の支配を試みているだとかなんとか。

 

 話を聞いて自分の頭にはやっぱりかという思考が大半を占めていた。

 悪の組織を倒してほしいとお願いされて異世界に転移するとか主人公確定演出だ。今までは確信を持てなかったが、ここにきてようやく確信を持てた。

 

 そしてさらにニホンという国を知らないふりをして、いろいろと聞いた。俺の知った日本と違いは無いようでなんか懐かしい気持ちになった。転生して一五年だから余計にだ。

 

主人公『あっちはね、料理がおいしんだ!スシという料理があって──』

俺『へ~そうなんですね!ぜひ一度食べてみたいです(キラキラニコニコ)』

 

 勿論どんな話にもニコニコ目を輝かせていた。ほら、男ってそうされると自分に脈ありなんじゃねって思うでしょ?(経験談)

 俺のチョロインロールもうまくいっていたと思う。主人公ことハヤト君も満更では無さそうな顔をしていたし。

 

 自分の話に興味津々で頷いてくれる可愛いヒロインを演じた俺はハヤトに一緒に旅をしていいかと申し込んだ。

 

 戦う能力はクソ雑魚ナメクジな俺だが、味方を守ることは得意だ。俺のスキルは障壁。一人で使うのはもったいないと思っていた。

 何より、俺だって一人の人間だ。困っている人がいるのなら助けてあげたい。

 

 

 というのは勿論建前で、俺がただただチョロインロールプレイをしたかったからだ。

 俺は自分の命を報酬もなしにかけられるような人間ではないのだ。そういうのは他の人がやってくれればいい。

 

 このいつかハーレムを作りそうな主人公に今のうちから俺に好感を持たせて、告白してきたときにネタ晴らし。

 それが俺にとっての最高の報酬だ。

 俺はそこまでこのチョロインロールプレイを続ける。一度決めたことは必ず遂行する。

 

 ハヤトは一度断ってきたが、転移して間もないため俺が知識を与えていくのを交換条件に旅に連れて行ってくれることになった。

 交換条件というか俺に損しかなくハヤトには得しかないが、これもチョロインロールプレイのためだ。

 耐えろ、俺。

 

──ハヤト はユイを仲間に 加えた!

 

 多分ゲームとかだったらこんな感じの文が流れていただろう。

 

 

 

 

 それから一か月経って現在。

 

「──僕はユイが好きだ」

 

 体に密着する感覚を味わいながら、最悪な気分にあった。

 ハヤトはその顔を俺の髪に埋めている。耳の近くにあるので些細な息遣いも聞こえてくる。

 

 おろろろろろ。

 

 ……いくら今が最悪な気分でも俺はチョロインロールプレイをしなければならない。

 

 適当に顔を赤らめて俯きながら困ったような雰囲気を出す。

 たまにハヤトの事を見てまた俯く。

 

 大丈夫。今の俺は完璧にヒロインになれているはずだ。

 

 また顔をあげてハヤトの事を見る。

 

「えっ……。…………。……どういう意味でですか?」

 

 あぁ、そういえばハヤトと過ごして気づいたことがある。

 

 ハヤトはやはりラノベの主人公みたいで強かったし、まだ出会って一か月だけどこれからも仲間が増えていくだろう。

 増える仲間は恐らく女の子ばかりだろうが。

 

 そしてもう一度言うが、ハヤトはラノベの主人公だ。

 ラノベ最強系主人公にまとめて言えることがあった。

 

 それは──

 

「さっきは伝えられなかったけど、僕はこれぐらいユイを好きだ。大切な家族(・・)としてきちんと好きっていうのを伝えられてなかった」

 

 ──信じられないほどの鈍感ということだ。

 

 いきなりだが、チョロインの俺はこの一か月でハヤトの格好良さに惹かれて惚れている、という設定になっている。

 

 普段の何気ないハヤトの仕草に胸が高鳴っているのだ。自分からもアピールをしてハヤトに好き好きアピールをしている。

 

 自分で言っていてとても気持ちが悪くなってくるが、この道を選んだのは誰でもない自分自身だ。

 

 さて、そんな主人公好き好き大好き一か月で惚れてしまったチョロインこと俺(設定)だが、ハヤトの鈍感さには腹が立つ。

 あれだな、鈍感系主人公って生で見るとこんなにムカつくんだな。

 

 実際に俺にそんな気はないが、流石にここまで好意を無視されると腹が立つ。

 偽物の好意だが、少しぐらいは受け取ってくれてもいいんじゃないか?

 

 

 話は戻って軽く今の状況を説明しよう。

 

 冒険者ギルドと呼ばれるテンプレートがこの世界にもあり、勿論登録もきちんとして今は何度目かの依頼だ。

 内容はここらでは現れないイレギュラーの魔物の討伐。

 

 金を稼ぐのとディストピア教団に関係してるのか調べるので俺たちには一石二鳥な依頼だった。

 

 ハヤトはきちんと強いし心配もなかった。

 結果から言えば何事もなくいつものように依頼を完了することができた。

 目の前にある魔物の死体が証拠になっている。

 

 

 そしてチョロインぽくハヤトを褒めていたのだが、いきなり真剣な表情になったかと思うと今の状況である。

 

 

「もう……」

 

 ……怖いよ。一か月で告白されるかと思ったじゃねえか。

 確かに俺はハヤトに告白されたときにネタ晴らしをしようとは思っているが、今ではないのだ。

 もう少し時間が経ってハーレムが出来上がってから告白からのネタ晴らしが良い。

 

 主人公好き好きアピールをしてしまっている俺にも譲れないところはあるのだ。

 

「?」

「早く魔物を調べましょう。ディストピア教団に関係してるか」

「あ、うんそうだね。ごめんちょっとユイが可愛すぎてボーっとしてた」

「ふぇっ?!///ななななな何言ってるんですか?!」

 

 うへえ……。何が『ふぇっ?!///ななななな何言ってるんですか?!』だよ。

 

 お前は押しに弱いヒロインかよ、チョロインみたいだな。

 いや俺だよ。

 

 ……一人で何やってんだ俺。

 

 ハヤトが天然すぎるせいで毎回このような無自覚発言と満更でもないですよ~発言が俺たちの間には飛び交っている。

 ハヤトの発言に俺はヒロインを全うするため、すべてに好意を駄々洩れで返している。

 

 いい加減やめてくれハヤト、疲れるんだよこういう反応。というか好意気づけよ。

 

「……うん、じゃあちょっと調べよっか」

「あ……はい」

 

 はいはい、愛しのハヤト様が言ってるので俺は従うしかないですね。

 

 ハヤトと共に魔物を調べる。

 

 見た目は人型の小さい奴だ。漢字で小鬼と書いてゴブリンと読む奴。

 

 くっ殺というものを自分で再現しようとしたが、いつの間にかハヤトに殺されてしまった悲しき魔物だ。

 俺一人なら障壁を簡単にぶっ壊されてくっ殺ができたのに、これは仲間が強すぎるのが悪い。

 

 ……詳しく調べても、ただのゴブリンだということしか分からなかった。

 

 ここ一か月主人公君とディストピア教団についての情報を探していたが何一つとして得られなかった。

 

 ギルドの職員に聞いても何も知らないとのことだし、街行く人に聞いても知らないと言っていた。

 俺からすれば本当にディストピア教団存在するのって感じだが、ハヤトは存在していると確信しているようだ。

 

 だってハヤトの口以外からディストピア教団って言葉聞かないんだもん、疑ってしまうのはしょうがない。

 

 

 しかし疑っているのは事実だが、俺はハヤトの完璧チョロインである。

 ハヤトの言うことを盲信し言うことをなんでも聞く。

 

 ということで俺もハヤトと同じくディストピア教団の情報を得ようと必死になっているのである。

 

「今回も何もなしか……」

「……これからですよ!これから頑張りましょう!私もついているので」

「うん、そうだね。ごめん……弱気なところ見せちゃった」

「何のための仲間ですか。どんどん頼ってください!」

「そうするよ。励ましてくれてありがとう」

 

 変に弱気になっているハヤト君を励ましてあげる。

 ほらっ元気出せよ。お前が居なくなると俺のここまで頑張ってきたチョロインロールが無駄になってしまうんだ。

 

 

 ハヤトも元気が出たことだし、このまま寝泊りしている宿へ帰ろうとしたとき。

 

──きゃあああああああ!!

 

 耳を(つんざ)く悲鳴が聞こえてきた。

 

 何事かと意識を向けると、森の奥の方から聞こえてきた悲鳴だった。

 

「ユイ……」

「……はい」

 

 ハヤトと目を合わせてアイコンタクト。

 

 伝わってるぞちゃんと。つまり自分は悲鳴の主を助けに行きたいんだな。

 こういうのはこの世界では少し珍しいぐらいだ。

 

 冒険者の心得では極力関わらないことをお勧めしてた。

 変に罪を着せられたら困るし、何なら襲っている奴らに返り討ちにあって自分が死ぬかもしれない。

 

 しかしまあ、さすがというかなんというかハヤトは助ける気満々である。

 

「行こう」

 

 俺自身としては面倒くさいことに関わりたくないが、これでも主人公を支えるヒロイン(笑)だ。

 それも多分ラノベとかだとメインヒロイン。一番最初からいる仲間をメインと言わずしてなんという。

 

 そんな俺は主人公についていかなければならないのである。

 

 

 ハヤトと共に悲鳴を印としてその方向へと駆けていく。

 だんだんと血生臭い匂いが嗅覚を刺激してくるようになった。

 

 あんなに聞こえていた悲鳴はすっかり聞こえなくなっており、俺とハヤトはさらに速度を速めた。

 

 日が落ちてきたのと森の中ということで、視界は良いとは言えない。

 

 結果として俺たちが着いたころには血の水溜まりが目に映っていた。

 

 舗装もされていない道に横転する馬車。

 生首が近くの木に吊るされていた。

 そして、そんな様子を見て満足そうに頷くガラの悪そうな男の集団。

 

 何やら会話をしてるので様子見ということで聞き耳を立てる。

 

「今回は人が少なかったな」

「十何人だったか。オレ五人は殺ったかな?」

「嘘言うなよ、俺の方が殺してる」

 

 ……隣の主人公が怖い顔をしてますよそこの山賊さん達。

 

 ハヤトと共に過ごしたこの一か月、見てきた死体というのはすべて魔物のものであった。

 人型の魔物もいたが、それはあくまで魔物だ。割り切ればそこまでと言える。

 

 この世界では人間の死体を見ないで生きる方が難しい。

 一か月見なかったのは運が良い方だろう。

 

 俺も転生して初めて見た死体は吐いた。

 今まで平和ボケしていた俺が世界の厳しさを知ることにも繋がった。

 

 ここは安全な日本ではないのだ。

 

 それはハヤトも同じで人間の死体なんか初めて見るだろう。

 俺と違って吐いてはいないが。

 

「おいっ!そこのお前ら!」

 

 言ったよこいつ。主人公だわ。

 周りから一際目立つ背丈をした明らかリーダー格に話しかけた主人公君。

 

 すっげ。今普通に感激してた。かっけえ。

 

 いつもふにゃふにゃな気持ちで生きている俺だが、命がかかってる場面でそんなわけない。

 だからそんなとき立ち向かうハヤトの姿を見て不覚にも格好いいと思ってしまった。

 

 

 notメス堕ち!いつの間にか俺の体にチョロインが宿ってしまっていた。

 神が俺をうっかりチョロイン体質にしたに違いない。

 

 メス堕ちする予定は全くないが。

 

「んあ?おう兄ちゃんたち、何か用か?なんでもねえなら殺さねえといけねえけどよ」

「……ふざ……な」

「は?聞こえねえな。……なんもねえなら殺すしかねえよなぁ!お前ら!やっちまえ!!」

 

「ふざけんなって言ってんだよ!そんなに人殺しは誇れるものなのか?!」

 

 そう山賊相手に啖呵を切るハヤト。

 

 その手にはいつの間にか抜き取っていた剣が握られていた。

 金色に輝く温かい雰囲気を漂う剣だ。

 

 本人曰く、自身のスキルをこの剣に纏わせているらしい。

 

 ハヤトのスキルは思い託してくれる者の力を己の力に変えるものだ。

 

 簡単に言うと思いを託してくれる人のスキルをコピーである。

 テンプレに沿ってスキルもチートだった。

 仲間とかいらないだろと思った。

 

 けどまあ心が少し弱いというのが一緒に過ごしてきて俺が分かったことだ。

 そこを支えていくのが(仲間)の仕事だろう。

 

 屑な俺だが今はチョロインロールプレイの真っ最中だからな。

 感謝するがいいハヤト。ロールプレイ中は支えてあげよう。

 

 閑話休題(それはさておき)

 

 相手の集団は恐らく何十人とかの規模だ。

 

 明らかに俺とハヤトの二人だけで挑むべき規模ではないことは一目瞭然。

 

「オラッ!こっちから行かせてもらうぜ!」

 

 先に動いたのは相手の方だった。

 武器であるメイスをハヤトの方に向け一気に駆け出していく。

 リーダー格の男に合わせる様に周りも動きを合わせていく。

 

 このままではハヤトがリンチされてしまう!

 

 何てことはさせないようにここで障壁を発動させる。

 

「させません!守護領域(サンクチュアリ)!」

「ごめん。助かった!」

 

 さっと感謝の言葉を受け流す。

 正直俺が居なくてもどうにかなりそうだが、少しは活躍もしてみたいのだ。

 

 主人公は主人公で最強だが俺もチョロインでメインヒロイン(笑)だ。活躍の場は与えられるべき存在である。

 

「ッチ。面倒くせえな」

 

 この守護領域は指定された範囲内の味方にバリアを付与するものだ。

 強度もただの障壁とは段違いの性能を誇る。

 

 並みの攻撃ではダメージを通すことは難しいだろう。

 

 ここから堅実に戦っていけば俺たちの勝利は揺るぎ無いだろう。

 

 障壁により多少相手に困惑が見えてきたし、向こうからのダメージはこちらにほぼ届かない。

 

「はっはっは!俺様の本気を見せるのは久々だ!誇ってもいいぞ!生きて帰れるのならなぁ!」

 

 リーダー格の男がそう言った瞬間。

 

 黒い魔力があたりに充満する。

 うねってうねってどこか邪悪な雰囲気を出す圧倒的な魔力。

 

 

 明らかにやばい奴だろあれ!

 この世界に生まれて十五年。力の差は感じることはあってもここまで圧倒的な差は感じたことがない。

 

 一目見ただけで勝てないと分からされるのはこれが初めてだった。

 

「あ……。……お願い……ハヤト」

「任せろ。超新星爆発(スパーノヴァ)!!!」

 

 俺は忘れていた。

 

 こいつラノベ主人公だったわ。

 

 強敵っぽい奴が出てきても簡単に倒してしまうラノベ主人公だったわ。

 主人公が居ても一瞬でも勝てないと思ってしまった自分が恥ずかしい。

 

 敵はハヤトの攻撃を食らうとどこか遠くへとぶっ飛んでいった。

 

 多分殺しはしていないだろう。そこはハヤトのやさしさともいえるし悪いところとも言えてしまう。

 これを機にあいつらが反省することを願っておこう。

 

 ていうかサラッと受け流してたけど超新星爆発(スーパーノヴァ)って何ですか?

 え、超新星爆発?恒星が寿命尽きた時に起こるやつ?

 ……さすが主人公、やることが一線を画している。

 

「た……倒せたね」

「……でも僕はこの人たちを助けられなかった」

 

 辺りを見回す。数々の死体。無残にも体の一部が切り離されていたり、原形を留めていない死体もある。

 

「……」

「クソっ……もう少し早く来ていたら」

 

 これでも全速力で走ってきた。それでも間に合わなかった。

 だからこれはしょうがないのだ。

 

 でも言い訳をせずにハヤトは自分の罪として背負っている。

 

 ラノベ主人公のそういうところは再現しなくてもいいのだけれど。

 

「嘆いたってもう、人は戻って来ないんです。自分を責めないで──」

 

パキッ

 

「誰だッ!」

 

 枝が折れる音がして即座にハヤトが声をあげる。

……まだ何かあるんですか。まあ確かに今の一イベントとしては内容が薄いと思ったがそれはそれでいい。

 

 主人公についていってしまったことで俺の巻き込まれ体質が覚醒してしまった。

 

 そしてハヤトの声に反応して現れる人影。

 それを見て警戒を強める俺たち。

 

 

「……」

「……えーと。……誰?」

 

 その人影は小さい女の子でした。

 

 見た目だけで言えば年齢十二歳とかレベルの女の子だ。

 顔は無表情で何を考えているのは分からない。

 

「名前ハル。……お兄さんたち誰?」

「えー僕がハヤトでこっちのお姉さんがユイって言うんだ」

「そう」

 

 無表情ロリッ娘。

 いつか来ると思っていた瞬間が来てしまった。

 

「……ハルちゃん、お父さんやお母さんは?」

 

 え、ここでその質問するのこいつ。

 周りの状況見て気づかないんですか?

 

「ん、殺された。生きてるの私一人だけ」

「……ごめん」

 

 言わんこっちゃない。

 この気まずい空気を作り出したのは間違いなくお前だぞ主人公。

 

「……ハヤトたちと一緒に居たい」

「え、えぇぇぇ?」

 

 うん、まあ予想通りだ。

 

 ついに俺が一か月前から思っていた兆候が表れてきたようだ。

 ハヤトはハーレム主人公の素質があったからいつかこの時が来るとは分かっていた。

 

「私、こう見えても強い」

「……そ、そうなんだ。でも僕たちは危ない旅をしてるんだ。それに巻き込むわけにはいかないし」

「……親もいないし、町に行っても奴隷に落とされるだけ」

「う、うーんそれは可哀想だし……ユイ……いいかな?」

「べ、別にハヤトが良ければ私は大丈夫ですが」

 

 この世界は治安が悪い。正直俺が生きてこれたのも身を守ることに徹することができる障壁があったからだ。

 人によってスキルは全く違うし、何ならじゃんけんで絶対勝てるスキル持ちの人とも俺は会ったことがある。

 

 よほど強いスキルがなければハルちゃんの言う通り奴隷に落ちて売られるだけだろう。

 

「そっかぁ……。よろしく、ハルちゃん」

「ハルって呼んで」

「……よろしく、ハル」

 

 かくして無表情ロリッ娘のハルちゃんは俺たちのパーティーに入ることが決定したのである。

 

 

「……えへへ。……さっきの格好良かった

 

 ハルちゃんも満更では無さそうだ。

 

 でも俺に一つ言わせてくれ。

 

 

 チョロインは俺だけで十分なんだよ!




偽のチョロインでも結局はヒロイン。
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