過去の記憶を探りながら薄汚れたスラムを歩く。
頭から捻り出せたのはミーシャが何があって死んでしまうことと、それによりアーミヤが悲しむことだけで詳細は何一つ思い出せなかった…これでは対策のしようがない。
それに、今一番怖いのは思い出せない所で誰かが死んでしまうことと自らの行動による未来の変化だ。
俺は死んでしまうはずだったAceを助けた。それはアニメで見た未来を変えることが出来るということ…。つまりは、死ぬ筈ではなかった人が死んでしまう未来へと変わってしまう可能性もあるということだ。
その死んでしまう人が誰かなど分かる筈もない。そして、今までのように事前に知っているから助けられたものも取りこぼすかもしれないのだ。
あの日誓った誓いとは別に、俺とフォルトは選ばなければいけない。
アニメのストーリー通りに行動することで未来を確定させ、ストーリーで死んでしまう人を諦めるのか。
それとも、感情のままにストーリーを無視し本来死んでしまう人を助け、未来が未確定のまま…いつの日かこぼれ落ちてしまうかもしれない雫を守り続けるのか。
一つ目の選択肢ならば、アーミヤ、ケルシー等のロドスの仲間は生き残る。ただ、その代わり死んでしまうと分かっているフロストノヴァやミーシャを見殺しにすることになる。それは、自らの命を捨ててでも全てを助けると誓ったフォルトの願いを無視することになる。
それが、後にフォルトの心の傷になるかもしれないのだ。
二つ目の選択肢では、フロストノヴァやミーシャは生き残るかもしれない。ただ、その代わりにアーミヤやケルシーが死んでしまう可能性が出てくる。それ上、欠けているが知識がある一つ目と違い、こちらでは記憶があるという優位性が失くなるのだ。つまり、身のままの力とあのデメリットがある悪魔の力をたより続けることになる。
それに、いつ危機があるか分からない。それはフォルトの精神を磨り減らすのに充分なものなのだ。
つまり、どちらも一長一短でどちらが正しいかなんてものはない。
そして…残念だが、長く考える時間はない。アニメではミーシャが死んでしまうまで確か3話程度しかなかった筈だ。
あぁ…だけど、多分だが…フォルトは二つ目の選択肢を選ぶだろう。
誰かが死んでしまうと分かっていて助けないのは出来ない質なのは良く分かっているからだ。
でも…でも、俺はロドスの皆には生きてほしい。もちろん、フォルトにも。その為には取捨選択をしなければいけない。
助からない物に手を伸ばせばこちらこそ無事では済まないだろう。
現に今、力を使った代償に心臓に何らかの異常と感情に幾らかの淀みが混じっている。
このままでは、フォルトを救うことなど出来なくなってしまう。
だから、俺は一つ目の選択肢を選びたい。それが出来れば…だが。
その考えを片付ける前に、視界にイヤな靄が現れた。
死の気配とともに嫌な予感がするのだ。今すぐに動かなければ後悔するという嫌な予感が。
だから、アーミヤに謝ってから行こう…無茶をすることになるだろうから。
「ごめん…アーミヤ。約束破る」
誰にも止めれない様に全速力で走る。
後ろから、大切なものの悲しい声が引き留めようにも止まらないためにも。
その靄は幾つかの建物を越えた先の一つの建物にあった。靄を覆いその建物に入っていく。
その時、思い出した。此処は確かミーシャと会うところだ。ならこの嫌な予感はミーシャに何らかの危機が迫っているということだろう。
そして、一つの小部屋へとたどり着いた。その部屋からはミーシャの嫌がる声と助けを求める声が鳴り響き、小悪党が何かをしようとしていた。
「バレなきゃ問題ないだろ?それに、俺たちにも楽しみは必要だろ」
「嫌!止めて!なんでこんなことするのよ!」
その言葉らからそれが何か気づいてしまった瞬間、身体の制御が効かなくなった。
息を整えて、飛び出す。目の前に写った現場は想像通りだった。
三人で幼気な少女を押し倒していたのだ。あぁ…この悪魔どもが!なんでそんなことをしようと考えるんだ!?
紅く染まった思考に止まることはなく、悪行に手に掛けようとする獣へ襲い掛かる。
まずミーシャの服に手を伸ばした男を蹴り飛ばす。壁に叩きつけられ、苦悶の声を漏らすのを確認してから事態を呑み込めていないもう一人にも回し蹴りをお見舞いする。
そこでやっと事態を呑み込めた最後の一人がミーシャの喉元へナイフを押し付け、殺すぞと脅しを掛けようとしてくる。
だから、相手に予測が出来ない程の速さでその腕を掴む。
そして、キリキリと骨から悲鳴をあげ痛みを叫ぶ相手に囁く。
「ナイフを下ろして、彼女を離せ…。そしたら、こっちも離してやる」
「あぐぅっ!わか、分かった!離す、離すから!」
からんと落ちたナイフからの音が鳴り、ミーシャが自由になった瞬間に、その悪魔を壁へ叩きつける。
そして、全員が身動きが取れなくなったのを確認し、ナイフを取り出す。この後の惨劇を見せないため少ない理性を振り絞ってミーシャへ話しかける。
「君、外へ出て…ウサギの少女に話し掛けて。そしたら、少しは安全になる」
「えっ、その何をしようもして…いや、分かった。助けてくれて…ありがとう」
そして、ぱたぱたと軽い足音をたてて立ち去るミーシャを見送り、悪党へ近づく。
「ねぇ、君は…あんな子に、何しようとしたの?」
「な、何にもしようとしてねぇよ!」
嘘を叫ぶ悪党にナイフを首の真横へ突き刺し、質問を続ける。
「そっかぁ…。僕がそれで騙されると、思ってる?残念だけど、騙されないよ。次、嘘ついたら、このナイフが…君に突き刺さるから」
「ひ…ひぃ!分かった!ちゃんと話す!お、俺はあの子を襲おうとした!これでいいか!?」
「やっぱりそうだったんだ。あー、こういう時ここっちだと…こう言うんだよね?*龍門スラング*…って」
感情の赴くままに汚い言葉を投げ掛け、ナイフを脚へ振り上げる。
そして、悲鳴と共に汚い血が地面を汚していく。あぁ…煩いなぁ。
「あぁ!?くそっ!なんでだよ?!ちゃんと話しただろうが!」
「ねぇ、これぐらいで…叫ばないで?次の質問…君はこれまでに、どんな悪行をどれだけした?」
「し、してねぇ!他にはなにもしてねぇよ!だから、許してくれぇ!」
「…そっかぁ、分かったよ。じゃあ、お休み」
嘘はついていなそうだったから予備のナイフを取り出し、その煩い頭へナイフを刺そうと振り上げた。
だが、それは突き刺さる事なく、途中で誰かに止められた。
誰かと振り返った。そこにいたのは何故か苦しそうな顔をするフランカだった。
「フォルト、やめなさい。そんなことしても誰も報われないわよ」
優しく諭すようにナイフを取り上げ、フォルトを包み込むように優しく抱擁をしてくる。
それは、暖かくこの心を絆そうとしてくる。でも、満足できない、満たされない。もっと…もっと滅茶苦茶に─?
そこで、悪党の怯える目が見えた。それはまるで…悪魔を見るような視線で…恐怖に満たされていた。俺は…俺は何を、していたんだ?
もう抵抗も出来ない人を傷つけて、殺そうとして…それで何を満たそうとしていたんだ?なんで、それを正しいと感じていたんだ?
自身に対する恐怖が浮かび上がってくる。もう、こんなに俺は変えられてしまったのか?それとも、これが俺の本性なのか?
分からない…。だが、次にこの牙が何処へ向かうか…それを想像しただけで恐ろしい。そして、そんな思考をしてしまったからか口からフォルトの言葉が溢れ落ちた。
「ごめんなさい…ごめんなさい。こんなこと、する筈じゃ…なかったの。僕は、こんなこと─」
自責の念に駆られ、涙が溢れ落ちる。そして、血で濡れた自らの手を見ないように遠ざける。
「分かってる…分かっているわよ。大丈夫、貴方のトラウマが駆り立てただけなの。だから、落ち着きなさい」
視界を手のひらで覆ってフランカはそう囁く。この現実を隠すために。
「フランカ…フランカぁ、僕…僕おかしくなっちゃったの。頭がぐちゃぐちゃで、止まらなくて!殺せ、殺せって!」
一度漏れた声は止まることを知らず次々と漏れ出す。それ程の恐怖を当てられたのだ。
「えぇ、えぇ…そうなのね。今はどう?殺せってそう感じる?」
「感じない…感じないけど、怖いの。いつこの感情が誰かを襲うか分かんないから…」
「そうね、確かに。でも大丈夫よ…今の私みたいに誰かが止めてくれるもの。それに、まだ10歳じゃない。こんなこともあるわよ。私も何回か感情に任せて暴れちゃったこともあったしねー?その時は周りの世話になったものよ?だから、私みたいに成長すれば感情なんて抑え込めるようになると思うよ」
過去の経験も交えて諭すように話すフランカの話はスッと入ってきて理解がしやすく、優しい声色で落ち着いて聞くことが出来た。
「そう…なんだ。分かった。それまで…気を付ける。感情任せにならないように」
「えぇ、それでいいと思うわ。じゃあその泣き顔と汚れた手を何とかしといて?アーミヤちゃんがこわーい顔してたから見せない方がいいわよ?」
「えっ…そんなに─ひっ!?」
顔を上げフランカの顔を見ようとした後ろに、確かに恐ろしい顔をしているアーミヤがいた。
「私…そんなに怖い顔をしていますか?でも、とりあえず移動しましょうか。こちらにレユニオンが集まっているそうなので。あ…後でちゃーんとお話しましょうね?フォルトさん?」
笑顔とは元々、威嚇の意味であったことが良く分かる微笑みでこちらを見るアーミヤに引きずられ…建物を出る。そして、一緒に移動する中にミーシャもいた。どうやらちゃんと保護が出来たようだ。
アーミヤの説教から逃れるべくどうにか助けを求めるものの、ドクター達は無視を決め込んでいた。
「その、私はフォルトくんが助けに来てくれてなかったら危なかったと思う。アーミヤ、だから許してあげて?」
他の皆とは違いミーシャはそう話してくれた。優しい…。
「確かにミーシャさんを助けたのは偉いです。でも、相談もなしに飛び出していっちゃったので、私は怖かったんですよ?無茶して死んでしまうのではないかって。それに、約束を破ったので余計に許せません」
「うぅ…ごめんなさい。アーミヤ、でも相談している余裕なくて…」
「はぁ…分かりました。理由も理由ですし…一旦、それで納得してあげます。でも、次はありませんよ」
なんとか納得してくれたアーミヤは手を繋ぎ、これからペンギン急便と合流することになったと説明してくれた。
なんでも周辺のレユニオンが此方へ包囲をしながら近づいてきているのだそうだ。…ここは原作通りに進んでくれてる。
だが、安心は出来ない。もう既に変化はあった。些細な変化ではあったがこれ以上変化してはアニメの知識は意味がなくなるだろう。
もっと動きに気を使わなければいけないな。そう考え、息を吐く。
廃れた都市の中に渦巻く陰謀は、空気のように留まることを知らないようで、恐ろしいことに選択肢を選ぶ余裕もないようだ。
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