ブルアカ世界に、キーブレードそのものとして転生した件について 作:ニュームーン
「──分かった。場所を移したい、ついて来てくれ」
そう言って、【リク】と名乗った少年は背中を向けて歩き出す。
私はそれに付いて行く。けれど、何処に向かうんだろうか?
この足場のステンドグラスは確かに大きいが、端っこは見えている。すぐに行き止まりに突き当たるだろう。
それなのに、リクは迷いなく端まで歩いて行く。そこで立ち止まるのかと思ったら……
「ふっ」
目の前で、キーブレードを掲げ始めた。
直後、眩い光が走ったと思ったら……“透明な階段”が現れた。
「っ!!」
「用があるのは下だ。降りるぞ」
そう言って、下り階段を降り始めたリク。
私は驚きながらも、恐る恐る光る階段に足を踏み入れ……両脚とも乗っかった。
「すごい……」
「驚く事じゃないさ。この世界なら、この程度訳は無い」
私の言葉に、大した事ないと言ってくる。
そんな彼と、階段を降り続けながら会話する。
「この世界って?」
「……ここは、心の世界。“砂狼シロコ自身の心の世界”だ」
「っ!! 私、の……?」
「ああ。君は今、精神だけでこの場にいる。君の体は外の世界でぐっすり眠り続けているだろう」
「そうなんだ……」
私は辺りを見渡しながら、不思議な感覚を感じていた。
後ろを見上げれば、先ほどまでいた場所のステンドグラスが見えている。
あのステンドグラスも、私の心の中にある物、という事なんだろうか?
……下を見渡すと、光る階段意外真っ暗のまま。何処に行くのか分からない。
私は降り続ける彼の背中に、色々と疑問に思った事を聞き続けた。
「何処に行くの?」
「君の心の、より深層領域。そこで、君に試練を出す」
「試練って?」
「君自身が強くなるために必要な事だ。それをするために、俺はここに来た」
その言葉を聞いて、私は一番疑問に思ったことがあった。
それをそのまま聞くことにした。
「ねえ。じゃあ、あなたは何故ここにいるの? ここは私の心の世界なんでしょ? でも、私はあなたの事は知らない。リクなんて人、聞いたことも見た事もない……」
そう、私には彼という存在が一切心当たりが無かった。
なのに、私の心の中に彼がいるのはとてもおかしい。
「当然だろうな。俺は、“王国ココロの中からやって来た”」
「っ!? ココロの……“中”?」
「ああ。君とココロが眠った後、“俺は自分の意思”で君の中に一時的に入って来た。ココロ本人は気づいてすらいないだろう」
どういう事だろう? ココロの中に、彼が存在していたという事なのだろうか?
「ココロから、【キングダムハーツ】というゲームがあった事は聞いているな? キーブレードはゲームの中に出てくる武器という事も」
「ん、うん……そういえば、元々ゲームの武器って言ってたっけ」
私は、ココロと初めて出会った時のことを思い出す。
色々信じられないような話を聞いていたけれど、そう言えばその一つがその話だった。
「そして、ゲームという事は大抵“登場人物”もいるだろう。……その中に、【リク】という少年がいた」
「……つまり、あなたはゲームの世界の人?」
「……いや」
そう聞くと、彼は一度立ち止まり、頭を振り返って私と向き合った。
続けて彼の言葉を聞くと、とても驚く内容だった。
「……正確には、俺は【リク】本人じゃない」
「……? どういう事? リクって言ったのに、リクじゃない……?」
「──俺は、【キングダムハーツ】をプレイした、“王国ココロの記憶”から作られた存在だ」
「──は?」
「彼女のゲームの思い出にあった、【リク】という少年の記憶。それを一時的に抜き取り、自立した存在が俺なんだ」
……そこ言葉の意味が、すぐにはよく分からなかった。
記憶から作られた、本人じゃない人物……?
リク曰く、【キングダムハーツ】で言うと“データ・リク”と言う存在が近いらしい。
ん、知らないゲームで例えられてもよく分からない……とりあえず、記憶から作られたそっくりさん?
「ひとまず、その認識で構わない。極論、俺が【リク】本人であるかどうかは関係無い。君の強くなるきっかけにさえなればいいだけだからな、俺は」
「……うん、とりあえず分かった。けれど、そんな存在が何で私を強くしようとしてくれるの? あなたには関係があるようには思えないけれど……」
それが疑問だった。
このリクという少年が本物、偽物の話はさておいて、私自身に関係がある話には思えない。
そもそも、ココロ本人は彼が独立して行動している事は知らないと言っていた。
なら、彼本人が私を手助けする理由はない筈なのに……
「それは単純な話だ。俺は“ココロの記憶の存在”だ。なら、主人であるココロの手助けになるように動いているだけだ」
「ん……ココロの手助けと、私の強くなる事は関係あるの?」
「大ありさ。それがココロの、“無意識に願った事”だ。その願いの影響で、俺という存在が生まれたんだからな……」
無意識に願った事……?
つまりココロは、“私に強くなって欲しい”って願ったんだろうか?
ん、だとしたらありがたい。何をするかはよく分からないけど、ありがたくその恩恵を受け取っておこう。
私はそう思っていた。
「……っと、もうすぐだ」
そうリクが言うと、階段の下の先が見えてくる。
さっきまで真っ暗だった筈なのに、ここまで近づくとはっきりと見えるようになっていた。
そこには、またステンドグラスがあった。だけど……
「……“昔の、私?”」
そう、映っている姿が、少し前の私……ホシノ先輩とノノミに、拾われた頃の私の姿だ。
最初のステンドグラスと、同様に眠っている姿……
その場所に、リクは足を踏み入れて乗り込んだ。
私も、同様に降り立った。
「……ここだ。ここが現時点での、“砂狼シロコの深層意識の最下層”。ここなら、丁度良い」
「ん、何やるの?」
そう聞くと、リクは改めて振り返って、私と向き合った。
その顔は、真剣な表情をしている。
「──君には、“自分の心の闇”と戦ってもらう」
「……心の、闇?」
「ああ」
そう言うと、リクはキーブレードをサッと一振りした。
直後、私の手元で何かが現れる。
「っ!! 私の銃……?」
「ここは君の心の中だからな。君にとって、最も馴染みの深い武器だけ呼び出せた」
「これで、戦えばいいの? 相手は?」
「すぐに現れる」
そう言うとリクは横にずれて、ステンドグラスの中央を向いた。
……すると、何か“黒いシミ”のようなものが現れ、形作られて行く……!!
それも一つじゃない、二個、三個……いや、10数個以上!
『────』
「何、あれ……?」
「──“ハートレス”」
リクは、静かにそう呟いた。
「【キングダムハーツ】に出てくる闇の住人。プレイヤーの敵となる存在。あれはその中でも、“シャドウ”と言う一番弱い敵だ」
「そんなものが、どうして私の心の中に……?」
「あれはあくまで、ハートレスの形を模しているだけにすぎない。俺が試練用に、“砂狼シロコの心の闇を分かりやすい形”に変換しただけだ」
ハートレスの形を模している……?
私の、心の闇……?
「あれが、私の心の闇……?」
「そうだ。そしてそれを、倒して行くのが試練となる」
ん……なんとなく、見えて来たような気がする。
「つまり、“自分の心の闇を倒していって、自分の心を強くする事が試練”って事?」
「…………まあ、平たく言えば、そうなるな」
「ん、なら分かりやすい」
私は銃を構えて、そう呟く。
自分の心の闇を倒す戦い、なるほど試練として分かりやすい。
“これは自分自身の弱さを倒すための戦いなんだ”。それを倒せば、確かに強くなれるだろう。
「ん、やる気が出て来た……!!」
「そうか。ならまずは、あそこにいる敵達を倒してみろ」
「分かった」
合図を出す。そう言われて、私は構え出す。
いつでも飛び出せるように、そして……
「……スタートだ!」
その掛け声とともに、私は飛び出した。
「ん!」
タタタンッ!! と、私は愛銃から弾を連続で放つ。
それは正確に、シャドウと呼ばれたあいつらにヒットして行く。
しかし……
『────っ』
『────っ』
『────っ』
「ん……!? 全然倒れない!?」
確かに、確実にヒットした筈。少なくとも、1、2発は一体ずつ当たっていたように見えた。
なのに、多少の怯みはあっても、シャドウ達は止まる事なく私に向かって来た。
「んっ……!!」
作戦変更、全体に当てるんじゃなく、まずは一体確実に仕留める。
そう思って、先頭の一体だけに集中攻撃をしてみた。
2発、3発、4発、5発……
『────……っ』
「ん、やっと倒れた……っ!!」
6発目。それで何とか、やっと一体倒れた。
倒れたシャドウは、そのまま解けるように消えていく。
けれど、思ったより耐久が高い。一体一体は小さいのに、やや強めのヘルメット団程の耐久だ。
それが10数体……いや、20……30はいる!?
「これ、思った以上にきついかも……」
先生に出会う前、アビドス学園で篭城していた経験もあってか、倒すだけなら問題ない。
けれど一体一体が小さい上に、思ったより素早い。それにアビドスのみんなはおらず、私一人しかいない。
幸い、相手は接近戦のみで、飛び道具を持っていない。
逃げ打ちしながら戦えば、何とか乗り切る事は出来るだろう。
そう思って、私は常に走り続けながら、バックを追ってくるシャドウ達を一体ずつ処理していった。
……そして、最後の一体が倒される。
「お、終わった……?」
「ああ。まずはお疲れ様だ、砂狼シロコ」
私が荒い息を吐いている中、リクがそう声を掛けて来た。
それを聞いて、私は一安心する。
「……これで、私は強くなれたのかな?」
「いいや。あんなのは、まだ表層的なものに過ぎない。本番は、次からだ」
「次……」
そう聞いて、私は少し落ち込んだ。気が滅入っていた。
確かに、戦い自体はシンプルで、結果だけ見れば簡単に勝てただろう。
しかし、逆に言えばその方法しかなく、ただでさえ並みの敵以上の強さを持つあいつらを、ずっと走り続けながら倒した所だ。
それを、まだ表層的なもの……?
「つまり、今戦ったやつより、強い奴が出てくる……?」
「……ああ、そうだ」
「むう、ちょっと自信なくなって来たかも……」
無論、戦うからには勝つつもりだが、今の敵でさえこの疲労感。
次はどんなものが出てくるのか……
「なんか正直、思ったより敵が見た目より強い気がしたんだけど……」
「そうか。まあハートレスは、“本来キーブレードが特攻になる敵”だからな。普通の武器だと、それほど効果的じゃないだろう」
「ん、それを早く言って欲しかった……!!」
私は素直に、感じた苛立ちをそう言った。
じゃあ、本来ならこんなに苦労する相手じゃないって事?
「じゃあ、私にもキーブレードが欲しい。ココロは? ココロはいないの? それか、そのリクのもっているキーブレード貸してくれないの?」
「ココロはいない。そして、このキーブレードも貸せない。“意味が無い”。君にはまだ、“資格が無い”」
そう聞くと、リクは腕を組んでそう言って来た。
ん、資格?
「ん……私、元々ココロの声が聞こえてたよ? それが資格にならないの?」
「ああ、それは“素質”にはなるだろう。しかし、“キーブレードに認められた訳じゃ無い”。砂狼シロコがココロを扱えていたのは、“ココロ自身がキーブレードそのもので、使用許可を出していたから”だ」
要は、ココロ限定の仮免みたいなものだ。と、リクは言った。
ココロのキーブレードを扱えるだけじゃ、真にキーブレードを扱えているわけでは無いらしい。
「仮に今、俺のキーブレードを君に貸したとしても、ただの棒切れ以下にしかならない。当然、ハートレス特攻なんて無く、無いほうがマシだ」
「ん。残念……」
そこで、ふと疑問に思った。
「……じゃあ、“真にキーブレードを使えるようになるには、どうすればいい?”」
そうだ。そもそも強くなる方法に、元々キーブレードそのものをもっと扱えるようになるのが早いと思っていた。
自分の心の闇を倒すだけで無く、そちらの方法でのアプローチもやれるなら意味あるんじゃないかと思ったんだけど……
そう聞くとリクは目を瞑り、深く考えるように……
「……悪いが、今の君に直ぐ使えるようになるとは思えない」
「……そうなの?」
「ああ。残念ながらな……」
そう言うと、組んでいた腕を解いて、リクは話を切り替えるように話し出す。
「今は、自分の心の闇と戦う方が早いと思う。君はまずそれと、向き合うべきだ」
「むう……分かった」
「ああ。……さあ、次が本番だ」
そう言って、再度リクはステンドグラスの中央を向く。
そこに、先ほどと同じように黒いシミが集まり出す。
しかし、今度は一つ? けれど、サイズが大きくて……
「──私?」
……それは、私の姿を模していた。
全身真っ黒で、黄色の目をしているけれど、確かに姿、形は私にそっくりだった。
「なるほど、より“らしい”ものが現れたな。あれが砂狼シロコの“心の闇の根元”に近いものだろう」
「ん、じゃああれを倒せば確実に強くなる……?」
「ああ。少なくとも、今よりはな」
さて、砂狼シロコ。そう言って、リクは改めて私に向き合って……
「──“自分の心の闇を、打ち倒す覚悟は出来ているか?”」
そう問いかけるような言葉に。
「──ん、もちろん」
私は、肯定で返した。
「…………そうか」
そう言うと、何故かリクは深く目をつぶっており……
私はその様子に、何か疑問に思っていると……リクは目を開いて私を見た。
「──なら、戦ってこい。自分自身と、向き合うんだ」
「ん!」
準備はいいか! その問いかけに、私は了承して再度構え出す。
合図を待って、そして……
「──さあ、スタートだ!」
「ん!!」
その掛け声とともに、私は走り出す。
自分自身の弱さを、倒すために。
──その背後で、リクが何かを見極め続けるような視線に気付かないまま。