ブルアカ世界に、キーブレードそのものとして転生した件について 作:ニュームーン
──失敗した。
私は、浮かれていたんだと思う。
だから、シロコの様子がおかしい事に気がつかなかった。
……だから、危うく取り返しのつかない事態になるところだった。
今回はセーフだったけど、いつか本当に取り返しがつかなくなってしまう。
私は、シロコにちゃんと向き合っていなかったという事を改めて実感したんだ……
☆★☆
──それは、人気の無い砂漠での出来事だった。
「ん! 【ファイラ】!! 【ブリザラ】!! 【サンダラ】!!」
シロコが特訓したいと言い出して、万が一周囲に迷惑がいかないように、私たちは砂漠で特訓する事にしたんだ。
そこでシロコが、ひたすら中級呪文を唱え続けている。
「【ウォタラ】!! 【エアロラ】!! ……ん、魔力切れ。ちょっと休憩」
ひたすら唱えて、魔力が切れたら、1分待って。
そして回復したら、再度呪文を唱え続ける。もう3時間は繰り返しっぱなしだった。
『ねえ、シロコ……思ってたんだけど、特訓はいいけどちょっとやりすぎじゃない?』
「ん。まだまだ。もっと強くなりたい」
そう声をかけても、シロコはそう言ってまだ続けるつもりみたい。
プールの水入れの時から違和感はあったけど、あれも特訓の一環だったと思えば、あれだけ水魔法を話し続けていた理由も納得出来る。
けれど、最近のシロコの熱意……いや、執着は異常だ。
『けどさ、シロコ。流石に飽きてこない? ほら、プールの時みたいにもっと遊びに使うとかさ……』
「ん……確かに、ちょっと飽きてきたのは事実」
『でしょ?』
ようやく私の言葉に耳を傾けてくれたシロコは、ふう……と息を吐いて整える。
私はこのまま別のことをしようと提案しようとして……
「……ところで、ココロ。以前、魔法で“ラ級”とか言ってたよね?」
『え、うん?』
すると、唐突にシロコがそんな質問をしてきた。
えーと、うん。確かに言ってるね。中級クラスの魔法のことを、勝手に私はそう呼んでるけど。
「という事は、“もしかして他の級もある? ”」
『え? 一応あるけど。例えば、“ガ級”とか』
「っ! やっぱり、そうなんだ……」
『でも多分、今の状態だとコントロール出来なさそうなんだよね。“ラ級”で定形発動しか出来ない状態だと、“ガ級”でどうなるか……』
私はそう言って、他の級も存在する事を教えたが、今は使わない方がいいと注意をしたつもりだった。
すると、シロコはゆっくり鍵を持ち上げて……
「ん。──【エアロ“ガ”】」
☆★☆
『──』
『────っ』
……ん。あ、れ……私、どうなって……
確か、ココロに“ガ級”があるって聞いて、それで……
……体が、すごく重い。まるで、重たい掛け布団が体に乗ってるような……
『──コ!』
なんか、すごく息苦しい……
胸がすごく押しつぶされているような……
口と鼻が、そもそも塞がっているような……
『──ロコ!』
『シロコぉッ?!!』
「ッは?!!」
……そのココロの声により、私はようやく気づく。
私の体全身が、“砂の中に埋まっていた”という事に……
☆★☆
『ああ!! 良かった、シロコ気がついた!? 気がついたよね!? 本っ当に良かったー!!』
私は目の前の、“頭以外”全て砂の中に埋まってしまったシロコに声を掛け続けていた。
ようやく意識を取り戻したのか、シロコは顔を上げている。
良かった……本当に良かった……っ!!
「ココロ……? 私、一体どうなって……?」
『どうなってって、“風魔法が暴走して砂を大量に巻き上げちゃったんだよ!! ” それにシロコが巻き込まれて、砂の中に埋まっちゃってたんだ!!』
「ん……ん!? 本当だ……体ほとんど埋まっちゃってる。それに、口の中も砂だらけ……ペッ、ペッ」
シロコは背後で埋まっている自分の体を見て、ようやく現状を認識したらしい。
そういう私も、刀身とも言える部分が半分以上砂の中に埋まっていた。
危うく、二人して砂の下に全身埋まり尽くすところだった……!?
シロコは砂の山の中に埋まっていたけど、その状態でもなんとか抜け出して立ち上がり始めていた。
結構な重さがかかっていたはずなのに、流石キヴォトス人という奴なのか、問題なく抜け出せている。
「ふう……ビックリした」
『ビックリしたー、じゃないよ!! シロコ、なんで“ガ級”なんて使ったの!? 今の状態だとコントロール出来なさそうって言ったよね!?』
「ん、ごめん……試してみたくなった」
そう言ったシロコは、服をパンパンっと払いながらこっちを見て謝ってくる。
その顔は、多少申し訳なさそうな表情をしていた。
それを見て私は、まだ怒りが治ったわけでは無いけど、とりあえず落ち着こうとする……
「でも、凄かった。“ガ級”……正直、よく分からなかったけど」
『よく分からなかったじゃ無い! あれはもうただの暴発だ!! 局地的な嵐が発生したようなもんだよ!?』
「そんなに?」
『そんなに!!』
さっきシロコが発動してみて、ようやく分かった。現状だと“ガ級”は一切制御が聞かない危険な魔法だと。
初級魔法が細かい制御込みでコントロール可。
中級魔法が定型発動ならギリ可。
上級魔法は完全に制御不可!!
心の世界で私自身が使うなら制御出来るけど、現実世界でシロコに貸し与えた状態じゃ絶対使えない状態だ!!
『シロコ!! もう絶対“ガ級”は使わないで! 定型発動すらままならない! 本来風魔法は、発動位置を離れた位置に指定出来るはずなのに、それすら出来ない! 手元で暴発一択で、危険過ぎる!!』
「そんな……」
『分かったね!?』
「ん……」
そう言って、シロコは名残惜しそうに言葉を呟いて……
ひとまず、私に近づいてキーブレードを持ち上げてくれた。
そして……
「──【ウォタガ】」
バッシャアアアアアアアアアアンッ!!
「ゴボゴガ……ッ?!!」
『シロコおおおおおおおおおぉぉおぉぉッ??!!!』
☆★☆
『なんで発動した!? ねえ、なんで発動したの!? ねえ、ねえ!??』
「ん……水魔法だったら、暴発してもまだマシかなって……」
この狼、全く懲りて無かった。嘘でしょ?
「これでもよく考えた結果。炎魔法は焼けちゃうし、氷魔法は氷漬け。雷魔法は感電が怖かったから、まだ一番マシな選択だったと思う」
『“巨大水球に閉じ込められてた”じゃんかあ?!! あれあのままだったら溺死だよ?!!』
「ん、あれは予想外だった。本当ビックリ」
『ビックリしたのはシロコの頭の悪さだ!!』
私はつい口が悪くなって、そう暴言を吐いてしまったが仕方がないと思う。
だって、本当に死んでしまうところだったんだから。私はともかく、シロコは今の2回死んでもおかしく無かった!!
なのにシロコは、ちょっと軽い失敗しちゃった。とでもいうような軽い態度!!
「──よく考えたら、砂漠で気温が高いから、氷漬けになってもすぐに回復するかも。よし、【ブリザ──」
『させるかああああアアアアアッ!!!! アアアアアああああああああッ!!!!』
「ん! うるさっ!! 凄くうるさい……!?」
私はこの馬鹿狼に、頭が痛くなるくらい大声で叫び続けて妨害する事にした……
☆★☆
「“──それで、ウチ(シャーレ)に来たのかい? ”」
『そうです! それでシロコには反省してもらいに来ました!!』
「“シロコ……”」
「ん、ちょっとだけ反省……」
『もっとしてよ!!』
あれから、シロコにシャーレに寄ってもらうまで延々と、夜も含んで叫び続けると脅せば、渋々シャーレに向かっていってくれた。
そこで私は、先生に頼んでシロコに注意してもらったのだが、あまり反省の様子は見えず。
『シロコ、本当に一体どうしたの!? なんでそんなに上級魔法に固執するの?』
私は、根本的に疑問に思った事をシロコに質問した。
“ガ級”を知った瞬間、それをなんとか使おうと固執しすぎている。
ただプールの時のように遊ぶだけなら、あれほどの威力は要らないはずだ。
「ん。強くなるため」
けれど、シロコの返事はその一言だった。
強く、なるため?
「……私は、もっと強くなりたい。そのために、キーブレードの魔法があれば、もっと強くなれると思った」
『そんな……確かに戦いに使ってもいいよとは言ったけど! けど、そんなに必死になって求めるほどでも無いんじゃないの!? あんな死にそうな目にあってまで!!』
「……それでも。あの“ガ級”の威力は、放置するには惜しい威力だった。あれを使いこなせれば……」
私がそう言っても、シロコは目を瞑ってそう呟いていた。
……確かに、キーブレードは戦うための道具でもある。シロコの言ってることも、ある意味間違いではないだろう。
けど、けど……こんな事の為に使わせたわけじゃ無かった!!
『……なんで。なんで、そんなに強さにこだわるの? 何度も聞くけど、そんな死にそうになってまで……』
「……弱いと、何も出来ないから。ホシノ先輩の時みたいに」
『……ホシノさん?』
「“…………”」
私が叫びを押し殺しながらそう聞くと、そんな返事が帰って来た。
ホシノ先輩って、あのピンク色の髪をしたちっちゃい人のことだよね? あの人が何か関係しているの?
『……ねえ、シロコ。君に一体何があったの? 今まで何が起こってたの? 私は、何も知らない。君が、そんなに力を求める理由も……何も知らない』
「ん……話してもいいけど、長くなりそうでちょっと説明が難しい……」
私がそう聞くと、シロコはうーんと悩んだようにそう言った。
説明してくれる気は、あるんだね?
「“……だったらシロコ。私から説明していいかい? 今までのアビドスの事も含めて。それなら、分かりやすく出来ると思うから”」
「そう? なら、お願いしていいかな。先生」
「“うん。【シッテムの箱】の中で、説明してこようと思う”」
「そっか……じゃあ、私は暇になっちゃうね。……ちょっと頭を冷やしてくる。ライディングしてくるね」
そう言って、シロコはキーブレードを先生に渡して、シャーレの扉を出て行った……
残された私は、先生に話しかけられた。
「“さて、と……ココロ、もう一度【シッテムの箱】の中に入ってくれるかい? ”」
『分かりました……そこで、説明してくれるんですね』
「“うん。そっちの方が話しやすいからね”」
そう言って、私は以前と同じように【シッテムの箱】の中に心を移していった……
☆★☆
「あ! ココロさん、お久しぶりです!」
「再会。ココロさん、ようこそ」
「こんにちは。アロナさん、プラナさん」
私は無事【シッテムの箱】の箱内に入り、アロナさんとプラナさんと再会していた。
後から、先生もここに入ってくる。
「“それじゃあ、早速説明したいんだけど……”」
「はい! 事情は聞いております! ココロさんに、アビドスで起こった事を説明すればいいんですよね?」
「はい、よろしくお願いします」
「うーん、でも長いので、口で説明するのって結構大変そうですね……」
そうアロナさんが悩んでいると、プラナさんが声を掛けていた。
「先生。【シッテムの箱】越しで、見聞きした情報のアーカイブデータがあります。それを見てもらうのはどうでしょうか?」
「“なるほど、それは良いね”」
「いい案です、プラナちゃん! それじゃあ、ちゃちゃっと編集して、ココロさんに見せましょう!」
「了解。少々お待ちください」
そう言って、アロナさんとプラナさんが何か暫く作業をすると……完了したのか、こっちに向き直って来た。
そうして、一つの浮き上がった画面を見せてくる。
「完成です! アーカイブ、【対策委員会編】です!」
「それを見れば、シロコさんに何があったか大体分かるかと」
アロナさん、プラナさんがそう自信満々に言って来てくれた。
私はお礼を言って、動画の再生ボタンを押してみる。
「ありがとうございます! 早速見てみますね……」
そうして、私は記録を見ていき──
☆★☆
──記録閲覧中
☆★☆
「──うっう、えぐっ……」
ものの見事に、号泣した私が出来上がった……
「なんですかこれ、めっちゃ大変だったじゃないですか……言葉で言い表せないほどに」
何、カイザーって奴のホシノさん奪還から始まって、その後の時期で相手の鉄道の利権関係で、ホシノさんが走り出して、そこで“反転”とかなりかけてやばかったとか……
なんとか事件乗り越えたらしいけど、学生が経験するには大変なことばっかりじゃん!!
というか、特にホシノさん色々酷い目にあってるし!!
「ココロさん、どうどう……」
「“ごめんね。一気に見せちゃって……”」
「いえ、ありがとうございます……こんな大事なこと、教えてくれて……」
私は見せてくれたアロナさん達に、そうお礼を言った。
とりあえず、これで大体の事情は分かった……
ところで、動画の最中で気になったことが……
「ここ。この場面ですけど……シロコ、なんか変な黒いものに手を伸ばしてません?」
「【色彩】ですね。触れると“反転”してしまいます」
「無力感に苛まれたシロコさんは、とっさに力を欲していたんでしょうね……」
そっか、この頃から力を欲してたんだ……
だから、キーブレードでも上級魔法の強さにこだわり始めて……
「……ひとまず、シロコが力を得ようとしたい理由は分かった気がします。これだけの経験があったんなら、そりゃあ次似たようなことがあってもなんとか出来るようにしたいと、思いますよね……」
「“……そうだね。それは否定出来ない”」
「はい……けど、だからと言って命の危険のある危ない特訓は、それでも許しちゃダメだと思ってます」
「“うん。同感だ”」
私は、先生とそのような会話をする。
けど……
「……でも。多分……私の言葉じゃ、届かない」
「“……それは、どうして? ”」
「私は、シロコみたいに何かを失いそうになった経験が無い……あれほど辛い目にあった経験がない。だから、シロコの気持ちを本当の意味で分かってあげられないから、説得が出来ない。そう思うんです……」
実際、シロコは私が注意しても何度も上級魔法を放とうとしていた。
こうして理由を理解したと言っても、所詮見聞きした内容だ。彼女の本当の渇望の強さは、分かってやれないだろう。
私は、所詮神様転生者……なんの冒険も、苦労もした事のないただの少女。
ずっと砂の中にいた孤独は……あまりに場違い過ぎて今回は意味ないだろう。
生前だって、ほとんどの人生を病室で終えたから、シロコのように学生生活を送れていない。
だから、学校も、学友の大切さも本当の意味で分かってあげられない。
私じゃなく、せめて……せめて、ゲームの彼らのように。
──“
「“……それでも、意味がないなんてことは無いはずだ”」
「先生……」
「“だって君は、シロコを理解しようとしてくれている。シロコのやりたい事全てを否定するわけじゃなく、その理由を知って分かって上げられようとしてくれている。その気持ちは、シロコに届いてくれると思うよ”」
「……はい。ありがとうございます」
……私は、ひとまず泣き止んだ。
時間は掛かるかもしれないけど、シロコにどうしても分かってもらうために、これからも危険な特訓はしないで欲しいと言い続けようと……そう、誓った。
「……ところでなんですけど。この【おっきなシロコさん】、唐突に出て来たんですけど、私何か見逃しました?」
「それは、その……」
「あー……それは、【対策委員会編】だけだと分からないと申しますか……」
「……? もしかして、話しづらい事ですか?」
動画を見ていて、正直【色彩】も、【おっきなシロコさん】もよく分かっていなかった。
なんか本当に唐突に出て来た感しかしなくて……
「確か【おっきなシロコさん】は、並行世界のシロコさんなんですよね? シロコに聞きました」
「……! 肯定。そこまで聞いていましたか……」
「“……それなら、ついでに【アトラ・ハシース】の出来事についても話す? ”」
そう先生が言い出すと、アロナさんはちょっと悩むように……
「えーっと……ココロさん、聞きます?」
「はい、聞いていい事なら、是非」
「そうですか……プラナちゃん、いいですか?」
「……了承。はい、良いです」
「……了解です! それじゃあ、これも編集しましょう!」
そうして、新しく作られた動画も見て……再度私が両手膝を付いて号泣したのは言うまでも無い。
☆★☆
「“──はい、シロコ。ココロだよ”」
「ん。ありがとう、先生」
そうして、私はシロコに先生から渡された。
もう外は夕方だ。ここからシロコの家に着く頃には、もう夜になっているだろう。
「ココロ。話は聞いた?」
『……うん、よく聞いたよ。シロコ達のことは、大体わかったつもり』
「そう……」
そう言うとシロコは、私をゆっくり背負って帰る準備をし始めた。
『……シロコ。強くなりたい理由は分かった。けれど、命の危機がある特訓をする必要はある?』
私はそう、改めて問いかけてみる。
「……うん。弱いと、どの道全てを失うから」
『……そっか』
そのシロコの言葉に、やっぱり今すぐには言葉は届かないことを実感した。
確かに、強さは必要だと思う。だから、シロコの言ってることも間違いじゃ無いことも確かだ……
『……じゃあ、せめて中級魔法をもっと慣れてからね。そうしたら、上級魔法もいつかはコントロール出来る様になるかもしれないから』
「ん、仕方ない……分かった」
ひとまず、妥協点としてはこのくらいだろう。
私は、とりあえずシロコの安全性を確保できたことに一安心する。
けど、けれど。
──本当は、もっとキーブレードは、楽しむために使って欲しかったな……
私は、自転車に乗ったシロコの背中の上で、そう思ってしまっていた……
☆★☆
……それは、真夜中の事だった。
シロコの自宅で、シロコとココロはぐっすり眠っていた。
二人の意識は、眠っていて既に無い状態。その筈だった。
──しかし、ココロの体……キーブレードが、突如淡い光を放ち始める。
そこから、“二つ”の光の球が現れ、シロコの身体に入っていった
……その事に、シロコも、ココロも気づかない。
気づかないまま、二人は眠り続ける……
☆★☆
「……ん。んん〜……ん。……ん?」
……私は、違和感を感じていた。
私は、自宅のベットで寝ていた筈だ。
なのに、今の体の下は固い床。掛け布団の感触もない。
その感覚で、目が覚めてしまっていた。
起き上がってみると……
「──どこ、ここ?」
私は、驚きの表情で固まってしまっていた、と思う。
全く見覚えのない、暗い空間。
しかし、床面が……
「──ステンドグラス?」
そこは、巨大なステンドグラス貼りの床だった。
あまりにも巨大で、全体像が見渡し辛かったが……
「──私?」
そこには、
眠っている私の姿と、アビドスのみんなの顔が描かれている。
芸術に疎い私でも、とてもよく出来た形だと感心するほどだった。
「……ココロ? ココロ、いる?」
私はそう、周りに呼びかけていた。
けれど、ココロのキーブレードが見当たらない。ここには、私一人しかいないようだった。
……いつの間にか、私の姿もアビドス制服に着替えている。
私は警戒して辺りを見渡すと……
「──気がついたか」
「……?」
ふと、背後からそんな声が聞こえて来た。
振り返ってみると、そこには“少年”がいた。
“ヘイローが無い、キヴォトスの外の人”だ。
「……あなたは、だれ?」
私はそう問いかける。
先生以外の、キヴォトスの外の人。
短く揃った銀髪の髪。
黒いジャケットと、白いTシャツ。そして青いズボンを履いていた。
大体、私と同じくらいの年齢に見える。
そして、何より目を引くのは──
「──っ!! もしかして、キーブレード……!?」
彼の手には、“巨大な鍵”が握られていた。
ココロのキーブレードとは形が違うけれど、サイズは同じぐらい。
黒い持ち手と、銀色の刀身。まるで車の鍵を連想する形だった。
「あなたは、一体──?」
私は、同じような質問を繰り返す。
それほど、目の前の少年の存在が気になったからだ。
「俺は──
──【リク】だ」
少年は、そう名乗った。
当たり前の事を言うような、けれどはっきりとした口調で。
「──砂狼シロコ」
「っ! 私の、名前……!」
「事情は知っている。力が欲しいんだってな」
そう言って、【リク】と名乗った少年は近づいて来た。
ゆっくりと、強さを感じるような足取りで。
「──協力しよう」
「……え?」
「君が力を得るために、協力しよう。その為に俺は来た」
そうして、改めて私に向き直る。
その全てを見通すような、青い目で見つめて来て──
「今よりはっきりと強くなる。その方法を今から教える。受ける気は、あるか?」
……その問いかけに。私はまだ状況がよく分かっていなかったけれど。
──私ははっきり、コクリと頷いた……