「うぅ…まだ痛い」
こんなに強くつねることないじゃんか~!赤く腫れてるし!うう、これからはフランカは怒らせないようにしよう。
「次もされたくなかったら、もう無茶しないこと。分かった?」
「…分かった」
「ふーん?…その間は何かしらね~?」
再び頬っぺたをつねろうと手を近づけてきたフランカから離れ、ドクターを盾にする。
「な、なんでもない!」
「フランカ、フォルトも怪我はしてないからそろそろ許してあげて…ね?」
「ん~、ドクターがそういうなら一旦は許してあげるわ。一旦ね」
よかった、ドクターのお陰でこれ以上つねられることは無さそう。あぁ、でもなんか後ろから寒気が─?
「ドクター…ありがとう。ついでにアーミヤも、なんとかして?」
其処には可愛い笑顔な筈なのに恐怖を感じる顔で此方を眺めているアーミヤがいた。
「フォルト…頑張れ」
「えっ、ドクター?」
だけどもドクターはお願いしたにも関わらず頭を撫で、そのまま作戦会議を始める為に僕たちを置いて近くの廃墟へ入っていった。
ドクターって何時も一番必要な時逃げていくね!?ど、どうにかアーミヤを落ちつかせないと…。とりあえず、食べ物で釣ってみるか…?それか、なにも言わず手でも繋いでおくとか?いや、意味ないだろうなぁ。
うう、考えている間にアーミヤのこっちを見る目がどんどん冷たくなってる…。どうしよ、どうしよ!
「アーミヤ、えと…あの。ごめんなさい、許して?」
「許しません。少なくともこの作戦が終わるまでは単独行動を禁止します。いいですね?」
「で、でも…僕」
「いいですね?」
「は、はい」
「なら、いいんです。フォルトさんが皆の為に最善の行動を目指してるのは分かっていますから。ただ、そこに自分の身体のことを考えてくだされば私は安心できるんです。だから、リスカムさん達の言うことをちゃんと聞いてくださいね?」
「わ、分かった」
彼女が流してくる感情により、イシンを本心から心配して言っていることが伝わる。
だが、それと共に泥々とした愛情のような何かが蛇のように身体中を巡る。
それは、少しばかりの束縛と恐怖を与えてくる。
本当にアーミヤを怒らせないようにしよう…何されるか分からない。
だってドクターにまだ休んじゃ駄目ですよって脅すヤバいCEOだって噂あるし…。
「フォルトさん…?何か、失礼なことを考えていませんか?」
「な、なんのこと?あ、そんなことより、ドクターが…作戦を決めたみたいだよ。アーミヤ、行こ?」
誤魔化すためにアーミヤの手を握り、ドクターの元へ走り寄る。
「わ、わ!急に走ると危ないですよ、フォルトさん!」
少しバランスを崩しているアーミヤを支えつつ、ドクターの話を聞く。
「アーミヤ、フォルト。ミーシャと思わしき人物を見つけたと報告があった。直ぐ向かおう」
淡々と告げるドクターは今さっきの俺を見捨てたことを気にもしていないようで、少しイラつく。
…?いや、なんでこんな些細なことでイラついているんだ…?最近、感情が制御利きにくくなっている気がする─。
疲れているからなのか?はぁ、これじゃアーツの暴発をしかけないな…。あ!そうだ、ドクターに背負って貰って移動すれば休めるんじゃ─?
「ドクター、疲れたから背負って」
「残念だが私には君を運ぶ体力も筋力もない。他の人に頼んでみて」
いや、そうだよなー。石を投げるときですら運動音痴ぽかったし…。
「あら、それなら私が背負って行くわよ?昔一緒に訓練した時もしたしねぇ?」
「んっ。確かに、して貰ったね。ならお願い、フランカ」
懐かしいフランカの背中は華奢ではあるものの、少しがっしりした感触で安心感が得られる。それにフワフワのしっぽが少し背中に当たり少し暖かくお気に入りだ。
それに、いい匂いがして少し眠くなるなぁ…。
「フランカ、フォルトさんが眠そうなので揺らさないように歩いて」
「もう揺らさないようにしてるわよ~?それにしても、動くと直ぐ眠くなるのは変わらないのね」
そんなフランカさんとリスカムさんの微笑ましい会話を聞き、私は少し羨ましく思ってしまいます。
だって私とフォルトさんは初対面であったあの日以降、長くお喋りできる機会が少なく、何処か避けられている雰囲気すらあったので。
でも、フォルトさんが私のことを大切に思ってくれてることは分かっているんです。
約束は守ってはくれないですが、それでもフォルトさんは…私の目指している道を─テレジアさんが目指した道を尊敬していると、そしてその力になりたいとそう仰ってくれましたから。
そして、何か問題が起きた時…死んでも私のことを守ると。
その時のフォルトさんの目を…心を見たとき私はその言葉が嘘ではなく、本当のことだと分かりました。
だから、私は私のために死ぬことなんて駄目だと伝えました。フォルトさんが死んでしまうのは私にとってもケルシー先生にとっても辛く悲しいことなのだと。
真摯に訴えました、ですがフォルトさんは過去の出来事からか理解を示してくれませんでした。
どれだけ言葉で教えても、行動で示しても…変わらないんです。フォルトさんに対する救いの言葉を見出だせなかった私はケルシー先生には内緒でより詳しくフォルトさんの過去と感情を読み取りました。
そこにあったのは無数の苦しみとなにも出来なかった無力感、そして全てを壊してしまった自分への嫌悪感だけでした。
もう、あの時に"イシン"さんの心は壊れていたんです。
今あるのは全てを不幸にした自分でもせめて、誰かの役に立ってから死にたい…それだけなんです。
その為だけに血反吐を吐くような訓練を繰り返し、強くなること、周りの人の言動、行動を見てその人が喜ぶであろう最適な行動を行おうとしていたんです。
だから、手を繋なぐと喜ぶのも頭を撫でられたがるのも、味もあまり感じない食事を美味しいと食べるのも全て、全て…そうすると周りが少し安堵するから行っていたんです。
今は少しずつ傷が治ってきてはいるみたいで、手を繋いだり頭を撫でられたりすると、居ていいと言われてるみたいで安心するみたいですが…またいつ心の傷が広がるか分かりません。
でも、私は仕事が忙しかったり任務で離れてしまいます。私は─私はその間にフォルトさんが死んでしまったら、心にまた傷を負ってしまったら…そんな考えが頭にずっと過るんです。
私はそれが怖く不安で、出来ればフォルトさんのずっと近くで守ってあげたいと目も離したくないとそう思う程で、いつの日かその考えは大きくなって、その欲望とフォルトさんを守る方法が泥々に混ざって、思い付いたんです。
フォルトさんに手錠を掛けて私の部屋に監禁してしまえば、死んでしまうことも心に傷がつくこともないって。
ただ、それはやってはいけないことでフォルトさんを傷つけてしまうことだって思うんです。
なので、今はフォルトさんの隣へ立ち、手を繋いで常にフォルトさんを見守ることでこの感情を落ち着かせているんです。
だけど、フォルトさんが他の方と親しくしていると何故かどれだけ近くにいても心がなんだかモヤモヤするんです。今のリスカムさんやフランカさんの会話を聞くと特に。
この気持ちは何なんでしょう?…後でドクターやケルシー先生に教えてもらわないと─。
何か嫌な雰囲気を感じ取り、目を開ける。
そこにはただただ何もない空間と7つの門があった。その中の3つには南京錠とお札のような何かが貼っていて封印されてるみたいだった。
「此処は?俺はたしかフランカの背中で寝て…?」
そう口にした瞬間にイシンの人格が失くなってしまっていることに気がついた。
「どうなってるんだ?何故、イシンの人格がないんだ!?」
幾つもの考えを巡らすも検討もつかず焦りと不安が大きくなっていく。
その時、一つの門が開き中から見覚えがある女の子が出てきた。
「んお?フォルトか。むむ…しかし?何故この空間におるのじゃ?」
鈴を転がすような綺麗な声で喋る小さな子はこの世のものとは思えない程美しく、それでいて妖艶で思わず唾を飲み込んだ。だが、とりあえず何かを知ってそうな彼女に話を聞こうと心を落ち着かせる。
「あーっと、寝たらなんか此処に来ていたんだ。ただ、此処が何かも知らないんだけど何か知っているかな?」
「ふむ、寝ていたらか。まぁよい、此処はお主の指輪の中、正確にはソロモンの指輪の中じゃな」
「じゃあ、君は悪魔か。なら、色々と聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「よいぞ、お主と話せるのは嬉しいからのぅ。このままずっと此処におってもよいのだぞ?」
微笑みながらそういう彼女は冗漫ではなさそうだ。少し気を閉めていこう。
「それは遠慮するよ。まだやるべき事がいっぱいあるからね。とりあえず一つ目の質問だけど、俺が君たちの力を借りたときの対価についてだ。これについては具体的に教えてもらいたい」
「対価か。借りるものにより変わるが基本的には儂らが冠している感情の増加と儂らの欲求の解消じゃな。そこに、要求次第でお主の生命力という形じゃ」
感情の増加…?それってもしかして最近些細なことでイラついている事関係しているんじゃないか?憤怒は最近一番使ったしあり得るぞ。
「その感情の増加ってどんな感じだ?些細なものなのか?」
「それはお主が一番知ってるだろう?儂によって怒りの感情が増えたことがのう?増加に関しては使ったものによるからなんとも言えんのう」
「くそっ、やっぱりあれはお前の仕業か?何が目的なんだ?」
「目的か。ふむ、儂はのぅ?お主が憤怒している姿が見たいのじゃ。怒り狂って見栄えなく殺戮をするのもよいし、怒りながら泣くのもよいのじゃよ。あぁ、それか儂に馬乗りになって殴るのもそそるのぉ?」
光悦とした顔で妄想する彼女は確かに悪魔であった。自らの欲望に溺れ強要するところが特に。
「ははっ、それは笑えないな。つまり、お前ら悪魔は冠している感情をしている俺を見たいってことか」
「まぁ、要約すればそうよのぉ。んで、次の質問はなんじゃ?」
「…二つ目は何故力を貸してくれるかについてだ」
「それは、儂らがお主のことを愛しておるからじゃ。だから力を貸してるだけのことよ」
「たったそれだけの理由なのか?他に何か企んでいるとかではないのか?」
「ないぞ。ただ単にお主の魂に惚れたのじゃ。無垢で清らかで美しいその魂にのぉ」
魂…か。ただそれだけでこんなネームドの悪魔に好かれるとはな。
「そうか、分かった。じゃあ最後の質問だ。俺に生えた悪魔のしっぽと翼はお前らの仕業か?」
これが一番重要だ。イシンを傷つけたこの身体的特徴がこいつらのせいなのであれば、俺はこいつらを許すことは出来ない。
「ああ、そうじゃな。それは儂らの影響に依るものだと断言できるぞぉ?ほら、儂とお揃いじゃろう?」
そう見せてきたしっぽと羽は確かに似たような見た目で、イシンを傷つけたものがこいつらということが分かってしまった。
「…そうか。あぁ分かった。ありがとうな」
沸々と湧いてくる怒りを抑えるように拳を握りしめながら憤怒の悪魔の顔を見る。
彼女は満面の笑みで俺の怒りを喜んでいるみたいで余計にイラついてしまう。それがこいつを喜ばせることを理解しているのに…。
「そうか、そうか!じゃあ最後に儂からも一つ要求するぞ?なに、一瞬じゃからのぅ。ほれ」
そう言い彼女が指を動かした瞬間、心の底から怒りがやってきた。それは、拒否しようがなく気持ち悪い。だが沸々と湧いてきた怒りに飲み込まれ、それはたちまちマグマの様に噴火した。
「お前らのせいで!!イシンがどれだけ辛い思いをしたか!分かってるのか!?なぁ!憤怒ぉ!」
理性など投げ捨て本能だけで彼女を殺そうと振った拳は彼女の頬を捉え、後方へとぶっ飛ばした。だが、操られた怒りはまだなり止まない。
そのまま、妖美な笑みを浮かべ倒れている彼女へ馬乗りになり、殴り続ける。
自らの拳が砕けようと彼女から流れる血を浴びようと止まらない怒りにより、頭がおかしくなりそうになりながら使えなくなった拳から脚への攻撃へ切り替え暴力を振るう。
そうして絶え間ない暴力を繰り返す時間が続いた。
何時まで経っても消えない怒りと暴力を振るって出来た傷が痛みにより意識が飛びそうになった時、視界が白く点滅し、目を閉じた。
「なんじゃ。もう終わりかのぅ。じゃが、楽しかったぞフォルト♡」
忌々しい言葉を聞き流し、全てを埋め尽くす光に飲み込まれた。
「フォルトさん!フォルトさん!大丈夫ですか!?」
目が覚めた瞬間、目に入り込んだのはライトを目に当ててくるアーミヤの姿だった。
心配してくれてるみたいだ。だけれど、今さっきまでの気持ち悪さが残っていてアーミヤを押し退けて、地面へ胃液を吐き出す。
自らの感情を操作されるという体験はもう二度としたくない。見た目がか弱そうな少女を死ぬ程殴っていたこともその状態で愉しそうに笑うアイツもキモチワルイ。
「うおぇぇ!かはっ!はぁ…はぁ」
「…悪い夢を見たんですね。大丈夫です。ここは大丈夫ですから」
背中を優しく擦ってくれるアーミヤの暖かさが心を落ち着かせてくれる。そうだ、あれは悪夢なんだ。大丈夫、大丈夫。平気だろ。
「すぅー…はぁ。ありがとう、アーミヤ」
「…落ち着きましたか?他に具合が悪かったりはしませんか
?」
「大丈夫、だよ。もう…平気」
少し強がりながら、立ち上がる。いま、ボサッとしている暇はないんだから。
新年明けましておめでとうございます!今年もよろしくお願いいたします!っということでくそ久しぶりの投稿になりました。ごめんなさい!!
と、とりあえず21人の方お気に入りありがとうございます!これからは、もっとなる早で投稿できるよう頑張りますのでゆっくりとお読みいただけると幸いです!
300人突破記念の書いてほしいもの!
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