救いのために   作:ヒナまつり

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12話

 

 暖かく柔らかな感触に包まれながら、目を覚ます。

 

 ここは…ロドスの艦内か。─じゃあ、最後にあったのはやっぱりケルシーだったのかな。

 

 運が良かった…。多分、あの時…ケルシーに会わなければ死んでいただろう。

 

 でも…やっぱりアイツらに、身体を弄られたのは間違いないんだろう。

 

 どれだけケルシーが医学に優れていようにもあの怪我を完治させるのは不可能なはずなんだ。

 

 だって足の骨は折れていただろうし、頭にも多少の怪我を負っていた筈なんだから。

 

 でも、今は傷ひとつない。

 

 まぁいい、直ぐ動けるようになるのは御の字だ。とりあえず、早く前線に復帰しなければ…

 

 自らに繋がれた管を取り外し、ケルシーに会うために部屋を出る。

 

 次いでに置いてあった装備などを着込みながら予備のナイフなども補充する。

 

 そして、ケルシーがいるであろう部屋へたどり着いた。

 

 うっすらと扉からわずかに漏れ出る光から、居ることは間違いないんだろう。

 

 とりあえず数回ノックをして、返事を待つが反応がない。

 

 うん?寝ているのかな…。

 

 そう思い、起こさないようにそっと扉を開き、中を覗き込んだ。

 

 でも、ケルシーは机に座りブツブツと呟きながら何かの少し古そうな手紙を読み、何かを考え込んでいるみたいだった。

 

 その横顔からは何かを悔やんでいるような、悩んでいるようなそんな色が見えた。

 

 あのケルシーがこんなに悩むなんて…珍しいこともあるんだな。

 

 そう思いながら、彼女の肩に手を伸ばすために近くへ寄る。

 

 それは、必然的に彼女の呟く小さな声を聞き取ることになることを俺は忘れていた。

 

 「彼はこのまま無茶を続けるだろう。そして、その末路は君のように私の見ず知らずの間に命の灯火が消えることとなるだろう」

 

 「私は、その事態が起きた時に正気を保っていられる気がしないのだ。私はこの数万年に数多くの命を蔑ろにした。それは苦痛は伴うが目的のためと割りきることが出来た。それに、私自身が孤独であることをよく知っていった」

 

 「だが、ロドスでの生活を─彼との交流を続ける程、私は脆くなってしまった。それは肥大化し、彼の死を直感するだけで手が震えるほどになり、今も私に不安という種を植え付ける」

 

 「テレジア、君は─私のことで…今の私のように頭を悩ませていたのか?」

 

 そして、その言葉で彼女が悩み苦しんでいるのは俺のせいのだと悟った。

 

 それに、多大な感情を向けられていることも。

 

 今の彼女は何処か、孤高で高貴な猫ではなく道を見失った哀れな子羊に見えて…僕はそんなケルシーを包み込むように抱擁した。

 

 少し冷たい体温と女の人特有の柔らかな身体。そして、薬品の混じった匂い。

 

 どれも何時もと変わらないのに今はその一つ一つが彼女もただの人であることを主張しているように感じる。

 

 「ケルシー…確かに、僕は何時の日か死ぬと思う。それがいつか、僕には想像つかないけど…けれど、ケルシーを一人には、しないよ…」

 

 「それに、例え僕が死んだとしても…ケルシーには、いっぱいの家族がいるよ…?ドクター、アーミヤ…それに、ブレイズやロスモンティス。そして、ロドスの皆が…ね?」

 

 彼女の心を少しでも癒すために拙い言葉を紡いでいく。だけど、言葉を間違えてしまったのかもしれない。

 

 ケルシーは急に立ち上がり、僕を…ベッドへ押し倒してきたのだ。

 

 「確かに、今のロドスには数多くの仲間がいる。だが、それが君の変わりになるものか!なぜ君は自らを軽んじるんだ!」

 

 そう叫ぶケルシーの顔には何処か懐かしいものを感じた。

 

 そういえば…前世でも同じことを言われた気がする。誰だったかは忘れたが…でも、その時彼女を落ち着かせた方法は覚えている。

 

 「僕よりも、君を…皆を守りたいから。皆を愛しているから、だから…僕は僕の命を使っている」

 

 彼女の頬へ手を伸ばし愛撫する。普段の仏頂面ではなく、目に涙を貯めて溢れ落ちそうな彼女をもう、見ることはないと思っていたのに。

 

 「君が命を支払ってそれで、私達が満足するとそう思っているのか?残されたもの達の気持ちも…お願いだから考えてくれ」

 

 弱く縋るように、俺の胸元へ崩れ落ちる。ケルシーの顔はもう見えない。

 

 「確かに、残された人は…無力感とその人を、自分が殺してしまったと、苦しむことは…僕も知ってるよ。だから、出来るだけ死なないように、頑張る」

 

 いつの間に生えていた黒い翼がケルシーを包み込み、僕は彼女を諭すように撫で続ける。

 

 「…そうか。なら私も君が死なないように君を守ろう。けれど、もし君が死んでしまったら…私は私を保つことが出来ないかもしれない。使命のために動き続けるだろうが、私という自我は塞ぎ込むだろう。だから、今…私に君が生きている実感をくれないか」

 

 顔を少し上げたケルシーの瞳は不安により震え、猫のような瞳孔はこちらを愛おしそうに、そして…実在するか確かめるかのように鋭く射抜く。

 

 僕はその声に答えるしかなかった。でなければケルシーはどんどんと壊れてしまいそうだったから。

 

 だから、彼女の頬を優しく掴み…唇を交わす。

 

 それは、一瞬であった。でも、それでは満足できないと言うかのようにケルシーは二度目、三度目とどんどんと長くなるキスを交わした。

 

 僕がどこにも行かないように、少し爪を立て力強くぎゅっと抱きしめる。

 

 それは、獲物を渡さないように捕食する猛獣みたいで少し怖かったけれど彼女なりの愛情表現だと感じ取り、身体を許す。

 

 そして、最後の長い、長い口づけが終わって僕らの間に唾液で出来た橋を作る。

 

 もうケルシーの瞳は震えることなく、瞳孔はこちらをしっかりと見つめていた。

 

 「ケルシー…落ち着いた?」

 

 「ああ、すまない…フォルト」

 

 冷静になったのか、申し訳なさそうな顔をしているケルシーは僕を起こすと椅子へ誘導してくれた。

 

 そして、少し照れくさい雰囲気を遮るためか次の作戦のことを話し始めた。

 

 「フォルト、次に君が望む作戦はミーシャの奪還作戦だ。君にはドクターを守りつつ、索敵に尽力してほしい。そして、私は事情により、参加することが出来ない…だから、無茶だけはしないように。分かったか」

 

 「うん、分かった。ちゃんと帰ってくる」

 

 「よし、ヘリは手配してある。準備が出来次第デッキへ向かってくれ」

 

 必要最低限の会話を済まして、デッキへ向かう。

 

 約束してしまった以上、死なないように気を付けなけれないと。

 

 ヘリの窓から見える綺麗な夜空にそう呟いた。




これは、曇らせなのか?

そんな文になってしまったので、後で修正するかもです。

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