ブルアカ世界に、キーブレードそのものとして転生した件について   作:ニュームーン

6 / 21
第六話 布教しました

「“……落ち着いた?”」

「ぐす、ぐすん…………は、はい」

 

 私は目の前の見知らぬ少女に、そう声を掛けた。

 少女は名残惜しさを感じそうにしながらも、ゆっくり離れて行ってくれた。

 

「“……さて。改めて話を聞いていいかな?”」

「は、はい……」

「“まずは、そうだなあ……君の名前を教えてくれるかい?”」

「あ。わ、私の名前は王国ココロです。今は、そう名乗っています」

「“今は? 前は別の名前を名乗っていたのかい?”」

「は、はい。……というか、前の名前を完全に思い出せなくなっているので、新しく考えたのがその名前ってだけですね。シロコにもそう名乗っています」

「“おおう……?”」

「先生、なんだか複雑な事情のようです!!」

 

 アロナの言葉に内心同意する。

 どうやら、思った以上に重たい事情を抱えていそうな子だ。

 これは慎重に話していかないと……

 

「“ココロ、君は……シロコの言っていた、あの鍵の中に入っていた精神、で合っているかな?”」

「あ、はい。そうですね」

「“どうして、鍵の中に入っていたか教えてもらってもいいかな?”」

「えっと。話は長くなるんですけど……」

 

 

 ──そうして私達は、ココロの事情を教えて貰っていった。

 

 元々死人だった事。

 神様転生。

 キングダムハーツというゲームの事。

 砂漠に鍵として現れた事。

 それからずっと砂の中に埋もれていた事。

 ……そして、シロコに拾われた事。

 

「──以上が、私の大体の事情です。これがシロコにも話した内容と同じです」

「“────”」

「────」

「────」

 

「……えーっと、大丈夫ですか……?」

「“……えっと、ごめんね? いきなり凄い情報が大量に入って来たから、ちょっと整理出来て無くて……”」

「か、神様転生ってなんですか!? そんなのがあるんですか!? 私そんなの知りませんでした!!」

「……ある意味、死者蘇生とも言える存在。そんな方が、目の前にいるとは……!」

 

 アロナとプラナも、驚いた表情を隠せないでいた。

 それはそうだろう。こんな事普通に聞かされても、到底信じ切れるような内容ではない、が……

 

「えーっと……信じきれなくても、いいですよ……? 流石に私も、簡単に信じて貰えるとは思っていないので……シロコにさえ、全部納得してもらってる訳じゃなさそうでしたし」

「“……いや、信じるよ”」

「……え? 本当ですか?」

「“ああ。ココロ、私は君のいう事を信じる。君が嘘を付いていないって思うよ”」

「……あ、ありがとうございます。その気持ちだけでも嬉しいです……!!」

 

 私は、目の前の少女の言ってる事を信じる事にした。

 たった今初めてあった子だ。……けれど、先ほどのあの涙。あれは本物だったと思うから。

 少なくとも、彼女がとっても孤独だったという事は間違い無いのだろう。

 だったら、それを癒してあげるべきだ。大人として……

 

「“ところで、君がここに入ってこれた理由って……?”」

「あ、はい。キングダムハーツだと、心を取り出せたり、電脳世界に入るって話がよくあるんです。だからそれをイメージして、シロコに頼んであの端末に近づけてもらって……感覚的に、行けるって思ったんです。それで試したら、本当に入れたって感じですね」

「“そんな事が、そのゲームでは当たり前だったのかい?”」

「結構例外の範囲でもありますね。私自身、元の肉体を失って精神体だけの状態だったのとか、長い時間の暇つぶしでキーブレードマスターとしての素質があったのか、その両方が理由なのかは分からないですけど……」

「“キーブレードマスター?”」

「あ、はい。まずはキーブレードの説明からですね。多分ここでも出せるはず……ちょっと待って下さい」

 

 そう言って、目の前のココロは片手を前にかざした。

 ──直後、一瞬光が走り、大きな鍵が彼女の手の中に握られていた! 

 

「“これは……!!”」

「先生! 先ほど現実世界でシロコさんが握っていたものと同じ形の鍵です!!」

「それが、キーブレード、ですか……?」

「はい! キーブレード、【キングダムチェーン】。これが神様転生で私が貰った力です!」

 

 持ってみますか? とココロが聞いて来たので、私はとりあえずうんと頷いた。

 ココロから手渡されたそれは、ちょうどいい長さと重さで、初めて持ったとは思えないほどの手に馴染みを感じさせた。

 

「“これは……! なんだかテンション上がって来るね!”」

「ああ、先生がなんかいい感じの棒を拾った時のようなテンションに!」

「“アロナ達にも渡していいかい?”」

「いいですよー」

「“だって。はい、アロナ”」

「いいんですか! わーい♪」

 

 そう言って、アロナは喜びながらキーブレードを受け取った。

 ブンブンと、軽く振り回している。

 

「おお……! これは、確かにしっくり来る感じですね!! 持った時、謎の安心感があります! はい、プラナちゃんも!」

「これは……! 確かに、私たちAIでも感覚的に何かが伝わって来るような感じがします。材質は相変わらず不明。構造も単純。しかしだからこそ色々不可解な要素がありながらも、どこか安心できるような暖かさも……」

「ふふ、気に入ってもらえたようで何よりです」

 

 はい、とプラナからキーブレードを返して貰っていたココロ。

 それを軽くクルクル回しながら、キャッチしていた。

 うーん、様になっている。

 

「他にも、さっき言った魔法が使えますよー。【エアロ】!!」

 

 ココロが唱えた瞬間、鍵先を向けた場所に、旋風が!! 

 す、凄い!! 

 

「おお!? それがさっき言っていた魔法ですか!! 凄いです! 風が吹いています!!」

「解析した構造上、出来るはずが無いのに……! これが、魔法……!」

「もう一回貸しますか?」

「いいんですか! ありがとうございます! よーし、それじゃ、【エアロ】!!」

 

 アロナがそう唱え……しかし、シーンと何も起こらない。

 

「あれ……? 出ませんね?」

「あれー……? やっぱり、シロコ以外の時と同様、キーブレード使いの素質かなあ?」

「むう。残念です……」

 

 そう言って、再度キーブレードはココロの元に返された。

 見ていたプラナが質問を出す。

 

「ココロさん専用かと思われましたが……現実世界のシロコさんも使えたのですよね? それがキーブレード使いの素質による違いと?」

「私はそう思ってる。継承……は、私が中に入っている状態だから、それで必要無くなってるのかもしれない。けど、キーブレードそのものに認められていないと、使えない筈だから……考えられるとしたら、それかなーって……」

「なるほど。不可解ですね……」

 

 うーんと悩みながら答えてくれたココロだが、詳細は知らなさそうだ。

 私は話を切り替える意味も兼ねて、追加質問をした。

 

「“ところで、キーブレードって君の世界のゲームの話で出て来た武器なんだよね? どういう事が出来るんだい?”」

「あ、はい。……その前に、この世界に【キングダムハーツ】ってゲームは、ありませんか?」

「“アロナ、調べられる?”」

「はい! えーと……────。……ダメです、ヒットしません!」

「肯定。アロナ先輩の言うとおり、キングダムハーツと言う言葉自体、ネットでヒットしませんでした。少なくとも、この世界には無いと思われます」

「そっかー……うーん、口で説明するのもいいんですけど、やっぱり実際やって貰った方が……あれ、そういえば……?」

「“どうかした?”」

「ここは電脳空間だけど、ある意味精神世界でもありそうだから……今なら、いける、かも……」

 

 そう言って、ムムムっ……と難しい顔をし始めたココロ。

 両手を何も無い場所にかざして……テレビとゲーム機のセットが現れた

 

「っ!! やった、出せた!! この空間ならアイテムを出せる!!」

「な、なんですか!? この世界に、いきなりテレビと……ゲーム機? が!?」

「すみません、チェックします。……ウィルスデータなどでは、無いようですね」

「さっき話していた、キングダムハーツ関連のアイテムを出せる特典!! それで原作ゲームを持って来ました!」

「“これが、君の言っていた例のゲームなのかい!?”」

「はい!!」

 

 ニコニコと笑顔でそう答えられる。

 これは……ゲーム開発部で見たレトロゲームに、近いものだった。

 

「是非やって見てください! すっごい楽しいですよ!!」

「“なるほど。ちょっと電源着けて見てもいいかな?”」

「どうぞ!!」

 

 そう許可を得て、テレビとゲーム機の電源を着けてみる。

 電源ケーブルが繋がってるわけでも無いのに、ちゃんと画面に映像が映っていた。

 

「“おお……まさかこのアロナ空間で、ゲームが出来るとは……!!”」

「はい! えーと……確か、10作品くらいあるので!」

「“結構多いね!?”」

「外伝作品とか、色々あるので……」

「先生! どうやらこのゲーム機とテレビ、ゲームデータとして【シッテムの箱】の中に登録されたようです!」

「肯定。……アロナ先輩。と言うことは、わざわざこうしてゲームを起動しなくとも、私達の解析能力で一瞬でゲーム内容を把握することも出来そうですが……」

 

 なるほど、【シッテムの箱】の中にゲームデータとして登録されたなら、結局はデータ。

 アロナとプラナなら一瞬で全て把握出来るだろう。

 しかし……

 

「えー……せっかくなら、普通にやって貰った方が嬉しいんですけど……」

「そうです、プラナちゃん。これはある意味チャンスですよ! この世界に、ゲーム機なんて概念今まで無かったんです! こうしてプラナちゃんと遊べるチャンスなんです! 解析で一瞬で終わらせちゃうなんて、勿体ないじゃないですか!?」

「アロナ先輩……先生、どうしますか?」

「“うん、いいよ。じっくりやって行こう”」

「はい! ぜひ楽しんでやって見て下さい!! 時間がある時にでもゆっくり進めていって下さい! あ、やる順番とか結構複雑なので、おすすめのやる順番表とか渡しておきますね!」

「“ありがとう。助かるよ”」

「さあ、行きましょうプラナちゃん!! 協力プレイでジャンジャン進めていきましょう!」

「このゲーム、一人プレイ専用みたいですが。アロナ先輩」

「……じゃあ、交代交代で進ませて行きましょう! 先生もどうぞ!」

「“分かった。早速やってみよっか”」

 

 そう言って、私はコントローラーを手にとった。

 こうして、アロナとプラナと一緒にゲームをやる事になるなんて思ってもみなかった。

 これはこれで楽しそうだ。

 

 ……? 

 

 そういえば、何か忘れているような……? 

 

 

 ☆★☆

 

 

「……先生? ココロ? おーい……むう、無反応」

 

 私はずっと先生とココロに呼びかけているけど、さっきから反応無し。

 むう。先生はこうして反応しなくなるのは時々あったけど、ココロまで声が聞こえなくなってしまった……

 

 さっきの様子だと、ココロの精神? とやらが先生の端末に入っていったんだと思う。

 

「……みんなで、話しているのかな?」

 

 今までの先生の様子から察するに、先生もこの状態だと、意識を端末の中に落とし込んでいるんだと思う。

 そしてその世界で、アロナって子達と話しているんだろう。

 そこにココロが加わった……と思ってる。

 

「ココロ、その中だと声が聞こえているのかな? もしそうなら……むう、私だけ仲間外れ」

 

 私は想像したことで、ちょっと嫉妬してしまう。

 ココロと話せるのは私だけだったはずなのに、先生達まで話せるようになるかもしれないなんて。

 しかも先生の言うアロナって子とも話せているかもしれないなら、私以上に繋がりが大きくなってる。

 もしそうならずるい……と、そう思っていた。

 

 私は手持ち無沙汰になり、手元のキーブレードを見つめていた。

 ココロの声が聞こえなくなったとしても、キーブレードそのものはここに残ったままだった。

 

「しょうがない、暇つぶしにちょっと練習。【エアロ】」

 

 そうして私は、シャーレの掃除を兼ねて風の魔法を唱えた。

 ……しかし、シーンと何も起こらない。

 

「……? 【エアロ】、【エアロ】! ……むう、私も何も起こらなくなっちゃった」

 

 ……これはもしかして、ココロがいないから?

 私も魔法を使えるようになるためには、ココロが戻っていないといけないのだろうか? 

 むう、だとしたら本格的にやる事がなくなった……

 

「……あ、そうだ。今のうちにシャワー浴びてこよう」

 

 そういえば、私は自転車で来てライディングウェアのままだった。

 このままだと汗の匂いが残ってしまう。それはちょっと恥ずかしい……

 

「書き置きを置いて……キーブレードも、先生の膝に置いておこう」

 

 私はいなくなっていても先生が心配しないようにメモを書いて、机に置いておいた。

 これでよし、と。

 

 私は心置きなくシャーレのシャワールームを借りにいった。

 私が出る頃には、流石に先生の意識も戻っているだろう。そう思って……

 

 

「──先生、いるかしら?」

 

「すみません、私も失礼します」

 

 

 ……そうして、私がシャワールームに入ると同時に、他の生徒がすれ違いで入って来た事に私は気付けなかった。

 

 

 ☆★☆

 

 

「まさか、ゲヘナの風紀委員長さんに会うとは……」

「ええ。確か、阿慈谷ヒフミ、だっけ? エデン条約の騒動の時にチラッと見たけど、あの時の子ね」

「あはは……覚えていただき光栄です」

 

 私はシャーレにちょっとした用事でやって来て、その入り口でトリニティの子に出会った。

 直接の面識はほとんど無いけど、トリニティにしては珍しく話しやすい子で、親切そうな子だった。

 鉢合わせてしまったのがこの子で良かったと思う。

 

「私は先生に渡しに行く書類があったんだけど、あなたも似たようなものかしら? 確か当番ではなかったはずよね?」

「はい……補習授業部関連で、顧問として先生に相談したい事があって、その用事で来ました」

「ふうん……大変ね。そんなに成績悪そうには見えないけど……トリニティは勉強がそんなに厳しいのかしら?」

「いえ、そう言うわけでは無いんですけど……まさかペロロ様ゲリラライブが、テスト当日に開催されるとは思わなくて……」

「……え? ゲリラライブとテストが関係あるのかしら?」

「はい。そのせいでテストを受けられなくて……」

「……え?」

「……はい?」

 

 ……なんだか、話が噛み合わないような気がして来たけど、ひとまず私たちはシャーレに入って先生のいる所に一緒に向かう事にした。

 ちょうど先生のいる階まで登り、扉を開く。

 

「──先生、いるかしら?」

「すみません、私も失礼します」

 

「“──────”」

 

「……あら? 先生……ああ、いつものボーッとしている時の」

「あはは……たまになりますよね、先生」

 

 どうやら、阿慈谷ヒフミも先生のこの反応が無い時の様子を知っているようだった。

 私も最初この状況に遭遇した時は、先生が体調悪くなっちゃったんじゃ無いかと慌ててたっけ。

 確か、先生曰く、【シッテムの箱】のなかで会話してるって言ってたけど……

 

 普通は信じられないようなことだけど、先生の言ってることだから、多分そうなんだろう。

 先生は大丈夫、必要な事だから心配しないでって言ってたけど……今でも実はちょっと心配だったりする。

 

「とりあえず、すぐに先生の意識は戻るだろうからここで待って……あら?」

「なんでしょう、これ……? おっきい鍵?」

 

 見ると、先生の膝の上に見慣れないおっきな鍵が置かれているのが見えた。

 なんだろう、これ……? おもちゃ? インテリア? 

 

 ズズッ……カランッ

 

「ああ、落ちちゃいました!」

「どうしよう……とりあえず拾っておきましょうか? 大事なものかもしれないし」

 

 私は落ちたその巨大な鍵を、手に持ってみる。

 ……意外と手に馴染むわね、コレ。

 ちょうどいい長さと、手ごろな重さ……つい振り回したくなってしまいそうな、そんな感覚がしてしまう。

 

「重く無いんですか? それ」

「大丈夫、意外と重さは無いわ。銃より軽いかも……持ってみる?」

「あ、はい。ふわあ……こうしてみると、本当におっきな鍵ですねえ。キーホルダーもなんか可愛らしいです!」

 

 阿慈谷ヒフミも、実際に手に持って鍵を触りながらそんな言葉をこぼしていた。

 こんなサイズの鍵、見た事ない。何に使うのかしら? 

 

「とりあえず、床に置いておくのも何だし……机の上にでも置いておこうかしら?」

「そうですね。ひとまず先生の机のスペースに……」

 

「“……しまった! シロコと一緒に今日の仕事が!!”」

「あ、先生」

「すみません、お邪魔しています」

「“……あれ? ヒナ? ヒフミ?”」

 

 そんなことを話していると、先生の意識が戻ったようだ。

 

「先生、おはよう。ところで、その鍵なんだけど……」

「はい、先生の膝の上にあったんですけど、どうしたんですかこれ? 落ちちゃったから拾いましたけど」

「“あれ、そうなの? ありがとう二人とも。それ、一応シロコの持ち物なんだ”」

「砂狼シロコの? 彼女のだったの?」

「あれ? でも姿が見えませんね?」

「“あれー? ……あ、机にメモがあった。シャワー浴びて来るって”」

 

 なるほど、言われてみれば彼女の自転車が部屋の隅に置かれてた。

 彼女確か、自転車でシャーレによく来るはず。きっと汗を流しに行ったんでしょう。

 

「“そうだね。ちょっとその鍵渡してくれるかい? 大事なものだから、私が預かっておこう”」

「あ、はい。どうぞ」

 

 そう言って、阿慈谷ヒフミが先生に手渡そうとした瞬間……

 

 ──先生の持ってる【シッテムの箱】から、光の球が現れた。

 

 それが例の鍵に吸い込まれて、鍵が一瞬ピカッと光った! 

 

「うひゃうっ?!」

 

 阿慈谷ヒフミは驚いて、鍵をカランと落としてしまっていた。

 今のは……? 

 

 とりあえず、私は落ちてしまった鍵を警戒しながら、代わりに拾い上げる。

 

「先生、今のは……?」

「“えっと、今のは……うん? ココロ? ココロなのかい?”」

「ココロ?」

 

 急に先生は、何かを呟き始めた。

 

「“うん、うん……ああ、聞こえる! 私にも聞こえるよ!! まさかこっちでも聞こえるようになるなんて、驚きだね!”」

 

 何……? 誰かと、話してる? 

 私じゃなくて、視線の先は……鍵? 

 

「“うん、うん。良かったね……あ、ごめん、ヒナ、ヒフミ”」

「せ、先生? 大丈夫ですか?」

「先生、どうしたの? ……もしかしてだけど、今鍵と喋ってなかった?」

「“あー……うん、実は……”」

 

「……先生、今戻ったよ」

 

「“あ、シロコ!”」

 

 先生が話し出そうとした瞬間に、部屋の奥から砂狼シロコが入って来た。

 タオルで頭を拭きながらやって来たらしい。

 

「あ、先生。戻って来てたんだね。どうだった?」

「“うん、シロコ。ビックニュースだ。私も、ココロの声がこっちでも聞こえるようになったよ”」

「っ!? それ、本当……!?」

「“ああ。一度、彼女と直接会話をしたから出来るようになったのかもしれない”」

 

「あ、あはは……えーっと……」

「……話についていけないわね」

 

「“あ。ごめんね、二人とも”」

「あ。私のキーブレード」

 

 先生たちが、私たちに分からない会話をしている間、話題に入っていけないでいると、先生が私達に謝って来た。

 そして砂狼シロコが、私の持ってる鍵に対して視線を向ける。

 そういえば彼女のだって言ってたっけ。

 

「はい、どうぞ」

「ん。ありがとう、風紀委員長。……ん、ココロ。ただいま。ごめん、シャワー浴びてた」

「……ところで、話がよく分からないのだけど……その鍵と、喋ってるような会話をしていたんだけど、合ってるかしら?」

「“あー……ああ、実はそうなんだ”」

「それって……先生が以前、私達に言っていた、【シッテムの箱】のAIとの会話が私達には聞こえない、みたいなやつでしょうか?」

「それと似たようなことが、その鍵と同じことが起こってるって事?」

「“……ああ。大体合ってる”」

 

 やっぱり……

 今回もすぐには信じきれないような事だけど……でも先生がそう言うなら、そうなんだろう。

 私も、彼と同じ状況を共有出来ないのが、ちょっと歯痒く感じる……

 

ん。私は聞こえる

 

 そう思ってると、ムンッと胸を張ったような砂狼が。

 ……どういうこと? 

 

「……先生、どういうこと?」

「私達には聞こえないのに、シロコさんには聞こえるんですか?」

「“あー、うん……そうなんだ。説明すると長くなるかもしれないんだけど……──え? アロナ、どうしたの?”」

 

 すると、先生が急に【シッテムの箱】に視線を落としていた。

 うん、うん……とうなづいていると、顔付きを変えてこっちに向き直った。

 

「“……ごめん、ちょっといいかい? この近くで、ヘルメット団の騒動が起きたらしい。ちょっとその対処に向かわないといけないんだけど、いいかな?”」

「そうなの? ……ええ、いいわ。私も行く」

「あ! わ、私も行きます!」

「ん。私も!」

 

 私たちは全員、肯定の返事をした。

 各自、持って来た銃の確認をする。

 

「って、砂狼シロコ? その鍵も背負っていくの?」

「ん。ちょうどいい、ココロにもキヴォトスの戦いを見せるつもり」

「ココロって、その鍵の名前?」

「ん、そう。正確には、キーブレードの中にいる、女の子の名前」

 

 キーブレード? 女の子? ……よく分からないけど、多分そうなんだろう。

 ひとまず、私は気にしない事にした。

 

「そう。よく分からないけど、それだったら無くなさないように」

「ん、当然」

「“よし! それじゃあ行くよ、みんな!!”」

 

 そうして、先生の指示で私たちはシャーレを飛び出して、現場に向かう事にした。

 ……そこで、信じられないような光景を砂狼シロコに見せつけられる事になるとは、思ってもいなかった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。