救いのために   作:ヒナまつり

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13話

 

 都市を抜け、砂漠のような荒れ地へとたどり着いた。

 

 ドクター達はここで戦闘しているみたいだ。

 

 けれど、砂嵐と兵士の叫び声や打ち合う金属音が様々な方向から聞こえ、ドクター達の位置が分からない。

 

 これじゃあ…僕の出る出番はないかも。

 

 そう呟きながら、薄濹色の空を眺める。

 

 ドクターの通信によれば今から奇襲作戦をするみたい。

 

 先ずフランカとリスカムが先導し、高台の確保を出来るか偵察しに行くらしい。

 

 僕はその間に打ち上げるフレアでドクター達との合流を図る手筈だ。

 

 「フォルト…もう怪我は平気なんだな?」

 

 「ん…平気だよ。それで、着陸はどうするの?ヘリじゃ近づけないよ」

 

 まぁ…あんな怪我直ぐ治るわけないしドクターが気にするのも当たり前だよね。

 

 俺もこんな直ぐに治ってるのが不思議だし。まぁ…絶対アイツらのせいだろうけど。

 

 「私たちは砂嵐から離れた地点へ移動するからパラシュートで移動してきてほしい。ただ、もし砂嵐が肥大化するようなら遠方に着陸してから合流するように」

 

 「分かった」

 

 そして、パラシュートを装着し…フレアの合図で飛び出した。

 

 強い風に靡かせられながらもドクターの元へ飛んでいた時、視界の隅で何が光った気がした。

 

 なんだろう…そんな疑問を浮かべていた時、物凄い速度で何が飛んできた。

 

 それはパラシュートの直ぐ側を通り過ぎ、周りの空気を切り裂いた。

 

 その影響で轟々と激しい風がパラシュートを襲う。

 

 それにパラシュートが煽られ制御が出来なくなり勢いよく後方へ吹き飛ばされる。

 

 何とか制御を取り戻そうとしたが砂嵐に飲まれてしまった。

 

 ─ヤバイっ!このままじゃ、合流なんて!それにもしレユニオンが固まっている所へ降りちゃったら…。

 

 最悪の状況を想像してしまい焦る頭をケルシーとの約束を思い出しながら落ち着かせて…しょうがなくパラシュートの紐をナイフで切り地面へ着陸した。

 

 「ここ、どこ?」

 

 高さがそこまでなく地面が運良く砂だったため、怪我はなかったものの砂嵐で無線が繋がらないし、視界が悪すぎる。

 

 ─ふぅ。でも…近くに洞穴みたいなものがある。これなら一時的に身を隠すことが可能だろう。

 

 そう思って、とりあえず洞穴へ転がり入る。

 

 薄暗い洞穴はかなり広く、人が一人住むことも出来そうな程だった。それに、中に入り口からは見えない他の洞穴がありそう簡単に見つからなそうだ。

 

 ─これから、どうしよう。ドクターとの合流をするにも場所が分からない、そもそもここが敵の陣地の中なら動くことさえ危ない。

 

 考えれば考える程絶望的な状況に最早笑うしかないだろう。

 

 そんな時、頭に流れ込んでくるイシンの考えはこの状況になった時、scoutがいたなら直ぐ解決できたのにだった。

 

 そして、もう死んでしまったのに…という考えが頭に過った瞬間、不安と恐怖が混ざり、取れていた調和は崩れてしまった。

 

 「scout…scout─。僕、scoutが居ないと、どうすればなんて…分かんないよ…」

 

 大きな雫が床を濡らしていき、小さな嗚咽と頭に過る言葉とも言えない言葉を垂れ流していく。

 

 まだ、10歳の子だ。一回思考の整理をしただけでは納得できていなかったのだろう。

 

 それに、戦場では今まではscoutの指揮に依存していた。戦場の理解はあるものの戦場を俯瞰する術は与えられていないのだ。

 

 だって、scoutが指揮していたから。イシンはその指揮に従うだけだったのだ。

 

 一筋の光によって明るかった心は砂嵐で蓋をされたこの洞穴のように闇へ染め上げられた。

 

 そして、そんな折…何かがランタンを抱え洞穴へ入ってきた。

 

 まだこちらの姿は写ってないようだが、ここに落ちたことは気がついているみたいだ。

 

 だが接近に気がつかない程、泣いていたのかと思いつつクロスボウを構える。

 

 ─ケルシーとの約束守れそうにないや…でも、どうせ殺されるならせめて、一撃だけでも。

 

 だが、敵はこちらの考えを読んでいたのか射線が通らない場所から何かを投げてきた。

 

 それは、球体で…多分爆発物だろう。そう気がついた瞬間に前へ走り出した。

 

 どうせ待ち構えているだろうけどなにも出来ずに死ぬよりはいい筈だ。

 

 そして、クロスボウを持ちながら飛び出した。

 

 だが、その者の姿が見えた瞬間引いた矢は、そいつには突き刺さらなかった。

 

 クロスボウを上へ逸らされたのだ。

 

 そして、反動により直ぐに動けない俺の手からクロスボウを叩き落とし、壁へ押し付けられた。

 

 その衝撃にぐらつく視界と壁へ押し付けられ体格差からつかない足で負けてしまったことを理解した。

 

 そこにはイシンがもっとも会いたくなく…そして負けたくもない相手が愉快な笑顔を浮かべながらいた。

 

 「あんた、軽すぎるわね?ちゃんとごはん食べてるのかしら?」

 

 「W…!…殺すなら早く殺せ!」

 

 おちょくるような言葉と表情にイラつきながら睨み付ける。

 

 「あら、つれないわね。折角いい提案をしに来たっていうのに」

 

 「そんな話聞くわけ…ない!お前がやったこと、忘れてないから!」

 

 「それは、scout達のことかしら?あれは上から指示されただけよ。私の意思は絡んでないわ」

 

 「っお前が!scoutを殺した!意志がなかったにしろ、それは事実でしょ!?だから…僕はお前を許さない!」

 

 怒りと共にアーツを起動させようと詠唱をし始めた瞬間、Wの通信機から聞き慣れた声が聞こえた。

 

 「W…それまでにしてやれ。フォルトがアーツを使おうとしているぞ」

 

 ─嘘だ、絶対にあり得ない…筈だ。でも、聞き間違える筈ない。この声はいつも聞いていたから。

 

 「チッ。scout、もう少し待ってなさいって言ったわよねぇ?」

 

 「scout…?」

 

 思わず口からその名前が漏れた。

 

 「ここで本格的に戦闘し始めたら崩れるだろ?─ああ、フォルト。久しぶりだな?元気だったか?」

 

 そう言いながらscoutは洞穴に入ってきた。衣装は何時もと違うけれどscoutだ。

 

 言葉にすらならない嗚咽が漏れ、その存在が幻ではないか確かめるようにscoutへ抱きつく。

 

 「scout…scout!生きてて、良かった…!」

 

 やっと言えた言葉はそれだけだった。

 

 「はぁ、男なら泣き虫な所直せって言ったろ?まぁ、でも。俺が居ないのに良く頑張ったな」

 

 頭をポンポンと優しく撫でながら呆れたようにそう呟き、もう一方の手で涙を拭いてくれる。

 

 必死に涙を堪えようとするけど、溢れてくる涙は止まることを知らない。

 

 「よくもまぁ、私を無視できるものね?」

 

 Wは、そんな感動の瞬間を邪魔するように僕を抱えた。

 

 「…離して」

 

 「嫌よ。それで…フォルト?あんたに…いい提案をしてあげるわ。…私の目的が果たされるまで一時的に私の味方になりなさい。その代わりにscoutに取り付けた爆弾を外して生きて返してあげるわ」

 

 そう言って指差すscoutの首には首輪のようなものが赤く光っていた。

 

 「爆弾…。その提案を呑んだら本当に、外してくれるの?」

 

 「ええ、私は嘘なんかつかないわ。それで、どうするの?提案を呑んでロドスを裏切るのか、今scoutと共に死ぬのか。あんたはどっちを選ぶ?」

 

 ─どうするべきなのだろう。scoutには死んでほしくない。でも、ロドスを裏切るのも心苦しい。scout…僕は、どっちを選ぶべきなの?

 

 視線でscoutへ質問する。scoutはその視線に気づいてその答えはお前が決めろと目で伝えてきた。

 

 …ロドスを裏切るのは一時的だ。戻れるかは分からないけどずっと裏切る訳じゃない。scoutとイシンを守るには提案を呑むしかない…筈だ。

 

 「…分かった。その提案、呑むよ。…僕は何すればいい?」

 

 「あら、そんな即決でいいのかしら?ロドスはあんたの家なんでしょ?」

 

 「そうだよ…。でも、scoutが死んじゃうぐらいなら、僕の家なんてなくていい」

 

 「ま、そう言うと思っていた。W…それで今はやるべきことがあるんだろ?さっさと終わらせに行くぞ」

 

 scoutは分かりきってたみたいで直ぐに動く準備をしているが、Wはこんなにあっさりと提案を呑むと思ってなかったようだ。

 

 「まぁ…いいわ。それじゃあフォルト?あんたにやってほしいことがあるわ」

 

 笑顔で伝えてくる作戦はまぁ…俺とイシンの心を抉るようなそんな作戦で酷いもんだった。

 

 でも、しょうがない。scoutが生きるためだ。─だから、しっかりと仕事を果たそう。

 

 


 

 「ドクター!フォルトさんとの通信はまだ繋がらないですか?!」

 

 「…繋がらない。だが、生命反応はまだある。今は一刻でも早く戦いを終わらすんだ。そうすれば自ずと助ける時間が出来る筈だ」

 

 戦場は、ロドス側の優勢で徐々に戦線は前進をしている。

 

 ちゃんとした訓練を受けたロドスのオペレーターと龍門にとってまともな訓練を受けてないであろうレユニオンは驚異になりえない。

 

 だが、直ぐに制圧できないのは視野を遮る程の悪天候と山岳地帯という立地の問題だ。

 

 そのせいでオペレーター達は疲労やフォルトを心配するものは精神的に弱体化している。

 

 そして、時間が掛かりつつもリスカム達が高台で伏兵を捌いたその時、レユニオンが急に反転し撤退を始めた。

 

 「どういうことだ?ここでの撤退は…まさか、囮か!?」

 

 ドクターがそう呟いた瞬間、目の前がホシグマの身体で覆い尽くされた。

 

 そして、爆発音と爆煙がドクターの五感を襲った。

 

 ─何が、起こった?

 

 急な展開に理解が追い付かない。ただ、目前に敵が居るのは確かだ。今は敵が突破しないようにホシグマが守ってくれるのを信じるしかない。

 

 「…クター!──離れて!」

 

 アーミヤの焦る声が聞こえた。だが、もうその時には遅かった。

 

 ホシグマを押し退けてこちらに走り出すスカルシュレッダーの手には赤く溶けた榴弾が握りしめられていたのだ。

 

 ─あぁ、これは死んだな。

 

 不思議と頭で直ぐ理解できた。これでは逃げても間に合わないのだと。

 

 こちらに走るスカルシュレッダーがゆっくりと見え、走馬灯のように過ぎ去る時間に耐えきれず思わず目を閉じそうになる。

 

 「やめて!ドクターを奪わないで!」

 

 だが、アーミヤのそんな悲痛の叫びに呼応するように黒いアーツがスカルシュレッダーを貫きそうになる。

 

 でも、それは急に飛び出したフードを被ったレユニオンの脇腹へ突き刺さり消失した。

 

 そして、何処からか白い狼がやってきてスカルシュレッダーの榴弾を奪い取り捕食してしまった。

 

 その白い狼はそのままスカルシュレッダーを背に乗せてこちらから逃げるように走ろうとする。

 

 「ホシグマさん!彼を逃がさないで!」

 

 その声を聞き、急な乱入者に驚きつつもスカルシュレッダーを逃すまいとホシグマが攻撃しようとした時、フードを被ったレユニオンが血を流しつつもその攻撃を受け止めた。

 

 そして、その衝撃によりひらりとフードが捲れた。

 

 「なんで…?」

 

 思わず誰かがそう呟いた。だって、彼はレユニオンではなくロドスのオペレーターの筈なのだから。

 

 「フォルトさん…なんで…レユニオンの援護を…?」

 

 アーミヤが唖然と呟く。そう、そこに居たレユニオンはフォルトだったのだ。

 

 そして、その疑問に答えずにフォルトも狼に乗って走り去る。

 

 それに続くようにレユニオンも全員撤退を開始する。まるで、フォルトがそう指示したように。

 

 「フォルトさん…?なんで、そっちに行かないで…」

 

 縋るように手を伸ばすアーミヤを、見ることもせずその背は砂嵐に飲み込まれた…。

 

 




次回は曇らせ回です。

やったね!
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